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第35話 外交 キノノサト国4

 何やら将軍達のいる裏手が騒がしいようだね。横の扉から役人らしき者が慌てて出て来て、大将軍に耳打ちをしている。


「何……巫女様が……」


 その役人が下がると、その反対側から白衣に真っ赤な緋袴(ひばかま)の巫女服を着た女性が三人現れた。

 中央で先頭に立つ二十歳前後の巫女、その左右には中年と高齢の先輩巫女といったお付きの人が控える。


 それを見た将軍達が床に手を突き平伏する。将軍だけでなく周辺の役人、エリーシアや護衛の鬼人族二人までも平伏している。


「な、なぜ巫女様が、このような場所に」

「魔国より王が来訪しているそうですね。私が対応して何の不思議があると?」


 巫女様というのは、宮廷から出てこないとエリーシアに聞いていたけど……。

 宮廷には複数の巫女がいて、その頂点が巫女様と呼ばれる存在。宮廷の奥で神事を行ない顔を見ることもできないという。あの中央に立つ少女がその巫女様のようだね。


 左右の巫女と同じ様な服を着、将軍のような派手派手しさはない。もとよりこの国の権威の象徴、服でそれを表す必要もないという事なのだろう。


「あなたが魔王殿ですね。少しお話がしたいのですが。ああ、その前に昨日こちらの警備に不手際があったそうですが、ダグスエル大将軍。お詫びはしたのですか」

「いえ、まだ……」

「では私の方からお詫びいたしましょう」


 腰が低く、物腰の柔らかい人物だね。そう思いつつリビティナが応える。


「昨日は少しネズミがうろついていたのを退治したまで。謝られるほどではない。されどこちらは子供連れ。その子が怯えていた様子」

「そうですか、子供連れでこの地へ……ならば大将軍、見舞いに行かれてはどうですか」


 そう言ってエリーシアの方に目をやり、大将軍に言葉を掛けた。


「はっ、そのようにいたしましょう」


 これでミノエル君もお祖父さんに会う事ができそうだ。


「では魔王殿、ご足労願います」


 巫女達が横の扉から下がり、鬼人族の役人がリビティナの横にやって来た。


「魔王殿はこちらへ。巫女様の所へ案内仕ります」

「ネイトス。後は頼んだよ。ミノエル君を会わすかどうかも判断してくれていいから」

「へい、承知しました」


 横に来た役人に付いて階段を一階まで降りる。どうもこの天守閣の外に出るようだね。連れていかれたのはお城の敷地内にある平屋のお屋敷。

 案内された部屋に入ると、段差のない床に既に巫女様と言われる人物が中央に座り、左右にお付きの巫女と壁際に武器を携えた護衛が座る。


 近くで見る巫女様は鬼人族特有の浅黒い肌ではなく、薄い褐色の肌。中央の二本が短い四本角の小顔で可愛い印象だ。

 巫女達の少し後ろには見知った顔があった。


「おや、君は……」


 前に国境で戦った魔術師のお嬢ちゃん。名前はウィッチアと言ったね。


「前の戦闘の折、このウィッチアを助けていただき、ありがとうございました」

「巫女様。ワタシはこんな奴に負けてないんだからね。ちょっと不覚を取っただけだから」


 相変わらず威勢のいい魔女さんだね。


「私はキノノサト国の巫女をしています、ヒアリスと申す者。お見知りおきを」

「我は魔族の王たるヴァンパイア。この世に唯一無二の存在である我に名はない」

「あんた、やっぱりワタシをからかっていたのね」


 そう言えばあの時は、本当の名前を告げていたね。でもこういう設定なんで許してくれるかな。


「此度の来訪、不可侵条約を結ぶためと聞いておりますが」

「どこの国とも戦うつもりがないのでね。周辺国と約束事を交わそうと思っている」

「魔王殿は以前、この大陸を征服したと聞いておりますが」

「伝承ではそうなっているようだが、我は別人だ」


 巫女様が(いぶか)しむようにリビティナの顔を見つめてくる。


「どうりでお優しい顔をしておられると思っていました。その話し方もわざとでしょうか?」

「そういやあんた、前はそんな偉そうにしゃべってなかったわね。変なキャラ作りはやめなさいよね」

「ここに居るのは宮廷の者達ばかり、気楽になさってくださいな」


 どうもバレているようだね。なら仕方ない、ニヘラッと笑っていつもの口調に戻す。


「いやね、伝説の魔王なんだから威厳を持てと言われちゃってね。いや~、お恥ずかしい」


 やっぱりこっちの方が話しやすいや。その変わりようにお付きの二人の巫女は驚いた様子だったけど、中央の巫女様はニコリと微笑み返す。


「先ほど唯一無二とおっしゃっていましたが、すると以前の魔王殿は亡くなられたと」

「よく分かんないんだけど、空に居る神様に聞いたんだよね。ヴァンパイアはこの世で唯一無二の存在だって」

「あんた、神様に会った事があるの!!」


 ウィッチアが大きな声を上げ、お付きの巫女も驚愕の眼差しでリビティナを見つめる。


「そういえば、鬼人族の女神様は戦い方を教えているって聞いたけど」

「女神テウラニージ様は大昔に魔獣や人との戦い方を、私どもにご教授なされたと言い伝えられています」

「そっか。ボクの知っている神様は男神だし、違う神様だね」


 そう口に出すと、ヒアリスの傍にいた中年の巫女がリビティナに尋ねてきた。


「その神様はどのような、お方でしたでしょうか」

「まあ、八十年ほど前の話だけど、若くも年寄りでもない人でね、面倒くさそうに話す感じかな。本当に神様かどうかは分からないんだけどね」


 すると、巫女様の側仕えの二人が顔を見合わせ、高齢の巫女が口を開く。


「先代の巫女様が聞いていた神のお言葉、魔王殿が会われたと言う神様であろうな」


 巫女は神様の言葉を聞くことができるそうだ。五年から十年に一度は神託が降りてくるらしい。それが三十年ほど前、先代の頃に聞く事ができなくなったと言う。


「ワレも若い頃の修業中に神のお言葉を聞きました。魔王殿が言っているような神の声でした」


 鬼人族はそれに従い戦争を起こしたり、森の魔獣に対し大規模な駆逐を行なったりしていたそうだ。最近は神託が降りず、戦争も大将軍など人の判断だけで起こしているという。


「今回の戦も、神の声無きもの。そのため敗れたのでしょう」

「じゃあ、神の声があれば魔王のボクとも戦うと言う事かな」


 今は神の声が聞けないらしいけど、神が戦えと言えば戦争を起こすという事。不可侵条約の締結もできなくなる。


「それは無いでしょう」


 そう言い切るのは、今代の巫女様であるヒアリス。


「古来よりドラゴンや悪魔、ヴァンパイアである魔王など人知を越えた存在への神託は無いと聞いております。今の魔王殿も神に会われたお方、神の御使(みつか)いと言えるでしょう。そのような方と争う事はありません」


 伝説となっている魔王の時代も、鬼人族は戦わなかったようだね。魔族が衰退した時に人の判断で戦いを挑み、そして大敗したと巫女様が話してくれた。


「それにあなたのような方が、キノノサト国を攻め滅ぼそうと考えているとは思えませんし」


 そう言ってくれると助かるね。ヒアリスは大将軍にも不可侵条約を締結するように働きかけると言ってくれた。


「やい、魔王。ヒアリス様はこう言ってるけど、もし今度、戦場で会ったらこのワタシが全力で叩きつぶしてやるんだからね。覚えてなさいよ」

「これ、これ、ウィッチア。お止めなさい。魔王殿には今後もよしなに」

「それなら、ボクの事はリビティナって呼んでくれるかな。みんなにはそう呼ばれているんだよ」

「なんだ、あんたちゃんと名前があるんじゃない」

「これ、ウィッチア。ではリビティナ様、また後日連絡いたします」


 これから大将軍と話し合って、早ければ明日にでも吉報を知らせられると言って部屋を出ていった。巫女様が話の分かる人で良かったよ。あの人となら仲良くなれそうだ。


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