第25話 魔族の国1
ほぼ戦況は落ち着いた。
南部地方は、帝国が王国内に侵攻してきたけど、援軍もあり僅かに押し返し膠着状態となって睨み合っている。どうも侵攻された一部の領地は帝国に取られてしまうようだ。
北部は王国軍が反転攻勢で帝国内の奥地まで侵入した後、帝国からもキノノサト国からも反撃は無く、この土地は王国の物になりそうだ。
全体で見ると、帝国が失った領土の方が大きく侵攻は失敗に終わる結果となった。
「ようやく戦争も終わりそうだね。南の穀倉地帯の一部は取られちゃったけど、帝国ももう攻め込む力は無くなったみたいだし」
「そうだな。我らが北部地域を取った影響で、南部も少しは押し返せたからな。今回はここまでだろう」
今までにもこういった戦争は何度も行われていて、土地を奪い合ってその度に国境線が動くそうだ。
辺境伯のお屋敷に呼ばれて、現在の状況分析や今後の事を話している。
部屋にはハウランド伯爵とリビティナの二人だけ。ソファーに腰掛けのんびりと美味しいお菓子を食べ、上等な紅茶を飲みながらフランクに話をしている。今回頑張ったリビティナへの慰労も兼ねているみたいだね。
「で、今回取った帝国領だが、賢者様が統治すると聞いているが」
「へぇっ!?」
辺境伯が突拍子もない事を言うから、変な声を上げてしまったよ。一体どこからそんな話が出てきたんだよ。
「ライダノス市を包囲し、籠城した帝国貴族が降伏した際に、賢者様が占領ではなく統治すると言ったそうじゃないか」
「えっ、ボクはそんな事言ってないよ~」
確かにあの時、帝国貴族を引き渡さずに、その後の運営に協力してもらったらと助言したけど統治なんて……。あれ? 統治って言葉を使ったような気がするぞ。でもそれは王国が統治するってことで……。
「その場にいた私の側近達が、賢者様による統治案が素晴らしく感動したと言っていたぞ」
そんな事言われても、こっちは眷属の里が平和になるために参戦しただけで、他国の土地を奪うつもりなんてないんだよ~。
辺境伯が真面目な顔をリビティナに向け、テーブルの地図を前に説明する。
「あの土地はな、微妙な場所に位置している。北に妖精族、東に鬼人族、そして南に帝国と国境を接している」
「確かにそうだよね」
「もし、あそこを王国の領地にすると敵対する鬼人族と帝国に挟まれ、妖精族とは国交がない。孤立無援となってしまう場所だ」
まあ、そうなんだけど、今までも帝国とは敵対し国境を接しているじゃないか。そう言うと伯爵は地図を指差しながら説明する。
「この東に飛び出た場所では、鬼人族と帝国から同時に攻められる可能性がある。西の王国側への退路を断たれれば北に逃げる事もできず全滅だ」
退路となるのはリビティナが破壊した国境検問所だけ。帝国が回り込み抑える事も可能だと言う。実際にするかどうかではなく、できると思わせる事が軍事的にはまずいことだそうだ。
「今回の事で鬼人族は魔王が復活したと、賢者様の事を恐れているようだ。力を見せつけたことで、帝国も北部地域を取り戻そうとはしていない」
「ボクなら攻められることなく安定すると……」
妖精族は元から攻める意思がなく、キノノサト国も緩衝地帯となる国があれば直接王国と争う事もない。まあ帝国は取られた土地を返せと言って来るだろうけど、実力行使する力はない。
キノノサト国とアルメイヤ王国は大陸の二大軍事強国。直接の戦闘は両国とも避けたいところだ。今まではノルキア帝国がその緩衝地帯となっていた。
「賢者様……いや、魔族の王であるヴァンパイアとして、あの土地を統治してくれないだろうか」
ハウランド伯爵は以前よりリビティナがヴァンパイアである事は承知している。今回それを表面化させて、新たな国家をあの土地に作ってほしいと言ってきた。
この事は、アルメイヤ王国の国王とも相談済みで、王国としても友好的な国が間に入る事で帝国やキノノサト国の脅威を躱したい思惑があるみたいだね。
「そんな事言っても、国を造るなんてボクには無理だよ~」
「その点は私達が協力する。官僚の一部と軍隊を君に貸して、国の統治機構を作ればいい。実際の統治は君も言ったように元帝国貴族のブクイットの手を借りるのがいいだろうな」
国の形は王国の援助で造り、そこにリビティナが王として君臨する。争いが起こりそうな帝国の国境付近には軍隊を派遣して抑えるようにすると言っている。
どの国にも属さない魔族が支配する国を、あの地に置くことが重要であると伯爵が力説する。
「賢者様には苦労をかける事になるが、何とか頼まれてくれないだろうか」
ハウランド伯爵が深々と頭を下げる。
今後、争う事なく丸く収めるには、この方法が一番いい事は分かる。分かるんだけど魔族の国を造るなんて、そんな大それた事、ボクには無理だよ~。




