第17話 戦争介入2
「もうっ、リビティナったらこんな時間まで、あたし達を働かせるなんて」
「エルフィの嬢ちゃん。そう言わずリビティナ様の指示を伝えてくれんか」
「はい、はい。東に三十、南に五だって」
もう陽も暮れて暗くなったって言うのに、いつまでこの弾道ミサイルというのを撃ち続けるのかしら。遠くの上空にいるリビティナが炎の玉を使って、あたしに伝えてくる数字。この兵器が飛んでいく場所を示しているらしいけど良く分からないわね。
「今度は西に十と南に二だって」
下でネイトスや里の人達が作業するたびにミサイルが撃ち上がり、白煙と物が焦げたツンとする臭いが広がる。その飛んでいく先は一体どうなっているのか、ここからじゃ見る事もできやしない。
この弾道ミサイルは一番小さな物らしくて、あたしの身長の二倍ぐらいある細長い金属の筒。これがまだ何十本も用意されている。
「もうお終いだって。リビティナが帰ってくるわよ」
やっと終わったみたいね。この兵器が飛ぶ爆音を何度も聞いて、耳が痛くなってきたところだったしちょうど良かったわ。
「リビティナ様、国境付近はどうなりましたか」
「思っていたより、早く決着が付くみたいだね。エキソスの町周辺はボクの魔法攻撃ですぐに逃げちゃったし、国境を越えた街道も攻撃できた。明日の朝には辺境伯の軍隊が進んで行けそうだよ」
リビティナったら帝国の町に友達を迎えに行ってくるって里を出た後、ネイトスと一緒に帰ってきたと思ったら、突然攻撃を始めるって言いだした。訳が分からない内にあたしまで二日間も訓練に参加させられたじゃない。
「リビティナ。そのお友達は連れて帰って来れたの」
「ここから一番近い西の町に避難してもらっているよ。その子供がすごく可愛くって、レグンって言う男の子なんだけどね」
嬉しそうに話すリビティナ。その人達のためにこんな攻撃をしたんだろうけど……。でも戦争に参加しちゃってもいいのかしら。
――その翌日。
戦場となった場所に連れて行ってもらった。
「な、何なのこの惨状は」
平原いっぱいに兵士の死体。草原には丸くて黒い大きな穴がいくつも空いていた。緑の綺麗な絨毯に点々と虫食いの跡が広がっているみたいな光景だわ。
国境にあった建物も瓦礫と化している。軍が通った部分だけ建物の破片などが避けられていて道になっているけど、その周りには帝国兵の死体が置き去りになったままだ。
これが昨日あたし達がした攻撃の結果なの。思わず口を手で塞いでしまった。
「リビティナ。あんなに人が死んでるわ」
「まあ、仕方ないよ。戦争だからね」
「仕方ないって……あなた」
「だってそうだろう。帝国の兵士はこちらを殺すつもりで国境を越えて来たんだ。死ぬ覚悟もしているはずさ」
まあ、そう言われるとそうなんだけど……。今までこんな大きな戦争を見たのは初めてだけど、本で読んでいたよりも悲惨だわ。
平然としたリビティナの様子にも驚いた。これよりも大きな戦争を知っているのかしら。
「ハウランド伯爵から、正式な依頼もあったしね。ボクは軍事行動の一環として攻撃したまでだよ。だから死者は兵士ばかりだろう」
「まあ、そうね。国境に近いデラの町は壊されていないわ。住民はいないって話だったけど」
「戦いが落ち着けば住民も戻ってくるからね。家なんかを壊しちゃ可哀想だよ」
上空から見ても、確かに壊れている建物は少ないわね。あれを壊したのは帝国兵なんでしょう。扉の壊れている家が多いわ。
リビティナと一緒にそのまま飛んで国境を越える。その先にあるのがエキソスの町ね。王国軍が町の周りにテントを設営して包囲しているわ。
地上に降りて、リビティナと一緒にその占領された町に歩いて入って行く。
「賢者様、ありがとうございます。まさかこれ程早くに王国軍が来てくれるとは」
「みんなに怪我はなかったかい」
「はい。準備できた商人達から順番に、デラの町に避難する予定です」
近くの国境を越えてすぐに避難できると喜んでいるわ。どういう事かしら、ここに居るのは帝国の国民のはずだけど、皆リビティナに感謝しているわね。
「冒険者ギルドのマスターが避難計画について話をしたいそうです。ギルドでお待ちですので行ってあげてください」
街の中は荷馬車を用意したりする人達で活気づいている。ここは占領された帝国の町じゃなかったの。自分の目を疑ってしまうわ。
「賢者様。よく来てくれました」
「賢者様なんてやめてくれよ、マスター。冒険者のリビティナでいいよ」
「そうか。まあその方が気楽に話ができて助かる。今後の住民の避難について話がしたい」
「住民の中には、王国に行くのを嫌がっている人もいるんじゃないのかい」
「大半の住民は、今回の帝国のやり方に反発して王国に逃れたいと言っている。帝国に残りたい者も一時的な避難として王国側に行かざるを得ない事は納得している」
そうよね、ここはまだ戦場だもの。安全な場所に行かなくっちゃ。
「住民の中には、王国に行ったら奴隷のような扱いを受けるんじゃないかと心配している連中もいる。命の危険があってもここに残りたいと言う者がいてな」
「奴隷? それは無いよ。難民として扱ってくれるとハウランド伯爵も言ってくれているしね」
「今回の総大将である伯爵様と言葉を交わせるとは、さすが賢者と呼ばれているだけのことはあるな」
ガハハッと大声で笑うギルドマスター。避難先では城壁の中でテント暮らしになるけど、食料などの配給もあるとリビティナが説明する。
ならば、住民への説得や護衛は冒険者が行なって、速やかに避難させるとマスターが言っている。
「リビティナ。あんた凄いわね。こんな短期間で事を進めるなんて」
「レインからの手紙をもらった時から、こうなる事も想定に入っていたからね。それよりも戦争に加担しちゃったからね。この先の事が面倒なんだよ」
確かに戦争はまだ終ってないもの。リビティナ がどこまでを想定しているのか知らないけど、この先を見てみたいわ。




