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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
第1章:終わりの始まり
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天才と凡人

部屋に戻り、俺は部屋の隅のコンセントにテレビとゲームのプラグを差し込む。


「ねえ、たっくん何それ?」

「ん……? BS2だけど」


大学生になって東京に行った兄貴の部屋から拝借してきた型落ちのゲーム機。

バイトもしていない俺にとって、ゲーム機といえばこれなのだ。


「それで何すんの?」

「……まさか、ゲームを知らないわけじゃないよな」

「ゲームってそれが? 人生ゲームとかじゃなくて?」

「…………」


やばいぞ、同年代……だよな。

確かに六年前、兄貴はこれに指一本も触らせてはくれず、佳世と遊んでいたのはボードなどのアナログチック極まりないゲームばかりだったが、それでもテレビゲームを知らないってのは……。


「ねえ、これで何するの?」

「……まあ、見てれば分かるから」


電源ボタンを押し、起動させる。確か昨日やっていたのは……。


「!!」


早くにディスクを取れ。そう俺の直感が言っている。

それ従い、俺は目にも留まらぬ速度で取り出しボタンを押す。


カチャッ


「あぶねー……」


中に入っていたのは18禁ゲーム。

こんなものもし、佳世の前で見られたらと思うとゾッとする。まさに間一髪。


「何してんの、たっくん?」

「い、いやいやいやいや、なんも問題ないけど!」

「そうなの? 何その持ってる丸いの?」

「これ違うから! 別にエロゲとか、そんなんじゃないから!」

「えろげ?」

「そうだ! こっちの方が面白いから、こっちにしよう! そうしよう!」


見えないようにディスクを別のカバーに入れ、閉める。

そして、佳世にも見させられるゲームを可及的速やかに探し出す。


「これだ……」


散らかったカバーの中から見つけ出したのは『ブヨブヨ』。

まあ、これだったら大丈夫だろう。


「何それ?」

「まあ、見てろって」


気を取り直し、ディスクをBS2に入れ、起動。

ゲームセンターで聞く様な明るく、なんだか人を急かす音楽が俺を出迎えてくれる。

それを見て佳世が目を輝かせて、服を引っ張ってくる。


「えっ、何これ何これ何これ何これ!」

「うるさいから……ちょっと静かにしてくれ」

「あっ……ごめん」


窘められた佳世は、はしゃいだ自分が恥ずかしいのか少し頬を赤らめる。

スタートボタンを押し、ゲーム開始。

とにかくやるにあたって説明しなければ始まらない。


「これはな、このコントローラーって奴を使って遊ぶゲームだ」

「ふむふむ」

「これで落ちてくる『ブヨ』ってやつをこう……4つ組み立てると消えるんだ。それを消すと、相手の上のゲージが溜まり、次に相手がブヨを消せないと、『相手に『お邪魔ブヨ』を落とす事ができる。そうやってブヨが出てくる場所まで詰まらせれば勝ちなんだ。わかったか?」

「まあ、だいたいは」

「本当か? だったら、……試させてもらおうじゃねえか」


一つだったコントローラーをもう一つ接続し、対戦モードに変える。


自慢じゃないが、俺はここにある全てのゲームを兄貴が出て行ってから、五年間やり続けている。

悪いな、佳世。大人気ないと思うかもしれないが……勝たせてもらう!!


***


「あっ、勝った」


さよなら、俺の5年。


異常だ。これ以上ないぐらいに異常だ。俺は最低限のことしか教えていなかったにも関わらず、佳世は強かった。

いや、最初から強かったわけじゃない。一回目は余裕で俺が勝ったが、二回目からの状況が一変する。

佳世が一回目で見ていたのはゲーム画面ではなく、俺のコントローラーさばきだったらしい。

そこからフィーバーやキャラによる特殊攻撃のやり方を学び、二回目にしてほぼ俺と互角に渡り合い、3回目にして完封負けをきっしてしまった。


「まじ……佳世ぱねえ……」


これが学内トップランクを保持する脳みその持ち主か……。

だが、俺にも俺の意地がある。


「これなら……これなら、俺が負けるはずがねえ……」


片っ端からディスクを入れて対戦していくが、どれもこれも二、三回目には圧倒されてしまう。




「…………」

「えーーと、たっくん?」


怒ってねーし、別に怒ってるわけじゃねーし。

俺が雨の日も嵐の夜も休まずに続けて磨いたゲームの腕をものの二時間ちょいで超えられたぐらいで、すねるなんてそんな子供じゃあるまいし。

まけてもくりあできなくても、めげずにがんばったたことがむだだったなんておもってないし。


…………。


「………………ぐすっ」

「な、なんで泣くの。そんなに悔しかったの?」

「泣いてねーし……。悔しくねーし……」


くそっ、くそっ。涙が止まんねーよ。

おかしいだろ。坂本とやっても負けたことなかったのに、なんでゲームにまともに触ったことすらなさそうなやつにぼろ負けしなきゃならねえんだよ……。

泣いてる姿なんか見られたくない。俺は佳世から顔を隠しながら、ベッドに入り、毛布に包まる。


「ご、ごめんね。やり方がわかんなくって」

「…………」


謝罪が謝罪になってない。まるで、こちらが手加減してもらわなくちゃ勝てないみたいな言い草だ。俺はさらに体を縮こませ、本格的に泣き始めてしまった。



止めたくても、止められない。自分の中で唯一の自慢だったんだぞ。

勉強はいくらやっても精々中間くらい。体力もなく、持久走では途中で倒れてしまったことすらある。

その中で俺が夢中になれたのがゲームだった。昔、兄貴がゲームをやっている姿がかっこよくて、憧れた。近くで見ているだけで満足だったが、兄貴が出て行って俺は必死に頑張った。頑張ったのに……。


「…………」


必死に弁明していた佳世の声が聞こえなくなる。

そりゃそうだよな。こんなみっともない姿なんかみたら見損なうよな。


「たっくん、ほらここ」


渋々見てみると、佳世は座り、自身の太ももを指している。


「何?」

「もう、忘れちゃったの? 昔はよくやってあげたじゃない」

「ああ……」


昔、泣き出した時に佳世は俺に膝枕をして慰めてくれた。

それを今やってくれるらしいが、この歳で女の子にやられるとなるとかなり恥ずかしい。恥ずかしいが………


「ん……」


毛布ごと佳世の元へ移動し、頭を佳世の太ももに乗せた。

柔らかくて、温かく感触。穏やかな甘い匂いがする。

懐かしい。小さい頃の記憶が蘇ってくる。


「やっぱり、たっくん変わらないな〜。可愛い」


そう言うと、佳世は俺の頭を優しく、優しく頭を撫でる。

くすぐったい。だが、次第に慣れてくると、さっきまでの荒ぶった感情が収まって、自然と口元に笑みがこぼれてしまう。


「たっくん、昔は私より小さかったから最初女の子だと思ってたな〜」

「……そうだったけ?」

「そうだったよ。何をしても私に負けてもさっきみたいに泣き出してたじゃない」


そういえば、そうだった。

なんだよ、本当に図体だけでかくなっただけで、何も変わってないじゃないか。


「でも、虫取りだけは叶わなかったな……。覚えてる? 昔、おじさんに連れられて、カブト虫を取るためにたっくんが大きな木に登ったの。あの時のたっくんかっこよかったな〜」


ああ、しっかりと覚えてるよ。その後、降りられらくなって、勇気を振り絞って降りようとしたら、落ちて骨折したことまでしっかりと。


「は、はは……」


思わず声が出てしまう。

人と笑うなんて一体いつぶりだろうか。

他人の長所にばかり目が行って、自分の弱さばかり気にして、いつからか性格までねじ曲がってしまった。笑う回数も歳を追うごとに減っていった。

だが、佳世がいるだけでそんなこと忘れてしまう。ずっと一緒にいるだけで満足だった。


「…………」


落ち着いたら眠くなってきた。

仕方ないだろ。一日にして既に一生分の驚きを体験したようなもんだ。

ああ、瞼が重い。だが、それが怖い。

起きたら全部夢でしたなんてオチだったらどうしようか。また、佳世と話せない日々の始まりだ。

そんなの嫌だ。もうどこにも行ってほしくはない。


離さないで、置いてかないで……。


泣き出しそうになり、手が震える。






「大丈夫。もう……どこにもいかないから」







俺の心情を察したのかどうなのかは分からないが、佳世は俺の震えた手を握り、涙を拭き、そう囁いてくれる。


「…………」


佳世の言葉が魔法のように、眠りに誘う。口ではなんとでも言えるし、断言できるものではなかったが、それでも俺を安心させるのには十分だった。

もしも……もしもの為に、もう一度佳世の顔を見ておく。


………………。


ああ……、本当に昔と何も変わらないな。

佳世は俺が見ているのに気づくと、その綺麗な顔を微笑んでくれる。それに俺が微笑み返す。今はそれだけで良い。それだけで夢じゃないと感じられる。


だけど……なんでだろうな。

今向けてくれている笑顔は、今にも散りそうな花を見ているような儚さを感じた。


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