疑惑の料理センス
「えーーと……。何? この冷蔵庫の中?」
佳世がそう聞いてくるのも当たり前だ。
冷蔵庫の中には調味料と卵以外、全てが近くのスーパーで買って来た惣菜ばかりなのだから。
「たっくん、何時もこんなものばかり食べてるでしょ」
「いや、別にこれで体壊したこと無いし」
「ダメだよ、スーパーの惣菜ばっかじゃ」
そう言われても、料理が出来ないんだから仕方ないだろ。
一応、健康のためにサラダはしっかりと買ってはいるんだけどな……。
「もう! たっくんは座ってて。今あるものだけでなんか作ってみるから!」
「…………」
「何?」
「爆発とかしない?」
「する訳ないでしょ! 人を一体なんだと思ってんの!?」
「なんか呪い殺すスパイスとか入れられそうな気もする」
「失礼だよ! ここは男の子なら素直に受け入れるところじゃ無いの!?」
身内に殺人料理を作るやつがいなけりゃ、俺だってここまで止めはしない。
しかし、これ以上反抗しても、佳世は首を縦には振ってくれそうにもない。
「……分かった。じゃあ、頼むわ」
「うん!」
俺の返事を聞き、早速佳世は準備を始める。
「たっくんは、いいから座ってて」
佳世の後ろをジロジロと覗く俺が鬱陶しいのか、そう言ってくる。
とにかく食材の中に無機物が入ってないと確認が取れた俺は、台所横のリビングの椅子に座り、テレビをつける。
「そういえば、たっくんの家に来るの、久しぶりだよ〜〜。何年ぐらい経ったのかな?」
「あーー、小学生の四年ぐらいだったか。お前が習い事しだした時から、ぱったり来なくなったよな」
「そっか〜。じゃあ、かれこれ六年ぐらい来てないのか。でも、あんまり変わって無いね」
「そりゃ、そうだろ。引っ越ししない限り変わらないだろ。むしろ、俺たちの方が変わったんじゃないか?」
思わず声に出した言葉が空気がしんみりとさせる。
「……そうだよね。あの時は何時も一緒に遊んでたのに、いつの間にか遊ばなくなって……。中学生の頃から、女の子の友達としかできなくなっちゃて、たっくんともお話ししなくなっちゃったよね。なんでだろう?」
「……なんでだろうな」
俺が知りたいぐらいだ。いつも物思いに深ければ、こいつの顔ばかりが頭の中に浮かんでくる。
それだけ大事に思いながらも、何故だか歳を追うごとに離れていくような気がする。
もっと近づきたい、話がしたいと思いながらいざ面と向かえば、言葉に詰まる。
そんな自分に嫌気が差すんだよ。ちくしょうが。
「お待たせ〜。オムライスにしてみました〜」
頭の思考が百八十度反転し、再びの脳内アラームの嵐が俺を現実に連れ戻す。
嘘だろ。調理し始めてまだ十五分たってないぞ……。
運ばれてきたオムライスは見た目は例のようにオムライスだ。
チキンライスを包んだ卵には亀裂は一切入ってなく、ケッチャプで可愛らしい猫が描かれ、白い湯気は出来立てだと証明している。
しかし、見た目など二の次。
問題は味だ。
こういうのは一時間ぐらいかかるもんじゃないのか? それが何故にこんな早くにできるんだ?
「ささ、どうぞ」
「…………」
目をキラキラさせながら、そう促してくる佳世の重圧に耐えられずに、ついに俺は一口を体内への侵入を許す。
パクリッ
…………………。
「……美味い」
「でしょ〜〜!」
意外や意外。スーパーなんかで売られている既製品の何倍も美味い。
「もう、美味しく無いとでも思ってたんでしょ」
「うん」
「ひどっ!」
いや、どう考えたってこれはそういうフリだったろ、これ。これで俺が無理して美味しいって言うところだろ。
「これはこれで罰ゲームだ……」
「そして、理不尽!」
そうは思っても美味いものは美味い。スプーンが無心で口にオムライスをかき込む。
「そんなに急いで食べると胃に悪いよ」
「大丈夫だよ。若いから」
かなりのボリュームがあったが、ものの二十分で食べ終わってしまう。
「ん……ごっそさん」
「お粗末様でした」
久しぶりに人間らしい食事をしたような気がする。
料理なんぞしなくても買ってくれば良いと思っていたが、考えを改める必要があるかもしれない。
「それにしてもお前が料理できたんだな」
「まあ……うん。人並みにはね」
歯切れの悪い回答が返ってくる。まあ、どうでも良い事か。
さあて、せっかくかったるい授業が休みになったんだ。これからどうしようか。
とにかく……ゲームだろ。




