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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
第1章:終わりの始まり
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偽りの幸せ

「…………きて」

「う……ん……」

「…………きてよ」

「…………」

「起きて!」


ガンッ


「痛っっっってえええええぇぇぇぇーー!!」


頭全体に痺れるような痛みが走る。


「ななな、何だってんだよ!!」


痛覚の危険アラートで急激に覚醒した俺は、何が起きたのかを確認するために、寝ぼけ瞼をこすり、目を必死に見開く。

どうやらベッドから転げ落ちたらしい。額がジンジンする。

視線を部屋全体に移す。広がっていたのはよく見知った光景。カーテンから漏れて室内に侵入する日差し。壁に掛けられた時計は6時45分……早っ!

本棚には大量の漫画と少量の参考書。他にテレビ、ゲーム。後は……


「起きた?」

「…………佳世?」


昨日、廊下で話し合った佳世が目の前にいる。

まともに見られなかった顔を異常な状況のためなのか、今日はしっかりと見ることができ、相も変わらず可愛いな、と場違いな考えがよぎる。

しかし、目を何回こすっても、間違いなく目の前にいるのは佳世本人だ。


「……おう。昨日ぶりだな」

「う、うん」


状況が分からないままとりあえず挨拶。


「…………」

「…………」


何を話して良いのか分からずに、気不味い空気になり、俺はようやくこの異常事態を認識し始めた。


「……なーーんでいるんだよ、お前!? どうやって入ったんだよ! 何しにきたんだよ!」


頭に浮かんできた疑問を片っ端から口に出していくが、佳世は俺の詰問に圧倒され、見るからに慌ている。


「い、いきなりそんなに聞かれても困るって。落ち着いて……」

「落ち着けるわけないだろ!」


とりあえず深呼吸。


すーはー、すーはー、……


いいぞ。段々と精神が安定して来……。


「大丈夫?」

「話しかけんじゃねえ!!」


心配してくれるのは嬉しいが、そんなに顔を近づけられると、それは興奮剤を投与されたのと同じだ。

通常稼働に戻りつつあった心臓が、再び石炭を過剰投与された暴走機関車の如く、唸りを上げる。


なんだってんだよ。

朝早くに起こされたかと思えば、目の前には幼地味が……。

これなんてギャルゲー?



「……なーーんで俺の家に来たんだ?」


呼吸の合間になんとか聞いてみる。

とにかくそれが一番の疑問だ。


「なんで来たって……、えーーと、なん……でだっけ?」

「………………は?」

「あはは。いや、なんで来たのか自分でも分からなかったり」

「分からなかったり……じゃねえよ! 帰れよ! お家帰れよ!」


お前がいるだけで手が痺れて、脳みそからアドレナリンが溢れ出し、心はこの世の春なんだよ! ちょーー幸せだよ、ちくしょう!!

もう、これ以上望まないから。っていうか、これ以上は俺が昇天しかねないから! お願い。帰って!!


ブーー……


話を切り裂く様に、携帯が震える。


「なんだよ! 次から次へと……」


異常な状況でも自然と携帯は操作できるんだな、と少し自分に感心しながら画面を確認すると、学校からの緊急メールと表示されている。


「どうしたの?」

「学校からメールが来てる」

「内容は?」

「えーーと……」




朝早くからの連絡を申し訳ありません。

我が校の生徒、不知火佳世さんが昨夜お亡くなりになった為、誠に勝手ながら本日予定していた授業全て休校の処置を取らさせて頂きます。





「…………………………は?」


画面から目を離すこともできずに、俺は凍りついた様に動けなくなってしまった。


***


「やっぱ、何処もやってねえよ。お前の事」


パソコンから目を離して、ベッドに座っている佳世にそう伝える。

メールを確認して、一時間。

とにかく情報が欲しいということで、片っ端からテレビなりネットなりで調べるが、見つけたのは学校のホームページの休校の知らせだけだった。


「そうだろうね」

「いや、そうだろうねって……」

「だって、私が死んで一日も経ってないんだよ。そんなに早く情報が流れるわけないじゃん」


さっきからこんな調子だ。

慌てて確認を取る俺とは対照的に、佳世は自分のことだというのに、この件に対して無関心を決め込んでいる。


「あのな。自分のことなんだから、もう少し焦っても良いんじゃないか?」

「だって私、自分が死んだって自覚あるもん」

「……は?」


自分の死をあっさりと認める。

余りにもあっさりと。


「ま、待てよ。じゃあ、あの時……後輩の電話って……」

「多分、私が学校の屋上から飛び降りた後の話だと思う」


飛び……降りた?


「おい……。飛び降りったって……なんで」

「別に良いじゃん」

「別に……良いじゃん……?」


目の前にいる少女は本当に俺の知っている佳世なのか?

言っている内容は何処までも重要かつシリアスなのに、本人はまるでなんでも無いように軽い口調で話す。

そんな佳世の姿に恐怖すら覚える。


「それよりもさ。まだ、起きて何も食べてないでしょ? 私が何か作ってあげる!」

「え、ちょ、ま……」


手を握られ、部屋から強引に連れ出される。


その手は昔一緒に遊んだ時と同じく、優しく柔らかい手。

不気味と思えるこの状況の中でも、それは確かに目の前にいるのは佳世だと俺に伝えてくれる。


……夢じゃないよな、これ。


そう感じると、瞳の中の涙が溢れそうになった。


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