レッスン28
あれ?
なんか体がほわほわして来たなあ。
こんなちょっとで、酔ったのかな?ビールを呑んだ時よりずっと早く酩酊感を感じて不思議に思う。
「ワインって飲みやすいから、少し酔いが早い気がしますね」
「ああ……一般的にワインはビールの三倍、アルコール度数が高いですからね」
「え!そーなんですか?こんなに飲みやすいのに……」
「だから、一杯の量が少ないんです。……大丈夫ですか?」
飲み過ぎ注意警報が必要な私の顔色を、熊野さんが心配そうに伺ってくれる。
大丈夫ですよ!
と、胸を張って言えない処が悲しい……。
「はい、これ以上酒に飲まれないよう、気を付けます……」
「ぶっ……くくく……本当に……気を付けて下さい」
また、笑う……。
私は真っ赤になって俯いた。
そんなに私の言う事なす事、変わってる……?
「熊野さんすぐ笑う……そんなに変ですか……?私……」
「す、すいません。その、『変』って言うんじゃなくて……」
「……じゃなくて?」
「可愛いなって思って」
「かっ……っ!」
ぼんっ
今度こそ噴火した。
私という休火山は噴火してしまった。
更に真っ赤になった私。きっと肩を並べるのは茹でたばかりの蛸だけだ。それかズワイガニ……。アスタキサンチンだっけ?確か体にいいんだよね……って、そんなミニ知識どうでもいーしっ!
熱い。
熱いけど……楽しい。
熊野さんが笑ってくれて、空は高く高く秋晴れで、ワインは爽やかな香りでご当地グルメはめちゃくちゃ美味しい。
私も笑顔になった。
思わず声を上げて笑ってしまう。
熊野さんもそんな私を見て、一瞬目を瞠ったけれどもすぐに優しく目尻を緩めた。
微笑み合える空気がある。
そんな空気を隣の人と分け合える。
嬉しい。
熊野さん、私嬉しい。
熊野さんに会えて、話ができて、一緒に美味しい物を食べて隣で笑う事ができて。
こんな幸せ、男の人が怖いって縮こまっていた私のままだったら、味わえなかった。
「熊野さん、ありがとうございます」
自然に感謝の言葉が口から出た。
「ん?何かしましたか?俺」
「熊野さんと出会えた事に、感謝です」
「……」
「感謝する事、いっぱい、いーっぱいあります。遥人君に強引に連れていかれそうになった時も助けて貰いました。美味しい物や楽しいイベントに誘って貰って、身近にこんなに楽しい事が一杯あるんだって、初めて知りました」
ニッコリと笑って、彼を見上げる。
熊野さんは浮かれて楽し気に指折り数える私を、静かな表情で見守っていた。
ふわふわする。
そして楽しくて、ワクワクした。
ワインのアルコールに煽られて、私は上機嫌だった。
じっくり耳を傾けてくれている――――その手ごたえを感じて、私は益々饒舌になった。
「それに――――熊野さんのおかげで、男の人が苦手だって気持ち、無くなってきました。小学校の頃虐められて、辛くて――――でも、そんな事で自分に閉じこもっていた自分じゃダメだったって、熊野さんに教えられたんです」
一番言いたかった事、感謝したかった事を伝える事ができて、私は満足感で一杯になっていた。
いつの間にか握りこぶしを握って力説してしまって―――その状態で、顔を上げた。
熊野さんの笑顔を見上げる為に。
だけど。
思い描いていた熊野さんの表情と、違うものを目の当たりにしてしまう。
熊野さんは笑顔では無かった。
固い表情で眉根を寄せている。
最初に出会った時に見た、しかめっ面。
怖い怖いと思っていた凶悪な表情。
怒っているように見えたけど――――それは何かを考え込んでいる時だと、分かってから怖くは無くなった。
でも、熊野さん。
笑って聞いてくれていると思ったのに……なぜそんな厳しい表情をしているの?




