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ミステリー・レコード  作者: 天海 扇
終 After 20 episode
21/21

サイクル・bicycle

 □■ 後日談 ■□




 松戸井高校で繰り広げられた怪異との激戦から三日たった水曜日の日。僕は諸事情により学校には行かずに町の中を歩き回っていた。

 僕は手で陰を作りながら空を見上げる。

 青い空の中に真っ白な雲がまばらに浮かび、その雲の合間から顔を出した太陽がさんさんと輝いている。

 うんざりするほどの暑さに僕は眉根を寄せ、大きなため息をついた。




     *




 人をだまし肉体を得ようとしていた怪異、虚言(きょげん)蘇生(そせい)花蟷螂(はなかまきり)との戦いが終わった後、僕は連続戦闘による疲労と蓄積されたダメージによって体が限界を迎え気を失ってしまったらしく、気づいたら病院のベッドで横になっていた。

 看護師の人に話を聞いてみたところ、僕は右手の骨を粉砕骨折しているらしく、上半身にある何とかという骨にもヒビが入っているというなかなか大変な状況にあるらしかった。

 その時に一緒に教えてくれたのだが、どうやらワタリが僕を病院まで運んでくれたらしかった。

 どうして救急車を呼ばないで自分で運んだのか。疑問ではあるが、ある程度の予想はできる。例えば、人払いの仕掛けのせいで呼べなかった、とか。もしくは、一般人に見られたらまずいものがあったから、とか。ナノハの死体とかがあったわけだし。案外、走った方が速いみたいな理由かもしれないが。どこぞのガスマスク人間みたいに。

 暇を持て余して、そんなことを考えていたが、しばらくすると僕の元に来客があった。

 平日の昼、ということは学校がある柊さんは来れないだろうし、チェイサーは来れたとしても柊さんがいなければ来ないだろう。まず二人がお見舞いしてくれるとは限らないが……。

 他の友達も同じ理由で排除する。宮崎さんと黒間さんはお店があるしそもそも僕の状態を知らない可能性だってある。

 ということで、可能性があるなら保護者である雄介おじさんかな、と思っていたところ、部屋に入ってきたのはワタリであった。

「お前かよ」

「ははっ元気そうだね」

「元気な人は入院しねぇよ」

「一応恩人だよ僕?」

「感謝してるけど自分で言うなよ。で、何しに来たの?」

「いや、様子を見に来ただけだよ。僕も怪我をしたからね、帰ったら今日はゆっくり休むさ」

「そんなひどい怪我したのか?」

「大した怪我ではないけれど、そんなすぐに治るほどでもないんだよ。君と違って僕は人間だからねぇ」

「僕も人間だよ!」

「おっと、そうだったかな。と、そうだ。僕の連絡先を君に教えてあげるよ。怪異絡みでどうにもならなかったら、手だけは貸してあげるからさ」

 ワタリはそう言って僕と連絡先の交換を終えると、後ろ手に手を振って去っていった。

 夕方になると、柊さんとチェイサーが来てくれた。感動していたら二人に一発ずつ叩かれた。正確に言うとチェイサーにはグーで殴られた。そして泣きそうな顔の柊さんに無茶をしたことを怒られた。

「そういえば、教頭先生のこととかって……どうなった?」

 説教が終わったタイミングで柊さんにそう聞いてみた。

 彼女の話によると学校では詳しいことは伏せられ特に説明されることはなかったらしい。

「それってやっぱり、怪異が関係してたからなのか?」

「う~ん……どうなんだろ。こういうのは初めてだからなんとも……そうだ、室戸くんの、おじさん? って警察なんだよね?」

「あ~無理無理。あの人そこら辺はしっかりしてるから。全然聞かせてくれないよ」

「そっか。そうだよね~……あ、そうだ!」

 柊さんは「私、頑張りました!」と言って話し始めた。

 どうやら柊さんはナノハとの約束を守るために学校内に流れているカガミノナノハの噂を変えるべく、今日一日を使って情報操作を行ったらしい。その結果、放課後にはカガミノナノハの噂はプラスの方向のものに変化してしまったらしいのだ。

 僕はその話を聞いて恐ろしいと思った。

 既に流れている噂を変えるなんてそう簡単にできることではないだろうに、いったい何をどうしたというのだろう。これが彼女の人徳のなせる技なのだろうか? もしかしたら柊さんを悲しませたりしたら学校全体が敵になるのではないか……。想像すると怖いので早々にこの考えは打ち切った。

 その後も少しだけ話をすると、「日が沈み始めたから今日は帰るね!」と言って部屋の外に出ていく柊さんにお別れの挨拶をして手を振り見送った。チェイサーは特に話しかけてこなかったところを見ると、殴るために会いに来たのだろう。心配をかけて申し訳ないが、もう少し手加減してほしかった。普通に痛かった。



 その日の夢に、夢野が現れた。

 夢の中も現実と変わらず、僕がいるのは病室のベッドの上だ。

「あら、あららら? あはは~なんですかここ、病院じゃないですか~。どうかしたんですか~室戸くん~?」

 僕が寝ているベッドに腰かけている夢野がニヤニヤと笑いながら話しかけてくる。

「理由はわかってるだろ。わざわざ聞くな」

「怒んないでくださいよ~。そうだ、死ななかったご褒美に何かしてあげましょうか」

「何かって、何?」

 そう聞いた僕に、夢野は顔をグンッと近づける。

「キスでもしてあげましょうか」

「いや、しなくていい」

「即答ですか、傷つきます~あはは」

「おい、どけろよ夢野。今日こそは寝させてくれ」

「ん~……」

 突然夢野が僕に抱きついてきた。

「ちょ、おい!」

「……」

「ん、夢野?」

「あはは、お帰りなさい室戸くん……無事でよかったです」

 耳元でそうささやかれた僕の心臓がドクンとはねる。

「夢野……」

「なんです? 重いとか言ったら殺しますよ?」

「ちげぇよ。ただ、返事をしようとしただけだよ」

「返事?」

「……ただいま」

「……ふふふ」

「……夢野」

「今度はどうしました?」

「どけてくれ」

「興奮しちゃいました?」

「ど、け、ろ!!」

 僕がそう叫ぶと夢野はベッドから降りて楽しそうに笑う。

 その後は結局、朝になるまで僕は夢野にちょっかいをかけ続けられれることになってしまった。



 次の日、驚くことに粉砕骨折していたはずの右手が動かせるようになっており、看護師の人を呼んでそのことを伝えるとすぐに検査が始まった。その結果、僕の怪我が完治していることがわかり、医師の人の度肝を抜くこととなった。一番驚いたのは僕だったが……。

 結果、僕は次の日には退院する運びとなった。




     *




 そんなこんながあって、怪異花蟷螂との戦いから三日後。退院した僕はまず家に向かった。理由はただ単に、帰るため。ついでに言うなら雄介おじさんに、三日前学校内に現れた理由を聞くためでもあった。

 だが、僕の思惑は外れてしまった。 

 家の中に雄介おじさんの姿はなく、テーブルの上に書き置きが置いてあった。


『退院おめでとう! 仕事が忙しくなってきたからおじさんしばらくは帰れないよん♪』


 そっこう引き裂いて捨てた。

 おじさんが僕が寝ている間に来て服を置いていった。という話を看護師さんに聞いた時から薄々感づいてはいたけれども、これは決定的と言ってもいいだろう。

 明らかにおじさんに避けられている。しかも結構全力で。

「なんなんだあの人は……僕の周りにまともな大人はいないのか……」

 僕はおじさんに対するイライラをまぎらわすためにシャワーを浴びることにした。

 効果はてきめんであり、シャワーを浴びてサッパリした僕にはイライラした気持ちは無くなっていた。キレイサッパリ無くなっていた。水に流したのだ。

 髪を乾かし終え、軽い朝食を食べ終えた僕は時計を確認する。登校しようと思えない程度に時間は進んでいた。

 そこで僕は、松戸井高校に来てから初めてのサボりを行った。骨折していたんだし、退院した当日くらい休んだっていいはずだ、と心の中で言い訳をして自分を正当化した。

 よし、じゃあ何をしよう。そう思った僕の脳裏を、一つの単語が駆け抜けた。

「あっ」


 □ 自転車 □


 ということで、僕は祭日でもなんでもない水曜日の午前中に、数日前殉職なされた自転車を探して町を歩き回っていた。

 まさか放置してから四日も経っているのにそのままの場所にそのまま残っているとは思えないし、むしろ既に警察やらなんやらに回収されてる可能性の方が高いとは理解していたが、それでも僕は探して回っていた。まるで何かに憑かれているかのように。自分で言うのもなんだけど。

「あ~……あっついな~……」

 だがしかし、既に無くなっているだろうとは思いつつも探し続けているのにはちゃんと理由がある。

 詳しくはないが、もし警察やらに回収されているんだとしたら、持ち主である僕を特定して何らかの反応を見せると思うのだ。呼び出して注意をするとか、そういった感じのを。

 そう、別に、やけくそになっているわけではないのだ。持ち主だった物として自分の物にはちゃんと責任を持とうと言う、そういった心のもとにこの行動は行われていて……。

「ん?」

 カットマンに襲われた場所の近くにある公園で自転車を探していた僕は、黒猫が近づいてきているのに気づく。

 黒猫は僕の前で立ち止まると、一度あくびをしてから茂みの中へと入っていった。

 僕は、その様子を目で追い、なんとなく後を追って茂みの中を覗き込む。

 するとその先で、寄せ集めた材料でできた、犬小屋のようなものの中で黒猫が丸くなっているのを発見する。

「あっ……」

 その犬小屋のようなものの部分部分に、見覚えがある物が使われているのに僕は気づく。

「ははっ誰だ、僕の自転車こんなにしたの」

 僕の自転車は、バラバラにされて、ダンボールとか紙皿とか、ガムテープなんかと組み合わされていて、小学生が夏休みの自由研究で作ってくる工作物のような、残念な感じの小屋へと変貌を遂げていたのであった。





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