No. 19
僕達は二つある玄関の扉を開けて中に入ると、外靴と上靴を入れ替え履き替える。
「あ、そういえば……チェイサーって靴あるのか?」
この学校の生徒でないのなら上靴は置いてないはず。それどころか学校に通っているのかも怪しいが、それは今聞く必要のあることではないだろう。
でもまぁ、靴が無いにしても、きっとチェイサーなら、こう言うに違いない。
「裸足で大丈夫」
ってね。予想通りだ。
まぁ、確かに、チェイサーなら下手にスリッパを履いたりするよりも裸足の方が速いのだろう。
忍者みたいだからな、こいつ。
「鏡って、あれ?」
「ん? あ~そう。それにしても、普通の鏡にしか見えないよなぁ」
「普通の鏡なんじゃないかな?」
「ん、どういうこと?」
僕達は例の鏡、縦二メートル弱、横一メートル程の、大きな鏡の前に歩み寄っていく。
「だってほら、これ、右下に書いてあるじゃん。第97回卒業生寄贈品ってさ。だから、これ自体は普通の鏡だったんじゃないかな?」
「ふ~ん、なるほど」
普通の鏡にしか見えないんじゃなくて、普通の鏡でしかない、と。
鏡が特別だから怪異や怪談になるわけじゃない、ということか。なるほど確かに、怪談について考えてみるなら、トイレの花子さんや数えたら一段増えてる階段とか、別にトイレや階段自体が特別だから怪談ができるわけじゃないしな。花子さんに関しては全国的に生息していたりするしな。まぁ、怪異と怪談を同じように捉えて言いかは微妙なところだけど。
「ん? どうしたんだチェイサー。さっきからキョロキョロして」
「……校内に人の気配が全くしない」
「あ、あ~、あれじゃないか? 日曜だからじゃないかなぁ? 好都合じゃないか。あはは」
ワタリの後輩さんとやらはしっかり仕事をしているみたいだな。どうやって人払いをしているのかは謎だけれど。
「にしても、ちょっと静かすぎるよね~。なんかさ、不気味だよね。誰もいない学校ってさ」
「あぁ、確かにな」
「ん~、うん。普通の鏡だねやっぱり」
「じゃあカガミノナノハってガセネタなのかな」
例えば、カットマンが生徒を誘き出すために流した嘘の噂、罠だったりとか。もしくは、カットマンの噂がねじまがって、曲解された結果がカガミノナノハだったりとか。
「……う~ん、それはどうなのかな? 噂が全部正しいとは言わないけど、一部くらいなら事実が混ざっててもおかしくないんじゃないかな? とにかく、試してみるしかないよね」
「室戸、一応そっちの方を警戒して。ボクは玄関の方を見てる」
「ん、わかった」
チェイサーの指示通り、僕は玄関のある方とは逆の方、教室や職員室がある方を向いて警戒を始める。カットマンが現れた時のための警戒。柊さんを守るための警戒。山田は、カガミノナノハの怪談を確かめに行ってカットマンに襲われた。ならば、現れてもおかしくない。いや、現れてくれなければ困るのだ。
「えっと……え~こほん。──ナノハちゃんナノハちゃん。私の声にご返事ください……」
へぇ、唱える言葉ってそんな感じなんだな。ありきたりな感じなだけに、リアルっちゃあリアルかもしれないな。
それにしても、実際はどうなんだろう……? どこまでが嘘で、どこまでが本当なのだろう。カガミノナノハという怪談話は。
全部嘘なのか、それともナノハという少女は本当に現れるのか。もしくは全部本当のことで、呼び出すと鏡の中に引きずり込む怪異だったりするのだろうか。そんな理不尽な怪異だった場合には流石に対応できない気もするが。
……でも、だとしたら。もし本当なのだとしたら昨日図書館で読んだ本……『松戸井怪異集~鏡の怪~』に何かしらの情報が載っていてもおかしくはない気がするけど……。新しい怪異だから情報が無いのか、怪異じゃないから情報が無いのか……。
う~ん……ん? なんか長くないか……? 待ち時間……?
「……あれ? やっぱりガセネタ?」
「いや、まだわからないけど……あっれ~? 唱える言葉はあってるはずなんだけど……」
「間違えて覚えていた、てことはないの?」
「う~ん……そんなことないと思うけどな~……」
「じゃあ無意識に変えちゃったとかは」
「……室戸くんって、私のことどう思ってるの?」
「え、可愛いなぁって思ってるけど?」
「ふえ……!?」
「な……!?」
「え、何……?」
柊さんどころか玄関の方を警戒していたチェイサーまでこちらを振り返る。ものすごい勢いで。そんなに変なことを言っただろうか。
「お、お前室戸、こんな時に何を」
「え、いやだって柊さんが聞くから」
「そういうことじゃないだろ……!」
「どういうことだよ。可愛いっていつも思ってるから言っただけだって。あ、たまにセンスとか残念なところもあるけどさ」
「ざ、残念とはなんですと!!」
「ちょっと落ち着いて柊さん、口調おかしくなってる」
「室戸、お前は柊をいやらしい目で見てたのかっ!」
「そんなことは言ってないだろ!?」
「残念とはなんですと!!」
「柊さんそれそんなに響いたの!? え、ごめん!」
「室戸、お前まさか柊のこと好きとかじゃないよな!」
「何でそんなにくいついてくんだよ! てか柊さんのことならお前だって好きなんだろ?」
「そういう、意味じゃない」
「え、じゃあ何どういう意味」
「え、ちょっと待ってよ二人とも……」
「異性としてだよ、一人の、女の子として……!」
「あぁなるほど。そういうことか」
「だから、ちょっと待って……いいから、言わなくて」
「僕は、ひい」
「だめぇっ!!」
「へぶっ!?」
僕は、普段は陶器のように白い顔を真っ赤にした柊さんの渾身の平手打ちを受ける。
予想外の衝撃……あごをやられ……あれ? なんだか、くらっと…………。
どさっ。
「あ、え、ごめんなさい室戸くん! 室戸くん?」
*
む……体が痛い……床で寝てる……?
僕は、まぶたをゆっくりと開ける。……細長い天井……廊下の天井……?
なんで僕は寝てるんだこんなところで……?
「はぁ~……」
ん、ため息……?
「あなたって人は……何をしてるんですか、無神経なんですかあなた」
「ん? あれ? この声は夢野?」
僕は横になった状態のままで声のした上の方を見上げる。そこに広がっている光景は……足とスカートと……それと~……。
「あのですね~。覗きたいなら覗いて良いですけど、ちゃんと起きてくださいよ」
「は、誰がお前のスカートの中を覗くか! 思い上がるのもほどほどにするんだな!」
「スカートの中から目を話さない人に言われてもね~……よいしょ」
夢野が床に座ったので、僕も起き上がって彼女の隣に座る。
「なぁ、なんで僕は眠ってるんだ? カガミノナノハっていう怪談の検証をしていたはずなんだけど」
「覚えてないとは……罪深いですね~あなたは~。あはは」
……確か僕は柊さんとチェイサーと三人で何かを話していたはず……。う~ん? なんだ、記憶が曖昧だな……何を話してたっけなぁ……。
「まぁ、いいや。ちょうどいいよ、今お前に会えて」
「ん、なんでです?」
「あ~ほら、カットマンっていう怪人と今から戦うかもしれないんだけどさ。ほら、死ぬ気はないけれど、もしも万が一ってこともあるだろ? だから、死ぬかもしれないんだから、どうせなら一言二言かけようかな、と思って」
「あはは、変なところで変に気を使うんですね。変人ですねあなた」
「なぜにそこまで言われにゃならん」
「あはは~冗談ですよ。それよりも、早く起きなきゃなんでしょうあなた。早く起きてそのカガミノナノハだかを再開しなきゃいけないんでしょう?」
「あぁ、そうだな。──夢野……うっ」
僕が立ち上がり、夢野の方を向いた瞬間、彼女の右手の人差し指が僕の唇を押さえるように触れてきた。
「言っておきますが、もし死んだりしたらごめん、とかそんな台詞聞きたくありませんからね~。死んだりしたらただじゃ起きませんから、ちゃんと帰ってきなさい」
夢野はそう言うと、いつもの僕をからかうような笑みを見せ、クルリと一回転しながら僕から離れる。
「行ってらっしゃい変態」
「はっ行ってくるぜ変人」
「グッドラック~」
手をヒラヒラと振り見送る夢野を背に僕は歩き出す。すると進行方向から強烈な光が現れ、僕の体を完全に包み込んだ。
*
「ん……ん~……」
「あ、起きた! 大丈夫室戸くんごめんね?」
「あ~……よく覚えてないんだけど……どれくらい寝てた?」
「……十分くらい、だな」
ふむ……。
「……なんの話してたっけ僕達」
「「さ、さぁ?」」
「なんで全く同じ反応……?」
僕は立ち上がり、伸びをする。
「さぁて、もう一度カガミノナノハの検証をやってみようか~」
「そ、そうだね! うん!」
「あ、あぁそれがいい、そうしよう」
「……? ま、いっか」
僕とチェイサーは先程と同じ位置に立ち警戒を始め、柊さんが再び鏡の前に立つ。
「と言ったものの……唱える言葉はやっぱりさっきので合ってるはずなんだよねぇ……回数が足りないのかな」
「あ~、よくある、三回言ったら現れる、みたいな感じか」
「何かしらの動作が、必要、なのかも」
「う~ん……とりあえず試してみるか!」
柊さんは一度深呼吸をしてから空気を一気に吸う。
「ナノハちゃんナノハちゃん。私の声にご返事ください。ナノハちゃんナノハちゃん。私の声にご返事ください。ナノハちゃんナノハちゃん。私の声にご返事ください! はぁ……はぁ……」
五秒が経ち、十秒が経ち、一分経った。
「……やっぱ怪談自体が嘘なんじゃ」
「だとしたら、カガミノナノハは嘘だったということで一応解決するが、カットマンの方が一からやり直しになってしまうな……」
「う~……ナノハちゃんナノハちゃんナノハちゃんナノハちゃん! ナ~ノハちゃ~ん! お話し~ましょう!」
「柊、やけになっても……」
「聞いてないなこれ……」
僕とチェイサーはお互い顔を見合い、やれやれ、といった感じの素振りをし合う。
どうやって柊さんを止めるか。そう考え始めた、その時であった。
『あ~もう! うるさいよ~!』
「は?」
「へ?」
「何?」
僕と柊さんとチェイサーは、一瞬どこから声が聞こえたのかわからずキョロキョロと周りを見渡す。
だがその答えは声の主によって示される。
『こっちだよ、こっちこっち! 私は鏡の中だよ!』
「なっ……」
「で……」
「で、出た……!」
『呼んだのあなた達じゃないですか!』
僕達三人の視線の先、玄関にある大きな鏡の中には、見た目十歳ほどの年齢の少女が写り込んでいた。
「あ、あなたの名前って……ナノハちゃんだよね?」
『なんですか。あなたさっきから私の名前叫んでたじゃないですか。そうです、私の名前はササオカナノハですよ』
まさか、噂は本当だったなんて……。というか、見た目のわりには随分と口調が丁寧だなこの子。親の教育が良かったのかな……親なんてものがいるのかは知らないけど……。いや、名字があるということは最初からこういう怪異だったんじゃなくて元々は人間だったのか……?
「ナノハちゃんって……今この学校で流れてる噂は知ってたりするの? あなたの噂が広まってるんだけれど……」
『あ~、わかります、知ってますよ? 失礼ですよね~あの噂! 鏡の中に引きずり込むって……私はそんな化け物じゃないですよ! そんな力は私にはありませんっ』
なるほど……半分本当で半分は嘘だった、ということなのか……。それにしても、なんだろう……ササオカっていう名字、どっかで聞いた気がするけれど……どこで聞いたんだっけな……。
『ところで、お姉さん達。私に何か用ですか?』
「あ、えっとね、色々と聞きたいんだけど……ナノハちゃん、自分がどういう存在なのかってわかる?」
『あ~……はい。わかってます……私、お化けなんですよね……よくわかってます。自分が、既に死んでしまっていることは……』
「そっか……」
『まぁ、悔いは残ってましたけど……十年も鏡の中にいたらそれはどうでもよくなっちゃいました』
「じ、十年も前からこの鏡の中にいたの?」
『はいそうです。でも、なかなかこれはこれで面白いですよ。高校は生徒が多いから、いろんな人を観察できますしね。この前なんて、私が中にいるのも知らないでバッチリ前髪セットしてる人いましたからね。ポーズをとり始めた時には吹き出しそうになっちゃいましたよ!』
明るい子だったんだな……この子。
……そうだ、そういえば図書館の本に載ってたな。死んだ者の魂が鏡の中に取り込まれる話……ナノハは、十年前にこの鏡の中に囚われてしまったってわけなのか……。
『そうだ、お姉さん達にお願いがあるんですけど、私の怪談話、内容を変えてくれませんか? 嫌なんですよね~。今の噂』
「うん、わかったよ。頑張ってみるね私。どんな感じの噂がいいかな?」
『ありがとうございます! そうですね~今のよりも素敵な感じにしたいですね~』
「……悩みを聞いてくれるとか、話し相手になってくれるとかで良いんじゃないか? そうしたら、いろんな人の話を聞けて退屈しないかもしれないし」
『あ、良いですねそれ! お悩み相談教室ならぬお悩み相談鏡室、ということですね!』
「……言いたいことは伝わったけど、それあんまり上手くないぞ多分」
得意気な表情をしているとこ悪いけど。
『え、そうですか。それは残念です……そういえば、あなた達の名前を聞いてませんでした。教えてくれますか?』
「あぁいいよ。僕は室戸四津木っていうんだ」
「私は柊千尋だよ」
「ボクは、チェイサー」
『ふむふむなるほど、室戸さんに柊さんにチェイサーさんですね。……チェイサー……?』
「あ~……触れないであげて」
僕は鏡に近づくと小声でそう伝える。
『な、なんだかすごい気になりますけど……わかりました』
「ありがとう」
『いえいえ』
僕は元の位置に戻る。その時に周りを確認するが、やはり人の気配ひとつしない。
『それで、他に何が聞きたいんですか? 答えられることなら答えますよ?』
「あ~そうだね……ナノハちゃん、カットマンっていう怪異のお話、知ってるかな?」
『っ……!』
何かを知っている。いや、もしくは全てを知っているのかもしれない。そう思わせる素振りであった。
鏡の中で見てきたから。鏡の前を見てきたから。そこで起きていたことは知っていて、そこで起きたことも知っていて。つまりはカットマンについての全てを、正体を罪を目的を、それら全てをきっと彼女は知っているのだろう。
「無理にとは言わないけれど、聞かせてくれないかな? 知っていること」
柊さんもナノハの反応からそれを察したのか、優しい口調で話しかける。
『ダメ……です』
「……どうして?」
『話したらきっとあなた達も……私はあなた達に死んでほしくないです……! もう誰も殺させたくない……! だから、帰ってください……早く帰ってください!』
……殺させたくない……?
「大丈夫だよ。この二人は凄いんだよ? とても強いの。だから話して? 私達は誰も死なないから」
『……本当……ですか?』
「なんなら、約束したっていい。僕達は死なない。約束する」
死ぬわけにはいかない。こんなところで死ねない。夢野にだって言われている。死んだらただじゃおかないと。
僕の言葉を聞いたナノハはうつむいてしまう。
だがしばらくして、『嘘をつくのはダメですよ……』と言うと顔を上げてくれた。話してくれる気になったらしい。
『この学校で広まっている、カットマンの噂……あれの正体は私の……私のお父さんなんです……私のお父さんは、私が死んでしまって凄く悲しんでいました……そんな時に、虫の姿をした悪魔が現れてこう言ったんです……『言うことを聞けば娘を生き返らせてやる』って』
虫の姿をした悪魔……花蟷螂のことか……。花蟷螂は、娘が死んで弱っていた彼女のお父さんの心につけこみ、騙して利用し、カットマンという怪人を生み出して……人殺しをさせた……。彼女のお父さんは、花蟷螂が肉体を得るために利用されているとは知らずに言うことを聞き続けた……。
『お父さんは……それから何かにとりつかれたかのようになって……たくさんの人に、たくさん酷いことをしました……。私を、生き返らせる。そんな、嘘のために……虫の悪魔はお父さんの体を使ってある時言っていました。『滑稽だ。復活させた肉体は我の者になるというのに』って……笑って……』
「ナノハちゃん……」
『……お願いです。柊さん、室戸さん、チェイサーさん。私のお父さんを止めてください……! お父さんのあんな姿、もう見たくないんです見ていられないんです……。私に縛られているお父さんを……解放してあげてください……!』
「うん。わかったよナノハちゃん。元々私達はそのために来たんだしね。ね? 室戸くん、チェイサー」
「あぁ」
「任せて」
『皆さん……お願い、します……』
「おや? どうしたのかね君達?」
鏡に気をとられていた僕は突然背後から響いた声に驚愕し、すぐに振り返る。
「きょ、教頭先生?」
「ふむ……ユニークなお友達だね」
教頭先生がチェイサーの方を見て言った言葉にあわてて返答しようとした僕は、途中で今の状況がおかしいことに気づく。
今、この学校は僕達以外の人が現れないように、ワタリの後輩さんが人払いをしているはずだ、と。
それでもこれだけでは確信には至らなかった。最初から学校にいた人の場合は人払いできないのか、もしくはミスをして一人だけ通してしまったのか、それらの可能性があるかもしれないと思ったからだ。
だが、すぐにそれは違うと気づくことになる。
「ところで、何をしているのかな君達、鏡の前で。身だしなみでも、整えていたのかい?」
教頭先生が僕の横を通り過ぎ、強烈な甘い匂いが僕の鼻を刺激する。
それは、最近どこかでも嗅いだことのある匂いだった。それも、この学校以外で。いったいどこだったか……それは……。
昨日カットマンに接近された、あの時……!
ここで僕は思い出す。普段名字をつけて呼ばないから彼の名字を今まで忘れていた。
彼の、教頭先生の名字は佐々岡……この人は、佐々岡教頭だ……!
僕の考えが確信に変わったその時、鏡の中にいるナノハから、消え入りそうな小さな呟きが聞こえた。
『おとう、さん……』
「チェイサー! そいつがカットマンだっ!」
僕は振り返ると同時にそう叫んだ。
「え?」
柊さんは自分に手を伸ばす教頭の姿に驚き声を上げた。
気づいた時には彼の体の半分以上が黒くまがまがしい何かに包み込まれ、瞳が赤く淡い光をたたえていた。
「柊に、触れるなぁ!」
チェイサーは一歩で教頭に接近し蹴りを放つ。だがその蹴りは当たることはなく、教頭は姿を消す。
「なっ……消え」
「上だチェイサー!」
僕の声に反応したチェイサーは即座にその場から飛び退く。
天井に張り付きこちらを見る教頭は既にカットマンの姿に変わっていた。
「出てこい言ノ刃っ!!」
僕は口言刀・言ノ刃を出現させると同時に跳んで天井に張り付くカットマンに斬りかかった。
だがその刃は天井に傷をつけただけでカットマンにはかわされてしまい、体の浮いた僕を狙って鉈が振るわれる。
「まっず……!」
「はあっ!」
『ぐうっ……!』
早くもピンチになってしまった僕を、カットマンを蹴り飛ばすことによってチェイサーが救ってくれる。
「迂闊に跳んだりするな愚か者め」
「すいませんでした助かりました……」
チェイサーに謝りながら蹴り飛ばされたカットマンの様子を確認する。どうやら一度距離をとって相手も様子見をしているようだ。
「さて、僕達の仕事はこれからだな」
「足を引っ張るなよ」
足を引っ張り助けられた直前に言うのはためらわれるが、僕は先程の件を棚上げにしお約束の台詞を叫ぶ。
「はっ! お前こそっ!」




