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ペリヘリオンの夜  作者: よしなか
3章 巡る星、廻る記憶
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聖治との会話

 陽人が御影邸に戻ると、若い女性の使用人が、複数通の封筒を手渡してきた。

「さすがは坊ちゃん。お父様に似て、引き合いが多いですね」

「……ん」

 陽人は片手でさっと封筒を受け取り、自室に入ると、その封筒を机の上に適当に置いた。堅苦しいスーツを脱ぎ、ネクタイを外す。

「はあ……」

 ベッドに腰かけ、ため息をついていると、ゆっくりする間もなく、ドアがノックされた。

「陽人、入るぞ」

 父親の聖治が陽人の返事を待たずに入ってきた。ペットボトルのお茶を差し出しながら、机の上の封筒に目をやる。

「うお! いっぱい来てるじゃないか! モテモテだなあ!」

「と、父さん……」

「はっはっはっ! 選り取り見取り、選び放題だなあ~」

「……どうせみんな、見た目だけだろ」

 陽人が父に聞こえない声で、つぶやいた。聖治は許可もなく勝手に封筒を開け、縁談相手の女性の写真を見定めていた。

「お前、九条さんからも来てるぞ! 九条すみれ……一度会ったことがある、賢くて芯のあるいい子だったなあ~」

「……」

「なあ?」

 聖治が陽気な声を抑え、真剣な目で陽人を見据えた。

「経営者になったんだから、いつまでもそんな調子はダメだろう。ちゃんと会食に出席して、『いい相手』をだな……」

「父さんの言う『いい相手』って、会社にとって、ってことだろう?」

「それもある」

 ため息をつく陽人を、聖治が責める。

「母方の白石を名乗るのをやめて、俺の『御影』を名乗って経営者になったからには、それなりの覚悟があったんじゃないのか?」

「……」

「だいたいお前、学生時代遊んでたんだから、パートナーぐらい我慢しろよ」

「遊んでないって! それに我慢は失礼だろ! 父さんは母さんを我慢して選んだの?」

「いーや? 俺はいっぱい縁談相手と遊んで見極めて、最高の嫁を見つけましたけど?」

「そ、それも最悪だ……」

 悪びれる様子を見せずに発言する聖治と、呆れる陽人。

「というか、お前、学生時代遊んでないの?」

「……」

「その見た目で? 俺の血を引き継いでいて? もったいねえ!!」

「うるさいなあ。僕は父さんと違って一途だから——」

 そこまで言って陽人はハッと口を閉じた。だが遅い。御影聖治が、それを見逃すはずもない。

「お前、好きな子いるんかよ!!」

「違う!! いないって!!」

「嘘つけ、お前真っ赤だぞ!!」

 慌てながら陽人は自室を出ようとする。

「——黒崎蛍」

 陽人がピタッと止まった。

「あー、やっぱり。当たりか」

「ち、ちが——」

「何が違うんだよ」

 聖治の声が低くなる。

「俺の中ではパズルのピースがはまったぞ。お前が経営者を目指したいって言った理由も、そういうことかってね」

「……」

 陽人は何も答えられない。

「朔夜君だけかと思っていたが。なるほど。『黒崎兄妹』に火を点けられたか」

「……別に、そんなんじゃ」

 言いかけて、その先が見つからなかった。

 火を点けられたのは、確かだ。でも、今までに感じたことのないような動機で、純粋な熱意ではなかった。


 今まで困っている人がいると、何となく手助けをし、感謝された。良いことをすると、感謝されると、見た目で寄ってくる人と違って、本当に人に必要とされている気がしたから、そうしていた。それが当たり前だった。

 あの日、ホタルのいる水辺で、彼女に出会った。学生服はボロボロで、顔も暗くて、聞かずともその見た目が、彼女の境遇や状況を物語っていた。放っておいたら……最悪なことを考えてしまい、放っておけなかった。

 何とか約束を取り付けて、毎日会えるようにした。彼女が少しずつ笑うようになった。僕は彼女が笑うたび、必要とされている気がしたし、彼女を助けられていると思っていた。

 だけど……。

 蛍を連れていかれた日、追い返された日。

 何もできず無力だった。

 大人の力は圧倒的で、手段も選ばず、手加減も容赦もなかった。

 泣いていた彼女を笑わせたはずなのに、最後、また泣いていた。

 お前に何ができる、と言われたあの日の声と言葉が、今もまだ、腹の底に刺さったままだった。もう二度と、あの日みたいに何もできない自分でいたくなかった。あの人と張り合える、同じ土俵で戦える人間になりたかった。

 僕の火は、父に言えるような、決して、まっすぐなものではない。


「そうじゃなくても、あの兄妹が、お前が頑張る理由になりえてるんだろ?」

「え?」

 複雑な表情をした陽人の何かを察して、聖治が沈黙を破った。

「いいじゃないか。今はそれで。単純な理由じゃなくても。俺はそれでもお前が経営者になってくれたの、すごく嬉しいからな」

「父さん……」

「ま、いったん置いといて。腹減ったから夕飯にしよう」

 聖治は先に陽人の部屋を出た。陽人も父の背中を見つめながら、後に続いた。

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