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39.私の居場所は

 私は、胸が切なくきゅうっと締め付けられる。

 ヴィスキオ様は顔から手を離すと、初めて、満面の笑みを見せてくれた。


「帰ってきてくださって、ありがとうございます」


 私は危うく大罪を犯すところだったのだと、今なら分かる。

 こんなにも優しい人を、永遠に罪の意識にさいなませ続けてしまうなんて、とんだ大罪だ。

 眠っていた6ヶ月間、ヴィスキオ様に恐怖を与えてしまっていたことも、紛れもない私の罪だ。

 そう思ったら、じわりと目に涙が浮かんできてしまう。

 それに気づいたヴィスキオ様は、ギョッとしてまだ涙の流れていない私の目元をぬぐってくれた。


「申し訳ありません。いらぬ気を遣わせてしまいましたね」


 私はふるふると首を横に振る。

 目覚められて、良かった。帰ってこられて、本当に良かった。

 今はただ、それだけだ。

 その時、きいっと部屋の扉が開く。

 私とヴィスキオ様がそろってそちらに視線を向けると、ふわりとしたドレスを着こなすロゼが姿を現す。


「さっ、交代に来ましたわよ! ヴィスキオ、そろそろ休む時間じゃ、なく……て」


 ロゼは明るい声を出しながら、ベッドに近づいてきて、私とばっちり目が合う。

 ビシッと固まるロゼを見て、私は笑いかけてみる。


「ロ、ゼ」

「……ルリハ?」


 ロゼは信じられないものを見るような目で私を見つめると、少ししてわなわなと震え始める。

 みるみるうちにロゼの目に涙がたまり、このままでは泣いてしまう。と思ったところで、ぎゅうっとまぶたを閉じてしまった。

 パチッと目を開けたロゼはバサリと扇を取り出すと、その先端をヴィスキオ様に向ける。


「ヴィスキオ! ルリハが起きたならまずはお医者様でしょう! それにもっと騒ぎなさいな!」

「あ、それは」

「もういいですわ! わたくし、お医者様を呼んで参ります!」


 ロゼはそのまま踵を返してしまう。

 部屋を去る間際のロゼは目元がうるうるしていて、涙を堪えていることは一目瞭然だった。

 ばたり、と閉じられた扉の先で「ルリハが目覚めましたわ!」と叫ぶ声が聞こえてきて、ヴィスキオ様と私は思わず目を見合わせて笑ってしまった。



 その後、お医者様に診てもらった私は、自分でも思っていた以上に衰弱していたらしく、元に戻るまでに1ヶ月以上の厳しいリハビリに励んだのだが、それはまた別のお話。



「ルリハ様、準備はよろしいでしょうか」

「はい。大丈夫です」


 私が目覚めてから、数ヶ月。

 過酷なリハビリを経て、私は自分の足でしっかりと立って歩けるまでに回復していた。

 まだ激しい運動などはできないが、日常生活を送る分には問題ない。だというのに、ヴィスキオ様とロゼは時々過保護になる。

 私は大丈夫だ、と言っているのだが、ヴィスキオ様は心配そうな視線を私に注いでいた。


「ルリハ様、やはり今からでもやめたほうが」

「いいえ。行きます」


 私は今、きらびやかなドレスを身に纏っている。

 薄絹を幾重にも重ねた聖女としての衣服と、貴族女性が着る緩やかなドレスを組み合わせたようなデザイン。

 私が一歩一歩前に進むと、動きに合わせてドレスもふわりと揺れる。その様はまるで月光の元に舞い降りた聖女のよう――というのは侍女さんたちの評価だ。


「せっかく今日のためにがんばってトレーニングしたんです。今帰る方がもったないですよ」

「とれーにんぐ……それは、そうかもしれませんが」


 ヴィスキオ様は文句を言いたそうな雰囲気を崩さない。

 私は苦笑をこぼして、彼に右手を差し出した。

 ヴィスキオ様は私に応え、手をしっかりと受け取ってくれる。


「いいですか。もし体調に少しでも変化があれば休養を挟んで」

「はいはい。分かっています」


 全く、過保護すぎるのも考えものだ。

 私たちはそろって閉じられた扉に向き合う。

 この先には、きっとシャンデリアに彩られた眩い空間が待っている。


「ヴィスキオ様、参りましょう」

「……かしこまりました」


 今夜は、聖女お披露目の夜会のやり直し。

 あの時の夜会は魔物発生による警報で、慌ただしい中お開きになってしまったため、リベンジをしようとロゼ中心に企画してくれたのだという。

 当時の私は対価のことも知らず、ただのいらない聖女として、大広間に立っていた。

 シャンデリアの光がひどく眩しく、緊張で固まっていたのが懐かしい。

 今だって、緊張していない訳ではないが、ヴィスキオ様を私が引っ張るくらいの気持ちでここに立てている。


「ルリハ様」


 ゆっくりと扉が開かれていく中、そっとヴィスキオ様が語りかけてくる。

 お互い、視線を交えることはない。

 真っ直ぐに前を見据え、握りしめあったお互いの手の暖かさが、お互いの存在を証明してくれる。


「ルリハ様、あなたの役目を、聖女として必要とされる未来を後悔されませんか?」


 答えは、もう決まっていた。

 この夜会は私のお披露目のやり直しであり、正式に聖女として立つ意思表示のようなものだからだ。


「はい。私の居場所はここですから」


 光の、中へ。

 いらない聖女であったルリハは、己の道を見定め――一歩、踏み出した。

ここまで読んでくださりありがとうございました!!

『異世界に聖女は必要ですか?』はここで一度完結となります

今後については、第2章以降を執筆しようかどうかは検討中です

書きたいことはいろいろあるのですが……(教会関係のあれやこれや、ヴィスキオ様と瑠璃羽ちゃんと結ばれてないし……)

もし、もっと読みたい!もっと書いてー!というお声がありましたら、ぜひぜひ感想評価等いただけると嬉しいです♪


週一更新中の『こちら“元”最強御一行さまです!』もよろしくお願いします!!

https://ncode.syosetu.com/n3458iq/

それでは、またどこかでお会いできることを願って

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