6 挑戦
それから二時間後、美登里たちを乗せたリムジンはスター・レイカーズの専用グラウンドに到着した。
「わたくしの実力を見せつけてやりますわ」
美登里は車内で着替え、既にユニフォーム姿になっている。
「監督、行くわよ」
美登里は突然、宮田をおぶった。
「お、おい」
宮田は慌てた。
「わたくし、時間を無駄にするのが嫌いですの。行きますわ」
美登里は宮田をおぶったまま、全速力で走り出した。
美登里はほとんど息切れすることなくグラウンドの入口に着くと、宮田を降ろした。
美登里と宮田がグラウンド内に入ると、ホーム・ベースのところに選手たちが集まり、何やらもめていた。
「おい、何やってんだ!」
宮田の怒声で選手たちが全員、宮田の方を向いた。
「皆岸が球拾いと道具の片づけを拒否したんです」
幸田輝美が言った。
「球拾いのバイトはいるだろう」
「しかし、新人は雑用を行うものと――」
「それはノーですわ」
宮田が何か言おうとする前に美登里が口を出した。
「何よ、あなた」
「いいですか、ここはアマチュアではなくプロです。雑用やらせるために高い給料を払ってるわけじゃありませんの。雑用はアルバイトにやらせて、あなたたちは死ぬほど練習しなさい、いいですわね」
「彼女の言うとおりだ」
宮田が言った。
「監督!」
「確かに先輩後輩の規律も大事だが、うちのチームにはそんなことに構っているほど時間はない。早く結果を出せる選手が欲しいんだ。練習は新人先輩関係なく同じだ。わかったな」
「はい」
「よし練習につけ!」
宮田の指示で選手たちが練習に散った。
「皆岸と沢木はちょっと待て」
宮田に呼び止められ、朋美と楓が戻ってきた。
「今日からか」
「監督、あたし、監督のために全力で頑張ります」
楓ははきはきとした声で言った。
「わたくしのためにも頑張るんですのよ」
美登里は楓の頭を撫でた。
「へ?」
楓は不思議そうな顔で美登里を見た。
「彼女は朝野美登里だ。うちのチームのオーナー兼選手だ。こっちは沢木楓と皆岸朋美だ」
「美登里様と呼ぶのよ」
美登里が楓たちに言った。
「お、おい、いきなり何を……」
宮田は戸惑った。
「わかりました、美登里様。よろしくお願いします」
楓は元気よく挨拶した。
「そっちの子は?」
「そんなこと言えないわ」
朋美が素っ気なく言った。
「何ですってぇ!!」
「今はいいだろ、そんなことは」
「そうね。で、わたくしより上のバッターはどこにいますの?」
「目の前だ」
「目の前って……」
美登里は楓を見た。「この子、まだ中学生でしょう」
「俺は四番を考えてる」
「あり得ませんわ」
「監督」
宮田と美登里の後ろで女の声がした。
美登里が振り向くと、千鶴が立っていた。
「あーっ、あなた!」
「お、おまえっ!」
美登里と千鶴が指を差し合った。
「知り合いか?」
宮田は意外そうな顔で二人を見た。
「知り合いも何も高校時代のライバルよ。高校の時、甲子園の春夏五度、対決したわ。最も私はこいつから八本ホームラン打ってるけど」
「ほーほっほ、八本は打たせてあげましたのよ。五度とも甲子園で優勝したのはエースのわたくしが投げたわたくしの高校ですわ」
「そりゃあ、あんたのチームは日本中からいい選手、集めてるんだから、当然でしょ」
「あら、負け惜しみ?」
「ふっ、一人の選手から通算八本もホームラン打たれた投手って、甲子園記録じゃないかしら。よかったわね、何でも一番で」
「よくも言いましたわね」
美登里が眉がぴくっと動いた。
「何、やろうっての」
千鶴と美登里はにらみ合った。
「監督、こいつはクビにしますわ」
「何?どういうこと、おじさま?」
「うちのチームの選手兼オーナーなんだ」
「え?」
「わかっていただけまして。わたくしに逆らうと、クビにしますわよ」
「面白い、私はやめたっていいのよ」
「駄目だ!」
宮田は強い口調で言った。
「おじさま!」
千鶴の顔が輝いた。
「人事権はわたくしにありますのよ」
「だったら、俺もやめる。おまえ一人でやるんだな」
宮田の言葉に美登里の顔色が曇った。
「じょ、冗談ですわ。ちょっと言ってみただけです」
「次に口にした時はそうなると思え!」
「わ、わかりましたわ」
「ふふっ」
千鶴がバカにしたように笑った。
「ムッ!!」
美登里は腹が立ったが、ここは怒りを抑えた。
「ところで、楓、わたくしより上のバッティングというものを見せてもらおうかしら」
美登里の言葉に楓は監督の方を見る。
「よし、誰かに投げさせよう」
「私がやるよ」
真崎由梨華が現れた。
真崎はレイカーズの先発投手で、二十四才。昨年の成績は、十五試合に登板し、三勝十一敗、防御率四.二十二。
「真崎さん、おはようございます」
楓が挨拶した。
「君が期待の新人ね。歓迎するよ。監督、いい?」
「ああ」
「捕手はこの子にやらせよう」
由梨華が朋美の肩に手を乗せた。
「君、捕手なんだろ」
「は、はい」
由梨華がマウンドに上り、朋美は防具とキャッチャー・ミットをはめて、位置に着いた。
由梨華が十球あまり試投する。
「まあまあ、速いですわね」
美登里が腕を組んで、言った。
「それじゃあ、いきます」
楓が右打席に入った。
楓の表情が途端に引き締まった表情、鋭い眼光になる。
由梨華が一球目を投じた。
一球目から中学生にシュート?
美登里が興味深げに見た。
ボールが内角のベース付近に来た瞬間、楓の最短距離から出たバットがボールを捉えた。
ボールは上空に上がり、ライナーでレフト・フェンスを越えた。
十五才で内角球をあそこまで飛ばすなんて。
その後も楓はボールをレフト、センター、ライトと自在に打ちわけた。
「なんて子なの……」
「驚いただろ」
「わたくしには劣りますわ」
「おじさま、どっちで使うつもり?投手としても、あの子は魅力よ」
千鶴が言った。
「へえ、そうなんですの。だったら――」
美登里は楓の方へ歩いていった。
「楓、今度はあなたが投げてみなさい。わたくしが打ちますわ」
「美登里様が?」
「ええ」
楓はバットを美登里に渡した。
「ほらよ、沢木」
由梨華がマウンドを降り、楓にグラブとボールを預けた。
「楓……」
朋美が話しかける。
「真剣勝負よ」
楓は朋美にウインクして、マウンドに上った。
かくして楓と美登里との対決が始まることになった。




