6 パーティー
同じ頃、東京のホテル〈月光〉では朝野電気の自社ビル竣工パーティが開かれていた。朝野電気は、財閥系の家電・通信の主力とした企業で、東京ファルコンズのオーナー企業でもある。
この日の招待者には、引退会見をしたばかりの宮田の姿もあった。
宮田は会場の隅の席で静かに酒を飲んでいた。
「相変わらず偏屈ですこと」
宮田の前にワイングラスを手にした青いドレスの女性がスマートな足取りで歩いてきた。
「?」
宮田は女性の方を見た。「君は――」
宮田はすぐにその女性の顔を思い出した。
朝野グループの会長・朝野源蔵の孫娘、朝野美登里である。美登里は野球好きで、宮田が現役の頃も度々球場に観戦に来ていた。高校卒業後はアメリカの大学に入学するため、渡米したと宮田は聞いていた。
「久しぶりだな」
高校の頃しか知らない宮田は、美しく成長した美登里の姿に少し呆気にとられた。「もう六年になるか。いつ帰国したんだ?」
「昨日ですわ」
「そうか……」
「引退したそうですわね」
「こっちはそのつもりはなかったんだがね」
「わたくしに言わせれば、球団に感謝こそすれ、不満を言われる筋合いはないと思いますけど」
「アメリカに六年も行って覚えてきたのは皮肉だけか?」
「!!!」
宮田の言い方に美登里はカチンと来た。
「そんなこと言っていいのかしら」
「ん?」
「わたくし、お爺様からスター・レイカーズのオーナーを任されましたのよ。つまり、あなたをクビにするのも、給料を下げるのもわたくしのサジかげん一つ」
美登里は宮田を見下すような口調で言った。
「ふっ」
宮田は笑った。
「何がおかしいんですの?」
「俺をクビにするのはいいが、どうせ君も爺さんに君の経営能力を試すために球団経営を任させたんだろ。失敗したら、どうなるのかな」
「くっ……」
「やぁ、宮田君、こんなところにいたのか」
秘書とボディガードを引き連れて、朝野源蔵が歩いてきた。
「お爺様」
「美登里も来ていたのか。宮田君、長い間、ご苦労だった。孫に今シーズンのスター・レイカーズのオーナーを任せてみることにした。よろしく頼むよ」
「今シーズンだけですか?」
宮田はわざと訊いた。
「そうだな、君のがんばり次第だな。では、失礼するよ。ゆっくりしていきたまえ」
朝野はそう言うと、部下を引き連れ、他へ移動した。
テーブルには再び宮田と美登里の二人だけとなった。
「結婚させられるのか?」
宮田がコップの日本酒を飲んでから、小声で言った。
「え?」
「政略結婚のため帰国させられるところを君がごねたんだろう」
「何を根拠にそんなことを?」
「違ってるなら、それでもいいさ。俺には関係ないからな」
宮田はまた酒を飲もうとした。しかし、美登里は宮田のコップを持つ手をぎゅっとつかんだ。
「その通りですわ。せっかく大学で経営学を学んできたのに、一度も仕事に就けないまま、妻の座に収まるなんてご免です。もしわたくしがオーナーとしての手腕を見せれば、お爺様はわたくしの実力を認めて、結婚の件を考えてくださるわ」
「無理だな。スター・レイカーズには優勝できる戦力がない」
「それでも、優勝させなさい、命令です」
「しかし、金は出さない、だろ」
「限られた戦力で結果を出すのが、監督の手腕でなくて?」
「そうだな、だったら、君が頑張ってみるか?」
「何ですって?」
「高校時代の実力、俺に見せてくれよ、なっ」
宮田は美登里の腰をぽんと叩いて、言った。




