chapter.6 違和感
笑顔で手を振り、投げキッス。
いつも通りのファンサをしつつ、なぎさはまどかの耳元で「話したいことが」と呟く。まどかもまどかで「僕も」と言って二人で小さく頷き合った。
別れの合図に周囲をグルッと見渡しながら大きく両手を振り、いつものように光に消える。
ラボではなく健太郎のマンションへ。
変身を解いた伊織は、即座に健太郎に問いかけた。
「どういうことだと思う?」
健太郎も伊織と同様に険しい顔をしている。
「……分からない。分からないから混乱した。倒すのに手間取った」
「だよね」
健太郎のマンションのリビングは以前より散らかっていた。出しそびれたゴミ袋が部屋の隅に縛られて置いてあるところを見ると、これでも少しは片付いた方なのかも知れなかったが、整然とはしていなかった。
ローテーブルに広がった何枚もの紙やノート、空のペットボトル。ソファの背もたれに被さるバスタオルやTシャツは、洗濯済ではないようだ。
「カミキリの辺りから、変じゃないか?」
「うん。更科さんの説明と食い違ってる気がする」
「だよな」
うぅんと頭を抱えながら、健太郎は衣類が積み重なったソファの上に腰を下ろした。
伊織は遠慮した。ぱっと見、どこに座ったらいいのか分からず、とりあえずローテーブルのそばの何も置かれていない空間に座ることにした。
埃一つ見つからないような、とても綺麗な部屋だったのに。やはり、まだまだ落ち着いていないのだろう。
「陽菜子が魔物化したとき、俺は確かに見たんだ。綺麗な蝶を。そして更科さんの話。驚いて絶望して……食い止めようのない事象だと必死に自分を納得させようとしていた」
「うん。更科さんの話と健太郎の話に矛盾点はなかった。だから僕もそうなんだと思っていた」
無精髭が生え、目元に残った隈もどんどん濃くなっている。汗臭い。風呂にはちゃんとは言っているのか、そもそも食事も睡眠も、ちゃんと取れているのか分からないような有様だった。
しかし、健太郎の目は間違いなくギラギラしていた。
「融合……『V2は周辺に存在する生物と人間の細胞を結びつけて融合させ、人間を強制的に魔物に変化させる』。そういう話だったはずだ」
「僕もそう聞いた。だとしたら……変、だよね」
「変だな」
ローテーブルの上、健太郎が書いたメモのなかに、これまで戦ってきたV2モンスターのリストがあった。
一つずつ、辿る。
「俺とお前が電車戦ったのは、犬っぽい獣型の魔物だった」
「犬と飼い主だったんじゃないかって、更科さんが」
「二回目は蛾だった」
「夜だったし、あり得ない話じゃない」
「RABIのときは、ザリガニだったよな」
「子どもが釣ったザリガニ、みたいな話だった」
「あとは……カエル?」
「雨の日だったからね」
「蜘蛛とも戦ったぜ」
「へぇ」
「芋虫みたいなやつとか、蜻蛉みたいなやつとか……あと、ハムスターみたいなヤツとも戦った」
「初耳」
「団地にいた蜥蜴は、ペットだろうと推測……」
「そういえば僕、学校で蝉と戦った」
「学校かよ」
健太郎がメモ紙に蝉と追記。
「で……、カミキリ」
ぐるぐると、カミキリの文字が鉛筆で囲まれていく。
「伊織、お前カミキリ虫は捕まえたこと、あるか?」
「いや」
「だよな。綺麗な個体もいるっちゃいるけど、害虫のイメージが強い。実家の庭木にさ、カミキリ虫が湧いて、駆除に苦労したんだよ」
「幹に卵産むんだよね」
「幼虫が幹の中にトンネル掘って穴だらけにしてさ、木が枯れるんだ。桑とイチジクがやられた。最近は、桜の木につくカミキリもいるって話」
「クビアカツヤカミキリ」
「それ。よく知ってんな」
「ニュースで見た。特定外来生物だって。駆除に報奨金出してる自治体もあるよね? この前のアレがそれだったかは分からないけど」
トン、トン、と鉛筆がテーブルをつつく音。
「ネットで情報見た限りだと、V2モンスターに変化したコーチの男性は、桜の木からだいぶ離れたところに立っていた。練習の小休憩で、コーチは子ども達を木陰やテントの下に誘導して、一番後から休みに入ったらしい」
今度は別の紙に、健太郎がサラサラと図を描いていく。この前の小学校のグラウンド。校舎の位置と、サッカーゴール、桜並木とテント。子ども達がいた場所と、カミキリの魔物と戦った場所に印を付けると、健太郎は最後に『?』の字を追記した。
「いつ、カミキリ虫と接触したんだ?」
「……飛んだ、とか」
「桜の木にくっついてたんなら、クビアカツヤカミキリだろう。だけど、あいつらそんなに飛ばねぇぜ」
「飛ばないんだ」
「全く飛ばないわけじゃないが、思った程飛ばない」
「魔物の方は飛んでたけど」
「図体デカいから距離飛んでたように見えたんだろ。長くは飛ばないはずだ」
伊織は『?』の字を凝視した。
何度も何度もなぞられた『?』の字が、強烈に頭に焼き付いていく。
「……狸も、変だと思う」
「全くだ」
「狸が東京にいるの、健太郎はよく知ってたね」
「そういうアニメ映画があっただろ。昔は東京も田舎だったからな。住んでたんだよ、元々。夜の住宅街に出没したり、路地うろついてたりするって話、お客さんからも聞いたことがある。けど、野生だから。人間が近付いたら当然逃げる」
「基本的に接触しないはず……だよね」
「そゆこと」
「だとしたらやっぱり」
「変だろ」
「うん」
並んだメモを眺め、二人はしばらく黙りこくった。
あまり考えたくはない。
考えたくはないが……二人とも、とても嫌な予感がしていたのだ。
「ラボは、気付いてるのかな」
耐えられなくなって口を開いたのは伊織だった。
「どうかな。気付いていると信じたいけど」
「言う?」
「言うしかないだろうな」
「だよね。明日……健太郎、仕事だよね」
「いや。俺、しばらく休み中」
「そうなんだ。じゃあ、時間合わせて明日どう?」
「分かった」
推測はしたくなかった。
二人とも、喉の直ぐそこまで言葉を出しかけて引っ込めていた。
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さてさて、きな臭い方向に物語が進んできましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
SF味が強くなってきましたが、ナイトスカイ・エンターテインメントとの契約の話もまたどんどん進みますからね、お待ちくださいね。
あとBL風味もちょこちょこ挟まりますし、変身中はGL味も出ますからね、忙しいですね。
こちらの後書きはなろうのみですので、カクヨムには載せてませんので!!
そして、一話ごと削除しているので(雰囲気ぶち壊すから)最新話に追いついている人だけの特権ですからね!!
今後も毎週少しずつではありますが更新していきますので、お付き合いいただきますと幸いです……!!




