chapter.2 契約条件
緑川瑠璃絵は皆に配ったのと同じ資料を捲りながら、ナイトスカイ・エンターテインメント側から出た話を端的にまとめて話し始めた。
「このご時世にエンジェルステラのような魔法少女が現れたことは驚きであり、感動だと担当者は言った。彼らに乗せられたと言われたら全くその通りかも知れないが、私も三ツ浦先生もその案を否定することはできなかった」
魔法少女という親しみやすいキャラクターを使って絶望の淵に立たされた人類を救いたい――資料に書かれたナイトスカイの主張は、エンジェリック・ラボの目指すエンジェルステラの姿そのものだった。
SNSでの啓発活動、TVCM、雑誌や広告での活動紹介に始まり、グッズ、アパレル、そして玩具、オリジナルアニメーション制作、キャラクターソングなど、知名度を生かして様々なものを展開しながら、日本中を元気にしたい。エンジェルステラが精神的な拠り所になるのはもちろん、経済の活性化にも一役買うだろうというのがナイトスカイの本音だと緑川も思ったらしい。
「本物が一切の広報活動をしないことで、模倣が蔓延していることが一番の問題だとナイトスカイ側が訴えてきた。とうとう誘拐殺人事件まで起きてしまった。詐欺も横行していると聞いている。模倣品の玩具が出回り、その安全性が問題視されているとも。真っ当な会社がきちんとマネジメントできればこのような事態は起きなかった。SNSの炎上程度で済んでいたなら、被害はそれほど多くならなかったのではと」
嘆息のあと、緑川は申し訳なさそうに円谷に目を向けた。
「逃げている場合ではないと思ったのだよ、円谷少年」
眼鏡の奥、思い詰めたような緑川の目に、伊織は何も言い返せなかった。
「魔法少女たるもの、正体は明かしてはならない。私はずっとそう思ってきた。これからもそう思い続けたい。……だが、現代社会においてそれはとても難しい。ナイトスカイ側の言うとおり、本物であることが何より安心であることに違いはないのだ。安心を届けたい、エンジェルステラと共に日本中を元気にしたいと熱っぽく訴えた彼らに、私も三ツ浦先生もその通りですと答えるしかなかった」
「俺は賛成しますよ」
目の下にがっつり隈をつくり、死んだような目をしていたはずの健太郎が、なぜかしら上から目線で緑川にそう話し掛けた。
「元々正体がバレようが何が起きようが構わないと思っていたんだ。面白いことになってきたじゃないですか。それに、一億円。開発費に使うんなら賛成ですね」
「け、健太郎……!」
「衣装のバリエーション増やしたり、新アイテム開発したり、必要な頃合いでしょう? で、俺達は何をすれば? グラビアにでも出ますか。水着撮影?」
「み、水着!?」
「グラビアっつったら、水着だろう? 際どいヤツ」
「ハァ!? 要る? 水着要る???」
健太郎に唾を飛ばす勢いで伊織が反論すると、反対側から館花が、
「落ち着いて円谷君。水着は着ないから」
と宥めてくる。
「水着は着ないって!」
「俺は着ても良いぜ。布面積少ないヤツ」
「そういうのは家で一人でやれよ! キモっ!」
伊織は納得できなかった。
正体を知られたらどうなるか考えただけでも背筋が凍る。だのに、企業と契約だなんて。
「円谷少年。心配には及ばない。君達の正体を知られることはない。資料の一番最後のページを見たまえ」
緑川に言われ、伊織はパラパラと資料を捲り、該当のページを確認した。
エンジェリック・ラボ側から提示された契約条件と書かれた事項にこんな記述がある。
「『まどかとなぎさはタレント活動を行わない』『メディア露出は最低限とする』『変身前の姿は最重要機密であるため、いかなる質問にも答えない』『水着・下着姿など性的刺激を与える服装での撮影には応じない』……本当だ。正体も知られないし、水着も着なくて良いって書いてある」
ひとつひとつ内容を確認し、伊織はホッと胸を撫で下ろした。
「要するに、渚君も円谷君も今まで通り活動して、たま~に写真撮影インタビューに応じるくらいで良いよ、みたいな感じみたいだよ」
館花が言うと伊織はようやく落ち着いて、なるほどそれくらいならと、何度も文面をなぞっていた。
「そういうわけだ。かなり忙しなくなるが、皆もどうか理解して欲しい」
緑川はそう言って、研究所の面々にも目配せした。
「エンジェルステラの公式SNS、公式グッズ、生の声を届ける仕組み……確かに、私達に欠けていたものに違いない。ナイトスカイは多くのアイドルやタレントを抱える業界再王手の芸能事務所。当然、口も硬い。硬いが……二人の正体は秘密のまま、教えるつもりはないことも伝えてある。できるだけ負担は掛けないように努める。どうか、理解して貰えないだろうか」
いつもツンとして、ハイかYESしか求めないような聞き方をしてくる緑川が、珍しく他人に向かって丁寧に同意を求め――頭を下げている。
「仕方ないですね。所長がそう仰るのでは」
「反対のしようがない」
「同意~」
御園と赤井、大川が次々に賛成し、残りは伊織だけになる。
目線が集まる。
ギュッと肩を竦め、伊織はちらちらと全員の顔に目をやった。
圧が……凄い。
今までのことを考えると、簡単に良いですよとは言いたくはないが……
「わ……、分かった。どうせ反対しても無駄なんでしょ? もう決まっていること……とか何とか。良いよ。それくらい、なら」
渋々ではあったが賛成の一票を投じると、緑川はホッとしたように力を抜いていた。
三ツ浦も更科も、隣同士でフフンと口角を上げている。
「――ってことは、これからは自作しなくてもエンジェルステラ公式グッズが手に入るってことですよね!」
「あ~、大川君そう言えばアクスタとステッカー自作してたもんね……」
「シッ! は、恥ずかしいじゃないですか、赤井さん! 本人達の前で!」
キャッキャと騒ぎ出すラボの面々を見ながら、伊織は健太郎にだけ聞こえるようにボソッと小さく呟いた。
「同じなのかな、僕らと」
「ん?」
「キュアキュアの公式グッズを待ち侘びてる、あの感じに凄く似てる」
「ま……、そういうことだよ。多分」
まだ完全には腑に落ちていない伊織だったが、何となく、悪いことだけじゃないことだけは理解できた。
ただ……健太郎と緑川の様子が何だか少しいつもと違うような気がして、それだけがずっと、引っ掛かっていた。
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文学フリマ東京会場で頒布していたエンジェルステラグッズは、BOOTHでも入手出来ます……!
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新規絵まだ終わりません……
久々にお絵描きしたら楽しくって、更新が遅くなりました……
もうちょいで完成するので、ちょっと待っててね……
Twitterの方で予告と一緒に上げてるので、そっちもチェックしてくださいね。
(https://x.com/amasaki_ken)
※リンク貼るの面倒くさくてすみません……。どうにかして開いて……。
今後も毎週少しずつではありますが更新していきますので、お付き合いいただきますと幸いです……!!




