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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【3】魔法少女が戦う理由/第3話 何かがおかしい

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chapter.1 覚悟はできたか

 学校からの帰宅途中、ふいに《ステラ・ウォッチ》がぶるんと鳴った。

 またV2が出現したのかと慌ててウォッチを確認した伊織は「うげっ」と顔を渋らせ足を止めた。

 学区の違う安樹とは駅で別れ逆方向に。そこからどうでもいい会話をしながら、久しぶりに優也と歩いていたところだった。


「どうした? 伊織」

「説教タイムかもしれない……」

「説教?」


 住宅街、家までほんの数百メートル。しかし、このまま帰るわけにもいかなくなった。

 困ったなと頭を掻いて、伊織は大きく溜め息を吐いた。

 優也はウォッチを覗き込むが、のぞき見防止加工が施された盤面は真っ暗なまま。


「秘密にするって約束だったのに喋ったから。何か怖いんだよね、所長さん」

「所長?」

「あ、うん。これ以上喋ると消されるかも知れないから、言えないけど」

「随分物騒だな」

「そう。物騒なんだ。中の人達はまともなんだけど」


 どこまで本当なのか分からないようなことを呟いて、伊織はハハッと小さく笑う。


「ごめん。呼び出されたから、ちょっと行ってくる」

「おぅ。じゃ、明日のことは後で連絡する、でいい?」

「お願い。LINK送って。安樹さんにも」

「おっけー」


 じゃあと軽く手を振り、伊織はそそくさと小路へと入っていった。






 *






 ラボへ着くなり「所長室に急いで」と館花に言われ、伊織は大慌てでビルの十八階にある所長室へと急いだ。途中で何人かに頭を下げた。夕方とはいえ通常勤務時間帯とあって、それなりに所員がいる。白衣かスーツ姿。如何にも研究所という感じだ。


「やってくれたな、円谷少年」


 所長室で待ち構えていた緑川瑠璃絵は、胸元の開いたトップスに白衣を羽織って伊織を出迎えた。

 執務机の肘掛け椅子に深く座って足を組み、不敵な笑みを浮かべる緑川に圧倒されて、伊織は何も言い返せなかった。


「寧ろ今までよく我慢したと褒めるべきか。一人で抱え込むのは辛かったろう。魔法少女をやめてしまいたくなるくらいには」


 うっと伊織は息を呑んだ。

 窓から差し込む夕日がジリジリと肌を焼く。

 机の前に立たされたまま日に炙られた伊織は、汗でベトベトの手をギュッと握り直した。


「それでも戻ってきたのは、改めて覚悟ができたということだと理解するが、どうだろう。君は否定するかも知れないが、君の身体は魔法少女として戦う日々を欲している。君なくしてエンジェルステラは成り立たない。君と渚氏、二人揃うことが重要なのだ」


 言葉は淡々としていたが、迫力は凄まじい。

 壁の影で涼しげな顔をしている彼女に、伊織は恐怖を覚えていた。

 伊織はどうも、この緑川瑠璃絵という女性が苦手だった。

 そのオーラも勿論だが、鋼の鎧でも着込んでいるようなガードの高さ。核心には触れず、断片的な情報しか寄越さないのは何故なのか。健太郎が言うように、何かを隠して――


「で、どうだ少年。真に(・・)覚悟は(・・・)できたか(・・・・)


 腕を組み顎を突き上げ、眼鏡のレンズを光らす緑川に、伊織はゴクリと唾を飲み込んだ。

 ここで言う“覚悟”は、エンジェルステラの力を授かった時の、あの“覚悟”とは違うもの。命を懸けて任務を遂行できるのかと問うているのだ。


「大丈夫。もう、やめるなんて言わない」

「よろしい」


 嫌な汗が滲む伊織とは裏腹に、緑川瑠璃絵はニッと満足げな笑みを浮かべた。

 机の上に置いていたスマホを手に取り、誰かに連絡。程なくして年配の男が所長室にノックして入ってきた。


「えっと……更科、さん?」

「あたり。戻ってきてくれてありがとう、円谷君」


 ラボの中で一番の年長者、そして生粋の魔法少女オタク。更科光照は伊織の中で、そういう位置づけだった。


「円谷君が戻ってきたらちゃんと話をしようと、緑川所長とはそういう話をしていたんだ。もう既に渚君には話してある内容だけど、覚悟の(・・・)できていない(・・・・・・)君にはまだ早いかなと言わずにいた情報が幾つかあってね。その話をちょっとさせて貰おうかなと」


 応接用のローテーブルに持参したノートパソコンを置いて、更科はこっちに来なさいと伊織を呼んだ。

 伊織は渋々更科の隣に座り、彼の持参したパソコンの画面を覗き込んだ。


「V2は人間を魔物に変えてしまう。そのメカニズム解明のために、私達はV2モンスターの細胞を分析し続けた。先頃、これが地球上のものではないことが確認された」

「え? それって」

「宇宙から飛来した可能性が高い。隕石か、はたまた侵入か。理由は断定できないが」


 突拍子もないことを言う。大真面目に、自分の親よりもずっと年上の人間が。

 それが奇妙すぎて、伊織は目を丸くした。


「V2は人間と他の生物を結びつけ、全く違う生物へと変えてしまうものだったのだ。そんなウイルスは、地球上には存在しない。さっき君が戦った蝉人間。あれは校庭にいた蝉とV2に罹患した生徒の融合体」

「ちょ、ちょっと待って。更科さん、それって」

「変身したのじゃない。融合した。溶けて、作り変わった」


 更科の深く刻まれた皺に、濃い影が落ちた。


「融合すると、その人間は人格を失う。人間であったことも分からなくなる。戻れなくなる」

「け、健太郎にも言ったんですか」

「法律上、魔物化した人間は、死んだと見做される。見做されるが――」

「健太郎の奥さんは」

「これは他国での話だが」


 伊織の声が聞こえていたのかどうか。

 更科は淡々と、言葉を続けた。


「言葉を発する個体が現れたと報告が上がった。『助けて』と、その魔物は処分の直前に、そう懇願したそうだ」

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