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第六話「遥の憂鬱」④

 ……このオッサム君についても、本来余計なことをやってる場合じゃないんだけど。

 

 なんだか私のせいで、坂道を転げ落ちるように底辺生活に追いやっちゃったようなもんだし……ちょっと責任感じたので、何とか出来ないか……そう考えて、わざわざ様子を見に来て、あわよくば解放できないかって考えてる。

 

 ただ……一ヶ月かけて、探し回って、ようやっと本人に会えたと思ったら、順調にぶっ壊れてた。

 

 と言うか、「Iris」も訳が解んない……こんな訳の解らない生活をさせて、改心させようって……。

 なんかもう、頭のおかしい人を作っちゃってるだけのような……。


 血走った目で、若芽を踏みにじったり、ひよこちゃーんとかやってる姿は、ちょっと痛々しすぎる。

 これ……どうしたもんか……。

 

「イロハ……どうしようかね。普通に顔見せて、これゲームだから、正気に返って……とかやっても、無駄っぽいよね」


「そうですね……。似たようなケースとして、ブラック企業の企業戦士ってのがこんな感じだったみたいなんですの。しょうもない仕事をオーバーワーク気味で繰り返してるうちに、それが自分の幸せ……みたいになっちゃうんだそうです。オッサムさんって人、割と生真面目な人だったみたいだから、この無限再生オブジェクトの木を切り倒すのが人々のため……とか、そんな感じになっちゃってるみたいですです」


 うーん、馬鹿だ。

 純然たる馬鹿だ……前にデートした時は、割と知的で優しい大人な人って感じだったんだけど。

 

 ブラック環境での生活は、人間をこんなにもお馬鹿にしちゃうものなんだろうか。

 

「そうなると……ショック療法しかないかなぁ。いわゆるマッチポンプだけど、クリエイトモンスターにでも収容所襲わせて、危なくなった所で、白馬の騎士様登場ってのはどうかな?」


 この私のVR体は元々、運営管理者用のチューンドVR体。

 一般プレイヤーを凌駕するダイブ5に最適化されたハイスペックな代物。

 

 限定的ながら、GM権限も付与されてる管理者VR体でもあるから、モンスターやモブNPCをその場で作り出す程度のことは可能なのだ。

 

「……ほほぅ、それで思わず愛が芽生えちゃったりする訳ですですね。あ、基本的にVR空間でのいがかわしい行為は禁止されてますです。VR体はおパンツ脱げない仕様なので、予めご了承くださいです。でも、興味はありますなのです。次にリアルに戻ったら、おパンツの下がどうなってるか、見せてくださいですです!」


 デスデスウザいし、何言ってるの? このポンコツA.I……。

 うん、一応知ってる……VRMMO共通の謎のおパンツロック仕様。

 

 ただし、おパンツチェンジ機能は実装されてるし、パンチラだってする時はする……。

 

 まぁ、スカートの中とかは割と鉄壁の暗黒バリアーが張られてて、なかなかチラりしないんだけど。

 物理エンジンのいたずらでたまに、バリアー解除されるので、油断大敵なのですよ。

 

「……見せないよっ! と言うか、考えてみれば、皆その辺って一緒のはずなのよね……。なんで、それおかしいって思わないんだろ。おトイレとかどうしてるんだろうね?」


「始めから、そう言うものって定義刷り込みされてるんじゃないですか? 私もですが、VR体はトイレなんか行きませんから、そもそもトイレって何するところなんですか? 現実世界でもハルカちゃん、端末プライベートモード設定しちゃうから、何してるのか謎なのです」


「うっさいね。トイレの時くらい一人にさせてよ……。つか、次言ったら、殺すよ? マジで」


「……わ、解ったのです! 怖いのですですっ!」


「解ればよろしい……と言うか、Irisもやってること、結構ザルよね……。実際、私達すら捉えられてないし」


「ふふふ……このイロハちゃんの電子ステルスは完璧なのです! けど、マッチポンプでショック療法ってのは良いと思いますよ。まさに、愛の芽生える予感?」


「まぁ、愛は芽生えないと思うけどね。最悪、問答無用で強制送還ってのでもいいかなぁ。少しくらい頭おかしくなってても、最近の病院はそう言う人もちゃんと診てくれるからね」


「無理矢理がお好きなのですね……。奥が深い」


「誤解を招くような言い方をすんなっ! って、どうかしたの?」


 そんな話をしていると、イロハが空の一点を注視する。

  

「あ、あの……と言うか……その必要もないかも……です」


 つられて同じ方角を見ると、地平線の辺りを真っ赤な塊が飛んでるのが見えた。

 

 けれど、その軌道がぐぐぐっと変化すると、なんかどんどんゆっくりになってきて、そのシルエットが大きくなっていく。

 

「え? あれってこっち来る……? イロハ、何やってたの! 言ってる矢先から見つかった? じょ、冗談じゃないっ!」


「軌道計算……結果出ました。……大気圏外からの低角度超高速落下体です。落下予想地点はこの辺一帯半径5km以内……おそらく、ピンポイントでは捕捉されていないものの、この辺にいると絞り込んだ上で、モンスターポッドって言うんでしたっけ? それを打ち込んで来て、辺り一帯を吹き飛ばしてあわよくば……その上でデカキャラ大暴れって……って、そんな感じなんだと推測されます。推奨行動……直ちに退避ですです」


 淡々とイロハがとんでもない事実を告げる。


「……その冷静っぷりが、つくづくアンタもA.Iだって、痛感するわ。シールド張るよ! イロハも急いで私の懐にでも入ってて!」


「そ、そうします。私って、HP二桁台なので、物理ダメージ受けると、すぐ死んじゃうんで……お助けーっ!」


 イロハが私の懐に潜り込む……何気におっぱいの谷間にすっぽり収まってる。

 

 ほんとは、こんなデッドウェイトいらねぇって思うんだけど……天照カスタムのこのチューンドVR体はなぜか、こんな風に小柄な割にデカい胸とかフザけた仕様にされた。

 

 喜ぶと思った……らしい。

 

 けど……今は、そんなの気にしてる場合じゃないし、イロハが死んじゃうと、私も詰む。

 

 雪を掘って、体を丸めて、中に納まる。

 

 対ショック、防爆姿勢……背中を丸めて、口を大きく開けて、両耳押さえて、腕を交差させて、イロハをガードする。

 イロハも見習ったのか、同じように口を開けて、耳を押さえてる……うん、感心感心。

 

 シールドで多少軽減されるだろうけど、相応の衝撃波が予想される。

 VR体は、人間の身体構造を忠実に再現してるから、爆圧の圧力差でこの防爆体勢をしていないと肺が潰れて、即死してしまう。


 皆と違って、私には残機設定なんて無いから、死んだらアウトのシビア仕様……。

 我ながら危ない橋を渡ってるなぁ……。

 

 と言うか、至近距離に落ちたら、間違いなくアウト……もう、これは神に祈るしか無い。

 

 やがて、3㎞ほど離れたところに、モンスターポッドが落着。

 閃光と共に10秒くらい経ってから、轟音と爆風が押し寄せる!!

 

 やたら、バカでかい岩が小石みたいに飛んできて、直撃を受けた収容所の建物があっさりと崩落するのが見えた……オッサム、死んだんじゃない? これ。

 

 まぁ、残機一機減るくらいだろうけど……これで目を覚ましてくれたりするといいなぁ……。

 

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