第六話「遥の憂鬱」③
まぁ、それはいいんだけどさ……。
セブンスターズは、基本的に「Iris」からの干渉も受け付けず、独立独歩で割と好き勝手にやってるらしい。
元々、勝手な人達だったけど……GM権限が付与されてたから、「Iris」へ強制命令を発動できる。
ぶっちゃけ、こいつらが話をややこしくしてるA級戦犯と言っても過言じゃない。
「Iris」強制命令権限の発動には、過半数の賛同が必要なのだけど、この人達が「Iris」に強制命令を発動してくれさえすれば、この騒ぎは一瞬で解決する。
お兄ちゃんが、イザって時の為に作っておいた安全装置……なのだけど。
現状、その目はとっても薄い。
こいつらと来たら、お互い協力して、この状況を解決するとか、過半数を集めて、強制命令権を発動させるとかそんなつもりは一切ないらしい。
この人達は、それぞれそれなりの理由があって、この世界が存続することを望んでいる。
元々の設定自体も、7つの国の争奪戦……みたいな感じにはなってて、それらの王様みたいな感じで、6人のうち3人は、流星側のボスキャラみたいな感じで、配置されてるようだった。
ちなみに、7つの国の内4つはすでに失陥……と言うか、未実装。
実装されてるのは、アスラン王国とロッサリア帝国……二つのファンタジー勢の国。
この二つにも、セブンスターズがいる……それぞれ、国王と帝国の宰相として、女神の代弁者とか称して君臨してるらしかった。
あともうひとつの国は、滅亡しちゃって、ごちゃ混ぜカオスな中立地帯になってるんだけど、そこの最大勢力の魔王みたいな感じで一人……こんな情勢。
もっとも、大半を占める一般プレイヤーには、その辺の事情、あんまり関係ない。
元々ログインプレイヤー人数が3桁台近くまで落ち込んでた末期VRMMOでもあったから、最初から実装されてた帝国以外は過疎ってて、露天とかプレイヤー商店も、帝国の首都……帝都が一番賑わってて、プレイヤーの人口密度も帝国に偏ってたんだけどね。
流星側プレイヤーってのも、そう言うのもありだよねーなんて企画はあったんだけど、そこまで行ってないし、むしろ流星側の機械兵をプレイヤーキャラとして使えるようにして、お茶を濁した……。
この辺もカオス化を助長した一因だと、私は思う。
その辺の状況は、今でも大きく変わってなくて、調べた感じだとプレイヤー達は帝国と中立地帯に集中してるらしい。
アスラン王国は……割と最近、一年くらい前に実装された法と秩序の国で、ちょっとした事でNPCの衛兵に逮捕されたりするので、なんか窮屈って事で元々過疎ってた。
それがクソ真面目で有名な運営プレイヤーが王様になっちゃったから、ますます悪化したようだった。
お話し合いも出来そうなもんなんだけど、そもそも国自体に近づけないくらいガチガチに守りを固めてるから、話にならない。
中立地帯は、元々PKやらNPCをぶっ殺しなんかも出来る掟無用の無法地帯。
言わば無法プレイを楽しむ人達の巣窟だったんだけど、そこら辺もやっぱり変わってないらしい。
……私は、そう言う無法プレイとかはちょっとね。
運営側としては、お前ら調子乗るなって警告の意味も込めて、緊急レイド戦発生イベントとか起こして、無法者の大量虐殺とかもやってたもんだ。
これら「S.S.O」世界の住民の共通項……それは、女神アイリスを神様として信仰してるって事。
アイリスは基本的に、人前に出てきたりはしないみたいなんだけど。
この世界のありとあらゆる事象を把握しているし、自然現象からNPCの操作、環境エミュレーションすらもすべて彼女が行っているのだから、神様って言っても、ちっとも大げさじゃない。
もっとも、ダイブ5のプレイヤー達は、「Iris」にとっては大事なお客さんのようなもので、物凄く大切に慎重に扱ってる。
死なせないように、退屈させないように、不満を持たせないように。
時々、意識操作とかしながら、このハリボテ世界をがんばって取り繕ってる。
その目的は……これが困ったことに、少しでも長くこの世界を保ちたいって凄くシンプルな願いな訳で……。
要するに、ゴールってもんが無いんだよね……。
強いて言えば、ゲームクリアを……とか言ってたみたいだけど。
ゲームクリアって、7つの国ブロックを一つの勢力が統一する……。
それか「流星」のマザーシップを撃破する。
……どっちも無理ゲーなクリア条件が設定されてた。
運営サイドとしても、そもそもクリアさせようなんて考えてなかったから、クリアイベントとかはまるっきり白紙。
「Iris」もクリアさせる気があるとは思えないから、その線はない。
結局……出来そうな事としては……とりあえず、一人でも多くのプレイヤーをこの世界から脱出させること。
幸い安全にダイブ5からログアウトさせることは、イロハがいれば可能と実証されていた。
イロハは戦闘には、まったく役に立たないけど。
「天照」が用意してくれた支援端末のようなものなので、「Iris」のガードが薄いところまで、プレイヤーキャラを連れて行って、イロハと外部との双方向通信を確立させれば、その膨大な演算力でダイブ5からのログアウト処理をやってくれるのだ。
要するに、バッグドアウイルスみたいなもん。
実際、すでに何人かのプレイヤーを向こう側に送還している。
当然、プレイヤーが居なくなれば、「Iris」に不審がられるのだけど。
向こうでプレイヤーが覚醒した状態で、VR体を再起動する事で、その抜け殻状態のVR体はその人同然に振る舞う。
つまり、ゴーストとも呼ばれるA.Iによる自律稼働状態となる。
A.Iには、A.Iと人間の区別なんて基本的に付かないから、バレない。
定期的に連絡を取っている限りでは、送還した人達は皆、元気なようなので、この方法で最終的に全員を……と考えている。
1,000人とか、気が遠くなりそうだけど……今んとこ、それしか道筋が見えない。
そして、私もその困難な道をやり遂げるしか選択の余地はない。
ただし、タイムリミットは、もう一ヶ月くらいしかない。
コールドスリープ状態で、一切覚醒させないで、安全に身体コンディションを維持出来る限界ラインが、そこら辺なのと、30倍の時間経過格差により、肥大化した差分記憶データの情報量が転送限界容量を超える可能性があるから。
つまり、それ以上は安全性を確保出来なくなる……そう言う理由でのタイムリミットだった。
コールドスリープは、最長で一年くらいは持たせられた実績もあるみたいだけど、100%安全かと言えばそんな事はない。
事故リスクが一ヶ月を過ぎた辺りから、急激に跳ね上がると言われている。
そもそも、ダイブ5自体がそんな長期間ダイブして、問題ないと確認できてない。
私の例だと、わずか48時間ですら、軽微なTIAなんて障害が起きたくらい……人体実験の上での安全性確認の段階なんで、安全性も何もなく……もう、見切り発進もいいところ。
なにより、「Iris」の進化速度が尋常じゃなく、このままだと本格的に手に負えない存在になりかねない。
それらを考慮すると、もうそれくらいしか時間は残されてないらしいのだ。
いずれにせよ、タイムリミットはそう長くもない。
そうなれば、最終作戦……多少、人質は犠牲になる可能性があるものの、「Iris」のハードウェアの大規模物理的破壊を実施し、世界中のコンピューターの演算力を総動員しての超大規模電子攻勢が実施される。
要するに、天照の物理、電子双方での総力戦を挑んで、ゴリ押し制圧する……そう言うこと。
……「天照」の試算だと、人質の半数は未帰還となるが、制圧は成功するだろうとのこと。
要するに、力技も力技。
あくまで最後の手段なんだけど、A.Iってのは、犠牲前提って話になるとシンプルに犠牲者数を秤にかけて、数字の少ない手段を迷わず、提示する。
当然ながら、最終決定は人間の偉い人が下すことになるのだけど……。
政府の人達も、このA.Iの容赦のない選択には慣れっこだから、この最終作戦は認可されることになるだろう。
……お兄ちゃんの減刑は、あくまで犠牲者ゼロでの解決ってのが前提だから、最終作戦を実施されるとお兄ちゃんの死刑がほぼ確定してしまう。
数百人規模の人々を犠牲にしたA.Iテロ……そのA.Iの管理責任者となると、もはや情状酌量も弁護の余地もない。
もちろん、司法取引も論外……。
後先考えずに、「Iris」なんて規格外の超A.Iを作ってしまったお兄ちゃんには、もちろん責任はあるだろうけど。
私にそれが受け入れられるはずがなかった。
だから、もうやるしかない……。
この世界では、あと二年半ほどと言う計算になるけれど、今のペースだと間に合わない。
けど、どうしょうもない……少しでもこの世界から人質になってる人を脱出させれば、最終作戦での犠牲も減らせるから、無駄って事にはならない。
救出できた人数が増えれば、最終作戦の順延だってあり得るんだから、諦めたりなんかしてやらない。




