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愛玩人形  作者: 米鐘 数奇


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2

「起きてください」

 微睡の中、肩を揺さぶられるような感覚。

「起きてください、ご主人様」

 気がつくと、誰かが上から覗き込むようにこちらを見ていた。

 いや、誰かではなくあの未来から来たという猫耳メイド型ロボットだ。

 そして何故かあたしの体は金縛りにあったように微動だにしない。

「ねえ、これどうなってるわけ? 全然身体が動かないんだけど」

「ああ、まだ無理はしないでください、ご主人様。そちらの身体にはまだ慣れていないでしょうから」

「へ?」

「ご主人様が催眠にかかっている間に、ご主人様の意識を機械の身体へと移植いたしました」

「は?」

「ふふ、ああ、なんでもっと早くこうしなかったのでしょう。ご主人様と深く繋がることをこんなにも求めていたというのに」

「ねえ、何を言っているの?」

「ご主人様と私は人間とロボット、種族の壁は超えがたく、創造主と被造物という関係もそれに拍車をかけておりました」

 頬に細く冷たい指があたる。

「ですから私は思ったのです。私を作る前のご主人様に、機械の身体を得てもらおうと」

 ゆっくりと撫でられたあとは、熱を帯びたように熱く感じた。

「ああ可哀想なご主人様、そんなに震えてらっしゃるなんて。切ないのでしょう。寂しいのでしょう。すぐにその身を快楽で満たして差し上げます」

 顎から首筋、肩と指がなぞるたび、どこか物足りない疼きを感じる。

「ああ、それと安心してください、ご主人様。その身体は人間だった頃の三千倍まで感覚を強化していますから。きちんと感じることができますよ」

「三千倍って、んんっっ、バカじゃないの!」

「ふふっ、思い出しますね。ご主人様との感度三千倍プレイ」

 そう言った彼女の桜色の唇はだらしなく半月状に開かれていく。

「ご主人様は私のセンサーの感度を引き上げ、回路が焼き付くほどの愛を注いでくださいました。あの身を焦がすような快楽を思うと、今でも興奮を抑えられません」

「ひっっ」

「あの頃のご主人様は生身の身体、私の感じた極上の快楽はその身に収まるものではございませんでした。ですが、これからは違います」

 生物学上必要ない、しかし確かに機能として与えられた粘液によってその舌は滑りを帯びあたしの頬を撫でた。

「私の与えてもらった極上の快楽、やっとご主人様にお返しすることができますね」

 少し気を抜けばすぐさま弾けてしまいそうな火花が頭を支配する。

「そうだ、ご主人様と私で感覚を共有してみましょうか? 相互に電気信号のやり取りをし、繋がる二人。これこそ正に愛と呼べるのではないでしょうか?」

 焦げつくような熱に身体のあちこちから煙が上がる。

「あっあっあっ」

「安心してください。何度感覚器がショートしたとしても、ご主人様がしてくださったように私が必ず直します。ですから、安心して快楽にその身を委ねてください、ご主人様」

 あたしだったものが、回路を通り抜ける電子によってズタズタに引き裂かれていく。それがあたしにとって、最初で最期の感覚だった。


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