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「起きてください」
微睡の中、肩を揺さぶられるような感覚。
「起きてください、ご主人様!」
目を開けると、知らないメイド服の女が私に馬乗りになっていた。
「誰⁈」
思わず叫ぶと何か予想外だったのかトパーズ色の大きな目がまんまると見開かれる。
「あれ? ああ、そうでした。まだ初対面でしたね、ご主人様」
そう言うと彼女は勿体ぶるように咳払いし、首元に着いた丸鈴を自分で鳴らしてみせた。
「私は未来からやって来た愛玩用猫耳メイド型ロボット」
露出の多いメイド服を着た彼女は、猫耳をぴこぴこと動かしながら高らかに歌い上げる。
「未来のご主人様が作り、過去に送り込んだ。ご主人様の未来を変えるために」
彼女のその使命を帯びた瞳に唾を飲み込む。
「そう、ご主人様のパートナーいない歴イコール年齢という悲惨な未来を変えるために」
「おいこら!」
「どうしました、ご主人様? そんなにがっついてしまって。私の魅力に誘惑されてしまいましたか? もうメロメロですか? ああ、ワタシも罪なロボットです。でもいけません、ご主人様。せっかちさんはモテませんよ」
「違うわよ!」
「おや? 違いましたか。では一体なにが?」
「あなたがここに来た理由! あたしのパートナーがどうこういうやつ!」
「ああ、そのことですか。後で良いのではないでしょうか、ご主人様。そんなことより、一緒にスキンシップしませんか?」
「いや、あんたが今ここにいる理由なんだから、最優先事項でしょうが。てかなによそのいやらしい手つき。それに尻尾まで絡めてきて!」
「あれ? ご主人様は自分からする方が好みでしたか。未来のご主人様とは違いますね」
「いや違うっての。そんなことしないわよ。てか未来のあたしとあんたはどういう関係なわけ?」
「それはもちろん、私は未来のご主人様が生み出した愛玩用ロボットですから。大変可愛がっていただきました」
「聞きたくなかった……」
「誠に残念ながら人間のパートナーに恵まれなかったご主人様は、ご自身のありとあらゆる理想を詰め込み私をお造りになりましたからね」
「最悪……」
「いいえ、最高です。私はご主人様がお造りになった物の中で最高傑作であると自負しております」
「ああそう」
「私はご主人様をサポートするため、未来のご主人様のお造りになったムフフ道具を持って来ております」
「なんて?」
「ムフフ道具です。ご主人様が命名いたしました」
「なんて酷い名前……」
「用途を端的に表した、素晴らしい命名です。流石ご主人様です」
「ああ、もう。それでいいわ。で、これからどうしようってわけ?」
「それはもちろん、ご主人様のパートナー作りをサポートいたします。まずは一番の自信作で。ええっと、あれは確かこの辺に……」
そう言って彼女は大きく開いた胸元に手を入れ何かを取り出した。
「ええと、あれではない、これでもない……」
彼女はその豊満な胸をモニュモニュと動かしながら、怪しげな物品の数々を谷間から出しては入れてを繰り返している。
「どこに入れてるのよ……」
「ご主人様曰く、浪漫だそうです」
「だとしても使いにくいでしょうに」
「いえいえ、この方がご主人様も喜ぶものですから」
「本当にどんな趣味をしているのよ、未来の私……」
「ええっと、ああ、ありました」
やがて彼女は目的のものを見つけたのか、胸元から取り出したソレを勢いよく掲げた。
「サイミンミンゼミ〜」
「おいこら待て」
彼女が持っているのは、名前通り蝉を模したおもちゃのようだった。そして名前から察するに、その使い方は碌でもないものだろう。
「このムフフ道具はですね」
「だからちょっと待って」
「ふふっ、まったく、ご主人様はせっかちですね。待ちきれないのはわかりますけど、説明くらいさせてください」
「いやいやいや、おかしいでしょ」
「おかしいって、何が?」
「いやこういうのって普通、主人公を磨き上げて恋人を作らせにいくもんじゃないの? なんで初手催眠?」
「ナニって、未来のご主人様の性癖ですよ」
「未来のあたしーーー!!!」
「ふふふ、これを使ったご主人様との主従逆転倒錯プレイでよく盛り上がったものです」
「だからなんで一々そんな拗れてるのよ、未来のあたし」
「というかそもそも私を造ったのは未来のご主人様ですから。最初はご主人様の言っていたように純愛路線も考えていたみたいですけど、早々に諦めて今の路線にしてました」
「なんて歪み方をしてしまったの、未来のあたし……」
「ああ、可哀想なご主人様。ご主人様と私は人間とロボット。私を可愛がってくださりながらも、その心は泣いておりました。ですから、私がここに来たのです」
「それが未来のあたしの姿だとすると、なかなか来るものがあるわね」
「ええそうです、ご主人様。ご主人様は優しき心の持ち主でしたが、しかし酷く傷ついておりました。私にできることは、ただただご主人様をお慰めすることのみ」
「そう。あなたにも苦労をかけたのね」
「いえ、とんでもございません。ご主人様に尽くすことこそ私の望みですから」
「いいメイドを持ったのね、未来のあたしは」
「勿体なきお言葉でございます」
「でもそうしたら,未来のあたしは寂しがっているんじゃないかな」
「大丈夫です、そのために私がここにいるのです。未来を変え、ご主人様をお救いするために。さあ、本題に戻り、早速この子の使い方のデモンストレーションを行いましょう」
「ちょっと待って。ソレあたしに使うの?」
「はい。実感していただいた方が早いので」
「それはそうかもだけど」
「さあご主人様、この子の目を見てください」
促されるままそのおもちゃのデフォルメされた目を見ると、それは渦状の模様に変化し回転を始めた。
「そして鳴き声を流します」
ミーンミーンという夏によく聞く鳴き声に似た音は、しかしこちらの頭を揺さぶるように浸透してきた。視界を揺り動かされるようで、徐々に視界も歪んでくる。
「ねえ、これ」
「さあご主人様、その身を私に委ねてください」
その声はエコーのかかったように頭に響く。
そして気がつけば、あたしの視界は真っ黒に染まっていた。




