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見覚えのない宙(ソラ)の下で  作者: 旅行ねこ
序章

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パラレクスの悪神

「く、くそ・・・、まだだ、まだ負けない!」


 勇者ミラビリスは、聖剣を杖代わりにしてかろうじて立ち上がった。


 肩まで伸びた黒いメッシュの入った赤髪。

 端正な顔は額から流れる血で染まっていた。

 中性的な顔立ちだが、胸の膨らみはあきらかに女性のものだった。



 魔素が濃すぎて、人は決して近づけないと言われる魔の山パラレクスの山頂近く。


 対峙しているのは山の主、パラレクスの悪神だ。


 悪神は巨大なドラゴンのような姿をしていた。闇に包まれたように輪郭のハッキリしない真っ黒なドラゴンだった。


「お前の持つ賢者の石がどうしても必要なんだ!」


『ボクに勝てたら持ってっていいよ。だからほら、もっと楽しませておくれよ』

真っ黒なドラゴンが楽しそうに口を歪めた。


 聖剣による攻撃も、極大魔法も、悪神が化けたドラゴンには一切通じず、勇者には成す術《すべ》がないように見えた。


 勇者は覚悟を決めたように目をつぶって一呼吸すると、ドラゴンを見据えて言った。


「そうやって笑っていられるのも今のうちだよ・・・」


 勇者はポケットから小瓶を取り出すと、中の液体を一気に飲み干した。


「パワーブースト! マジックブースト! フルヘイスト! オールリミットブレイク! アッドカース! アッドカースリピート! 」


 あらん限りの攻撃特化の強化魔法。

 勇者の体がまばゆい光に包まれた。


「ホーリーエンチャント! ホーリーエンチャント! ホーリーエンチャント!」


 勇者の持つ聖剣も白い光に包まれる。


『へぇ、すごいね。それならボクにもダメージが通るかもね』


「なめるな」


 勇者はさらに黒い液体の入ったアンプルのようなものを自分の首に突き刺した。


「ぐうぅぅぅぅ・・・」

血管が浮き、鼻から血が一筋流れ落ちる。


『それ、すごく体に悪そうだけど、大丈夫かい』


「人の心配をしてる場合か?」

目の血走った勇者がドラゴンよりも邪悪そうに口角を上げた。


 次の瞬間、勇者の姿が掻き消えた。


『!?』


 ドラゴンの目が驚愕で見開かれた時には、勇者の姿はドラゴンの真後ろにあった。


「はぁ!!」


 ドラゴンの後頭部へ向け、一瞬で何百もの斬撃を浴びせる。


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』


 今まで聖剣で切りつけても全く手応えがなく、かすり傷1つ負わせられなかったドラゴンが悲鳴を上げた。

 

 切り付けた場所の黒い影が霧散し、ドラゴンの形が崩れ始めた。


「極大魔法ホーリーアライメント!! 同時展開300!!」


 勇者は聖剣を天に掲げて叫んだ。


 ドラゴンの周りに数えきれないほどの魔方陣が現れ、全ての魔方陣からまばゆい光のレーザーが放たれる。


 ドラゴンの体は完全に光に包まれ、姿が消滅したように見えた。


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!! なんてね』


 勇者の背後にあったドラゴンの尾の先端が、巨大な球形に膨らんだ。


 その球形が裂け、2つに割れた。


 それはギザギザの歯の付いた巨大な口だった。


 バクンッ!!


 勇者ミラビリスの姿が球の中に消えた。


 ゴクンッ。


 ドラゴンの尾が、獲物を飲み込んだニシキヘビのように大きく膨らみ、その膨らみはドラゴンの胴体へと流れ落ちていった。


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