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第16話 仮病は計画的に


 乃愛から逃げて一人で登校した隼人。

 教室に到着すれば、待っているのはもちろん宇宙人に脳を改造された明星。


「あっ! おはよう! 隼人!」

「……おはよございますぅー」


 席に座ると同時に笑顔の明星が挨拶をしてきたので、とりあえず挨拶を返した隼人。


 異常も続けば日常になる。

 なので、クラスメイトもあまり気にしなくなってきたが、隼人にとって気味が悪い事に変わりはない状況。


「あのね! 昨日聞いたんだけどね──」


 席が斜めで近いせいもあってか、隼人が着席すると同時にそれまで話していたクラスメイトとの話を切り上げた明星は彼の席に直行。


 何の話がしたいねん、と言うようなどうでもいい雑談を始めた。


(本当に何があったんだか。慰めてくれようとしているのだとすればその気持ちはまあ、有り難いんだけど。……にしても、過剰すぎるだろ。もういいから。そっとしといてくれないかな⋯⋯)


 着席している隼人のすぐ隣に立って、机にスマホを置いて楽しそうに話をする明星。


 少し身体をくっつけながら、昨日見て面白かったという動画の話をする彼女に違和感バリバリの隼人は黙って話しを合わせる。


「あ、そろそろホームルームだから、また後でねっ!」

「はいっすー」


 とても楽しそうに喋る明星。

 無心で相槌を打つ隼人。

 結局何の話がしたかったのかわからないまま、朝の時間は終了。


 次の休み時間は明星に捕まる前にトイレに行く振りをして教室からの逃亡を決意した。


 流石にトイレについて来ようとはしなかったので、これは使えると思った隼人が『これから休み時間は教室の外で過ごそうかなー』とか。


 そんな事を考えた教室を出たのだが……。


「やっ! やあ、奇遇だな! 城崎先輩!」

「うおっ?!」


 教室を出た直後。

 扉のすぐ横に立っていた人間に遭遇。

 少し息を切らした不審者に話しかけられた彼はぎょっとした。


「お、おう。なんだ……館花さんか。珍しい所にいるな、じゃあな」

「え? あ、待って欲しい!」

「え? いやいや、トイレ行くからこっちこそ待って欲しいんだが」

「ああ、そうか。なるほど。よし、わかった。トイレか」


 腕を掴まれた隼人はベリベリと翠の指を剥がしてトイレに直行。


 そんな隼人の後ろを長身の美人さんである翠が付いて歩くものだから、中々に目立つのはともかくとして。


「いや……だから、トイレなんだけど」

「うん? ああ。大丈夫だ、安心してくれ。中に入るつもりはない。ちゃんと外で待っている」

「そこの心配はしてねえよ?!」

「そ、そうか。トイレを覗こうとしてるわけではない事は理解して欲しい」

「言われなくてもそんな誤解はしてないわ。そうじゃなくて、なんか用があるなら後にしてくれって事が言いたいだけだって」

「あっ。ああ! なるほど。そうか。と言う事は大きい方か」

「あのなぁ……?」


 翠の事が好きとか嫌いとかに関係なく。


 これからトイレに行こうと言うタイミング。

 そんな時に詮索されて喜ぶ人間などこの世に存在するわけがない。


 存在するわけがないは過言だったかもしれないので、そう言うのを喜ぶ人達もいるかもしれないが、少なくとも隼人は喜ばない側の人間。


「なんか用事があるなら後で聞くから、まずはトイレ行かせてくれ。外で待ってるのも無しだ」

「わっ、わかった! 後で時間をくれるんだな? では、昼休みでどうだろうか! ちょうど良かった!」

「わかったから。とりあえず今は教室に帰ってくれ」

「わかった! また後で、城崎先輩!」


 どうにか納得してくれたのか。

 パーっと輝くような笑顔を浮かべた翠。


 輝く黒髪のポニーテールをゆらゆらと揺らして、大きなお胸をゆさゆさと揺らしながら去っていく翠。そんな彼女の背中を見送ると、溜息を吐き出した隼人がようやくトイレに入った。


(わざわざ二年の教室まで訪ねてくるなんて、余程の用事だとは思うけど……なんだ? 全く想像がつかんな。てか、館花が高校入ってから部活以外で話したのは今日が初めてか。……マジでなんだろうな)


 小さい方のトイレをしながら、何かしら深刻な話だろうと想像する隼人。


 トイレを早々に済ませたものの、なんだか様子のおかしい明星が居る教室に真っ直ぐ帰るのも嫌だったので、遠回りをしてから帰る事にした。


 そうして休み時間ギリギリを狙って教室に入る事で、絡まれる時間を最小限に抑える事に成功。


 それに味を占めた隼人は休み時間になる度に、トイレと言う名の散歩をして過ごしたのだが──。


「大丈夫? 隼人? お腹が痛いなら保健室に行く? 付き合ってあげるからね? 先生に言ってきてあげよっか?」

「大丈夫っす」

「本当? あっ! でも、こんな事もあろうかと思ってお薬ならいくつか持ってきててね! これと、これと、後これもあげるね! 薬の説明もいる? 市販薬だけど、効果はちゃんとあって。あっ、お水持ってる? 私のお茶でもいい?」

「いやいや、大丈夫っす」

「ほんとぉ? でも、転ばぬ先の杖って言うしね、今日は早退して私の家で休む?」

「いや……ホ、ホント大丈夫っす」


 やり過ぎたせいで明星に心配されたのか。

 念の為に持ち歩いていると言う整腸剤やその他のお薬を、ポンポンポンポンと机の上に並べられた事で、二度とトイレを言い訳に使わない事を決意した。


「お昼一緒に食べよ、隼人っ! 今日のお弁当も自信作なんだよねっ! お腹空いてたらいくらでも──」

「あー悪いッ! 今日はちょっと先約があるから、また今度なー!」

「あ──」


 昼休みに入った直後。

 まだ先生が教室に居る中ノータイムで話しかけて来た明星。


 そんな彼女をひらりと交わした隼人は、何か言いたそうな彼女から逃げるように弁当を片手に教室を後にした。


(やたら構ってくるというか、気を遣ってると言うか。何考えてんだよ、マジで……。最初は慰めるとか言ってたからそうなのかもと思ったけど、もうそう言う次元は通り越してるよな? 絶対おかしいよな? なんだ? なんか企んでるのは間違いないんだろうけど、全然見当が付かねぇ。漫画を貸してくれたのもやっぱり裏があるのか?)


 人との距離の詰め方知らんのか?

 と言いたくなるような、異次元の急接近(アプローチ)


 まともな感性を持った人間なら引くのは当然。

 ましてや、その相手がつい数日前まで自分に暴言を吐いていた相手なら尚更。


 そんな訳で、逃げるように教室を後にした隼人は異常行動を重ねる明星に内心で恐怖しつつ、とりあえず翠にスマホで言われた通りに書道部の部室に移動する事にした。

一度やり始めると癖になるから辞めた方がいいよ、隼人

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