第36話 救国の女神はシムホノンの墓前に行く。
メーライトは席を立ち「皇帝陛下にご挨拶を申し上げます」と、国王ゲアブアラに挨拶をする時の感じで挨拶をする。
ビエンテは優しい面持ちで「よく来てくださった」と言うと、タミラーシに「説明は?同意は?そして使徒殿たちは?」く。
「先ほど目覚められたばかりで、食事もまだです。今ようやく叔父上のご功績をお伝えした所です」
「なんだ、まだそこなのか?」
「それに、ザイコンとシムホノンが申していたではありませんか。一度力尽きた女神様は使徒を喚べるまで、休息が必要になるのですよ?」
「まったく、ザイコンの奴め。もう少し丁重にエスコートできないものか?」
メーライトは即座に老婆やタミラーシの言った言葉の意味を理解して、ビエンテに頭を下げて「申し訳ございません」と謝り、「私が神様から授かった「救済のペン」はコチラになります」と言って救済のペンを出して見せると、ビエンテは「おお」と言いながら、感動に身体を震わせて、「是非、我らの悲願を理解して、ナイヤルトコをお救いください」と言って、「また後程」と続けると帰って行った。
後ろ姿が見えなくなると、タミラーシは「助かりました。父は使徒殿を見た途端、儀式に投入して欲しいと、強く迫ったはずです」と言う。
儀式と聞いても理解できないメーラトは「どういうことですか?」と聞くと、タミラーシは「儀式は戦争での人的被害。使徒殿にナイヤルトコの兵とアルデバイトの兵を皆殺しにしてほしいと言います」と暗い表情で説明をする。
「え!?ナイヤルトコもですか?」
「もう、父には儀式の成功しか見えていません。それに魔界の魔法には死者の蘇生もあるらしく、それなら一度人を殺したとしても…蘇生させれば許されると…」
そんな都合のいい話があるのだろうか?
メーライトは聞きながらそう思った。
だが、メーライトにはそれ以上に気になる事があった。
「あの、今…司書様のお名前…」
「はい。シムホノンは私に賛同してくれました」
シムホノンの名前が出た事で「今もご無事なのですか!?」と、すがるように聞くメーライトに、顔を暗くして「いえ、時期的にはメーライト嬢が半魔半人兵を倒し、アルデバイトを奪還した時までは存命でしたが、その後…」と申し訳なさそうに言うと、「彼を埋葬した墓地へと、案内させてください」と言った。
メーライトはわかっていた事なのに、一瞬でも期待した事に後悔しながら頷くと、「シムホノンは命をかけて、一つの事を願ってくれました。それはザイコンも私も、願ってもない事でした。だからこそ、メーライト嬢がアルデバイトを奪還する日まで、生き永らえました」と言いながら、タミラーシは杖をついて歩き始める。
メーライトは辿々しく歩くタミラーシを見ていられずに介助をすると、タミラーシは情けなさを恥じる顔で、「申し訳ありません」と言いながらメーライトの介助を受けて歩いていく。
本当にすぐの距離だった。
だが、タミラーシは必死になって歩いていて時間がかかる。
到着した教会の一等地に、まだ新しい墓があり、それはとても虜囚の墓ではなかった。
「シムホノンが生きていたのは、メーライト嬢がアルデバイトにある、追いやられた土地を無事に奪還出来るかを見届け、その為に手に入れた最後の使徒の力を見る必要があったから…」
メーライトはタミラーシの言葉に「え?」と聞き返すと、「彼は本以外はからきしなのに、本のことになると、本当に有能だった。ザイコンが密偵から聞いていた情報を聞き、使徒の内容を聞いた時、ザイコンが話す前に本の出自を言い当てた時には、ザイコンと目を丸くしてしまった。私達は彼の有能さを知り、彼に思い直すように言った」と答えた。
「え?思い直す?」
「だが彼は、シムホノンは世界の為、救国の女神メーライトの為に命を使うと言ったんだ」
理解不能のメーライトだったが、シムホノンの墓は人気のないナイヤルトコにも関わらず、綺麗に清掃されていて、花も供えられていた。
「シムホノンは教会の孤児たちに、とても愛されていました。彼の読み聞かせは人気で、シムホノンは本の中から命の尊さや、命の意味を説明し、いずれ死を迎える自分の事も、『寂しいと思ってくれる気持ちは嬉しいです。でも悲しむ事はありません。誰も悪くありません。ナイヤルトコもアルデバイトも、皇子殿下も、メーライト様も全員ですよ』と説明をしていました」
メーライトが墓石に祈りを捧げると、タミラーシは「中で少し話をさせてください」と言い、教会の中に行くと、中には子供達が7人ほどいた。
「皇子様!」
「そのお方が女神様?」
「シムホノン様の女神様?」
「メーライト様?」
「来て下さったの?」
「良かったね」
「やっとだね」
口々に聞いてくる子供達に、「そうだよ」と答えたタミラーシは、「先に…、ブンコー、来なさい」と呼ぶと、1人の男の子が前に来て「お父さんを助けてくれてありがとう。女神様」と言った。
思い当たる節のないメーライトが「お父さん?」と聞き返すと、タミラーシが「半魔半人兵になったカオカの子です」と言った。
メーライトは埋葬した3人の半魔半人兵を思い出して、「お父さんを助けてくれてありがとう」の言葉を聞くと混乱してしまう。メーライトは言わば父の仇、なのに何故ありがとうと言われたのだろうか?意味がわからなかった。




