第35話 救国の女神はナイヤルトコで目を覚ます。
ザイコンに抱えられて空を飛んだメーライトが、あまりの寒さと空気の薄さで意識を失ってしまい、自分が連れてこられたのが本当にナイヤルトコかわからなくなっていた。
暖かな日差しに目を開けると、質素だがすごく穏やかな部屋にいた。
「ここ、何処だろう?」とメーライトが言うと、「お目覚めですか?」と声をかけて来たのはメイド姿の老婆で、「ザイコンがごめんなさいね。ドレスってとても寒いのに、何も知らなくて。「春の夜空を飛んだら震えて気絶した」なんて言ったから叱っておきましたからね」と言うと、「ザイコンから、使徒様をお呼びするのはもう少し待ってほしいと言われたのだけど、信じてもらえるかしら?」と聞きながら、ドレス姿のメーライトの為に上着を持ってくる。
「あの…ここは本当にナイヤルトコですか?」
「ええ、そうですよ。城下町になります」
そう言われても、あまりにも静かで、人の気配がない。
「音…」と言うメーライトに、顔を暗くした老婆は、「皆、働ける者、戦える者は戦争に連れて行かれ、魔物に変えられてしまいました。ここにいるのは戦えない者と、老人に女子供ばかりなのです」と返して、「今、女神様に一番お会いしたい方が来ますから、話を聞いてください。お飲み物もお持ちしますね」と伝えると、老婆は部屋を出ていく。
すぐに老婆が戻り、「お手洗いなんかは行かれますか?服もドレスだと苦しいですよね?娘のお古ですけど、着てくださる?」と言って手に持った洋服を見せてくる。
水色のナイヤルトコの服は、アルデバイトの服とは違っていたが、メーライトは感謝と共にそれを着ると、老婆は「着てくださってありがとう」と言い、メーライトを連れて邸宅の庭先に案内をした。
「今あなたに一番会いたい方、ナイヤルトコの皇子殿下、タミラーシ様ですよ」
テーブルにいた痩せ型で色白の男は、ゆっくりと立ち上がるとフラつく足で前に出て、「このような形でお呼びして申し訳ありません」と微笑む。年は20歳くらいだろうか?見た目の弱々しさもあって歳が分かりにくい。
「来ていただいた理由はご存知でしょうか?」
「ザイコンさんは、ナイヤルトコも助けて欲しいと…」
タミラーシは暗い表情で「ええ、この戦争…虐殺…、いえ、儀式が何故行われたのかを説明させてください」と言う。
メーライトはこの場に似つかわしくない儀式の単語に「儀式?」と聞き返してしまう。
タミラーシは席に案内をしながら「まず、女神様…メーライト嬢とお呼びしても?」と聞くと、メーライトは「はい」と答えながら着席をした。
「メーライト嬢が授かった救済のペンと同じく、ナイヤルトコにも神様から授かった融合の手袋というものがあります。それを授かったのが、叔父にあたるゲアマダになります」
「融合の手袋…」
「そうです。何に使うのかは正直な所…、正解がわからないのです」
「正解ですか?」
「ええ、叔父が思いついたのは、魔物の力をアクセサリーに込めて、人々が魔法を放てるようにする事、後は…」
「ザイコンさんですか?」
「ええ、人と魔物の融合。ですが、叔父を責めないでください。叔父は、兄である父から頼まれて、この弱い身体を持ち、幼い頃から大人になれないと言われていた私の為に、魔物の力で治療法を探してくれていました。父は優しくも愚かな人です。私の身体が弱いと知り、長く生きられないと医師達に言われた時、別の世継ぎを作れと周りから言われたのに、それを頑として拒み、周りには自身の身体の問題として、子を授かりませんでした」
タミラーシの説明は終わらない、そのまま「そして魔物との融合を可能にした時、ザイコンの前に魔物と融合をした兵士は、ナイヤルトコの南に、魔界への入り口があると言ってきました。そこに行き、話を聞くと、魔物との融合を果たしても病は治らないと言われ、短命には変わらないと言われました」と説明をしたが、短命の箇所には思わず顔をしかめ、メーライトが見ていられずに「タミラーシ様」と声をかけてしまう。
「気になさらないでください。ただその時、魔界の住人から良くないことを、言われてしまいました。【人を戦争で殺して捧げ、魔界の扉を開ければ、魔界の力で人々にも魔法を授けてやろう。その中には蘇生なんかの力もある。それがあれば弱い身体の皇子にも未来がある】。この言葉で父は狂ってしまいました」
魔界の力を手に入れる為に、儀式として魔界の扉が開くまで、戦争で人が死ぬ必要があると言われたナイヤルトコは、国民を魔物と融合させてまで戦争を行っていた。
メーライトが必死に理解しようとしている間、身なりの良い男が兵士と共に現れると、タミラーシが「メーライト嬢、こちらがナイヤルトコの皇帝、ビエンテ。私の父です」と言った。




