同行
「残念ながら、今転移が出来ない状況で」
「あ、やっぱり? 残念」
隠す意味が全くないので正直に答えた俺の言葉に対して、彼女の反応はあっさりしたものだった。多分最初から9割方駄目だ思っていたんだろう。能力使えるならそもそも俺達はとっくに一度退避している可能性が高いし、それに一級である彼女であればマナの乱れから察しているかもしれない。
「ということはしばらくは地面の中かー。さすがに上の方をぶち抜いて抜けるのは厳しそうだしねぇ。世界樹に刺激与えて状況悪化するのが怖いし」
確かに彼女の豪快な掘削方法だと世界樹の根自体破壊しそうだしな。あの突然の世界樹の異変が何らかの干渉を受けてのものだとしたら、世界樹に余計な刺激を与えるのは避けた方がいいだろう。
「ねぇ、私も一緒に行動させてもらっていいかな?」
「真砂さんなら構いませんけど……トワさん達も構わないわよね?」
「俺達は構わないですよ。くーもいいよな?」
「ん!」
正直この閉鎖空間状態でわざわざ別行動する理由がない。ましてや見ず知らずの信用できるかわからない相手ならともかく一級の有名人で刹那さんと親しいっぽいし断る理由が全くなかった。
あと彼女戦闘特化型の一級探索者なので、戦闘面で見たら一緒にいてもらえるのはすごく頼りになるし。るーの緊急回避がしばらく使えないのが分かった以上燃費が悪い(というか燃料の回復が悪い)俺やるーは戦闘でカートリッジの消費を抑えられるに越したことはないし。
「とにかく刹那が無事で良かったよ。トワちゃんが守ってくれたのかい?」
「ええ、彼女と一緒じゃなかったら正直危なかったと思います」
──近接格闘型の刹那さんがあの状況を無事に切り抜けるのはなかなか難しかったとは思うけど……ちょっと気になっていることがあるんだよな。まぁ今はその話はいいか。
「あの状況は一級でも能力の種類によっては凌ぎきれないだろうからねぇ。正直何人かやられた奴がいるかもしれないな」
「あー、ですね。あれの直撃を受けたらかなり防御性能高い人じゃないと耐え切れないでしょうし」
結界にぶちあたった世界樹の根の一撃はかなり強烈だった。霧島さんのような一級クラスの探索者ならなんとかんして耐えきる事もできるだろうけど、準一級クラスだと防御側に能力が傾いている探索者じゃないと耐え切るのは難しかったと思う。
「……もしいるのなら助けられないかしら?」
「無理ね」
「無理だよ」
「むりー」
俺達の言葉にやや顔を青ざめさせて呟くようにいった刹那さんの言葉は、残りの三人が声を揃えて即座に否定した。
霧島さんとるーはその否定の一言だけだったけど、おれはその後に言葉を続ける。
「近場にいるなら救助も考えるけど、さっきこの空洞を見つける時にサーチした時は他に人の気配はなかったよ。ということは簡単に救助にいける場所はいないし、そもそも救助対象がいるかもわからない。この状況下でそんな対象の為に力を使えないよ」
一応サーチ範囲は広げることは可能だけど、それだけ魔力を消費するし、そこで見つけたとしても先ほどここまで削って進んできたことを考えるとそれ相応の力を消費する。更に言えば自身の回復はともかく他者に対する回復能力は比較的レア能力だ。俺やるーには使えないし、刹那さんも確か無理だったハズ。霧島さんはわからないけど……存在するかもわからない、そして無事かどうかもわからない見ず知らずの人間に浪費する力の余裕はなかった。
「……そうね。今回は潜っている人も少なかったし、結構潜ってたから側には誰もいなかったわよね、きっと」
とりあえず刹那さんは俺の言葉で納得してくれた。表情はすぐれないのは、割り切りきれないんだろうけど。この辺は多分これまでの経験の差だと思う。こういった犠牲に関しての。
ファーマントはそれこそ命を掛けた戦いが繰り広げていたし、確か霧島さんが行っていた異世界もかなり殺伐とした世界だったハズでこういった状況下で選択を迫られる事は何度だってあったと思う。
異界帰りの能力持ちの探索者はだいたいそういった感じで死を身近に感じていたものが多いせいで、身内にならともかく親しくもない相手ならドライな思考をすることが多いのは仕方ないだろう。ずっとそういった場所にいたならどうしたって慣れてしまうものだと思う。
まぁ勿論、必要がない限り慣れるもんじゃないとも思うけどね。こっちの世界は、初期の頃はともかく今は救助に関する体制とかもちゃんと組まれているし……今回は魔術を使った通信まで封じられたせいでそのセーフティも効かなくなっている可能性が高いけど。
なんにしろいるかどうかもわからない救助対象を想像しても意味がないのだ。それだったらすっぱり割り切って自分達の事を考える方が建設的だろう。
犠牲者は……いないといいなと祈る事くらいかな、俺達にできることは。




