第4楽章〜フィナーレ〜⑭
同日 正午〜
〜黒田竜司の見解〜
強化合宿最終日の全体練習も、無事に終了した。
今朝早くに、寿先輩が、
「午前中は、最後の全体練習があるから、そこで、合宿の成果を見せてあげよう!」
と宣言したとおり、この日の午前中に行われた全体練習の演奏は、これまで四日間の中でも、もっとも素晴らしいものだった。
桜井先生やOB・OGの先輩方の講評の言葉も、おおむね肯定的な言葉で締めくくられた。
そして、もう恒例のようになっている午前の練習が終わったあとの大食堂の昼食メニューは、カレーライスだ。
これを食べ終えると、色々なことが起こったこの青少年の家ともお別れか……と思うと、なんだか、感慨深い気がする。そんな感傷にひたりながら、壮馬と一緒にカレーを食べ始めると、少し遅れて前の席に桃華がやって来た。
「あの……くろセンパイ……昨日の夜は、いきなりほおを叩いてしまって、申し訳ありませんでした」
下級生は、席に着くなり、そう言って頭を下げる。いつもは、上級生の自分にも物怖じしない言動が多いので、珍しく殊勝な態度を取る桃華に面食らいつつ、「お、おう……」と言葉を返す。
「ほおは……大丈夫ですか? 腫れたりしてません?」
「あぁ、今朝、顔を洗ったら、赤く腫れていたのも治まったよ。今回のことは、開会式の取材の仕事を桃華たちに押し付けてしまった罰だったと受け取っておくから、あんまり気にすんな」
オレが、そう言って苦笑いを浮かべると、桃華は唇を尖らせて、
「むぅ……そんな風に言われたら、ワタシが簡単に許されたみたいになるじゃないですか……?」
「なんだ、それじゃ不満なのか?」
「くろセンパイの寛大さには感謝しますけど……ワタシも、今まで以上に広報部の活動にチカラを入れますから、それに免じて許して下さい、って言おうとしてたんです」
「なんだ、さすが、桃華だな。オレが言おうとしていたことがわかってるじゃないか? そうだな、オレに対する謝罪は良いから、これからも、広報部の活動に注力してくれたら、それで良いよ。オレたちも、夏休みに桃華や宮野に迷惑を掛けた分を取り返すからさ。そうだよな、壮馬」
そう言って、親友に話を振ると、壮馬は、オレたちと視線を交わすことなくカレーライスをほお張りながら、
「うん、まあ、そうだね。ボクのせいで、佐倉さんたちにも迷惑を掛けちゃったのは事実だから……」
と返事をする。
オレたち二人の返答を聞いた桃華は、「わかりました……」と、うなずいてニコリと微笑んだあと、
「くろセンパイとのお付き合いは長いですからね。ワタシは、なんでもわかってるんですよ」
と言って、ドヤ顔をして見せた。
今朝は、桃華と顔を合わせることに若干の気まずさを感じていたものの、こうして、いつもの調子に戻った下級生の表情を見て、安堵する。そうして、桃華や壮馬と雑談混じりの食事を終えたオレは、午前中の取材の間に着信していたLANEのメッセージを思い出す。
午前中の演奏の取材が終わったあと、スマホを確認すると、ディスプレイにメッセージが着信したことを示す表示がされているのを見て、あわてて、アプリを起動させてメッセージの送り主と文面をチェックしていた。
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クロ、昨日はゴメンね
謝っても許してもらえないかも
だけど、昨日のことを直接会っ
て話したいと思っています
クロの都合が良い日を教えて
くれると嬉しいです
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桃華と同じく、シロにしては健気と言うか、謙虚で控えめな内容に驚いたと言うか、違和感を覚えたので、すぐに返信せず、少し内容を考えてからメッセージを返すことにした。
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メッセージありがとう
午前中は取材をしていたので、
返信が遅れてゴメン!
オレもシロと二人で会って話
をしたいと思っていたので、
ちょうど良かった
夏休み中は忙しいかもなので
8月の終わりでも良いかな?
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なんども文面を読み返して、怒っている表現になっていないか、桃華にも伝えたように、自分が気にしていないことが伝わるかを確認しながら、推敲を重ねた。
自分の感情を伝えるために顔文字を付けようかとも考えたのだが、さすがに、それは止めておくことにした。
そうして、メッセージを返信し終えたあと、オレは、しばし考える。
桃華からすれば、夏休み中のいちばん大事な仕事を自分たちに押し付けていた、という怒りが昨夜の平手打ちという行為につながった、と想像できるのだが、一方のシロは、どうして、あんな行動を取ったのだろうか?
(もしかして、オレは、またシロを怒らせるようなことをしてしまったのか―――?)
そんな不安を覚えつつも、この件に関しては、もう直接シロと話し合って解決するしかない、と腹をくくることにした。
昼食が終わったあと、帰路の移動手段である貸切の大型バスに積み込む楽器を運び込む吹奏楽部のメンバーは、相変わらずテキパキと作業をこなしている。
紅野が所属するサックスパートのようすを見るともなしに見ていると、オレの姿に気づいた寿先輩と1年生の天宮さんが、にこやかに手を振ってきた。




