第73混ぜ 来たんだ、ふーん
お待たせしました!
よろしくお願いします!
しばらくして、ギルド職員らしき男性を引き連れたミルフが戻って来た。
「お疲れ様です。盗賊達を引き取らせて頂きますので、確認をさせてください。それと……街の男性達への対応に関しても、ギルドとしてほんの気持ちではありますが、報酬を支払わせて頂きます」
「そうですか。盗賊達は縛って眠らせてありますので」
どうやら話は滞りなく進んでいる様で、街の外へ向けて馬車が数台出ていくのが見えた。これでとりあえずクエストは完了だな。
盗賊達の身柄は王都から来る騎士団に引き渡した後に、然るべき場所へ……連れていかれるだろう。
この世界の逮捕率は日本じゃないが、犯罪をした者が捕まれば牢屋に入れられ、犯罪奴隷として売られるのが一般的だ。
それでもまだ生きているだけマシなのだろう。剣と魔法のある世界で、犯罪者も捕まりたくないから抵抗するし、その戦いで命を落とす事も少なくない。
生きてるだけ、ありがたいと思って欲しいものだな。この世の中、生きていくとは因果応報という事なのだから。
「――はい。確認しました。報酬はギルドの受付でお受け取りください。馬車を裏手に回して頂けますでしょうか?」
「あぁ、はい。ミルフお願い」
「ホムラ……裏に動かすくらい出来ないのか?」
「出来ませんねぇ」
本当は出来る。馬の扱いは決して巧いわけでは無いが、少しくらいなら問題なく動かせる。
だが、出来ると一度言ってしまうと今後も出来る人として扱われてしまう。それはひどく面倒である。
それならば、最初から出来ない人と思わせておいた方がまだ良い。ミルフには悪いが、ラクをするのが俺の基本思考だからな。
「仕方ないなホムラは……よいしょっと!」
「では、裏手にお願いしますね」
トコトコと馬車を動かして、この村のメインの通りを回って裏手へと向かっていく。
晒し者の様に荷台に乗せている盗賊を見てギョッとする人や、何かを察しているかの様な人、小さな子供からお年寄りまでいろんな人からの視線を受ける。
恥ずかしいという訳では無いのだが、フードを深めに被って視線を遮った。
「報酬貰ったら……さっさとここを出て帰りません?」
「宿で休んで行かずとも良いのか?」
「えぇ、まぁ……目的は達成出来ましたしね。あと、歓迎ムードになったら面倒ですし」
既に話が広まり始めているのか、どこか暗かった雰囲気が変わっている気がした。
これがもし本当に盗賊達の事が要因であったなら、ミルフへの感謝の宴なんかが始まってもおかしくは無いかもしれない。
王都を出てもう二週間近いし、そろそろちゃんとした錬金釜を使って何かを作らなければ精神がおかしくなりそうだ。
「……分かった。では、盗賊達を引き渡して報酬を貰ったらすぐに帰るとしよう。マユエルちゃんにそろそろ会わないと、私もどうかしそうだしな」
「うん。ヤバいですよね。ミルフって本当に」
可愛いものが好きなのは別に良いと思うけど、怖いんだよなミルフって。
好きに一直線過ぎて怖い。そのうち女の子とか拐って来そうで怖い。
ディールは怖じ気付いたりしないからミルフの圧にも耐えられるが、マユエルは慎み深い子だからディールの様には強気に出られない。
でも、何故かディールに関しては強気に出られるマユエル。見た目年齢で近いものを感じているからだろうな、きっと。
「別に普通だ。私は可愛いを可愛いと言って愛でているだけ! 何もおかしい事などない!」
「言ってる事はおかしくないんですけどねぇ……」
そんな話をしている間にギルドの裏側へと着いた。
表の入口で会った職員の他に数名居て、俺達を待っていてくれた。
「そうだっ! なぁ、ホムラ? 鉱石で可愛い人形は作れるか?」
「そんな事より、対応しちゃってください?」
「う、うむ……。馬車はここに停めても良いだろうか?」
ミルフがギルド職員の案内するまま馬車を動かして、盗賊達をギルドへ運びやすい場所で停車した。
「では、ミルフ様は報酬を受け取りに受付までお願い致します」
「分かりました。では受け取ってくるから、大人しくしててくれよ?」
「いや、俺を何だと思ってるの? いつも問題を起こすのはみんなの方だぞ?」
トラブルメーカーという言葉がパッと出てきて、まっさきに思い浮かんだのはフランだ。
特に何かをしたという訳では無いのに、普段の騒がしさからアイツが一番何かをやらかしていると思われている。
実は何もしていないから、風評被害である。少し可哀想な奴だ。
「そういえば、みんなちゃんと飯は食ってるのかなぁ?」
一応……俺が料理担当という感じになっていたからずっと作っていた。他に作れる人が大味料理のミルフ、つまりは誰も作れる人が残っていない状況にある。
まぁ、お金はあるだろうからお店で食べてくれていれば問題は無いけど、正直に言って美味しいお店はかなりの値段であり、連日行くのは厳しいと思う。
街の食堂だって悪くは無いのだが、こちらは連日通うと間違いなく飽きる。
「飯ぃ~? ホムラよ、飯の時間かえ?」
「ディールちゃん、さっき食べたでしょ?」
「そうかえ? まぁ、ホムラがそういうならそうなのだろうな。妾はまた寝るでな」
「はいはい。ご飯の時には起こしますよ」
まだ昼前のこの時間。街の屋台も営業していて、どこからか匂いが漂ってくる。
ディールは大食漢であり、消化も早い。たぶん、吸血鬼はあまり燃費の良い種族では無いのだろう。
純度の高い血を好んだり、日中はあまり活動的じゃなかったり……吸血鬼としての力の代償を別のどこかで払っている。
そんなディールに力を借りるのだから、せめてお腹いっぱいにはしてあげたいと思っている。
甘やかしの施しなんかではなくて、働いてくれた事に対する正当な報酬としてだ。
「帰ったら装備一式を整えて……アイテムも作って……他にやることもあるし、少し忙しくなりそうだな」
おもむろに取り出したタブレットに、やることメモを書き足していく。
もちろん、今のところ最大の目的はダンジョンの攻略だ。まだ誰も最下層までいけてないダンジョン。準備は最大限やっておかなければ簡単に命が散っていくだろう。
俺は、直接的な戦闘能力がメンバーの中では低い方だ。
師匠の作ったダンジョンを相手に、命を大事にする作戦では考えがヌルいかもしれない。
それでも……昔の自分ならともかく、今はメンバーの命も大事にしたいと思っている。そういう作戦を立てることが前提としてしまっている。
もちろん、目的の為なら手段を選ばないが、その手段に仲間の犠牲は入れてない。これは……師匠には甘くなったと笑われるかもしれない。
でも、弱くなった訳じゃないと言い切れる自信がある。それは攻略して証明すれば良いことだ。やはり――早く帰って準備を整えないといけないな。
おそらく勇者が敵となる。不干渉だが、攻略すればどこかで必ず会う事になるだろう。
師匠の事だから……どの神が担当するかは知らないけど、アホみたいなチートは授けさせないはずだ。
剣の扱いが巧くても、生き物を殺す精神性まで与えたりはしないだろう。師匠なら、そんなつまらない事はしない。
例えば――普通の高校生が、普通の高校生として戦いに怯えながら、それでも戦うしかない……という姿を師匠は見たいはずだ。
人の成長が好きなんだよな、師匠って。他人はそれをよく『鬼畜の所業』と言っていたけれど。
(まぁ、チートを持った途端に殺しに抵抗無くなるとか……流石に異端児が過ぎるもんな)
魔物討伐とかの段階で、誰も彼もが心を病んでしまったら流石の師匠も手を打つだろうとは思う。
だが、所詮は高校生。たかが高校生。普通の世界で生きていた子達には過酷な世界には違いない。それはまぁ、社会人でも同じと言える。なんにせよ、チートがあっても過酷だろう。
アニメや物語のフィクションと違って普通に死ぬ。それが分かってない子から死ぬ。そして、あっけなく終わる。
巻き込まれて可哀想だが、何を思っても偽善にしかならないし、何かしてあげるつもりがある訳じゃない――ミルフが戻って来たから、そろそろ頭の片隅に追いやっておくか。
「どうした? 何やら深刻そうな顔をしているが」
「ちょっとダンジョンの事を考えていました」
「なるほど。まぁ、まだ攻略されてないとなると不安にもなるか……」
世界の敵となった師匠。ラスボスが神と師匠となるなら……果たして人類に勝ち目のある戦いなのかも怪しい。
人類基準の強さにしてくれている事を、今は祈るしかないな。
◇◇
ギルドから報酬を受け取って、早々に村を出発した俺達は一週間近く掛けて、王都まで戻って来た。
ミルフには再度メイド服を来て貰っているが、ミルフの成長に影響があったのか慣れただけか分からないけど恥ずかしさは無くなったらしい。
そんなこんなで王都に入る門の行列に並んでいるが……異変を感じる。
周りの雰囲気も浮き足だっている感じで、何か違和感がある。だが、心当たりが無い訳ではない。
それが当たっているかは分からないが、ついに来たか……いや、来ていたのかと思うだけだ。
「のぉ、ホムラよ?」
「ディールもこの雰囲気ですし、分かりますか」
「うむ! 妾の腹がペコペコな!」
「……はいはい。おやつにでもしますか」
まだ列は進みそうもなく、ディールにお菓子を与えておく。しばらくは待機することになりそうだからな。
「ミルフ、何があったか調べて貰えますか? 鉱石で人形は作れませんが、鉱石を用いたぬいぐるみなら作ってあげますから」
「……仕方ないな。約束だぞ? すぐに作れよ? 絶対――」
「早く行ってきてくれません!? ちゃんとアトリエに戻ったら作りますから!」
試しにぶちゃいく人形でも作ってやろうか、なんてイタズラ心が芽生えてくるけど、首ちょんぱは嫌だし止めておくか。
マユエルならぶちゃいく人形でも喜んでコレクションしてくれるだろうが、ミルフは冗談が通じないからなぁ。
――ミルフを行かせてから二十分。神妙な顔付きでミルフが戻って来た。
「ホムラ、驚くなよ? 実はだな……」
「勇者ですよね?」
「勇し……なんで知ってるんだっ!」
「いや、予想はしてたので。ただまぁ、詳細な情報が欲しかったんですよ」
「あぁ、それがなんともな……。この国にやって来た勇者は三人らしい。それと……まだ成人したばかりだとか」
三人。三人か。この国に三人。
大国と言ってもおかしくはないシュレミンガルド王国の王都に来たのが三人とは少ない気もする。
召喚された全体の人数が少ないのか、大国小国関係なく同じ人数を割り振ったのかはわからない。
ただまぁ……勇者達は納得してるのかしてないのかは知らないが、同郷の仲間と引き裂かれたらしい。
宗教国家ラサミュベスが、勇者召喚をいつ行ったのか分からないが、中立国として均等に振り分けたと予想ができる。
果たして、勇者を少人数グループにしてメリットがあるのか疑問だが……国としての今後を考えると王達も思惑があるのだろう。
(勇者達へ帰る手段の説明とかされてるのだろうか? そもそも確立されてるのか? 無いとしたら……師匠に会うためにおそらくダンジョン攻略に必死になるだろう。それをダシにして……ふむ)
やはり先に攻略される可能性もある存在だ。厄介な。勇者、厄介だな。
「ダンジョンに急ぐ必要が出てくるなぁ。ミルフ、どうにか勇者を国に留まらせる作戦とかないですか?」
「何故だ? ダンジョンが攻略されるのは良いことじゃないか」
「……あれ。たしかに?」
ダンジョンの攻略。何故か自分が一番最初でなければいけないと思い込んでいた。
そもそも、師匠の作ったダンジョンは自然発生のダンジョンとは違い、魔物が溢れだす心配は無い。
唯一の問題が攻略の遅れで師匠が暴れるくらいだが……勇者が攻略してくれるのなら、俺達が一番である必要はたしかに無い。
「盲点だったわぁー。何か良い意味で肩の力が抜けた気がします」
「ん、んん? よく分からないのだが……」
「俺達は俺達のペースで良いですもんね! はぁー、そっかそっか! 師匠を越えるのは弟子の役目と思っていましたけど、焦る必要は無かったですねぇ」
「ホムラの師匠……? そういえばたしか、昔に見たような……」
「あー、言ってませんでしたっけ? ダンジョン作ったの、俺の師匠なんですよ」
絶句したミルフの顔は中々にレアだ。
何から突っ込んでいいか分からずに口をパクパクとさせている。
どうせまだ王都の門を通るまでに時間はあるし、先にミルフには話しておくか。国王には師匠の道楽だと話しておいたけど、メンバーにはまだだったしな。
それと、この際だし師匠がどれだけやらしい性格をしているのかもしっかりと理解して貰っといた方が良いだろう。
ヤバいんだから、うちの師匠は――。
◇◇◇
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