第68混ぜ リーダーとして
すみません、他のやつを書き溜めしてたら遅くなりやした……m(__)m
ではでは、よろしくお願いします!
翌日も一日中移動して、さらに次の日のお昼頃。ミルフのメイド姿にも見慣れ飽きた頃、ようやく目的地である鉱山付近の宿場村へと辿り着いた。
「ようやく着いたのかー?」
「えぇ、まぁ……これから宿を探さなくちゃいけませんが」
「そうかー、なら私はなーまだ眠いから寝てるぞー?」
そう言って少しだけ起きたディールはマントを深々と被り、また横になった。太陽が眩しい間は寝て過ごし、夜は飛び回ったり魔法をぶっ放して遊んでいる。生活サイクルが崩れるているが、楽しそうなので放置している。
「さて、まずは……」
村に着いてすぐに鉱山へ……とは流石に行けない。まずは情報を集め、どこの鉱山から何が取れるかや、どこの鉱山は危険かを調べなければならない。
この村、活気は思ったより無いが人はそれなりに多そうだ。この規模ならば、生活ギルドと冒険者ギルドくらいはあるかもしれない。
「……って、ミルフ? なんか、さっきから動いてない気がするんですけど?」
「おい、本当にこの格好で行かないといけないのか? お前達の前ならもう慣れたし良いのだが……」
「今更! そんな事を行ったって! 仕方ないでしょ!! 修行なんですからっ!!」
「う、うーむ……」
不服そうな反応ではあるが、馬は歩き出して街へと入って行った。
メイド服なんか着ているものだから、村に居た人達からは貴族か? と遠巻きに視線を送られている。
俺とディールは幌馬車の中に隠れているから、視線の全てをミルフが一身に受けているけれど。
「まだ明るいですし、ギルドに行って調べものをしてから宿に向かいましょう」
返事は無いが、たぶん伝わっているはず。きっと、恥ずかしさでそれどころでは無いのだろう。前だけはちゃんと見て欲しいけど。
しばらく村の中を散策して、大きめの建物に着いた。この村は鉱山から近いだけあって、建造物のほとんどが石造りだ。全部を見回った訳ではないが、木造の建物は無いと言ってもいいかもしれない。
「ここか……ホムラ、ディールさん。着いたぞ」
外に飾ってある石板には冒険者ギルドの表記があり、馬車からはミルフだけが降りた。
「おい、着いたぞ?」
「着きましたね」
「あぁ、だから早く降りろ。行くのだろう?」
「――リーダー、馬車の見張りは任せておけ」
親指を立てて、ミルフに合図を送る。
ディールはお昼寝しているし、仮に起きていたとしても俺はミルフに一人で行って貰うつもりだった。
俺達の前では慣れた格好かもしれないが、本番はこれからだ。見知らぬ人達の前でも気丈に振る舞えるか……慣れるまでやってもらうしか無い。だから一人で行って貰う。
理由が必要ならば、冒険者のミルフの方が利用法方に詳しいとか何とか……無理矢理こじつけられない事もないが、どうせ行ってもらうのは決定事項なので時間の無駄になる事はしない。
「お、おい……一人で行けと言うのか!?」
「もちろん。宿と、安全に作業できる炭鉱の場所と……そうですね、思ったより活気が無いのが気になるので、それもお願いします」
「くっ……」
「大丈夫です。何処に出しても恥ずかしくないくらいに似合ってますし、堂々としてくださいよ。死にはしません」
手をパタパタと振って早く行けと伝えると、かなり睨まれたがミルフはギルドへ向けてゆっくり何度も振り返りながら歩いて行った。
「よし、じゃあ……タブレットっと!」
鞄から液晶タブレットを取り出して起動させる。魔力認証の後に、この村をマッピングするためにタブレットに魔力を注いで地図を形成していった。
円形に作られた村。行商で賄っているのか、畑や家畜の数はやや少ない。村の外に出ている人を含めれば、それなりに人も居るのだろう。
液晶を眺めると、地形も人の位置もそれなりに分かる。ギルドに入った所にある点、人を表しているのだが、立ち止まっているのがおそらくミルフだろう。
(うろちょろしてるなぁ~)
念のためにディールとミルフの点をタップして、マーカーを付けておいた。プライベートを覗くつもりは無いが、これで離れた場所で作業していても待ち合わせに困らない。使える機能は使っていかないとな。
「鉱石の図鑑をスキャンしたページはどこだったか……あったあった。浮力石、火発石、雷発石と……あとは、クロキン鉱やシロキン鉱石も欲しい所だな」
大図書館の鉱石図鑑を勝手にスキャンして、いつか採りに行こうと目を付けていた鉱石達。
未だに人力で採掘しており、不思議な力が込められている鉱石の価値は高い。買うとなればそれなりと値段になってしまうだろう。
武器を作るにしても、攻撃アイテムを作るにしても、面白い鉱石は良い材料となる。
そういう観点からも、鉱石は植物と同じくらい錬金術師にとって大切な素材なのだ。
ミルフの弱点を克服するのがメインではあるものの、せっかくだからついでに……と素材集めも目的のひとつに加えさせて貰った。
三十分程度が経過した頃、ようやくギルドからミルフが出てきた。えらく疲れた表情している。
手には何かしらの紙を握っていて、何かしらの成果はあったのだと推測できる。こちらが「おかえり」と言う前に、ミルフが荷台の方へとやって来た。
「少し面倒な事になっているらしい」
「面倒ですか……よし、諦めて帰りますか!」
「おい、決断早くないか!? せめて、内容くらいは聞いても良いと思うのだが……」
面倒は嫌いだ。避けれるのなら避ける方が絶対に良いし、ましてや自分から首を突っ込むとかアホとすら思える。
正義感があって、冒険者をしているミルフの価値観からすると俺の方が間違っているのかもしれないが……だとしても普通は嫌なものだろう。
「……はぁ。何があったんですか?」
「うむ。簡単に言ってしまえば、盗賊団だ。そこそこの規模らしい」
「……本当に面倒じゃないですか」
「何だその間の抜けた反応は。聞けホムラ、その盗賊団が鉱山の一角を占領して違法な採掘をしているらしい」
盗賊団なのに自ら採掘している点はとても気になるが、あえて何も言わない。
内容を聞きはするが、あまり興味がある話でもない。盗賊なんてこの世界には幾らでも居るし、正義の心を持つ者も同様に幾らでも居る。つまり、俺が関わる必要はまったく無い話なのだから。
「では、盗賊団と一般人を間違えて攻撃しない様に心掛けて採掘をしましょう」
「それはそうだが……もっとこう、あるだろ?」
「無いですよ。俺らはただの鉱石を採りに来ただけの観光客。村の問題を解決しに来た訳じゃ…………ちょっと待って? まさか、変なクエストとか受けて来て無いですよ……ね?」
ビクンと肩が跳ねるミルフに、思わず溜め息を吐く。
別にリーダーのミルフの行動を否定するつもりではない。ないのだが、ただ……余計な事に時間を割くメリットがそこにあるとは思えず、つい顔に出てしまう。
絶対に相談をしろ、なんて強制をするつもりは無いが俺の性格を加味して行動をして欲しい。ディールは戦えるなら喜ぶかもしれないけど。
「あ、あのな? 盗賊団が毒ガスまで使って侵入を阻止したり、崩れる可能性があるから使用を禁止している土魔法を使っているとか……その、いろいろ話を聞いている内にな? えっと……赤ランクの冒険者というのも知られてしまってな?」
「……報酬は?」
「盗賊一人に付き、銀貨一枚で……」
労力に合わない報酬だ。盗賊一人につき千円とか……人数にもよるけど、どう頑張っても割には合わない。
冒険者ならその辺の事はもっとシビアに考えて欲しいものだけど、もう時既に遅しの状態だ。今更ギルドに報酬を上げろと言っても取り合ってくれないどころか、ブラックリスト的な物に名前を記されてしまうかもしれない。
「逆にですけど、よく受けましたね? 激安って判断は出来たでしょうに」
「ううむ……すまない。村の男達が採掘の労力として夜な夜な連れ去られて、その奥さん達も心配していると……聞いてな」
ミルフの正義感は必要なものだ。自分が苦労しても誰かの為に動けるのは美徳だと思う。
利益を重視して動く俺とは正反対で、パーティーにも一人は必要な存在だ。だからミルフを否定しない。否定したくは無いのだが……今の条件では出費の方が多くなるだろうし、動こうとは思えなかった。例え、村の人が困っているとしてもそれをどうにかする為にギルドがあるのだから。対応がやや遅いのを責めたくなってくる。
「優しいのも程々に。それで、毒ガスをどうするつもりですか? 相手の仕掛けた罠が他にもあるでしょうし、対策しなければ被害に合うだけですよ」
「分かっている。これは私が勝手に受けたクエストだし、ホムラは鉱石を採掘してて構わん。これでも赤ランク冒険者だぞ、私一人でどうにかしてみせる」
俺に気を使ってくれているのか、そんな事を言ってくれるミルフだが……リーダーとしての自覚が足りない、そう思った。
「ミルフ。リーダーが率先して前に出る事は理想的です。ですが――リーダーが仲間を頼らなくなったら、パーティーは終わりですよ?」
少し声を強めて、ミルフにはそう伝えておく。偉そうに言えるほどパーティーの代表を務めている訳では無いけれど、間違った事は言ってないつもりだ。
パーティー内は助け合いか基本。助けが必要だからこそ、パーティーを組んでいると言い換えてもいい。
一人で出来ることには限界があって、だからこそ皆に力を借りて。パーティーのバランスを取らないといけないリーダーが、自分だけで行動をしてしまえば……もうそれは、終わりである。
「いや、だが……。私が勝手に受けてしまったクエストであって、そんなつもりは無かったのだが……すまない」
「別にリーダーの行動を否定はしません。ですが、メンバーの士気を上げるのも大切な役割ですよ。例えば――盗賊を捕まえた時に集まっている鉱石を報酬に加えても良い……なんて言えば、俺は全力でサポートしますし、ディールも暴れて良いと知れば全力で助けてくれるでしょう」
「ホムラ……」
それぞれにやる気の出る報酬というのがある。金だけが報酬では無い。時には現物、時には名誉。
仲間とはいえ、無償で力を貸してくれると思うのは失礼だ。仕事には報酬を。小さくても少なくても、相手の喜ぶ報酬を用意してあげる事も士気を上げるためには大切な事だ。
エレノアなら綺麗な宝石を。マユエルなら新しい知識を。ディールなら楽しい事……の様に、それぞれの要望を報酬に加えれば、ちゃんと信頼を築いていけるはずだ。
「そうか、勉強になる。難しいな……リーダーは」
「ミルフに足りないのは経験とか慣れですよ。それに、ミルフは信頼感もあって頼りになりますし、素質だけなら俺よりもよっぽどリーダーに向いてます。あと、足りないのは自信ですかね」
「さ、最後のは余計だぞ!」
「どーですかねぇ。頼みますよ、リーダー……周りをよく見て、俺やディールを上手く使いこなしてくださいね」
勝手に受けてしまったクエストの件とかについての話は一度置いておいて、俺達はギルドで紹介して貰った宿に向けて移動を開始した。
村の外でテント生活でも良いのだが、村の外から来た人間が金を落とさないと白い目で見られる世界だ。微々たる経済を回す為にも、あえて宿を取ったり食事もこの村の物を食べる予定にしている。
「くんくん……何か良い香りがするのだ!」
何故か美味しそうな匂いにだけ鼻が利くディールが、飛び起きた。
たしかに何処かから、何かを焼いた香りが漂ってくる。
「……あそこに何か売ってあるが、寄るのか?」
「行くのだ! お腹空いた!」
何肉か分からない物を食す勇気が俺には無く、ディールの分だけを露店のおじさんに頼んだ。
「噛みごたえがあるのだー……んぐんぐ」
ほんのちょっとの寄り道はしたが、道を戻して宿へと向かった。
ミルフから「着いたぞ」との声があり、馬車を降りる。中々に頑丈そうな宿、俺とディールはどれくらいの高さだろうかと上を見上げた。
「とりあえず入ろう」
「はいはい」
木製扉を開けて中に入る。石造りの宿なだけあって、見える限りにある家具や道具のほとんどが石製だ。
木製なのは、入口の扉くらいではないだろうか?。
「いらっしゃい、ようこそ丸窯亭へ」
「すまない。二部屋空いているだろうか? あと、馬車があるのだが……」
「うちは一人部屋なら一泊飯付き銀貨三枚銅貨五枚、二人部屋なら一泊飯付きで銀貨六枚さね。馬車は裏へと回しておくんな」
一人あたり三千円と少しで、二人ならもう少し安い。良心的な値段設定だろう。
部屋も問題なく空いているのでとりあえず一泊だけ、この宿に泊まることが決定した。
「二人部屋は三階まであがっておくれ。左の方に火の模様があるからそこさね。一人部屋のお客様は二階の風の模様の部屋さ。食事は日暮れ時に一階の酒場に来て……はい、一人ずつこの割符を無くさないように持ってきておくれよ。無くしたらお金を払って貰うからねぇ?」
「分かりました。では、私は馬車を置いてくる」
「ディール、俺達は先に部屋に行っておこうか。ミルフ、とりあえず二人部屋の方に居るから」
宿の恰幅の良い元気なおばちゃんから割符を受け取って、俺とディールは奥の階段から上に上がって行った。
この宿も石造りで、扉は木製だったが、テーブルや椅子、棚なんかは石を固めて作ってある。おそらく魔法を使って形を整えたり固めたりしているのだろう。生産食の職人も魔法を使える人はバンバン使っているらしいからな。
今度、機会があれば見学させて貰いたいものだ。
「のぉ、ホムラよ? 妾は二人部屋が良いぞ。一人は退屈な」
「そうですね、ディールはミルフさんと二人部屋でお願いしま……何だか嫌そうな顔してますね?」
「ぬー……アイツはなー、すぐにギュッとしてくるからなー」
「俺は夜通し『必要になる』道具を作るので、一緒だと暇ですよ?」
一人は嫌、ミルフはちょっと困る、俺と一緒だと暇。何かしら我慢して貰うかない。村に入ってしまった今、なるべく飛んで行く姿や、近くで魔法を放つ行為は控えさせないといけない。
「一人で遊べる物……何かあったら後で渡してあげますから、今日は我慢してくださいね。明日以降は力仕事を任せると思うので」
「うむ。仕方ないから、お菓子で手を打つのだぞ! あと、遊ぶやつもだ!」
三階に上がり、火の模様がある扉を開けて部屋に入った。
簡易ベッドが二つ、窓は一つにランプが小さい机の上に置いてある。……寝心地はあまり期待出来そうに無かった。
ミルフが来るよを待って、まずは情報共有しなければな。
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