第63混ぜ 魔法はデカけりゃデカい程良い
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『さぁ、続きまして予選第二組目の戦いがまもなく開始されます! 魔法師らしき人の数がやや多く見られますので、観客の皆様もお気を付けください!』
たしかに周囲を見渡せば、ローブ姿であったり、杖を持っている者が多く居る。
魔法師団の先輩達が障壁を張っているから平気だろうけど……どうなるかは分からない。
『戦いに参加される皆様におかれましても、自分の命は自分でお守りください。危険を感じたら潔く退場するのも選択肢ですよ』
(そう言って降りれば罵声と弱者の烙印が押されるでしょうね……)
降りるくらいなら最初から参加はしていない。大会の進行役の人が言う言葉に皆がうっすらと笑っているのがその証拠になる。
(一人、二人、三人……端に位置取りをしてみたけど……既に狙われているわね)
そんな視線を感じても私は無視して他の場所を見ていた。
最近拾ってきたディールという吸血鬼を膝に抱えた従者。その前の席ではエレノアやミルフが応援してくれている。キャサリンさんの眼光は少しプレッシャーだけど……ここに立っても緊張はしていなかった。
もう一度、従者を見る。
従者は気付いてないだろうけど、私の魔法は従者と出会ってから飛躍的に伸びた。技術的な事や魔力量的な話ではなく、魔法との相性とでも言うべきものが、だ。
今度は青く澄んでいる空に視線を移動させる。そして、今日までの事を少し思い出す――。
◇◇◇
私の家は男爵家。
一般の市民の人達からすれば、貴族は貴族……なのだろうけど、貴族の中では下の方に位置している。
それでも同じ爵位の他家よりも力があったのは、単に魔法師家系で力があったからだ。貴族の子は魔法を使えて当たり前なのだけど、他家よりも私の家は圧倒的と言える程にレベルに差があった。
まず、体内で保有できる魔力量の桁。これだけでも他家とはかなりの差がある。
単純な話だけをするならば、魔力量が多い方が魔法の規模や発動回数が違ってくる。
そもそも魔法とは、便利な使い方も出来るが、基本的には戦う為にある。遡れば、大昔に対立していた魔族に対抗するために、神々の次に高位の存在である精霊と暮らすエルフに魔法を教えて貰ったのが始まりだと、文献には載ってある。
魔力は持っていたが、使い方を知らなかった人族にその知識を与えたのがエルフだと言われている。だから人族はエルフに偏見は無く、敬うのが普通の反応だ。……反応だった、と今は言った方が適切かもしれない。
魔法を覚えたばかりの子供が『自分は凄い』と勘違いする様に、大昔の人族達も勘違いした。そして、やらかした。それによって……魔法は月日を重ねるごとに衰退していくことになる。
そこから、世界中で行われていた戦争も少しずつ収束していき、種族の衰退を危惧して現在に繋がる同盟を結ぶ流れになるまでにかなりの時間を要したとか。
……それすらも私からすれば大昔の話になる。
当時から魔法は本来人を殺める為の力とされてきた。魔法を教えて貰う経緯を思えば、それも当然かもしれない。
初級の魔法である『火矢』『水矢』『風矢』『土矢』でさえ、簡単に人を殺す事が出来る。
魔法とは本来、必殺技だ。それでも、『本物』の魔族からしてみれば大半の人族の魔法は、子供の遊びみたいなレベルだろう。
衰退した魔法の力を現代の魔法師達は必死で研究していて、日々の訓練でどうすれば魔力をもっと上手く扱えるのか試行錯誤している毎日だ。
そんな中で……全ての魔法師から羨ましいを越えて憎まれる様な、従者にもまだ話していない『タルトレット家』の秘密がある。
何故、タルトレット家だけが他家よりも圧倒的に魔力量が多いのか。その秘密について。
姉さんを助けてくれた従者には話してあげても良いかもしれない。でも、それは本来いけない事。家族以外には教えてはならない掟。だから、従者には言えていない。
――私達タルトレット一族の直系の子は、生まれたと同時に『エルフに術式を施されている』という話を。
ただでさえ魔力量の多い家系の子が、エルフの術式でより高い魔力との親和性を得る。
そして、そのお陰で魔力量の限界も、回復する速さも、人族じゃ異端呼ばわりされるであろうレベルになる。
他家に知られればどうなるか、想像もしたくない秘密だ。
現在、この国に在住しているエルフは一人しかいない。タルトレット家と国王しか知らないが、王立第一学園のシララ様である。
本来ならば、タルトレット家がエルフの森まで出向くのが礼儀でもあるのだけど、森を出たシララ様は何が気に入ったのかこの国で何十年も暮らしている。
そのお陰で私も、私のお父様も、お祖父様世代もシララ様にお世話になっていた。
これは、私達の祖先が大戦の時も、エルフから魔法を教えて貰った後も、エルフに寄り添い人族側の『やらかし』を止めようと動いたかららしい。
結末としては人族の行動を止められなかった訳だけど、その時でさえ、タルトレット家の祖先はエルフの味方をした。
人族を裏切れる事は出来なかったみたいだけど、エルフを逃がす手助けをしたらしい。
だから、私の力はエルフにだけは向けてはならない。それが、タルトレット家が家訓とする魔法に関しての絶対的なルールとして残っている。
――これは、数年前のまだ私が学園の生徒だった頃の話になる。
魔法科に入っていたものの、魔法の授業は酷く退屈だった。
毎日毎日、馬鹿みたいに魔法の発動を速める訓練と魔法障壁の訓練ばかり……。
そんな代わり映えのしない毎日が始まると思っていた、入学式の日だった。学園の先生として従者がやってきたのは。
錬金術師だとはその日より前から知っていたが……マユエル様が錬金術科に進むと噂されていて、てっきりシララ様が教えるだろうと思っていたから驚いた。
それから数週間たったある日、魔法師の訓練を少し抜けて従者の隣に来た私に、従者はぼんやりとこんな事を言った――「この世界の魔法は面白くないな」と。
強いでも弱いでも凄いでも酷いでもなく、面白くない。
その言葉を聞いて、私はハッとした。退屈と思っていた理由に気付かされた。
たしかに相手を傷付ける為に訓練をしている。
でも、敵は凶悪な犯罪者から盗賊に魔物まで……生きていく上で力は必要不可欠である。そこに面白味なんて必要無いと思っていた。
だから従者に聞いた、どうして面白味なんて必要なのかと。
返ってきたのは「フラン、お前は機械かよ」という言葉だけだった。それ以外は聞いても何も言ってはくれなかった。
「ロボット」が何か、その時はまだ分からなかった。従者はたまに難しい事を言う。きっとイジワル。でも……憐れんでくれてるというのが少しだけ感じられた。
その日から、マユエル様と簡単な魔法を使って楽しそうに遊んでいる姿を見ると……とても羨ましいと感じた。
訓練ではなく遊んでいるだけ――もともとマユエル様の魔法の才能は無いと言われていた――筈なのに、マユエル様の魔法は見違える程に上達していた。
後になって聞けば、精霊魔法という私達とはまた少し違う代物らしいけど……自分でもビックリする程上達したというのは、マユエル様から直接聞いた話だ。
従者に言われた日から少し経って、私は訓練とは別に魔法で遊ぶ事を始めた。
火魔法で溶かせられる限界を調べてみたり。
土魔法であらゆる物の形作りをしてみたり。
水魔法を放たずに指から伸びているみたいに繋いだ状態でぐるぐると振り回してみたり。
風魔法で空宙に寝そべってみたり。
氷魔法と果物でシャーベットを作ってみたり。
雷魔法で従者の髪をボサボサにしてみたり。
自分の今までの訓練を否定するつもりはないけれど、今までよりも圧倒的に……私は魔法と一体化できる様な気持ちになった。
魔法については他の子よりも知っているつもりだったのに。
でも本当は、まだまだ知らない事ばかりだったと従者に気付かされた。
そして遊ぶようになっからしばらくして……訓練中に周りの子達を見て、従者の言う面白くないの意味がよく分かった。
ひたすら魔法を放って、ひたすら障壁で防いで。国や誰かを守る為には必要な技術だけど、そこに『自分』というものが無い事に気付いてしまった。
魔法の威力が上がって喜んでいる生徒も居るが、私も従者と同じくその時に少し憐れんでしまった。
魔法師になりたいから魔法を覚えるのではなく、魔法が使えるから魔法師になろうとしている……のではないかと。
それは従者になる前の私と同じだった。魔法師の家系だから魔法師になるのだと単純に考えていた。
ただ、それでも私は魔法が元より好きだった。その好きを広げてくれたのが従者だった。
みんなにももっと魔法を好きになって欲しいと、『魔法で遊ぼう』と誘った事がある。
『そんなふざけてる時間は無い』『余裕があって良いよなお前は』……それが、返事だった。
それを従者にどうすれば良いか相談してみた。私に気付かせてくれた従者なら、良い方法を知っているかと思ったから。
だけど……従者の返事は「俺はだな……フラン。そもそも錬金術師を下に見てる魔法師って奴が嫌いだし。魔法が好きな奴とか増えなくて良いと心から思ってる」……だった。
私がムキになって、ちょっぴり変な事を聞き返してしまったけど「俺が嫌いなのは錬金術師を見下している奴。お前の一家はそうじゃないだろ」と言ってくれた。それは少し嬉しかった。
そんな会話をして、他の子を『遊び』に誘うのは辞めようと思った。理由はいろいろあるけど、私が魔法を好きならそれで良いと思えたから。
最後に従者にどんな魔法を使う魔法師が好きか聞いてみた。
「フラン……お前は何年魔法を使ってんだ? 細を穿つ繊細な魔法? 速度重視の高速詠唱や短い呪文? ――違う違う。魔法は単純にデカけりゃデカい程良い! 錬金術師ではほぉ~~~~んのちょっぴり難しい範囲攻撃が可能なのが、お前ら魔法師だろ」
◇◇◇
「魔法はデカけりゃデカい程良い……か」
そうポツリと呟く。
魔法師にもそれぞれに得意な魔法の種類というものがある。
魔法師にもそれぞれに適した戦い方というものがある。
魔法師にも魔力が無くなった時は役立たずという自覚がある。
やはり従者は魔法師が嫌いなのだろう。デカけりゃ良いと言うのは、かなりの暴論だと今でも思う。
デカい魔法には、それ相応のリスクがある。
まず、魔法の大きさに合う魔力量が無いと成立しない。次に、魔法を完成させるまでの詠唱時間を確保しなければ戦えない。そして、それを最後まで制御する技術がなければ暴発して事故にしかならない。
使用する魔力量が増えれば増えるほど、強風に煽られているのかと錯覚する程に魔力が暴走し始めるのだ。
ハッキリに言うと、一撃逆転を狙わずに量で押し切れる私とは反対のやり方だ。
でも、従者はそんな魔法師が好きだと教えてくれた。
だから範囲の広い魔法ばかりを遊びながらも訓練する事になった。
どうして従者の為にここまでしているのか、むしろ従者が私の為にいろいろしなさいよっ――とは、たまに思うけど……でも、従者だから私がしっかりしてあげなくちゃとも思う。
主人がしっかりしていないと、従者も困るだろうから。仕方ない……そう、仕方なく。
「ほんと……のほほんとした顔しちゃってっ!!」
見詰める先の従者はそんな前の会話なんて覚えていないかもしれない。でも、やる。驚かせて見せる。普段は馬鹿にされてばかりだけど、今日は従者のバカ面を拝んでみせる。
「……ふぅ。よし、見てなさいよぉ。今はこの私だけをね!」
『――それでは予選第二組目……開始ですっ!!』
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