第62混ぜ フラン……お前はもう終わったな
お待たせしました!
よろしくお願いします!
競技場の観覧席、その上の方。中央が見やすい場所にみんなが居た。
「クルス!」
「ただいま。……てか、エレノア達はまだここに居て良いのか? バトルロワイアルの参加者だろ?」
今は会場のセッティング……主に、魔法師団の方々が観客席と中央闘技場の境目に魔法障壁を貼る仕事を待っている時間だが、参加者は受付に行く時間だ。
それなのにまだ残っていても良いのか、エレノア達はゆっくりしていた。
「参加人数が多いから予選が四つに分かれてるのよ? ここに着いた時に受付とか説明は済ませてあるの。私達はバラけて二つ目と三つ目と四つ目に参加するって訳」
「おい……嘘だろ。どうしたフラン? 体調でも悪いのか?」
「何でよっ!? 沢山寝たから調子良いくらいよっ!!」
ポンコツであるはずのフランが、流暢に分かりやすく説明してきた。それが予想外過ぎて体調がおかしいのかと思って心配したが……そうでも無いみたいだ。
エレノアもいつもと同じ様子だし、問題は無いみたいだ。……が、そこに一人、毅然として座っている様に見えて何故か汗を掻いている人物が居た。
とても意外な……冒険者剣士、ミルフさんが。
「ミルフさん?」
「な、なんだ? 今は精神統一をだな……」
――とてもとても、緊張しているらしい。
普段は冒険者として魔物相手に戦っているミルフさんが、こうして緊張しているのはやや驚きだ。
だが、思い出してみれば――ミルフさんは王都に憧れていた記憶がある。そこで剣の腕を試したいとか、剣を学びたいとか……何か言っていた。
「ほーん。まぁ、頑張ってください。エレノア、注目選手とか居るのか?」
自分の全力くらい自分で出せるようになって貰わないと。だから、いちいち発破を掛けるなんて真似はしない。
「うーン……クルスは私だけをちゅーもくしていれば良いネ!」
「それもそうか」
「何よっ!! 私にも注目しなさいよっ! ま、予選なんてパッと通過するんだけど!」
自信満々にそう言ってのけるフラン。その時、俺とエレノアはおそらく同時に同じ考えをした事だろう。
(――終わったな)
(――終わったネ)
典型的な終わった奴、フラン。
卒業してから数年、どこまで成長しているのかは楽しみだ。パーティーメンバーの弱点メモも書かないといけないし、みんなの事はちゃんと見ておかないとな。
「まぁ、頑張れよ」
「当然よ――くふふ、作戦もちゃんとあるんだからね」
空いている後ろの席。ビスコの隣に腰掛け、キャサリンさんから飲み物を貰う。
「うぉい、ホムラよ。童は一緒ではないのか?」
「えぇ、両親の所へ行きましたよ」
「そうかー。ホムラ、お前もコレ食べるかー?」
どうやらディールが一番楽しんでいるみたいだ。
こちらを振り返った時、右手に揚げ物、左手に炭酸ジュースとバッチリ決めていた。
美味しくてお裾分けしたいのか、前の席で女子グループと一緒に座っていたのにわざわざナゲットを持ってきてくれた。
「じゃあ、貰いますね」
「どうだ? 美味いだろう?」
「美味いですね」
たしかに美味しい。外はカリカリ中はジューシーだ。
まぁ、俺が作ったやつなのだから当然なのだが、ここはディールの好意を受け取っておくべきだろう。
「あ、そうだ! ちょっとディールさんに確認して欲しい事がありまして……」
「うん? 何でも良いがちょっと座るぞ?」
膝の上にストンと腰を降ろしてきた。ディールは軽いからそう苦にはならない。
ただ、ミルフさんが羨ましそうに睨んでくるのが気になるくらいだ……。
俺はいつも耳に着けているイヤホン――色が黒に変わったソレに触れて、スイッチを切り替える。
「あー、もしもし。ディール・ヒメル・プレッツェルさん聞こえますか?」
「なッ――!? どうして吸血種の言葉が!? ホムラ、お主実は吸血鬼だったのかぁーッ!?」
成功していると思っていたけど、こうして試してみて始めて完成品と呼べるだろう。
ディールに貰った耳と舌。それで完成させた翻訳通訳機は、ちゃんと言葉が通じるし聞き取れる。
「これが錬金術です。昨日貰った素材で簡単に話せる様になるんです。おそらく今、俺とディールさん以外には何を話しているのかすら分からないでしょうね」
「おぉ~! さっきまで中央で何をしているのか分からなかったが……ホムラみたいな凄い事をしてきたのだな!」
「まぁ……そうですね。これからはディールが分かりにくい言葉の意味を、吸血種の言葉で伝えてあげる事も出来ますよ」
言葉の壁を越えるというのは細かい所で難しい部分がある。人族の言い回しが、吸血種で使われていなかったりする部分とか。
だが、俺が喋れる様になればパーティーメンバー間でのコミュニケーションがより円滑になるだろう。
既に高レベルで言葉を習得しているディールだが、無いに越した事はない。ま、九割は自分の趣味で作ったみたいなものだけど。
「じゃあ、スイッチを戻しますね」
「うむ、妾もたまに自分の言葉で喋りたいからな! 嬉しいのだぞ!」
イヤホンに触れ、言語を切り替える。すると、逆に聞き取れていなかった周囲の声が鮮明に聞き取れる様になった。
「ホムラが昨日作っていたものですね」
「えぇ、徹夜で。性能はバッチリみたいです」
「うむ、完璧なのだぞ! ほら、ホムラ……もう一個揚げ物をくれてやるのだ」
ナゲットを食べさせて貰い、尊敬の眼差しを受けながら午後の武闘大会が始まるのを話ながら待った――。
◇◇
『王都騎士団騎士団長エルラムである。私が言う事はたった一つ! 己の武を貫き勝ち上がれっ!! 健闘を祈る』
大柄で体格か良く、大剣を背に携えた中年の男性。直接言葉を交わした事はないが、式典の行事等ではよく見掛ける。
フランから聞いた話だと、魔法師団の団長と実力は同等らしい。仲は悪くなく、互いに実力を高め合っているとか。
「キャサリンさん的には騎士団長はどうです?」
「そうですね。確実に勝つとするなら、視覚外からの一撃でしょうか。魔法師と互角以上に戦うという情報から身体強化からの加速があるでしょうし……」
「俺もあの体格と真正面からは戦いたくないですね~」
身体強化をする相手はほぼ間違いなく強者と言える。
身体の一部に魔力を集める技術も難しいが、魔力を全身に巡らせながら戦うのも難しいからだ。
戦う時の大多数の戦士は、ミルフさんみたいに瞬発的に魔力を巡らせて加速するのが関の山。魔力量という才能だって関係してくる訳だしな。
騎士団長が中央から端の方へ移動して、騎士団らしき他の人達と一緒に待機の状態に入った。おそらくルール違反者を力ずくで止める為だろう。
魔法師達による魔法障壁の強度確認も終わり、予選一組目の参加者達が次々に闘技場へ入ってきた。
剣士、魔法師、冒険者、格闘家、槍使い、斧使い、仮面を着けている者、フル装備の者、軽装備の者――十人十色の個性溢れるといった装いで、五〇は越えるだろう力自慢達がこれから戦う。
一組五〇人として四組で約二〇〇人……死ぬ可能性もあるこの大会に、これだけ参加するというのは多いと言っても良いだろう。名誉や腕試しや賞金が目当てなのだとしても。
「エレノア、勝負を降りるのは出来るのか?」
「フィールドから降りれば良いネ! ただ……酷いブーイングになるヨ」
「なるほど。エレノアもミルフさんもフランも今はまだ勝てないと思ったら死ぬ前に降りる事」
「……ふっ。それだと死ぬギリギリまで戦えと言っているみたいだぞ、ホムラ」
ミルフさんがニヤリと笑ってそう言ってきた。だから俺もニヤリと笑い返した。
「――当然。死んでないなら俺の薬で救えますから。だから、逃げる余力以外は全て使いきって良いですよ」
「三人共。ホムラ様の前で無様を晒すようでしたら、一から特訓を付けて差し上げます」
俺の言葉よりもキャサリンさんの言葉を聞いた時の方が、絶望的だが確実にやる気を出したみたいだ。
キャサリンさんの特訓を受けるとなると、それはもう……ひたすらボコボコにされるのが目に見えている。これで三人共、無様を晒す事にはならないだろう……。
「ホムラ、始まりまるみたいですよ」
「ビスコも炭酸飲みます?」
「妾もお代わりするぞ!」
魔法師が空に魔法を打ち上げる――それが開戦の合図。
お互いを警戒しながらも距離を保って配置に付いていた参加者達が、合図と共に一斉に咆哮や怒号を上げながら戦い始めた。
「コロシアムってこんな感じだったのかなぁ……」
中々に迫力がある光景に、何かの書物か映像で観たものを重ねる。
この五十人から勝ち抜けるのは、最後に立っていた二人だ。
最初は逃げるのも戦法だと思うし、その辺りはやはり冒険者が上手いかもしれない。
いろんな戦い方が一気に見れるというのは、お得だ。使える技術の収集がとても捗る。
(メモが追い付かないな……)
だが、一人で全員の動きを追う事は流石に不可能。申し訳ないと思いつつも、キャサリンとビスコにも手伝って貰う事にした。
「キャサリンさんは見た感じで強いと思った方の動きや特徴なんかを、ビスコは囲まれた人がどう対処したかとかその辺りをお願いします」
「かしこまりました」
「分かりました。ホムラは誰を見るんですか?」
「次からは三人を見ようと思いますけど、とりあえず今は冒険者らしき人の動きを見ようかと……どんな小細工があるのか見たいので」
目眩ましの煙幕や目潰し。音や臭いでの撹乱。生きる為に必死で小技を繰り出す冒険者の戦い方は卑怯と揶揄される事がある。
だが、最後に立っていた者が勝者となる試合では卑怯すら正攻法になり得るだろう。
仕込み靴もマントで身体を覆う装いも、錬金術師の俺にとっては良い閃きに繋がる。だから今は注目して見ようと思った。
ただまぁ……残念な事に驚く様な戦い方やアイテムも今のところは出て来ていないが。
「ホムラ、お主は参加せぬのか?」
「俺ですか? そうですね……サポートならともかく本格的な戦闘は役割と違うのでね」
「役割とな?」
「そうです。例えば、エレノアとミルフさんとディールは主に中・近接戦闘で、フランとマユエルは魔法で遠距離戦闘。ビスコは回復や支援魔法で、アイテム製作が俺の役割です。まぁ、マユエルはアイテムを作れますし、エレノアやディールは魔法を使えるので状況によって変化出きるのがこのパーティーの強みですかね」
それぞれに得意な役割はある。だが、それぞれがメイン以外にも何かしらが出来る。俺もキャサリンさんから体術と短剣の扱い方を教えて貰っている。
確実にある魔法制限のあるダンジョン。その時にミルフさんだけ負担が掛かると思ってディールをスカウトした。そして、今のパーティーメンバーはバランス的に一番良くなったと思う。実力も理想に近いくらいまで近付いて来たと思う。
「妾はなぁ~、飛べるんだぞ~? ぐぐぐ……」
「――っ!? た……対飛行魔物を相手にする時は期待していますから、今は見せなくて大丈夫ですよ」
翼でも出そうとしたのか、背中側のマントが不自然に広がったのを察知して、慌てて押さえ付けた。
こんな所で翼を出されたら、他の観客に魔物と勘違いされてかなりの騒ぎになる。本人は飛びたいのかもしれないが、今は我慢して貰うしかない。
「そうかー? でも早く妾も戦いたくなってきたなぁ。フランよ、戦おうぞ?」
「何で私なのよ!! 私はこの後に出るんんだから無理に決まってるでしょ!」
「良いではないか! あの辺より妾の方が強いぞ?」
「そんなの知らないわよ! てか、そもそもこのパーティーでの連携とか大丈夫なの!? 従者、大丈夫なの!?」
フランの疑問はある意味当然のもので、面白い事に俺達はまだパーティーでの活動というものをした事がない。
今は各々の実力を伸ばす期間として、活動している。だからメンバー全員でダンジョンへ向かってからが、本格的なパーティーでの活動となるだろう。
パーティーでの連携、魔法での攻撃のタイミングや細かい合図なんかはまだ決めていない。おそらく、それ以外の問題も出てくるだろう。
だから今はメンバーの弱点や強みのメモをとって、作戦の指示を出せる準備はしているが……どうしても不安はたしかに残ってしまう。
「パーティーでの連携はゆっくりと培うものだと思う。だからとりあえず、フランは自分の出来ることを増やしておいてくれ。それが後にパーティーを救うはずだ」
「ふんっ、従者がそういうならしっかり指示くらいしなさいよね!」
自分がパーティーの要と受け取ったのか、分かりやすいくらいに声が弾んでいるフラン。めちゃくちゃチョロい。
だが、フランの魔法はパーティーに必要だし嘘は言っていない。それでも、めちゃくちゃチョロいフランだ。
――いつの間にか中央の闘技場では人数がどんどん減っており、残すところ数人となっていた。
ちなみに、俺が期待していた冒険者風の男は小技をあっさりと対処され、場外まで吹き飛ばされて退場していた。
「よし、そろそろ行ってくるわね! 見てなさいよ従者!」
フランが勢いよく立ち上がり、俺に指をさしてビシッと決めていた。
「楽しみにしてる」
それだけ返して、三つ巴の戦いになっていた戦況に視線を戻した。
最終的に残ったのは大きな斧を振り回していた巨漢の男と、終始敵を寄せ付けなかった技術のある男の魔法師の二名だ。
動ける参加者達は自力で闘技場から降りて行き、気絶している者は騎士団の手で運ばれて行った。
魔法師達による抉れたフィールドの補修などが行われた後、続く二つ目のグループの戦いが始まる。
「申し訳ありません! どなたか回復魔法か回復薬をお持ちの方はいらっしゃいませんでしょうか! 大会参加者の治療のお手伝いをお願いします! 然るべき報酬は用意させていただきますので!」
そう言っている騎士団の声が各所から聞こえてくる。
「……すみませんホムラ、少し行ってきますね」
ビスコが静かに立ち上がって、申し訳なさそうにそう言った。
「大丈夫ですよ。ビスコなら手伝いに行くと思いましたし……俺は行かないんで、代わりに量産品レベルの回復薬を幾つか渡しておきますね」
「えぇ、預かっておきます」
面倒な仕事をよく受ける――騎士団の所へ向かうビスコに対してそう思ったりもする。だが、それがビスコにとっては当然の事としてあるのだろう。
俺の『我れ関せず』精神とは違って、ちゃんと困っている人に手を差し伸べられるのが内面もイケメンなビスコだ。
(きっとお金とかじゃないんだろうな)
報酬次第では俺も行ったかもしれない。だが、ビスコはそんなの関係なしに……例え報酬がドリンク一杯だとしても行っていただろう。
人事を尽くして天命を待つ――師匠は逆で、最初から最後まで自分の事は自分で責任持てと言っていて、俺もそうしようとして来た。
でもビスコに関しては、その言葉がピッタリに思えた。ほぼ考えは逆なのだが、行動が伴っているビスコだから尊敬できる。
「凄いですよね、ビスコって」
「えぇ、ホムラ様やあの人みたいに利益優先が悪いとは言いませんが……神に仕えるビスコ様みたいな方はきっと報われるのでしょうね。ホムラ様、是非とも大事にした方がよろしいかと」
「もちろんですよ。もうとっくの前から仲間なんですから」
そんな話をしていると、ディールがより深く俺の太ももの上に座り直して凭れ掛かってきた。お腹がいっぱいになって、眠たくなってきたのかもしれない。
闘技場に視線を戻すと、参加者がどんどん入場してきて、予選二組目が始まろうとしていた。
フランはすぐに見付けられたが……紅一点とまでは言わないが数少ない女だし、周囲からも狙われている気がする。
自信満々だっが……本当に、大丈夫だろうかね?
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