第61混ぜ ご褒美は
お待たせしました!
よろしくお願いします!
審査員全員で会場へ現れると、疎らな観客席が嫌でも目に付いてしまう。
それでも今年が一番人が集まっている事を考えると、今日の盛り上がり次第では何かが変わるかもしれないと期待できる。
「お集まりの皆さん、お待たせ致しました。それでは只今より――」
シララさんの挨拶で、錬金術師の発表会が幕を上げた。
挨拶が終わると、会場着した順番にアイテムを見ていく事になった。
「キラヌアトリエ代表のキラヌです。作ったアイテムは『爆弾』。外からの衝撃を与えると爆発する」
形は楕円形。ラグビーボールを黒くしたみたいな見た目をしている。爆発系アイテムは俺もよく使うし、戦闘には持ってこいのアイテムだ。
問題は威力と放射方法――強すぎても使い道は限られるし飛ばせないと巻き込まれる。弱いともちろん使えない……脅しと目眩まし程度にはなるかもしれないが。
「見よ、我が爆弾の威力をっっ!!」
ひゅ~ん……パンッ!
自らの腕力で爆弾を人の居ない場所に投げ付けて、その威力を試してみせた。
(コメントに困る威力だなぁ)
他の審査員の顔色を窺うと、皆一様に同じ顔をしていた。シララさんぐらいだろうか、ニコやかに手を叩いてあげているのは。
「ホムラ君、キミの意見を聞かせてくれるかな?」
一人一人、その場で審査員の誰かがコメントするのが通例で、最後に最終的な意見を纏めて結果を出す。
だから、こんな困るアイテムにも何か審査員らしいコメントを残さねばならない。
俺にその役目と拡声器らしきアイテムを押し付けてきたのは、カズリック氏。なかなか嫌な奴だ。
「えー、はい。爆弾の役目は使わずに脅しとするのがやはり一番効果的だと思います。その点においては、黒い色にしたというのは良かったかと。あとは……そうですね。逃走用に煙幕が出る様にすれば、買い手がもっと増えるかと思います。素晴らしいアイテムです」
一つ褒めて、一つアドバイス。この割合と最後に「素晴らしいアイテムです」と付ければそれで大丈夫な気がしてきた。
確実に年下である俺に意見を言われるのは、普通に考えると嫌なはずが……目の前のキラヌさんは、こちらを気にせず何やらメモを取っていた。
この時点で、もうすでにカズリック氏よりは好感が持てる人物だ。意見を受け止めてくれるのは、割りと審査員として嬉しい気持ちになる。
「では、次に参りましょう」
次のアイテムも、その次のアイテムも正直に言って面白味に欠ける作品であった。
審査員の方達もそれなりのコメントを残しているが、当たり障りないコメントだ。
師匠が発表した『雷の剣』レベルの作品は、残念ながら出ていない。それは今年だけではなく、昨年もその前もだが。
それ切っ掛けで楽しみに来てくれてる人を裏切って悪い気がしてくるが、それはさすがに仕方ないのかもしれない。
見て楽しめるインパクト、それに実用性を兼ね備えたアイテムを作るのは難しいからな。
出番を次々と終え、そしてついに最後となった。
最後は、流石に今までよりも緊張が走っている。審査員の間にも、観客の間にも。
(ま、当の本人が一番緊張しているか……)
「マユエルちゃん。アイテムの紹介、お願いできるかしら?」
この場において、第三王女を『ちゃん』付け出来るのはシララ校長ぐらいだろう。俺は先生とはいえ、余計な面倒事を回避する為にも公共の場でくらいは立場を弁えたりする。
「う、うにゅ……」
不安そうに、自分からすれば大人の審査員達や観客を見渡す。
その救いの目は最後、俺に向けられていた。
だからと言って、ここで俺が何かを言ってやる訳にはいかない。
もう発表会は始まっているし、マユエルの時間になっているのだから。
「(がんばれ)」
そう口パクで伝え、頷きをひとつ。それが、してやれる事の限界だ。
「うにゅ。マユエル=ミュニニ=シュレミンガルド……王立第一学園錬金術科四年生なのよ」
観客席から拍手と歓声がちょっとだけ響く。約二名……振り返らずとも声で分かるが、エレノアとミルフさんの声は人一倍デカく響いていた。
「私の作ったアイテムはコレです」
鞄から取り出した物は……見た感じ、何の変哲もないただの鉄製の棒。パッと見で分かるのはそれだけ。
ただ、魔力との相性が抜群に良いエルフであるシララさんだけは、何かのカラクリが見えているみたいで、面白がっている。
マユエルの説明が始まった――。
「アイテム名は『魔力伸縮棒』。その名の通り……魔力で伸びる」
ピュン――というよりはニュン。そんな感じで上に向けて、約三メートル程の距離……伸びた。
「おぉ……!!」
カズリック氏からそんな驚きの声が漏れる。
「子供からお年寄りまで魔力があれば簡単に使えるのよ。長さの調節は地面に突けばその長さに定まって……馬車の乗り降りも楽になるのよ」
思った程の面白味がない。多少のガッカリ感が出てしまう。
たしかに、魔力で物体を伸縮させる発想は応用が利きそうな気もする。そして、我々が求めていたのはそっちだ。
足腰が弱くなったお年寄りには使えるアイテムだろうし、マユエルらしい優しい発想とは思うが……まだ少し、見聞が狭かったかもしれない。
「そうか。なら評価に……」
「まだなのよ!」
代表して終わらせようとした俺の言葉を遮ったマユエル。
今までは序章に過ぎないと言わんばかりに、目には力が宿っていた。
「このアイテムの素材には大木魔物の枝を使ってるのよ! 魔力で伸びるだけじゃなく……うにゅ!」
伸ばした棒の先から水球が飛び出す。空に打ち上げられた魔法に、会場が沸いた。
大木魔物の枝は魔法師の魔法触媒としてよく用いられている。理由としては、魔力伝導率が高いからだ。
それと鉄を合わせて頑丈さを増し、伸ばす事で不意討ちの物理攻撃も可能となれば……先程よりはかなり面白くなる。
「まだなのよ! 大木魔物の中でも私の使った枝は魔法植物『トリーク』の枝。トリークは……魔法を吸い込むの!!」
自らが空へと放出した魔法の水球。落ちてきたソレに向け、魔力伸縮棒を伸ばした。
まるで逆再生でもしているかの様に、水球は先端から吸い込まれていく。
魔法を防ぐでも弾くでも相殺するでもなく、吸い込む。おそらく許容量は多くないだろうが、面白味は師匠レベルにあると言えるだろう。
その証拠に、会場は大いに盛り上がっていた。常に杖を持ち歩いている老人も、木材のまま触媒として杖を使っていた魔法師も、大木魔物トリークに魔法を吸い込まれた記憶のある冒険者も、マユエルの作ったアイテムに新たな可能性を感じた者は一様に声を張り上げていた。
「吸い込める許容回数は?」
「火なら一回。水なら二回。土、風ならもっと大丈夫なのよ?」
「三メートル伸ばした時の強度は?」
「素材によるのよ? でも……力いっぱい叩かれたら折れるのよ……」
改良点は強度。それは元の素材や使う魔石によってだいぶ違う結果を得られそうだ。
「す、素晴らしいアイテムでありますぞマユエル様」
「旅に一本あればかなり楽になるかも?」
「強化の余地がありそうだな」
「ふむ……安価に作れればだが、使い捨てとしてもいけるかもしれんな」
「市場価格に悩みますな……付加価値の計算が難しい」
審査員それぞれが、今までに無いくらいの食い付きを見せている。
おそらく会場中の観客も他の参加者も決めてしまったのだろう……今年の最優秀賞が誰なのかを。
「マユエル、時間のある時にマユエル専用の武器に仕上げないとな」
「うにゅ。これはあくまで発表用なのよ、プランはあるのよ?」
「上出来! まだ背丈が小さいからな……自分の弱点を無くすのも錬金術師らしい。今日は好きな物を作ってやるよ」
結果として――マユエルのこの成長は、本人の資質に依る所が大きいが……先生としての俺のやり方がそう間違って無かったと証明してくれた事になる。そこはマユエルに感謝すべき点だ。
「やったのよ~! 大きいプリンを独り占め~、カラメルもたっぷりなのよ~」
こんな大勢の前での発表は……王族だが、さぞ緊張しただろう。今日もアトリエに戻ってくるから分からないが特大バケツプリンでも用意してあげよう。
「うふふ。マユエルちゃん、良かったわね」
「うにゅ……恥ずかしいのよ……」
年相応に盛り上がっていた所を見られていると気付いて、マユエルが顔を両手で覆った。
シララさんが会場に向けて、大会の総評と審査員の結果を纏めると告げた事で参加者も仮設の休憩室へ移動し、審査員は控え室へと下がった。
最優秀賞は満場一致で決まり、後はアイデア賞なんかの最近できた賞を選出していった。
「今回はマユエルちゃんのお陰で盛り上がりましたね。ですが、こういう時にこそ各々注意をしてください。錬金術の有用性が広まるというのは良い事ですが、不埒な者も現れやすいですから」
「売った物を高値で売られてたりするものね」
「弟子も注意して受け入れなければな……」
どこの世界にも自分が儲ければ良いという、エゴイストが存在する。別にそれ自体を否定するつもりは無いが、行き過ぎたエゴイスト――つまりは犯罪に手を染める者は現れるという注意換気。
錬金術師のアイテムレシピを盗むつもりで弟子入りする奴が現れたり、ラミーダ氏の言う通りに転売もある。
注目を集めたマユエルは、一番注意が必要そうだ。
「では、参りましょうか。午後からは武道大会もありますしね。皆様もこの後はお忙しいでしょうからね。うふふ」
結果発表を終え、今年の錬金術発表会は無事に終えた。
最年少での最優秀賞だったり、それが王族であったりと、明日の貼り出される記事は面白い内容になるだろう。
「さて、みんなの所に行きますかね」
マユエルは国王達と午後の観戦をする予定らしく、セラシウム王の元へと移動していった。
今夜あたり、周辺国家のお偉いさんを呼んだ晩餐会とかが行われるだろうし……今日は下手するとそのまま王族としての責務を果たす事になるだろう。
みんなも褒めてやりたいだろうが、仕方ない事である。王族として、今はやるべき事はやってもらわないといけないしな。
「あの王様の事だし、今頃べた褒めしてたりな」
そのまま、なんだかんだダンジョンへの同行を許可してくれないだろうかと甘い考えをしながら観覧席へと向かった。
◇◇
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