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第60混ぜ 陛下、頼みがありまして


お待たせしました!

よろしくお願いします!



 


「おはようございます、シララ校長」

「あらあら、ホムラちゃん。おはよう」


 会場の警備員として配属された騎士団の方はともかく、シララさんが先に来ているのは驚きだった。

 最後に来てくれた方が他の審査員の人達も気が楽だろうと思うが、シララさんの事だから……もしかすると毎年早く来ているのかもしれない。


「マユエルちゃんの様子はどうなの?」

「かなり緊張してましたよ。俺もノータッチですし、マユエルのオリジナルですしね」

「あらあは、それは楽しみね。うふふ」


 ただ、心配事がひとつある。

 当然の事として、マユエルが第三王女というのは周知の事実だ。今回はそれもあってか、人の来場が昨年を大幅に越えると言われている。

 だから警備の人員も増えた訳だし、王族用の観覧席の準備も早い時間から行われている。

 つまり――極端な話でもなく、俺とシララさんを除く他の審査員がマユエルに最優秀賞を与える……と言い出す可能性がある。


「シララ校長、マユエルの件でもうひとつ。公平性は保たれるでしょうか?」

「そうねぇ……まさか、王族から錬金術師を目指す子が出るなんて、マユエルちゃんに出会うまで私も思わなかったしね」


 シララさんもどうなるかは分からないみたいだ。

 他の審査員の人達を上手く説得出来れば良いが、王様も見に来るらしいという情報があり、実際に来てしまえばシララさんの言葉よりも王様を気にしてしまうだろう。

 もちろん、マユエルが良い作品を出せば誰の文句もなくスマートに終わる。ただ、まだ錬金術師としての歴は短い。

 他の人達のレベルというか、この国の錬金術のレベルが低いのは知っているが、それでも作品の有用性でマユエルの作品が負けるという事はある。

 数年前の俺と師匠が出た時に、師匠の雷の魔剣ではなく女性の植物用の回復薬が最優秀賞に選ばれたみたいに。

 だが、去年か一昨年だっただろうか、素材の関係で量産が難しいアイテムが最優秀賞を取ってしまった事により、一人の錬金術師が王都を逃げ出した事例が出てしまった。

 それに伴い、技術の公開を条件に量産の義務を免除出来る選択肢が生まれたのは良いものの……そこは管理の不十分な錬金術という少数ジャンル。

 もっと前に最優秀賞を獲得した人が何人か王都から逃げ出し、他国で商売しているとか、そんな話がちらほら浮上しているらしい。


「一応、皆さんにも話すけど……マユエルちゃん次第ってのも大きいわ」

「ですね。良いものは褒める、悪いものはアドバイスを送る。それが今日の仕事ですよね」

「そうね。それと、錬金術師を目指す人が少しでも増えてくれるようになれば良いけれどね」


 それは厳しそう……という言葉は飲み込んで、シララさんの言葉に頷いておいた。

 それからどんどん審査員を務める人達が集まって、全員が揃った所で会議室の様になっている競技場の控え室に移動した。今日の流れの確認をする為に。


「今日は過去一番多く参加者が集まり、過去一番の観客が訪れると予想されます。ですが皆様には、毎年の如く審査していただければと思います」

「……で、ですが。今年は昨年までとは明らかに違いますし、それはシララ会長もお分かりでしょう?」


 痩せ型の男性から声が上がる。その声に対して他の審査員も頷く様な仕草を見せている。

 今年も審査員は全員で七名となっている。


 会長であり王都錬金術師界の権威である――シララさん。


 小さい界隈であっても、最大手となればそれなりに名は広がっている。アトリエ・カズリック王都店が代表――カズリック氏。


 店を構えず王都のあちこち村に出向いては露店を開いて販売している、旅する女錬金術師――ラミーダ氏。


 武器や防具を魔改造専門の錬金術師――ビーノ氏。


 自分の見聞を広め、百の便利グッズを産み出したと言われる冒険者兼錬金術師――ミラル氏。


 王都での流通の元締めであり、物の価値を定める時の重要人物である商業ギルドのギルド長――サカラマン氏。


 そして、無名であり一部の貴族から生活費をぶん取ってる男――ホムラ。俺だ。


 この七名はシララさんが声を掛けて集めた人材。各々、無名な俺に不満はあるだろうが、今のところそういう発言は出ていない。

 ちょくちょく顔には出ている人も居るには居るが……。


「マユエルちゃんの事でしょう? うふふ……気にしなくても大丈夫よ。ね、ホムラちゃん?」

「え? あぁ、そうですね。評価された自分の実力は素直に受け止める子ですよ」

「……キミはマユエル様の教師をしているらしいね。どうなんだい、マユエル様の作品は」

「今回はマユエルのオリジナルですし、何が出てくるかは私も知りませんよ。そもそも、聞いて簡単に教える様な子には育ててないです」


 最大手アトリエ代表のカズリック氏。壮年の貫禄があるが、嫌みジジイと表現するのが一番しっくりくるだろう。

 あからさまに俺に対する不信感を持っているのがこの男だ。


「マユエルちゃんの成長は私も驚く程ですから、皆様を心配さける事にはならないでしょう。カズリックさん、大丈夫よ」

「シララ会長がそう仰るのなら……」


 流石は誰よりも長生きしているシララさんだ。カズリック氏など赤子同然なのだろう。

 本性がエルフであるシララさんからすれば、赤子なのも当然になるのだけど。


「ねぇ、キミ~。キミはどんなアイテムを作るの?」


 俺に話が向いた時から狙っていたのか、タイミングを見て旅する女錬金術師のラミーダさんが話し掛けてきた。


「まぁ、幅広く作れるようにはなりたいと思ってますけどね。ラミーダさんは……やはり薬品がメインですか?」

「村で不足しがちな物がメインになるね、どうしても。長期間保存出来るようにした食べ物とか、汚れた布を綺麗にしてあげたりとかね」


 歳はラミーダさんの方が上だが、割りと近い。

 村から村へ、たまには街で。そんな生活も楽しそうとは思うが、人の為に……というのは俺では無理そうだ。そういう意味でも尊敬が出来る人物だ。


「なるほど。いつもは冒険者を雇ってですか?」

「うん。私は戦えないしね」

「ラミーダちゃん、ホムラちゃん。交流も良いけど、そこそこにね」


 シララさんからの制止が入って、ラミーダさんと共に軽く謝る。

 それからシララさんの進行の元、今日の流れの確認が始まった。

 それほど難しい事はなく、各自参加者の作品を見て、評価して、審査結果を纏めて最後に発表をするという流れだ。

 今回は王都外から来た参加者も居るため大変になりそうだが、その分……面白い作品に出会えそうで楽しみだったりする。


 マユエルは参加者で緊張しているみたいだが、俺は審査員で気楽なものだ。そんな事を言えば……いつもみたいにうにゅうにゅ言われてしまうだろうけど。


「失礼します! シララ様!! 国王陛下が到着されましたぁ!」


 慌てて会議室に飛び込んで来た男性が、そんな報せを持ってきた。

 本当に来たんだ――という驚きと焦りの感情が会議室を染めて、落ち着いて居るのはシララさんと俺くらいだろうか。

 流石にこの国で、王都で暮らしているからといって、簡単に会える人物では無いという事なのだろう。

 年に一度、顔を見れるか見れないかぐらいなもの。


「あらあら、挨拶に行かないといけないわね……誰か、一緒に行ってくれないかしら?」

「む、無理ですよ! 失礼で首を刎ねられたくないですしっ!!」

「わ、私も遠慮しておきましょう……」


 国王面会逆椅子取りゲームが始まった。譲り合いだ。

 貴族出身なのは商業ギルド長のみで、そのギルド長も下の爵位らしく面会を拒絶していた。

 そして、そんな大人達がどうするかと言えば……どこの世界も似たようなもので下へ下へだ。


「ホムラ君、キミは陛下にお会いした事がないだろう?」

「ありますよ?」

「そうだろう、そうだ……何故だね!? あぁ、いや。拝見した事があるだけ、という事だろう?」

「いえ、非合法的にですが普通に会話もしましたよ?」


 そう言えばシララさんにも言ってなかったと、少し驚いた表情を見せたシララさんを見て思い出した。


(あれ? でも万能薬の鑑定をシララさんに頼んだかと思ったんだが……錬金術師じゃなく鑑定士に頼んだのか?)


 そんな話をしたものだから、流れはもう「お前が行け」となってしまった。まぁ、話したい事もあったし丁度良いタイミングではあったけれど。


「シララ校長、お供します」

「ありがとね。じゃあ、みんなはちょっと休憩しておいてね」


 シララさんと一緒に会議室を出て、呼びに来た男性と共に国王陛下の待つ一室へと向かった。


「はい、はい。この先でお待ちになられているという事でして……はい、私はここまでで後は……」

「シララ様、ホムラ様、私が引き継ぎましょう」

「あっ、シミラーマンさん。お久しぶりです」


 陛下の側近であるシミラーマンさん。相変わらずシュッとしている。彼が居るという事は、本当に来たという最大の証明になる。


「ホムラちゃん、本当に会った事があるのね」

「えぇ。ちょっとマユエルの件で城に忍び込んみまして」

「……シミラーマンさん。もしかして、ホムラちゃんが?」

「はい。陛下の病気はホムラ様の薬で」


 事情は知っていた……みたいだが、詳細は伝えてなかったらしい。

 シミラーマンさんの案内で、警備の整っている通路を歩いて観覧席近くの部屋に訪れた。


「どうぞ、お入りください」

「はいはい、ありがとね」

「失礼致します」


 部屋に入ると、見覚えのあるセラシウム国王陛下。それと、見知らぬ女性。服装や見た目、座っている場所が陛下の隣である事から奥様……王妃だろうと予想がつく。


「シララ様、ホムラよここは私用の場ゆえラクにしてくれ」

「『様』はおよしと言っているでね。私はただのおばあちゃんよ。ね、ホムラちゃん」

「おばあちゃ~ん」

「お~、よしよし」


 国王夫婦は苦笑いだった。乗り損だな、これはシララさんが一〇〇%悪い。


「ホムラよ、お前が来てくれた事は都合が良い。マユエルの事だが……」

「もちろん、心得てます。容赦は無し、正当な評価を致します。ただ、シララ校長と私くらいになりますが……」

「ふむ。仕方ない部分はあるといえな……」

「そうだ。私からもお話があるのですが……」


 シララさんに連れて来て貰い、しゃしゃり出る場では無いのは承知の上で、ここしかチャンスが無いと話を切り出した。


「マユエルの件ですが……今後の成長の為にも、話題のダンジョン都市へ見聞を広めさせるのはどうでしょうか?」

「……無理、だろうな。一国の王女を国外へ出すにはリスクが高過ぎる」


 無理とは言ってはいるが、心情的には出来ないにニュアンスが近そうだ。

 王女を拐われでもすれば、国が揺すられる事態になりかねない。そんなリスクを国王が背負う訳はない。当然の事だ。

 だからと言って、こちらもマユエルを諦めようとは思っていない。されど……俺達が勝手に連れ出せば拐うと同義、一気に犯罪者となる。


「ま、そうですよね」

「お主は行くのか? 数年経てど、未だに攻略されておらぬダンジョン都市へ」

「えぇ。(ちまた)では勇者召喚が行われるとか囁かれているそうですが……厳しいでしょうね。この競技場を一撃で破壊する魔法を持っていたとて、魔法の使えないダンジョンでは無意味になりますし」

「そなたは耳が早いな……」


 どんな勇者が現れるかは知らないが、勇者と言われるだけの力を持っていたとしても意味がない状況なんていくらでもある。

 ダンジョンの情報も少しずつ知れ渡っていて、中立国家も勇者召喚の儀をあの手この手で調べていることだろう。

 全てを超越している勇者……なんてのが居たらお手上げだが、そんな手綱の握れない勇者ななんて、悪魔と称しても変わり無い。


(どうするかなんて、全てはこの世界に実在する神次第だろうが……その神と手を組んでいるのが師匠だ。バランスは考えるだろう)


「何処にも出ていない情報を幾つか出します」

「情報……とな?」


 マユエルを連れて行くには、こちらも何かカードを切らないといけないのかもしれない。


「ここだけの話でお願いします。嘘の様な話ですが……」


 俺は鞄から手紙を取り出した。師匠から送られてきた手紙だ。

 各国の王達にも出したと書いてあったから、一から話す必要はないはずだ。


「神と協力してダンジョンを作り出したと手紙を寄越した人物が居ますね?」

「……何故それを? その情報は出ておらぬはずだ」

「シララ校長は覚えていますか? 俺の師匠を」

「もちろん。……本当かい?」


 気付いてくれたシララさん。だが、王様達は未だにハテナマークを浮かべている。

 俺はどういう経緯で、誰が、何のためにダンジョンを作ったか、陛下に話していった。こちらの切れるカードのひとつだ。


「……道楽、だと?」

「はい。世界を巻き込んだ道楽。もちろん、錬金術師を育てるという裏の意味もありますが、私の師匠の道楽でダンジョンは作られました」

「……驚きのあまり言葉が出ぬな。たった一人の人間に神を動かし、世界を変える事が本当に可能なのか?」

「一人の人間だったからこそ、神を動かせたのかもしれません。……すみません、つまらない言葉遊びです」


 陛下が頭を抱えてしまう。ダンジョンに関するあれこれについて考えているのかもしれない。

 この国からも騎士の方達がダンジョン攻略へ出向いている。国が動いているというのに、それが今たった一人のただの道楽と知って憔悴し始めてしまった。


「故に、私は当然ダンジョンを攻略しに出向きます。それに、ダンジョンで手に入るアイテムは質が良い。それは間違い無い事ですから」

「……頭の痛い話だ。ラサミュベス国が知ればより激怒するであろうな……」

「いろいろと裏をお話しましたが、当然ミスをすれば死にます。でも、私達のパーティーにはマユエルが必要です。絶対に連れていきたいと思っています。すぐに返答をして欲しい訳ではありませんが、今年度中に。マユエルを一時期休学させる事になりますが……旅立とうと思いますので」


 学校を卒業してからという話になれば、あと二年は掛かる。

 だが、その二年をどうせならダンジョンで学ばせたい。俺や他のメンバーもこの王都より、ダンジョンでの方が強くなれる。

 ここ数年はマユエルに基礎を叩き込むのに時間を貰っていただけで、可能な限り早く行動したいとずっと思っていた。


「一度、持ち帰らせて貰おう。とんだ話を持ってきたものよな」

「申し訳ありません。そうだ! 最近、病気の具合はどうでしょうか?」

「……変わり無い。心配、感謝する」

「それは良かったです~。シララ校長、そろそろ時間ですね! 戻りましょう」


 最後にわざとらしく治した病気の心配をする『振り』をしてから、退室させて頂いた。王妃には終始ちょっとだけ睨まれていたが、その程度で怯む事はない。

 とりあえず陛下の心に何が刺さるかが分からないから、数打ちゃ当たる戦法で弾を散りばめておく事にした。

 このまま良い返事が来れば最良だが、これでもまだ王女を連れ出すには足りないだろう。交渉にはやはりキャサリンさんがいなければまだ経験値の低い俺では陛下を言葉では倒せない。


「ホムラちゃん。相手は一国の王よ。興味が無いとはいえ、礼儀作法だけは守らなきゃね」

「……すみません。どうも気が抜けると雑になってしまうみたいで、精進します」


 シララさんに、所々雑になってしまった国王への礼儀を少しばかり(たしな)められながら、審査員用の控え室へと戻って行った。

 もう、観客は集まって、参加者も到着したらしい。

 ――いよいよ、始まりだな。




祭りは……始ま……るね!


誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!

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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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