第44混ぜ マユエル強化訓練
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「はぁ……はぁ……うにゅ~」
「へいへい! もうへばったのか~? へいへいへい」
本格的な基礎体力強化の授業を初めて二週間程。少しずつ走れる距離は事を長くなり時間は縮まっているが、元がダメダメであった事から理想とする値まで届いてはいない。
「先生、何で並走……する?」
「ふっ、ふふふ……それはね、先生もキャサリンさんに同じ事をされたからだよ」
「はぁ……はぁ……最悪なのよ?」
「煽るぞ~、先生は煽るぞ~」
走るルートは敷地内の端っこ、走りやすく整備された場所以外をひたすら走らせていた。
まだ三周。結構広い敷地だから一周すれば二キロメートル以上はあると思うけど、それでもまだまだ。もっと体力をつけて貰わないといけない。
「やっぱりお姫様は体力どころか、根性も無いなぁ!」
「うにゅ……そんなこと……無いもん」
「でも、昨日よりタイムがずっと遅いもんなぁ~」
「うにゅ~!!」
扱い易くて助かりますねマユエルは。
実際のタイムは昨日よりも速い。だが、王女であったり、お姫様だからという理由で諦められるのを、本人は酷く嫌がるみたいだ。発破を掛ける様になったのはそれを発見してからで、後押しするのには持ってこいの効果だ。
――それから煽り続けて、マユエルが立ち止まるまで走らせた。
昨日よりも走った距離は数十メートル伸び、タイムも縮んでいる。
「昨日マユエルよりは良い結果だ。頑張ったな」
「はぁ……っ、はぁ……死ぬのよ……」
アトリエ近くの草むらの上に仰向けで倒れ込むマユエルには、どうやら言葉は届いていないみたいだった。
必死で息を整えようと、呼吸を繰り返している。
「じゃあ、休憩した後は筋トレだからよろしく」
「うにゅ~……」
嫌そうな返事だ。最近は『うにゅ』のイントネーションで感情も掴める様になってきた。
寝ているマユエルの近くに座って、今まさに魔法科の授業が行われている校庭の方を見てみた。
六年生だろうか、二人一組になって、片方が防御魔法もう片方が攻撃魔法を使って訓練をしているみたいだ。他の学年の子もそれぞれ先生の指示で魔法の授業をしている。
「見てみろマユエル、魔法の授業やってるぞ」
「いや、起きれないのよぉ……」
「ほら、起きた起きた! せっかく他の学科の授業をタダで見られるんだぞ? 見て盗めればお得だろ?」
「にゅばぁ~なのよ~」
無理矢理マユエルを起こして、木に寄り掛からせる。
魔法科の授業を二人でボーッと見るいく。詠唱をして魔法を放つ男子生徒、防御魔法で防ぐ女子生徒。マユエルと同じ学年らしき子達は、的に向かって魔法を放っている。
「まぁ、詠唱してる時点でぴちゅんなんだけどな」
「ぴちゅんなのよ~」
魔法科の授業を見ていて意味があるかは分からない。錬金術師を下に見てくる奴の多い魔法師だが……やはり持ってる才能は個人によりけり。差は一目瞭然だ。
きっと、優越感と劣等感に浸る生徒が一番多いのは魔法科だろうな。他の科でも出来る生徒と出来ない生徒での線引きはあるだろうけど、魔法科はそれがより強く出ている。
(まぁ、教える先生のほとんどが貴族の出だったりするからだろうな。平民の子と貴族の子での対応に違いがあるし)
本来はそういうのを認めていない筈なのだが、ある程度は黙認しないとやってられないとシララさんも割り切っているのかもしれない。
「マユエル、お前の精霊魔法なら全員を倒せるんじゃないか?」
「一対一なら……でも、フランは厳しいのよ~?」
「えっ!?」
そういえばフランも魔法科だったと、改めて魔法科の生徒達を見渡して探した。
退屈そうに魔法を放っている姿を発見したが……まさかマユエルからフランの名前が挙がるとは驚きである。
フランに関しては、ここ最近ちょくちょくアトリエに来ては騒いで帰るだけの存在だ。だからマユエルも名前も覚えたのだろうけど、魔法に関しての印象はほぼ無いと思っていた。そもそも見た記憶も無いんだけど。
「なんで、フラン? タルトレット家は魔法の名家とは聞いた事あるけど……」
「うにゅ~……説明は難しいのよ? でも、他の人とレベルが違うのよ?」
「今も退屈そうにショボい魔法を放ってるけど?」
「相手に合わせてるだけなのよ~」
魔法に関して言うならマユエルの方が俺よりも深く知っている。だから疑う訳ではないが、フランのあの姿を見る限りだと信じるのはちょっと難しい。
仮に、マユエルの言う通りフランの実力が抜きん出ているとしても、それは結局はどうだっていい話だ。誰が強くて誰が弱かろうと、錬金術師にとっては自分以外なんて関係ないからな。
「マユエル、世の中には勝てない相手は確実に居る。それでも勝つしか無い時は、とりあえず生き延びる事だ。生きて、勝てるまで自分を成長させてまた戦う。無様だと笑われようともな」
「逃げる~?」
「まぁ、逃げるのは弱者のすることだな。でも、そんな自分からまた立ち向かえる自分になれた時。その時はもう弱者じゃなく、そんな自分に勝てた強者だろうよ」
「難しいのよ?」
たしかに冒険者でも何でもない戦いとは無縁なお姫様にする話では無かった。
騎士団の事とか詳しくは知らないけど、おそらくは敵前逃亡は許されないのだろう。それでもマユエルには逃げて生き延びる事を覚えてて欲しかった。『逃げるは一時の恥、死ぬは一生の終わり』って言うしな。
「まぁ、簡単に言うと……勝てる場合と勝てない場合を冷静に見極めて、命大事にって事だ」
「あらあら、ホムラちゃんったら……そんな事も教えているのね?」
第三者の声にハッとして、その声のした方に顔を向ける。
驚いたのは単純に、ここまで近付かれたのに気付けなかったからだ。それなりにキャサリンさんから鍛えられているのに……接近する気配を感じ取れなかった。
「だいぶ離れた場所から魔法を使っていましたね? シララ校長」
「うふふ。近くで魔法を使ったらマユエルちゃんに気付かれてしまうものね」
「うにゅ……まったく分からなかったのよ……」
流石はエルフというべきか……年の功というものも含めて、魔法を使ったイタズラでは一生を費やしても勝てはしないだろう。
というか、いい歳して子供相手にドッキリを仕掛けるとは酷いものだ。
「シララ校長も心はまだまだ若いですね」
「あらあら、ホムラちゃん……減給ね」
「職権濫用じゃないですかっ!? いや、スミマセン……口か過ぎた私めが悪いです」
目がマジだったシララさん。やはり冗談でもエルフ相手にでも、見た目や年齢に関しては女性に言っちゃいけないタブーだった。
減給にする所に怒りの本気度が感じ取れる。長期に渡ってダメージを受け続ける働く者にとっては一番嫌な罰だからな。
「それで……シララ校長、どうされたんですか?」
「そうそう。ホムラちゃんに頼みがあってね。マユエルちゃんは知ってると思うけど、二年生は授業で近くの森に入る事になってるの」
「あぁ……なるほど。体験学習みたいな。でも森って王都を出るって事ですよね?」
「楽しみなのよ?」
シララさんからの説明を纏めると、毎年恒例の学科毎に二年生と選ばれた六年生で近くの森で一日探索をするという授業を行っているらしい。
二年生はパーティーを組んで、魔物の討伐や森での行動を早くも経験する。六年生はその監督役として二年生達を纏め導く係りだ。
先生達や騎士団の人達も各パーティーに付き添うらしいけど、隠れて見守り、危険な状況になった時以外は出ないみたいだ。
「マユエルはどうするんです? 錬金術科は一人しか居ませんよ?」
「そこで相談なのよ。六年生の役目をホムラちゃんに引き受けて貰えないかって。護衛の方はマユエルちゃんには付いているでしょ?」
「はぁ……つまりは、魔物退治や素材採取の仕方をマユエルに教えれば良い、と?」
「えぇ。お願い出来ないかしら?」
時期を見て、外での課外授業をしたいとは思っていた。想定していたのは、街の売り物で良し悪しを見分けるくらいの事だった。
だからむしろ、これは良い機会だ。マユエルに魔物の使える部位についての授業をリアルで出きるのはありがたい。
「もちろんです! 素材についての授業が出来ますし……その行事の詳細について教えて貰っても良いですか?」
「ありがとねホムラちゃん。じゃあ、ここではなんだからアトリエにでも行きましょうかね」
「そうですね。マユエル、戻るぞー」
「先生、おんぶ」
「まだ疲れてんのかー? ほら、今日だけだぞ?」
目と鼻の先にあるアトリエだが、駄々を捏ねられて時間を浪費するよりは……という思いで仕方なくマユエルを背負って、シララさんとアトリエへと戻った。
そして、森の演習について詳細な話をそこで聞かせて貰った。
ノルマは魔物を討伐して素材を取るか、自然に生えている素材を取るかすれば良いとの事。早
朝に学園出発して夕暮れまでという時間の予定。欲を言えばもっと時間は欲しいけど、森までは豪華にも馬車での送迎でそんなに時間は掛からないらしく、思ったより活動時間はあるみたいだった。
最後に念のための回復薬の依頼をシララさんに受けたが、行事についてはだいたい理解できた。
「じゃあ、よろしく頼むわね」
「はい、お任せを。マユエル、ドアを開けて差し上げて」
「分かったのよ~」
「あらあら。ありがとねマユエルちゃん」
シララさんを見送り、マユエルに筋トレを指示した後で、その行事までにやる事をリストアップしていった。
給仕科の生徒は森から帰って来た生徒達の手当てや食事の用意をしたり、前日からいろいろと準備するらしく、当日森には入らないらしい。
それでも、その他の学科の生徒……六年生を含めて百名以上は森へと入る。回復薬に必要な素材はシララさんが用意してくれるから心配は無いが、マユエルから言われた銃の改造やその他の準備をしていると結構ギリギリになりそうだ。
森へと行くのが来週。錬金術科は俺とマユエルのペアで動きやすいとは言え、実質マユエル一人で魔物を倒したりしなければならない。
明日からは訓練も基礎トレーニングを一旦止めて、戦闘訓練に変えた方が良さそうだ。
「マユエル、明日からは森の演習に向けた訓練に変えます。錬金術師は自分で素材を取りに行くこともあるから、最低限の強さってのも必要だしな」
「うにゅ~!」
「やる気があるようで結構!! でも、今は腕立ての時間だぞ頑張って!!」
「うににににぃ~」
マユエルの嫌がる声がアトリエに響くが、護衛のキャロルもシララさんが来た事でアトリエの中には居らず、止める人は居なかった。
◇◇◇
次の日から、マユエルの戦闘訓練を開始した。
とは言っても、精霊魔法と銃の練習くらいだ。弱いモンスターに対して、今のマユエルの武器は強すぎてしまう。素材もろとも吹き飛ばさない様に加減するのが今の目標としている。
ただ、それでは面白くない。動かない的に当てるのは当然という事で――。
「へいへいへい、マユエル当たってないぞ~?」
「うにゅ……そんな変な魔物居ないと思うのよ?」
俺自身が的となり、森を走り抜けながらマユエルの攻撃を回避し続けていた。
木から木へと跳び移ったり、地面を颯爽と駆け抜けたり、魔法に対して防御してみたり。とにかくマユエルからの攻撃から逃げ回ってみた。足場の悪い場所をあえて走る事により、マユエルの体幹や体力の強化にも繋がって、一石二鳥にもなっている。
「こんなんじゃ、跳躍兎すら倒せないぞ?」
「うにゅ~!! ちょっと、本気だすのよ」
「銃の軌道は真っ直ぐだ。速いとは言え今のマユエルじゃ、狙いを定められないだろ~」
「ぴちゅんなのよ!!」
マユエルがムキになればなるほど、銃も魔法も当たらなくなっていく。
その辺のメンタルは、いくら天才児とはいえまだまだ八歳の女の子だ。追々の課題として覚えておこう。
――マユエルの訓練、回復薬の作成、銃の改造、森でやる事について……いろいろと考えてたり作業をしている間にも、時間は経過しており、ついに行事は明日へと迫っていた。
明日は早朝の出発という事で、キャサリンさんと共に学校のアトリエで夜を明かす。シララさんの許可は取ったから問題は無い。
「ホムラ様、そろそろお休みになられませんと」
「すみません、もう少しだけ……。そうだ、給仕科の方は順調ですか?」
明日の自分の食事だけはちゃっかりと用意している俺。知られればかなりセコいと罵られるだろうが、そんな事を言われても気にする俺じゃない。
その作業はあと少しで終わるが、世間話としてキャサリンさんに他愛もない質問してみた。
「そうですね、みんな良い子達ばかりですよ。教える事は山程ありますが、卒業までに立派なメイドに仕上げてみせます」
「あはは、キャサリンさんみたいなメイドが沢山居たら凄い事になりそうですね」
「いえいえ、私なんて……。ホムラ様お一人世話するのだって大変ですから」
「……すみません迷惑ばかり」
「冗談ですよ」
夜中に差し掛かった所でようやく作業も終わり、準備は整った。
後は朝を待って、森へ行くだけだ。
「キャサリンさん。仮にマユエルが怪我したりしたら、どうなりますかね?」
「一大事……になりますね」
「回復薬、良いの持っていっておきますかね」
「それがよろしいかと。国を出る準備を進めておきますか?」
「怖いこと言わないで!? マユエルも多少は戦えるからきっと心配無いよ!!」
キャサリンさんが不穏な事を言ったせいで、夜が明けて目が覚めてからも、微妙な気持ちを引きずったままだった。
だが早朝の天気は逆に清々しく、なんだか心を浄化してくれるみたいだった。
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