第43混ぜ 危険なオモチャ
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アトリエの中をうろうろし始めたマユエルを呼び止めて、先に聞かなければならない事を、聞いてみた。
「マユエル、帰らないといけない時間って何時頃だい?」
「うにゅ……夕刻なのよ? 寮にも門限があるの」
「ほぉー……お? お城から来てる訳じゃないのか?」
「それは私が答えます。街中を毎日お嬢様を乗せた馬車で移動するより、寮で生活して貰った方が護衛的な意味で安全と判断した結果です」
夕刻までなら、ギリギリ良いだろうか。およそ五時間と計算しても、諸々を含めた基礎トレーニングをするなら十分な時間だ。
裏技的に、疲労回復させたり、筋肉痛を治したりすればより効率的に授業が行える訳だし。
「なるほど……。やっぱり、王女だと狙われることってあるんですか?」
「はい。王都に潜む悪は……残念ながらたしかに存在します。組織的であったり、他国の密偵、ただの愚か者という場合もありますけどね」
「王女も、護衛も、まぁ大変だこと」
「他人事みないに言ってますが! 護衛が最小限であるこの時間が、今の現状では一番危ないという事を理解しておいてくださいね?」
「……マユエル、誘拐なんてされたらキャロルさんの首が飛ぶから注意するんだぞ」
「死ぬときは一緒ですよ、ホムラ先生」
怖い笑顔でキャロルさんにそう言われた。
ロマンチックな場面であれば喜ばしい台詞なのだろうが、今は物凄く嬉しくない。
悪漢でも来た際に頼みの綱となるのは、このアトリエの頑丈さとキャサリンさんかシララさんだけ……。キャロルさんは盾になるとしても、なんだか時間稼ぎにしかならなそうだ。
(ここを卒業しても、自衛の力が無いと生きていけない世界だしな……)
騒ぎになる前に解決するか、マユエル自身になんとかしてもらうか。要は、問題にならなければ、誰も何も咎められる事は無いという事だ。
マユエルの才能は錬金術だけじゃない事を考えて、授業とは別に強くなってもらう必要がある。俺の首が飛ばないように。
「じゃあ、ちょっと外に行こうか。昨日言ったオモチャをプレゼントだ」
錬金術についての最初の授業。軽くやって見せただけだが、今日はこのくらいのもので十分だろう。
気分転換という意味合いも込めて、またも外へと誘った。今から渡すオモチャは、屋内では使えないプレゼントでもあるのだ。
「うにゅ~、プレゼント!」
マユエルに持ってきたプレゼントとは――簡単に言ってしまえば銃だ。二丁の拳銃。もちろん、ただの拳銃では無い。
改造……というより、文字通り『魔改造』した特注品。弾の代わりに込めるのは本人の魔力。つまり、打ち出すのも銃弾ではなく魔力の弾『魔弾』。
マユエルが今も精霊の力を扱えてないと思ったから、込められる魔力に上限のあるこの武器をプレゼントしようとした……のだが、その件は解決していたみたいだし、完全に取り越し苦労となっていた。
それでもまぁ、魔力が多い人間が使うには便利な武器には違わないだろうし、扱い方自体も簡単だ。マユエルにはピッタリな武器になると思っている。
「ただし、このプレゼントの出所については内緒にすること。もし、どうしても言わなければならない時以外は、空から降ってきた――とでも言うこと。良いね?」
「分かったのよ~」
「錬金術師は何かと秘密にしないと、厄介事を近付けてしまうからね」
アトリエから出た俺達が向かったのは、校庭の方角から反対に歩いていく、人気の少ない学園の端の端。アトリエからは遠くない学園の隅の隅だ。
そこで、拳銃の入った箱をマユエルにプレゼントした。他の事情を知らない人から見れば、完全に怪しい取引現場だっただろう。物も物だし。
「開けて良い?」
「いいぞ」
「開けるのよ~」
箱の蓋を取ったマユエルは、中にある黒色と白色の拳銃を右手と左手にそれぞれ持って、構えた。構えとは言っても、グリップ部分を握って俺の方に銃口を向けているだけだけど。
シルエットは拳銃そのものだが、当然、細かい部分は変えてある。それでもトリガーを引かなければ発射しない仕組みや、安全装置が付いているのは同じだ。
「ふむふむ……ちょっと両手をローブの中に戻してみてくれ」
「……こう?」
「あー、良いな。銃を持ってるなんて一見して分かんないし、奇襲にはもってこいだな」
ゆったりしたローブ。ポワポワしたてるてる坊主マユエルが、危険な武器を持っているとは誰も思うまい。
誰も思わない――それは、意表を突くという事に関して言えば当然、有利に働く。
「とりあえず使い方を教える。どっちか貸してくれ」
「うにゅ~、黒い方貸すのよ」
「はいはい、ありがとう。……使い方は簡単だ」
安全装置を解除して、握った場所から拳銃に魔力を流していく。弾数のメモリの代わりとして、流した魔力が薄い緑色となって銃口の方から染められていく。
この薄い緑色が拳銃を染め終えたら、十発は撃てるだろう。両方合わせれば二十発もだ。
しかも、少しの時間が確保できれば、魔力を流すだけだから補充も素早く終わる。むしろ、慣れれば片方を補充しながらもう片方で撃つことも可能だろう。
「緑に光ってるだろ? そうしたら、狙う方向に銃口を向けて……はい、ピチュン!」
音は無く、反動も無く、手応えもあまり無い。ただ、狙ってみた木の幹には反対側まで穿たれた穴が開いていた。
ピチュンと口にしたのは、マユエルに伝わりやすくなると思った為。
発砲音は位置がバレるから、改造した。反動は狙いが逸れるから、改造した。結果として、銃を使っているという実感は無くなってしまった――本来の威力だけは残して。
(これに関してはキャサリンさんにはめちゃくちゃ褒められたけど、師匠は面白味が無いと言っていたっけ?)
たしかに、殺傷能力だけは一人前の引き金を引くだけの武器。面白さは無いかもしれない。
「ま、身を守るにはピッタリだろ?」
「うにゅ……なんていう武器を持たせてるの?」
「弓でも無い……大砲……でもない。たしか、どこかの国が一人で持ち運び可能な小さい大砲を作っているって……今のが、そうなのか?」
キャロルさんの独り言に耳を傾ける。そして、拳銃は早過ぎたかもしれないと気付いた。
空から降ってきた……そんな言葉で説明しようなんて、到底無理な話かもしれない。
(やべぇ……弓だもんな。遠距離といえば、まだ弓か大砲だもんな。失敗した……テキトーに改造した弓にすれば良かったかもしれない。でも、マユエルの筋力を考えたら……なぁ)
このままだとキャロルさんが誰かに報告して、それから何か会議的なのが行われて、気が付けば俺が王城に召喚されてる……みたいになってしまう気がする。
それは面倒だ。武器の量産を命じられれば当然断るし、断れば追い掛け回される事になるだろうし。
何か良いアイデアは無いだろうかと、頭を回転させる。
言い訳は得意ジャンル。それっぽい嘘を吐く。いつかはバレるとしても、直近でバレるよりはマシだと割り切る。
「……そうだ、ダンジョンのせいにしよう。うん。それなら、いけるかもしれない」
「うにゅ?」
「マユエル、キャロルさん。この武器は、先生がダンジョンで発見した武器で、そうだな……今までは使えなかったけど、精霊と契約しているマユエルが使用した事により、使える様になった――これでいきます」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それはどういう事だ?」
「ですからっ!! こんな武器を俺が作ったなんて事になれば、間違いなく面倒になる。でも、ダンジョンで発見した事にすれば、冒険者も頑張るし、いろいろ丸く収まるとは思いませんか?」
全てはバレた時の話で、バレなかったり誰も気に止めなければ問題は無い。でも、そんな事はきっと無い。いつかはバレるし、騒ぎにもなるだろう。
でも、俺がダンジョンと呼称している場所なら、神秘的で押し通せる。
ダンジョンとは、自然的に出来た場所だったり、神が作った場所と言われているらしい。つまりは、何が手に入ってもそこまで大きな問題にはならない。
しかも、精霊と契約しているマユエルが触れたからとなれば、いろいろと良い感じではないだろうか。特に、俺に責任があまり来ない部分とか。
「えっと……キャロルさんに分かりやすく言うと、とりあえず武器については詳しく無い振りをしておけば、マユエルの自衛する力が上がるし、安全になる。大丈夫ですか?」
「う、うむ……。私はあまり難しい事は分かんないが……お嬢様が安全になるのなら私はそれが一番だと思う」
「オッケーです。マユエルは、理解出来てるか?」
「うにゅ。神秘って言う」
「バッチリだな。……よしっ! 気兼ねする事も無くなったし! 後は自由時間とします。好きに遊びな。遊ぶ事も大事だからな」
どうにか国を追い出される事にはならなそうで、安心だ。
何か問題を起こせば、立場的にシララさんにも迷惑を掛けてしまう事になるだろう。
「ぴちゅん。ぴちゅん」
俺がピチュンと言ったからか、マユエルは打つ時にそう口にしている。ただ、可愛い掛け声とは反対に、木にどんどん穴が空いていく。
扱いは簡単な魔改造拳銃――マユエルも数発撃てば慣れたのか、若い子の適応力でもう楽しみ始めていた。
「先生も武器ある? 私は弓もちょっと出来る」
「出来るのかよ……。そうだなぁ、短剣と体術と……あと、マユエルが持ってる武器に似てるのもたまに使うな。全部人並みだけど」
技術はキャサリン基準で人並み。ただ、武器の性能に力を注いでいるから他と渡り歩ける程度には戦える。
マユエルには拳銃を渡したが、俺が使うのは狙撃銃。命中率の高い、世に出せば射撃訓練が要らなくなるとキャサリンさんにお墨付きを貰った一品だ。当然、これも面白味が無いと師匠には不評だったが。
「ぴちゅん。ぴちゅん。うにゅ……先生、飽きたのよー?」
「だろうな。作業になってるもんな。じゃあ……止めて休憩でもしな~」
「錬金術に詳しく無い私が言うのもなんですが……そんなにユルくて良いのですか?」
「何事も経験。これ、大事。それに、明日からは走ったり鍛えたりですからね。マユエル、動きやすい服で来るように」
「うにゅ。私も先生と休憩する」
そして、つい先程の昼休みの再演となった。
猫の様に座っている俺に凭れ掛かって座り、マユエル様はリラックスされていらっしゃった。
ちょっとした森林浴みたいで、心地良い。
「どこか、銃で改造したい所があったら考えておきな」
「先生、やってくれる?」
「特別にな」
「考えとくのよ~!」
マユエル用にカスタマイズする。贈った物に対しては最後まで責任を持つのも、ちゃんとした大人の責任だ。
銃をいろいろ見ては、いろんな意見を出してくるマユエル。
「まるで、本当の兄妹の様ですね……」
「ん?」
「あ、いえ……。マユエル様、私は周辺の確認に行って来ますので、何かありましたら大声を出してください。すぐに駆け付けます」
「うにゅ~」
音も無く去ったキャロルさん。何か気になる様な事を言っていた気がする。
「先生、足痺れる?」
「大丈夫だぞ」
でもまぁ、今はゆっくりと休むことにしますかね。
◇◇◇
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