第42混ぜ マユエルの才能
お、お待たせしました……!
よろしくお願いします!
一週間くらい空いてしまったので、忘れてしまった方は、前の話をチラッとでも読んでくだせぇ。
m(_ _)m
慌ただしく登場したフランの用件を纏めると、二つだ。
ひとつは先生になることを教えなかった点。もうひとつは、昨日の呼び出しの点。まぁ、そう慌てる事でもないと思うのだが……フランはこうしてやって来た訳だ。
ただ今絶賛お怒り中なのだが、この国の王女であるマユエル様を前にすると、貴族のご令嬢とはいえ無力らしい。いつもの勢いは無い。
「ちょっと、もう……どうすれば良いのよっ!」
「知らん」
「知らんー」
俺と、俺の言葉を真似してフランをからかうマユエルのダブルパンチの前に、フランは意気消沈した。フラフラと木陰に入って、そのまま俺達の隣に腰を降ろして項垂れる。
「フラン、飯は?」
「食べてない……」
「普通は食べてから探すもんだけどな。じゃ、マユエル食事にしよう」
「むぐぐ……ちょっとぉ!! あんたには優しさってものが無いの!? どうせ沢山隠し持ってるんでしょ! 寄越しなさいよ」
「えー……」
「えー、じゃないでしょ!! 頼みまじゅからぁ……朝も遅刻ギリギリで何も食べてないの」
フランの事など知らぬマユエルは、サンドイッチを食べ始め、護衛の筈のキャロルはマユエルより先に食べ始めていた。
動きづらい中でどうにかポーチに手を突っ込んで、食べ物を取り出す。それを、お腹を鳴らしている淑女にはあるまじき行為をしているフランに渡した。
「……なによこれ」
「何って、見れば分かるだろ? おにぎりだ」
「わかんにゃい! 当然だろ、みたいに言われてもわかんにゃい!」
「パンを主食にしてる国じゃ、珍しいかもだけど……まぁ、とりあえず食えよ」
そう言ってもまだ、おにぎりを包んでいるラップを開こうとしない。
たしかに海苔で巻いてあるため、フランには固くもなく柔らかくもない……何やら得体の知れない黒い物体にしか見えないのかもしれない。
けど、その食べる時のお手軽さはサンドイッチと同じだ。西のサンドイッチ、東のおにぎりと言うしな。俺しか言ってないかもしれないけど。
「ねぇ、これ本当に大丈夫なのぉ~? これ、まさかカビとかじゃ無いでしょうね!?」
「仕方ないなぁ……」
何個か作ったけど、おにぎりの中身はツナマヨか鮭という定番のどちらかだ。だからフランでも、食べさえすれば気に入るとは思うけど。
まだおにぎりを突っついたりしているフランを見るに見かねて、俺が先におにぎりを食べてみせた。中身は鮭、やはり美味い。
「こっちは鮭だぞ」
「なによ鮭って……でも、美味しそうじゃない。その食べ方ってはしたなくないの?」
「これが正しい食べ方だから、大丈夫だろ」
俺が食べたのを見て安心したのか、フランもようやくおにぎりにかぶりついた。
何回か咀嚼をして、その味を確かめたフランの目はキラキラと輝いている。どうやら食べたのはツナマヨで、その味に満足はしてくれたらしい。
「美味いだろ?」
「なにこれ美味しい!! ナイフもフォークも使わないから楽だし! 見た目も……そうね。慣れれば可愛い形じゃない」
フランのおにぎりへの称賛を聞いていると、マユエルが首を後ろに曲げて、見上げるようにして俺を見ていた。
首が痛かったのか、すぐ元に戻ったが……あの目は未知への好奇心。食欲に忠実と言い換えても良いかもしれないが、錬金術師にとって好奇心とは必要不可欠なものだ。隣人として大切にすべきものである。
(その好奇心を満たしてあげるのも、先生の仕事か)
まだ昼休みであり、休憩時間だ。だが、錬金術師にとって大事なアイデア……それが、いつどこで閃いて降ってくるか分からない。
気になったならとことん調べる癖を今の内から付けておくのも良いだろう。
「マユエル、気になるか?」
「うにゅ」
「世界にはお前の知らない事。先生も知らない事がまだまだ沢山ある。だから、どんなに小さい事でも自分が気になる事は気にする様に。それが、錬金術師への第一歩になる」
「分かった」
「よろしい。じゃあ、おにぎりもお食べ。サンドイッチの残りは先生が預かっておくから」
「うにゅ~!」
そしてまた、流れゆく風を感じながら昼過ぎの心地よい時間を過ごしていく。いつの間にか、学園まで走って来て疲れた身体が癒えていた。
――そして、三回ほど鐘の音が鳴り響いた。
「ヤバッ!? 次の授業が始まっちゃう! マユエル様、この場を失礼させていただきます。ホムラ、ちゃんとマユエル様に教えるのよ!!」
「分かってるって、ほら帰った帰った」
「何よその扱いぃ! 帰りますぅ~、言われなくても帰るんですぅーだっ!」
慌ただしくやって来たフランは、戻って行く時も慌ただしかった。
「先生、どういう関係?」
「んー、フランか? なんか、お姉さんの病気を治して欲しいって頼まれて……治したな。今やタルトレット家は収入源のひとつだ」
「病気も治せる?」
「当たり前だろ? 死者の復活以外なら何でも出来る――それが先生の師匠が言っていた言葉だ。覚えておきな」
午後の授業が始まるという事で、俺達もアトリエへと戻ることにした。
初めての授業で緊張するかと思っていたが、生徒はマユエル一人だし、今は少し打ち解けてもいるから気楽に出来そうだ。
(はてさて、教える事は沢山あるけど……何から始めようかね?)
◇◇◇
アトリエに戻って来て、マユエルには備え付けの机に一先ず座ってもらう。
錬金術科にも教本らしき――著者を見るとシララさんだった――物が一応はあるが、初日だから座学よりも実際に見せた方が良いかもしれない。
それに、自分で学ぶという事を覚えて欲しいという理由と、結局は実技の基礎に時間が掛かるという理由で、座学についてらあまり教えるつもりは無い。
「マユエル、錬金術についてはどれくらい知識を持ってる?」
「ぐるぐる~ってするのよ」
「ちょっと正解だ。でも、全然違うな。マユエル、座学はあまりしないから……その本は自分で時間のある時に読んでおくこと。もちろん、分からない所は聞いてくれて良い」
「うにゅ。今日は、何する?」
「今から実際に、錬金術を使うまで、最中、片付け……と一連の流を見せようと思う。イメージと発想。この二つは錬金術師にとっての生命線だからな」
一度座らせたが、すぐに立たせて、何をするのかを近くで見るように言い聞かせる。
まず最初にするのは、いつもなら面倒な水汲み。アトリエの外にバケツを二個持って行き、汲んでは釜に流し込む作業を五往復ほど行う。
次に、作るものだが……今回は簡単に回復薬を作っていく。作る物が決まれば、それに必要な素材を用意する。
「どの素材が良いかの目利きはまた今度に」
「うにゅ~……この葉っぱ、何か感じるのよ?」
「(――マジか)……マユエル、ちょっと素材に集中してみろ。あなたの声を聞かせて、と強く思え」
「うにゅにゅにゅ……にゅ!?」
一際大きめの声を出して、驚くマユエル。おそらく『聴こえた』のだろう、素材達の声が。
精霊に愛される子であるマユエルならもしかすると……とは思っていた。でも、実際に素材の声を聴いているところを目の当たりにすると、不思議な感覚と共に嬉しさも込み上げてくる。
師匠ですら、声は聞こえないらしいから。そこになんの違いがあるかは分からないが、あるとないでは絶対に違ってくる。
「どうだ? 何て言ってる?」
「癒したいって、言ってるのよ?」
「マユエル、君には間違いなく才能はあるよ。錬金術師としての。素材の声を聞ける人は少ない。誰でも聞こえる訳じゃない。その意味が分かるかい?」
「うにゅ……」
「そう、絶対に変な子と言われる!! 先生もそうだからな! だが、安心して良い。ここでは聞こえるのが普通だ。遠慮も配慮も何もしなくて良い。だって、才能を枯らす方がバカらしいだろ? いいね? 分かったら、はい、うにゅ」
「うにゅ~~!!」
今日イチの『うにゅ』が出た。
とても嬉しそうに両手をあげている姿は、年相応の八歳だった。
俺が八歳の頃は、既に師匠やキャサリンさんに質問をずっとしていた。遠慮するなんて考えてもいなかった。それで良かったと今は思っているから、だからこそ、マユエルにもそうあって欲しいと思う。
「さて、マユエルに才能があったと分かったところで……続きだな」
「こっちの葉っぱも、同じ事を言ってるのよ~?」
「そうだな。そういう相性のより良い素材を一緒に使うことで、品質がかなり違ってくる。それではまず、魔水を作ります」
釜に入れた水。やろうとする事によっては、魔水ではなくこの水の状態から作業をする事もあるが……だいたいは魔水にする。
右手に集中して、大気中に存在している魔素を集める。この技術も少し訓練は要るが、精霊を飼い慣らしているマユエルなら難しくは無いだろう。
むしろ……精霊の持つ魔力を使ったらどうなるのか、気になってしょうがない。
「はい。この集めた魔素を……」
「ちょっと待って!!」
「すいません、今は授業中なんですけど……」
「そ、そうですけど! 一ヶ所に魔力並び魔素を収集させるのは高等技術ですよ!?」
いや、だから何なんだという話だ――。
いくら高等技術とて、習得するために訓練して、そして出来るようになった。ただ、それだけの話である。
別におかしい事はないのだが……さてはキャロルさん、俺をだいぶ格下に見ているな。
少し前に、ミルフさんも驚いていたけど……もう少し頑張った方が良いな、この世界の人は。もっと魔素の薄い所でひたすら特訓するとか。
「マユエル、精霊の力を借りても良い。手に薄く魔力を広げて、空気中の魔素と同調させてみな。そして、それを引き寄せる感覚で魔力を手の上で少し回転させて集める……出来るか?」
「やってみるのよ」
てるてる坊主姿から手がニョキッと生えて――ローブから手を出しただけだが、俺が言った事をそのまま実行していく。
普通は言われた通りにやろうとしても、中々に感覚が掴めずに苦戦する筈のなのだが……このマユエル、才能だけは有り余っているらしい。
ハッキリと分かるくらいに、合格点を与えて良いレベルで出来ていた。
「……出来てるな」
「うにゅ~、精霊さんの力を借りたのよ?」
「そ、そんなっ!? お嬢様が……うそ……」
キャロルの反応も分かる。魔法の扱いが下手だから暴走させた過去のあるのに、急に精密というか緻密な技術をやってのけられても、信じるのは難しいだろう。
俺も信じたくは無い……習得に掛かった時間を思い出すと特に。
マユエルはきっと、ただ、加減というものを覚えたのだろう。たったそれだけで開花してしまう才能の大きさだ。
「加減の出来る今のマユエルなら、もう暴走させる事も無いだろう。お前がさせなければ、だがな」
「うにゅ?」
「才能を最大限利用するのは間違ったことじゃないが……使い方を間違えると、手に負えなくなるって話だ。精霊の力を制御したマユエルが、意図して破壊活動をしたら面倒だろ?」
「しないもん」
「分からんぞぉ? 力と酒は人を誑かすからな」
裏の業界では力に溺れる新人なんて、ありふれている程に居た。その中でもほとんどの者は、叩きのめされ、折れるか真っ当に成長するが……中には厄介な才能を持つバケモノも存在している。
かなり良い品質の爆発系アイテムを試したくて、山の地形を変えてしまった奴とか。強風を生み出すアイテムで、木々の生い茂る山を禿げ山にしてしまった奴とかだ。
(あの時、師匠に褒められたけどキャサリンさんには調子に乗り過ぎたという理由でボコボコにされたからなぁ……)
制御出来ない力は持たないこと。持った力は制御すること。それはマユエルに教えていかないといけない事だろう。
「マユエル、上には上がいる。決して傲ることはしない方が良いぞ」
「先生もー?」
「そうだな。さっき、メイドのキャサリンさんが居ただろ? 子供だった俺をボコボコにしては回復させて、ボコボコにしては回復させた人だ」
「うにゅー!!」
「……マユエルが力に溺れたら、キャサリンさんを派遣します」
「間違えないのよ……」
傲慢になるとどれ程恐ろしい未来が待っているのかをマユエルが理解してくれたところで、脱線していた話を戻す。
集めた魔素を水に流し込んで、魔水を完成させる。この状態でも魔力ポーションとして販売は可能なのは、ミルフさんのお墨付きだ。個人的な意見だとこんな状態のを魔力ポーションとは呼びたくは無いが、効果はあるから一応は売れるみたいだし。
「ここまでが準備だ。まずは薪に点火します。そして、次に材料を入れていくんだけど……大事なのは二点。材料を入れるタイミングと、掻き混ぜることについて」
何から入れるかの順番を間違えると、それだけで駄目になる。どれだけ掻き混ぜるのが完璧であっても、だ。それと同様に、材料を間違わずに入れても、掻き混ぜるのを間違えると失敗する。
「ちなみに失敗すると、煤で部屋中が真っ黒になります。逃げなきゃ、顔も服も全部な」
それから、材料を入れて決まった混ぜ方でひたすら掻き混ぜた。
途中、マユエルから飛んでくる質問に答えながら三十分程。ようやく完成の時がやってきた。
「成功すれば、こんな感じでキラキラと光る。けど、最後の一瞬まで掻き混ぜるのを止めないように」
一際大きな光が視界を埋め尽くした次の瞬間、釜の中には一瓶の回復薬が完成していた。
それを手に取って、マユエルに渡す。
「これで完成。だいたいの流れはこんな感じだけど……どう思った?」
「地味なのよ?」
「まぁ……そうだよな。実際に地味だ。つまり、これからの授業も地味になる。体力作りに混ぜる練習。素材の目利きやアイデアとレシピの試行錯誤――最初の内は、それを覚悟して欲しい」
一日中とは言わないが、数時間ひたすら掻き混ぜる集中力と体力が無ければ作れない物ある。
そのためにはまず、ランニングと筋トレは絶対に欠かせない。八歳のマユエルには酷かもしれないが、ひたすら走って貰うし鍛えてもらう。
「シララ校長の許可が出ればだけど、授業の一環として街を巡ったりする予定だが……それはまだ未定な」
「頑張れば、早くなる?」
「あぁ……そうだな。そうしようか。マユエルが頑張れば、その分だけどんとん教えてやる。知れば知るほど奥が深いぞ、錬金術は」
「うにゅ~、頑張るのよー!」
やる気があるようで何より。ただ、ポワポワとし過ぎてて、本人の意図する熱血な感じが全く伝わって来ないのが残念な所だな。
とりあえず完成した回復薬は、マユエルからの命令という事でキャロルに試飲して貰った。
その反応を見て、マユエルはよりやる気を出してくれたみたいでうにゅうにゅ言っている。
キャロルはキャロルで、いきなり回復薬の値段について語り出していたが……こっちはノータッチでいくことにした。
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