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第22混ぜ 取引内容


お待たせしました!

よろしくお願いします!


 


「ラランさんの症状については、既に聞いてます。その上で、話をさせていただきますね」

「うむ……取引と言ったな。何を要求する?」

「はい。まず、こちらから提供するのは、ラランさんに起こっている問題の解消。既に目処は立っています」

「その方法を聞いても?」

「はい――こちらを」


 馬車でフラン達に見せた時と同様に、鞄から例のアイテムを取り出してランドール氏に渡す。

 魔力が吸われた事に驚いたのか、一瞬にしてアイテムから手を離した。というか、放り投げていた。


「これは発表会用に作ったお遊び品です。これの改良を行い、ラランさん用に仕上げます」

「驚いた……というか、なんというか。なるほど……錬金術師か、フランが居なきゃ気にもしなかっただろう」


 反応は上々。交渉にはインパクトと安心は欠かせないものだ。

 最低限の用意があるとないとじゃ、相手との話し合いのスムーズさだって変わってくる。

 それにしても、ちょいちょいフランが錬金術に期待していたっぽい発言が飛んで来るな……何故フランがとも思うが、それは後でだ。


「では、私がランドール氏に要求するものですが、三つあります。一つ目は『諸経費の援助』、二つ目は『許可』、三つ目は『報酬』です」


「……内容を聞こう」

「はい。『諸経費の援助』は言葉通り、素材調達に掛かる費用を出して貰いたく。可能な限りは安く済ませる様に致します。『許可』とは、この屋敷の出入りや貴族街へ出入りする許可。もちろん、監視付きで構いません。あと……ビスコをこの屋敷にしばらく住まわせて貰えればと」


「えっ!? 従者は家に止まらないの? 何でよ、私の従者でしょ!?」

「……だから、出入りする許可を貰おうと思ってんだろうよ。まぁ、泊まる事もあるけどさ」


 余計な乱入があったが……まぁ、いい。

 今の所、ランドール氏からの反応は特にない。良いとも、悪いとも。

 話を最後まで聞いてから決めるのだろうか? 無茶を言うつもりは無いが、フランの父親としては意外である。貴族としては普通なのだろうけど。

 ただ、こっちのスタンスは揺るがない。相手との交渉が合わなければそれまでとする。


「で、三つ目の『報酬』ですが……正直、これを一番に考えて欲しいと思います」

「……ふむ」


 俺は一息溜めて、如何にも言いづらい用件であるかの様にみせかける。

 これはある種のテクニックだ。構えさせて、拍子抜けさせる。相手の心に余裕を持たせるという事。

 個人的な交渉で大事なのはバランスと緩急。俺は、ランドール氏の目を見て報酬の内容を告げた。


「もうすぐ、アトリエが出来るので定期的にお金を落としてください! 本当に、そこはお願いします! 楽して稼いで、自分の錬金術に(つい)やす時間を作りたいんです!」

「ホ、ホムラ……?」

「従者、私でもそれはどうかと思うわよ?」

(やはり贅沢が過ぎただろうか? 定期的にお金を落とせなんて無礼だとは自分でも思うか)


 ビスコとフランの反応は(かんば)しくない。

 何だかんだ言って、世の中を生きていくには金だ。金があれば、自分で働く時間が最小限に抑えられる。

 自給自足の生活が不可能では無いが……ひどく面倒臭い。優先順位も錬金術師としての成長が優先となれば、やはり金だ。


「本当の事を言いなさい!!」

「えっ……えっ?」

「そうよ、従者! 遠慮して言っているんでしょうけど、そんなのは要らないわ!」

「……はい?」

「ホムラ、相手は貴族の方ですよ。遠慮はいりません。貴方がしようとしているのは、現在、この先、同じ悩みを持つ人の光となる(おこな)いなのですから」

「………………」


 べた褒めに、気持ちがついていかない。

 遠慮も何も、こんな事(・・・・)……材料と時間さえあれば錬金術師なら、各々(おのおの)のやり方で攻略できるだろう。

 師匠なら、もっと簡単に、面倒なく、あっさりと……この問題も解決していたかもしれない。

 だから、こう褒められるとむず(がゆ)い。気分が悪い訳ではないけど、一人だけ盛り上がりに乗り遅れて浮いてしまった感覚になる。


「さぁ、本当は何かあるのだろう?」

「従者……も、もしかして! 駄目よ、私はまだ学生なんだから」

「ホムラ、無欲なのは良い事ですが、相手の立場を理解して遠慮しないのも必要です」

(気持ち悪い程にグイグイくるな……フランは特に意味がワナラナイし)


 これは何かを追加で言わなければ納得されないかもしれないと、俺は必死に考えるが、やはり金以外に思い付かない。

 だが、ただ金を貰うよりは長期的に手に入る不労所得的な金が欲しいと思うが……それは既に言ってあるし。

 これはもう、正直にどれくらい簡単なのかを伝えた方が早いかもしれない。知って貰えば、俺の要求が貰い過ぎているのも理解してもらえるだろう。


「少し聞いて貰えますか? 作ろうと思っているアイテム、実は素材集めが大変なだけで、作ること自体はそれほど大変ではないんですよ」

「へー? そういえばよく分からないけど、錬金術師ってどうやって作るの?」

「素材を入れて掻き混ぜるんですよ、今回のアイテムなら一個作るのにそうですね……四時間くらいずっと」

「四時間……ずっと?」

「そ。目を離すと爆発するからね、それを納得がいくまで作る……一〇〇個くらい。あっ! ご主人、ひとつ言っておきたいのですが、納品の期限が完成した日になるのはご容赦(ごようしゃ)ください。ラランさんの魔力回復量や総量についても詳しく調べなければならないので」


 一個作るのに四時間なら一日に四個~五個は作れる。

 仮に一〇〇個作るとしても、休憩時間を含め、二十日前後で完成する計算で……とても楽(・・・・)だ。

 時には、神経を磨り減らしながらほぼ一日掛けて作るアイテムだってある。

 キャサリンさんに食べさせて貰ってオムツを履いて……オムツは歳を重ねるにつれて恥ずかしく思ってきているが、仕方ない事と割りきっている。

 それに比べれば、四時間なんて普通だ。貴族だって四時間くらい静かにしておかないといけない時間とかあるだろうから、たぶん普通だろう。


「百個……一個が四時間だから、えっと~、四〇〇個じゃなくて、四〇〇時間ね!」

「フラン、四〇〇時間は何日だ?」

「えっと、えっと……」

「はやく! はやく!」

「せ、急かさないでよっ! 一日がアーで、一〇〇時間だとコーで……たぶん、二十日?」

「十六日と半分くらいな。ちなみに、二四に五を掛けたら一〇〇じゃなくて一二〇な」

「わ、わ、分かってるわよ! 従者が本当に分かってるのか試しただけなんだから!」


 まぁでも、睡眠時間を計算に入れたり、ラランさんの魔力調査、素材を手に入れる時間を諸々込めたら一ヶ月は掛かるだろう。

 むしろ、何か方法を考えないと材料集めが一番時間が掛かるだろうな。


「ホムラ君。娘の教育係りとかどうかね? 中々ね……」

「お父様!? 学校でちゃんと習っているので必要ありません! 従者が先生って変でしょう!?」

「変なのはお前の頭だぞ?」

「な、なんてすってーっ!? 従者のくせに! 従者のくせにぃ!!」


 話が()れ出したのを、フランを無視することで強引に戻していく。

 まだ、俺ができる事と要望を告げただけで、話は終わっていない。決める事はまだまだ残っている。

 ここでの話し合いが無事に終わったとしても、その後で、次はラランさんとの話し合いもある。

 第一はラランさんの気持ちだ。放っておいてと言われれば、俺はどうする事もできずに終わってしまうだろう。


(夜までには終わって欲しいけどなぁ……)



 ◇◇◇



「ねぇ、お腹空いたー」


 こちらがしたい事、相手にして欲しい事。

 それについて詳しい話をしていると、飽きたのか、構って欲しいだけか、それとも本当にお腹が空いたのか分からないが、フランがそんな事を口にした。


 昼前にフランに連れられてやって来た訳だが、たしかにとっくに昼飯時は越えているだろう。

 むしろ、おやつの時間になっている。

 もう少しでランドール氏との取引についての話も纏まりそうなタイミングで……とは思うが、フランだから仕方ないのかもしれない。


「ミリー、甘いものが食べたいんだけど?」

「ですがお嬢様……今は……」

「ホムラ君、そろそろ休憩にしないかい? 簡単な食事を用意させよう」

「……ですね。では、お言葉に甘えます」


 メイド達が部屋から出ていき、部屋に充満していた堅苦しい雰囲気も霧散していった。


「ホムラ君。さっき床の血を綺麗に消したあの液体は……?」

「あぁ、頑固な汚れ錆びも綺麗にする『万能洗浄液(ピカピカ君)』ですか? ……要ります?」

「おぉ! これでワインを(こぼ)しても妻にバレずに済むぞ!」

「あーっ! お父様、お酒は禁止にされているはずなのに!」

「いや、フラン……男には酒に酔わないとやってられない日があるんだよ。ホムラ君やビスコ君もそうだろ?」


 証拠隠滅に使われようがどうなろうが、知ったこっちゃないが……そのせいで俺にまでとばっちりが来るのは勘弁願いたいな。

 俺は日本の法的に、日頃から酒を飲んでいないし、ビスコは教会に居たから嗜む程度しか飲んでなかったに違いない。

 残念ながら、共感はしてやれないな。


「いえ、まったく……ランドール氏はお酒に強い方で?」

「すぐ顔が赤くなるからな、決して強いとは言えない。だが、酒自体は好きだ」

「……酔わないクスリ、ありますが」

「――っ!! なんと、それは本当かっ!?」

「えぇ。昔、酒に強い上司に飲みに誘われて困っているという方が居まして……一粒につき、およそグラス五杯分はいけます」


 一日につき、三粒を限度に服用すれば副作用は無い。

 ちなみに四粒目からは、胃が荒れ始める。そんな時用のクスリもあるのだが、面倒だから内緒だ。

 用法用量は正しく守って貰わなければ、こっちは保証しないスタイル。


「是非! 是非、売ってくれ!」

「駄目よ従者! お父様はお酒禁止ってお母様に言われてるんだから!」

「ご主人……何か失敗を?」

「まぁ、ちょっと……酔って友人達と夜の街へ、な」


 貴族の当主とはいえ、やはり男としての部分は一般市民となんら変わらないのだな。

『長いものに巻かれとけ精神』からすると、きっとフランの母親に味方しておくのが正解だろうな。

 クスリがあるからと、調子に乗ったランドール氏が飲み過ぎる事を考えたら、やっぱり俺まで責任がありそうだし。

 ただ……お客様として店に買いに来てくれるなら、話は変わってくる。

 店と客の関係。全ては自己責任となる。


「今回は(えん)が無かったという事で……あぁ、そうです! アトリエの場所はまだ私も知らないのですが、分かり次第お伝えに参りますね」

「――おぉ。それは楽しみだ。ホムラ君なら、王都での成功も難しくはないだろう」

「わっはっはー」

「あーはっはっはー」


 自分でもわざとらし過ぎる演技だが、大袈裟にした分、ランドール氏はちゃんと意味を理解してくれたらしい。

 ビスコも「やれやれ……」と言わんばかりの表情をしているが、止めに入る事はなかった。


「従者、私もお店に顔を出してあげるわ! ふふん、お墨付きにしても良いわよ! どう? ありがたいでしょー」


 フランはこんな調子だし、気付いてない。

 店に来て、勝手に道具を弄られるのは厄介だが、今はテキトーに相槌(あいづち)を打ってお茶を濁しておいた。


 ――そして、運ばれてきた焼き菓子をご馳走になった。

 いつしか砕けた言葉での会話になっていて、雰囲気的には悪くなかった。

 俺は心の中で、最初の目標がほぼ達成された事にガッツポーズをした。

 まだ、作業や大変な事はこれからだが、そこは本当にオマケ的な部分。

 俺がサッと日本に行っている間に、ビスコにラランさんの魔力量を調べておいて貰えば効率も良くなる。


 魔力ポーションをかなり消費する事になるだろうが、それを使って――一本でどれくらい魔法を放てるか、何本飲めば満タンに回復するか、そして……自然回復量がどれくらいかを細かく調べておいて貰う。

 この方法は、ラランさん的にも大変かも知れない。

 だが、魔法を遠慮なく放出できて、ストレスの解消になるとでも説得すれば大丈夫だろう。

 後でビスコに手順とか明記した紙を渡しておけば、しっかりとやっておいてくれるはずだ。


 ついでに同じ魔法師のフランも被験者(サンプル)として協力して貰えば、ラランさんの制御出来ない魔素の取り込み量を、より詳しく分かるだろう。


「よし、そろそろラランさんとお話させて欲しいのですが……大丈夫ですか?」

「あぁ、もちろんだ。ラランの話を聞いてやってくれ……少し機嫌が悪く見えるのは体調が優れないだけだから、気にしないでやって欲しい」

「分かりました」


 俺は頷いて、ソファーから立ち上がった。

 今からラランさんの私室に案内してくれるらしく、メイドさんはミリーさんだけついて来る形で、俺達は揃って移動を始めた。


(フランと違って、まともな人物なら良いんだけどな……)


 隣で鼻歌を奏でながら歩いているフランを見て、そう思う。


「あっ、あっ――あだぁ!?」

「なぜ転ぶ……」

「ぬぅ……う、うるさいわね! ただ転んじゃっただけでしょ!」

「恥ずかしいからってキレるなよ。ほら、手……」

「うぅ……ありがとう」


 素直にお礼を言えるのはフランの良いところだ。

 最初から転ばなければ良い話ではあるけど、転ぶのが前提とした時に、お礼を言える人間と言えない人間――好感が持てるのはやはり、言える人間だ。

 おバカでドジだが、ちゃんとお礼を言えるフランはどこか憎めない。


 でもやはり、姉妹揃ってこんなのは……ちょっと嫌かな。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


バズれ!と思ってもなかなか……

地道に書いてくしかないですね٩(๑'﹏')و

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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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