第21混ぜ 間違えたプレゼンテーション
お待たせしました!
残弾が残り2話まで迫ってきましたが……
無くなり次第、またお知らせします(´ω`)
では、よろしくお願いします!
馬車に乗り込み、発表会の会場となった場所を出発する。
なるべく人通りの少ない場所に御者さんも行きたいのだろうが、この人の多さで、やむを得ず止まる事が多いみたいだ。
そのお陰と言ってもいいのかは疑問だが、フランからいろいろと話を聞く時間は確保できた。
「私のお姉様は凄いんだから!」
「どう凄いのか、二十文字以内で簡潔に」
「えっ! えっと……『わたしのおねえさまのすごいところは』……って難しい事言わないでよっ!」
「何故、私のお姉様から始めるんだよ……」
「……ハッ!! 勘違いしないでよね! うっかりしただけなんだから!」
勘違いしていない。ちゃんとうっかりしていると思っていたさ。
要領が得ないフランに代わり、メイドのミリーさんが代わりに答えてくれた。
「フラン様の姉であるララン様はですね、魔法師としての才能があると言いますか……あり過ぎたのです」
「あり過ぎた? ……何か問題が?」
「はい。今年十七歳になったララン様ですが……成長期に入ってからその身に魔素を取り入れ過ぎてしまう症状が出始めたのですよ」
「……なるほど。今はどんな対応を?」
「街中での攻撃魔法の使用は禁止ですので、二日に一度は街の外で魔力を枯渇ギリギリまで放出しています。旦那様も……神官様や魔法に詳しい方に聞いて回ったりしていました」
「他の手軽な魔法は使えないのか?」
「えぇ、攻撃魔法は多様に扱えるのですけどね。小さい火種を出し続ける訳にもいきませんので」
魔素を体内へ取り込むのは、制御出来ないと言われている。
それは、人が呼吸をする様に自然と体内へと入ってくるものだからだ。
それこそ呼吸の様に、魔力へと変換される分と外に吐き出される分の二つに分かれる。
話に出たラランさんは、その魔力変換の効率がかなり良い人物なのだろう。魔法師として、かなり優秀になる素質があるのは分かる。
魔力変換の効率が良いということは、単純に、魔法の使用回数が増えるという事。それ以外にも、元の保有する魔力量が多いというのも分かる。
――ただ、魔素を体内に取り入れるリスクは魔物が居るという事で察する事ができると思う。
地球では、特定の地域以外で魔素が溜まる場所は無く、ラランさんと同じ症状になった人は少ないと思う。
この世界特有の症状と言えるかもしれない。……それでもかなり稀だと思うけど。
「それで魔素をどうこうするのは諦めて、魔力を放出して変換しても許容量を一杯にしない方針……と」
「はい。人は魔素で満たされると体調を崩される様でして……そうしたらララン様をお外へと連れ出す事になっております」
「日常生活も儘ならないな……」
屋敷から外へ行き、クタクタになって帰って来て寝る。一日しか無い時間を過ごしたら、また外へ。
いつからなのかは分からないが、成長期に入ってから人生の半分を無為に過ごして来たという……。
想像するだけでも、俺には耐えられない日々だ。
「お姉様は……部屋と外の往復ばかり。いつしか笑顔を見せなくなってしまったの……だから、お願い。従者のその道具を見た時にピンと来たの。『これだ!』って……お姉様を助けて」
「先に言っておくぞ。助ける事は不可能じゃない」
「本当にっ!?」
「あぁ、だがすぐには無理だ。パッと思い付くだけでも幾つか問題があるからな」
「な、何よ……その問題って? 発表会に出してたアイテムを使えば良いじゃない」
あれはお遊びで作ったジョークグッズ。
魔法師の魔力を吸い取る為だけに作っていたから、調整も何もない。素手で触れた瞬間に、体内の魔力を勢いよく吸収する仕様になっている。
とてもじゃないが、ラランさんの症状に対応できるアイテムでは無いのだ。
「フランには言葉で伝えるよりも、試して貰った方が良いかもな。……ちょっと待てよ。あったあった。ほれっ」
「ちょ!? 投げるんじゃ……ないわ……よ……」
「お嬢様!? 早くアイテムを放し……てぇ……力が……抜け……る」
俺は薄い手袋をした右手で、アイテムを回収する。
グッタリとしたフランと、巻き込まれて同じ様にグッタリしたメイドのミリー。
(効果は抜群みたいだな。これは……もしかすると、対魔法師用の武器になる可能性がある?)
魔法主体の生物は、体内の魔力が減れば減るほど弱体化する。
元はミルフさんの為に作ったぬいぐるみに付けた機能だが、もしかすると俺は、とんでもないアイテムを作り出していたのかもしれない。
下手をすれば、第二級レベルの危険なアイテムとして登録されかねない。
俺は馬車に乗っているメンバーとは違った意味で、冷や汗を掻いていた。
「これを敬愛するお姉様に使うというなら、お前の意思を尊重しよう」
「使えるわけ無いじゃない……。あ、あんた! とんでもないアイテム作ってんじゃ……な、ないわよぉ」
「ビスコも触れてみますか?」
「いえ……今回は遠慮しておきましょう。問題はソレなのですか?」
今のアイテムは問題という訳じゃない。
今のはただ、フランに分からせる為にやった余興だ。
俺はフランとミリーに魔力ポーションを渡して、ビスコに答える様にして問題点をフランにも聞かせてあげた。
「まず最初に、ラランさんの魔力量や魔力の回復の速さを細かく調べないといけません。それをやらなければ、作れもしませんからね」
「たしかにそうですね。……となると、次の問題は調べたとしても完璧に作るのは難しいって事ですね?」
「そうです。かなり微調整にしなければ、溜まる一方か、減る一方か……ラランさんが自分で調整しなくても良いレベルでの完成度でなければ俺も納得出来ませんし」
「……となると最後は――」
「ストップ、ビスコ。では、フランに問題です! 最後の問題とは?」
「えっ、えっ……?」
最初の問題はラランさんを細かく調べる事。二つ目の問題は、微調整の為に試行錯誤をしないといけないという事。最後の問題は、二つ目の続きみたいなものだ。試行錯誤するにも素材が必要となる。どうしても大量の生き物が犠牲となる。
四つ目があるとすれば、それをラランさんが許容できるかという事だな。
「えっと、えっと……分かったわ! お金が無いんでしょ! 冒険者って大半がお金を持ってないって聞くし! 当たり? ね、当たり?」
「……おう。当たりだ」
「やっぱりね! そうじゃないかと思ったのよ~。気にしなくても大丈夫よ従者、お姉様の為ならお父様もお金を出してくれるわ!」
まぁ、錬金術師に詳しくもないお嬢様に答えが分かるとは思っていない。
だから、何となくで正解と言ってみたが、思わぬ言質を取ることができた。
資金の援助があるのなら、思ったよりも早く素材集めも終わるかもしれない。
ただ……素材が早く集まるとはいえ、一度日本に跳ぶ必要があるのには違いない。
ここに居るメンバーには言えないが……必要な素材の幾つかは大量に必要で、この世界で作るとしたらとても時間が掛かってしまう。
この調合で一番重要となる素材は――日本のホームセンターなら簡単に入手できる『ネジ』と『ダイアル式の調節器』だからな。
◇◇◇
「着いたみたいね! さ、降りて!」
「ビスコ、やはり貴族ってヤバいっすね」
「たしか、フラン嬢は男爵家のご令嬢でしたね……これが標準なのかは私も分からないので何とも言えませんが」
豪邸も豪邸。この前訪れた伯爵の家とあまり変わらない大きさだった。
貴族社会は上の者に気を使うイメージがあったけど、家の大きさに関してはそう厳しくないのだろうか。
「さ、行くわよ! 私から離れるとうちのメイド隊に捕まるから気を付けてねっ!」
ズカズカと歩いて行くフランに付かず離れずの距離感で追い掛ける。
玄関の門を通り、本邸の扉の前まで辿り着いた。
大きな扉の前には、ご丁寧にメイドさんが出迎えてくれていた。
「お帰りなさいお嬢様。ミリより話は伺っております」
「じゃあ、早くお姉様の部屋に行くわよ!」
「それなのですが……旦那様がちょうどお戻りになられてて……」
「お父様が?」
「えぇ、客人を通せ……と」
「ふーん? まぁ、良いわ! 早くお姉様に会いたいけど、良いわよね従者、ビスコ」
拒否権の無い確認は必要ないのだが、俺とビスコは頷くことで返事をしておいた。
家に入らせて貰い、靴のまま広間を抜けて階段を上っていく。
壺、絵画、彫刻。金持ち金持ち、内装からも金持ちの匂いがする。
キョロキョロしているのは俺だけで、ビスコですら落ち着いてニコニコとしていた。
「フラン嬢は学園に通ってらっしゃるのですよね? ご自宅から通っているのですか?」
「今は長期の休みだから帰って来てるのよ。いつもは学園の寮で過ごしているわ! 中には馬車で送迎してる人もいるけどね。王女様とか侯爵家の方とかね」
不穏なワードだが……そういえば、未だに王族の方って見てないな。
気軽に会えるとは思っていないけど、どうせなら記念に見ておきたい気持ちもある。
立派な白い髭とかあればイメージに近いんだが、逆に筋肉ムキムキみたいな王も面白そうだ。
「なぁ、王様って――」
「お嬢様、中でお待ちになっております」
「従者、ビスコ! 私に任せておいて!」
ドアを押し開けて、中に入る。
入った事は無いけど、ドラマでよく見る社長室の様な部屋。
奥には机と椅子があり、その手前に客人をもてなす為かは知らないがテーブルとソファーがあった。
テーブルを挟んだ奥のソファーに座る一人の男性。髪には少し白髪が混じっているが、まだまだ現役と言わんばかりの表情。
雰囲気はちょっと怖い。貴族の当主ともなると貫禄があるな。
「掛けたまえ」
一歩踏み出そうとした俺を、ビスコが然り気無く止めてくれた。
フランがソファーに座り、俺とビスコはその背後に立つ形だ。
(そういう事か……。礼儀的なやつね)
「何してんの? 早く、座りなさいよ」
「いえ、貴族様と並んで座るなんて御無礼は出来ません」
「従者~、なに堅苦しい事言ってんの~? 変なの~」
(読め! 空気を読め! アホ!)
ケラケラ笑いながら、俺を椅子に座らせようとしてくるフラン。
俺はその声を無視して、フランの父親であるご主人を真っ直ぐみていた。
いい加減、このアホ娘を止めてくれよと思っているのだが、両肘を机に置くポーズを続けている。
――もしかして。
その予感が俺の頭を遮った。
その予感が当たっているとでも言うかの様に、ご主人は意味もなく立ち上がった。そして、立ったまま固まっている俺やビスコの近くまで来て、顔をジッと見詰めてくる。
「君達」
重めの声。
渋い声に、部屋の緊張度合いが高まる。
「フランは嫁にやらんぞ!!」
「かぁーっ、帰ろう! ビスコ、もう帰ろう! この家は関わっちゃいけないやつだわ!」
「し、失礼ですよホムラ!」
失礼も何も無い。
世の中には関わると疲れる人間というのが居る。それが、この家の人間だ。
この父にしてこの娘……いや逆か。この娘があるという事は、両親のどちらかもヤバいということ。
父親が親バカなのか、それともただのアホなのかは分からないが、うん。帰りたくなってきた。
欠陥アイテムを渡して、金貨貰ったら、すぐに帰るのもアリかもしれない。
「待ってよ! 私の従者でしょ!」
「そうなのか? 君達、それは失礼した。娘が男をつれて来るものだからついな。ガハハハハ!」
「従者じゃねぇ! 豪快に笑うなよ! メイドさん達も、何かしてくれぇ!」
部屋の入り口を塞ぐメイド達。そういう事じゃない。
フランとご主人の言い合いが始まり、ビスコは空気を読んで静観しているだけ。
俺が常識人となるこの状況は、はっきり言って異常だった。
「従者、お父様は放っておいてお姉様に会いに行くわよっ」
「待つのだフラン! どこの馬の骨かも分からん者をラランに会わせる訳にもいかん」
「私の従者は凄いんだから! お姉様を治せるのは従者しかいないの!」
「だが、高名な医者も魔法使いも神官も、何も出来なかったじゃないか。あの子にしてやれる事なんて……」
ビスコが俺を肘で突っつく。
今がタイミングとでも言わんばかりに、笑顔をみせてくる。
(なるほど……この弱ったタイミングで取引を持ち掛ければ良いのか。流石はビスコだな)
俺は堂々とソファーのど真ん中に座り……鞄から取り出したナイフを右手で持ち、左手の小指を切り落とした。
「じゅ、従者!? 何をしてるの? 血が! 血がぁ!?」
「ご主人、目を見開いてよぉ~く見ておいてください」
俺は鞄から回復薬を取り出して机に乗せる。
床に落ちた自分の小指を広い上げ、切断面を合わせて軽く押さえる。
物凄く痛いし、激痛で眼球の裏がチカチカとしてくるが、今は気にしない。
「フラン、回復薬を塗ってくれ」
「む、無理よ! ただの回復薬にその怪我は治せない!! 早く神官を……」
「いや、今は一刻を争う……じゃあ、ご主人。申し訳ないが回復薬を塗って……」
「君、頭は大丈夫か……いきなり指を切るとか……うわっ、痛そう」
「おい、一刻を……ビスコ!」
娘はパニックになるし、父親は冷静が故に自分で状況を理解する事を優先させている。
頼りにならない父娘だ。
こういう時は、やはりビスコ。何も言わずに回復薬を塗ってくれるあたり、流石と言わざるを得ない。
「プレゼンの方法間違えた――っつぅ~痛てぇ……。ありがとうビスコ。もうくっついた」
「……この薬。とんでもない値段が付きますからね? そこ、理解してますか?」
「大丈夫ですよ。実力を見せるのが早いと思いましたが……完全に失敗でしたねハハハ」
横を見ると、フランが泣きそうな顔をしていた。
逆に、俺の指がくっついたのを確認したご主人は目の色が変わっていた。損得で考える人間の……とても話しやすい目に。
「従者……指、指」
「フラン、お前の姉を治せるって言っただろ? こんな事くらい出来ると分かっておけ」
「君……いや、新しい娘の従者よ。私の名はランドール=タルトレット。名前を聞かせてはくれないか?」
俺はフランにデコピンをした後に、名を名乗る事にした。
「最強の錬金術師の弟子、ホムラ」
「錬金術師。そうか、フランの願いがついに届いたのだな……。歓迎しようホムラ」
「えぇ、ではさっそく取引の話をしましょう」
これでようやく、取引を始められるな。
今の所、親バカという情報と貴族としての顔もちゃんとあるという二つしか情報がない。
だが、その二つさえあれば十分だ。交渉は有利に進められるだろう。
上客として定期的に取引できる間柄になれるか、これっきりの関係になるか。
さて、気を引き締めていきますか。
フラン、アホ可愛いよ、フラン。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




