第20混ぜ フラン=タルトレット
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見るからに一般市民とは違う装いだ。金色の髪も丁寧に整えられている。
後ろに侍らせているメイドさんが一人いる時点で、おおよその生まれは察する事が出来る。
――貴族。それは、高貴な身分にして、権力の象徴だ。
例えばの話。この女の子が俺を殴っても問題は揉み消せるか、そもそも問題にはならない。
だか、もし逆ならば……何の弁解も出来ぬ内に死刑になる可能性だってある。
残酷だが、ここはそういう世界だ。一般市民の上に貴族様が居る世界。
生きるために、賢くならないといけない。
だが……あえて俺は、彼女を無視した。
貴族と名乗られて無いというセーフティもあるし、何より面倒臭いし、それよりも師匠に話を聞いて貰う方が大切だったからだ。
「師匠、この世界には神が存在しているって知ってましたか?」
「はぃ~? 神が居るだってぇ? 冗談でしょ、ホムラ」
「俺も最初は伝承レベルかと思いましたよ? でも、こうみえてビスコは教会に居たんですよ。そっち専門と言っても良いです」
「今は……追い出されてしまってますけどね」
「師匠なら、絶対に興味の出る話だと思うんですよ! 詳しい事はビスコに聞いて貰えれば、いろいろ面白い話が聞けるはずです!」
然り気無く出してみたビスコが教会の所属だっという事に関しては、それほど興味が無いのか、流していた。
まぁ、師匠は個人を見る人だから大丈夫とは思っていたけど、とりあえず良かった。
だが、神の存在については師匠だけではなく、キャサリンさんまでも半信半疑な顔をしている。
いきなり神が存在していると言われても、たしかに信じるのは難しいだろう。俺や師匠やキャサリンさんは特に。
俺はビスコが嘘を言っているとは思えないから、信じているが……ビスコを抜きに考えてもここは異世界である。
普通じゃない事なんて、幾らでも起こる可能性があるのだ。
そう、例えば――無視された事に激怒した女の子が、勢いよく踏み出してみたものの、ヒラヒラの長いスカートの裾を踏んで、格好悪くも転んでしまう、とか。
「痛っ……!! 痛いんですけどっ! ミリ~、転んじゃった~」
「お嬢様!? 大丈夫でございますか?」
「大丈夫じゃないわよっ! うぅ……痛い。何でこんな目に……腕も足も痛いんですけどー!!」
「あらあら、これは困りましたね……どこかに錬金術師の男性がいれば問題ないのですが」
女の子の怪我は本物であるのは分かる。見れば、腕に擦り傷が出来ているから。足の方はスカートで見えないから分からないが、少なくとも露出がある所からは血が滲み出ていた。
だが、そんなお嬢様に駆け寄ったメイドの方がやけに白々しく、『錬金術師の男性』なんて口に出してきた。
それに加え、俺の方へとチラチラ視線をくれている。
何が目的なのか……それを探る前にお嬢様の方の泣き喚きを何とかしないと、いい加減うるさい。
「何なんだこの子は……。ビスコって回復魔法使えましたっけ?」
「使えますが……浄化魔法とかに比べると駄目ですね」
「分かりました。仕方ないですね」
俺は鞄から液体ではなく、塗り薬タイプの回復薬を取り出した。
「怪我したとこ……見せて貰えますか?」
「うん……こことここ」
「あら、痛そうな。この薬を塗れば少し痛むかもしれないけど、すぐに治るから大丈夫ですよ」
「う、うん……いたっ! えっ……痛い痛い痛いっ!! 何これ!? 凄く痛いんだけどっ!?」
回復力というか修復力を向上させた代わりに痛みが強めに出てしまう塗り薬。
まだ誰にも試して居なかったのもあって、いつか誰かに試したいとは思っていた。
丁度良い機会と考えれば、よくぞ怪我をしてくれたものだと一周回って感謝したいくらいだ。
「ミリ~、これ凄く痛い! 毒よ! これ、毒だわっ!」
「ですがお嬢様! 治ってますよ! す、凄い速さです」
効果は上々。軽い傷なら十秒程度で完治だな。
実験サンプルになってくれたのはありがたいが、この人達……いったい何しに来たんだろうな?
「ん」
「あら、手を差し伸べてくれるなんて中々……」
「あ、いえ……薬の代金払ってください?」
「えっ!? お金取るの!?」
何を当たり前の事を……。
まぁ、勝手に回復薬を使ったのは俺だし、実験台になって貰ってはいるのだが、それでも怪我を放置する選択を選べたのに選ばなかったのだから。
「なんなら使った分じゃなく、この回復薬をまるまる売っても良いですよ?」
「よろしいのですか? お嬢様、是非売っていただきましょう。お嬢様はよくお転びになられるので……」
「そ、そんなに転んでないでしょ! ……ちなみに値段は?」
「言い値で良いですよ? でも……急いでいるのでまた後日で良いですか?」
この後、シララさんのアトリエに行かなければならない。
シララさんは発表会の後の話し合いがあって、それが終わり次第合流する予定になっている。
つまり、まだもう少し時間はあるのだが……いつまでも相手をしていられる訳じゃない。
なんなら、俺もこの人達の相手じゃなく、後ろでビスコが話している神について聞いていたい。
「ま、待ってよ! 金貨……金貨一枚あげるから待って!」
(金貨……だと!?)
回復薬なんて上等な物でも銀貨数枚だ。安い物なら銅貨三枚くらいから買える。
しかも、俺のこの薬だって金貨を払う程の価値がある商品じゃない。
(金に釣られた訳じゃないけど、何か事情がありそうだな……。ちゃんと話を聞いてみるか……金目当てでは無いけど。借家の頭金ぐらいにはなりそうとか思ってないけど)
俺はもう一度手を伸ばして、今度はお嬢様を立ち上がらせてあげる。
「お客様、お話は長くなりそうですか?」
「用件は簡単よ。さっき貴方の発表してたやつ……あれ、私にちょうだい!」
「ははっ……では」
「あっ! う、嘘よ~、嘘だからっ! お金払うからぁ~……私のお姉様を助けてよぉー」
本当に何か事情がありそうだった……。
面倒臭いという気持ちが無いと言えば嘘になるが、不思議と目の前のお嬢様を放って置けない気持ちがあった。
「ちょっと待っててください」
お嬢様にそう言った俺は、師匠達が談笑している所に割り込んだ。
ビスコから神についての話を聞いていた師匠は、楽しそうというよりも、何かまた新しい企みが思い付いた様な顔をしていた。
「師匠、すいません。ちょっとシララさんの所に行けそうにないです……金貨一枚以上が手に入りそうなので」
「あの子が気になるかい?」
「いえまぁ……。お姉さんがどうとか言われて泣き出しそうになられたら……流石にですね」
「どれどれ……おや? あの子の魔法師としての適正はかなり高いわね。しかもお貴族様……ね。ホムラ、恩を売ってきなさい。いずれ、キミの役に立ってくれるだろう」
師匠がお嬢様を一目で観察し終える。
魔法適正が高いというのは、ただ単に魔力量が多いという事を言っているのではなく、無駄なく力を使えるか、多くの属性を扱えるのかも示している。
あのお嬢様は役に立つから恩を売ってこいという師匠。本当に役に立つのかは疑問ではあるけど、師匠がそう言うならそうするだけだ。
「可能なら、王都の隅にでもアトリエでも作って貰いますよ」
「あ、それは大丈夫だよ? キャサリンがギャンブルでボロ儲けしたからね。もう、アトリエとなる建物の目星も付けているから」
キャサリンさん……ギャンブルで楽しんでいた訳じゃなかったんだな。誤解していた。
師匠から指示を受けてボロ儲けしていた……普通に考えると、ボロ儲けとか相当難しいはずなのに、そこは流石のキャサリンさんとしか言いようがないな。
このお嬢様を助けて貴族の力を見せて貰おうかと思ったのに……アトリエが要らないとなると、分からないな。師匠の言う、このお嬢様が役に立つとはどういう意味になるのだろうか。
「相変わらず凄いですね、キャサリンさんは。では行きますけど……ビスコはどうします?」
「私は当然、ホムラについて行きますよ」
「助かりますよ、ビスコ。では師匠、どこで待ち合わせにしましょうか?」
「どれくらい時間が掛かるかお互いに分からないから……そうね。明日の朝に一度魔法ギルドの前に集まろうか」
「分かりました。キャサリンさん、師匠をお願いします」
「かしこまりました」
とりあえず、話は纏まった。
まさかアトリエの準備が順調だっとは、流石に驚きである。
だがよく考えてみれば、一等地や特殊な地区以外の場所であれば、キャサリンさんの手腕でどうとでもなるのは当然の事だった。
何をどう聞いても「メイドの嗜みです」としか答えないキャサリンさん……もう、そういう存在なんだと認識している。
俺はビスコを連れて、お嬢様の元へと戻る。
待たせた事を怒っているのか、顔を膨らませていた。
そんな怒りも、イケメンのビスコでも見れば収まるだろう。
できる事の幅も広いし、貴族のお嬢様の何倍も役に立つ……いや、ビスコに関しては『役に立つ』なんて失礼だな。『助けて貰っている』が正しいだろう。
「お待たせしました。こちらは、仲間のビスコです」
「初めまして」
「お嬢様! お嬢様! す、凄い美形の方ですね!」
「そんなのどうでも良いのよ! お姉様を助けてくれるの? どうなのっ!?」
メイドの方はビスコから目が離れなくなっているみたいで、とても正直な方だと思う。
俺の時にそんな表情してなかった理由は分かっているから、聞きはしない。
だが、お嬢様の方に関しては……評価が少し上がった。
ビスコの格好良さよりも、姉の心配。大変よろしいじゃないですか。
「まずは話を聞かせてください。最強の錬金術師に不可能はほぼ無いですが、俺はまだそこに至ってないですからね」
「そうね……少し気が逸っていたかもしれないわ。ミリー馬車を入り口まで。お姉様に会って貰った方が早いわ」
「えぇー!? お嬢様、この方達をお屋敷にお連れするのですか?」
「そうよ! この人ならお姉様を助けられる、私はそう確信してるんだから!」
「わ、分かりましたよぉ……奥様に怒られても知りませんからねぇ?」
俺とビスコの意見を聞く気は更々無いのだろう、話が目の前で勝手に進んでいく。
メイドがどこかへと去った後に、残るのは目の前の金髪の少女だけである。
急に動いたこの状況には、流石のビスコも苦笑いを浮かべている事しかできないみたいだ。
「そう言えば……あんたの名前を聞いてなかったわね!」
「俺も貴女の名前を聞いてませんね」
「ちょっとぉ! 私が聞いたんだから、先に答なさいよ! 分かるでしょ!?」
「吠えるな吠えるな……馬鹿に見えますよ?」
「誰が馬鹿ですってぇ~!?」
俺やビスコよりも頭一つ分以上小さい。
でも、勝ち気な性格なのか短気なのかは知らないが、言葉を強めて自分を少しでも大きく見せたいみたいだ。
そういう年頃なのかもしれないが、背伸びしている子供にしか見えない。
それに、ツンツンとした態度で何にでも反射的に噛み付こうとするのは、お馬鹿特有だろう。両手を上げて怒っているアピールをする所は子供っぽい。
つまり、この目の前の金髪少女は――『金髪ツンツンお馬鹿少女』という事だ。そのまんまだな……。
「ツンツン少女。キミは今、幾つだね?」
「誰がツンツンよ! 別に尖ってないでしょ!? ……十四だけど、それが何よっ!」
「俺は十五だし、ビスコは十八だぞ? 馬鹿じゃないなら、敬いなさい!」
「えっ、あっ……そ、そうだったの? それはごめんな……って! あんたは一歳しか変わらないじゃない! 敬うなら貴族の私を敬いなさいよっ!」
ごもっともな意見であるが、貴族だからって敬いはしない。
もう少し頑張れば勢いで騙せそうだった事を考えると、やはりこのお嬢様は、ちょっとお馬鹿なのかもしれない。
それでも、見た目はそれなりに良いお嬢様。
パッチリとした瞳は快活さを表し、慎ましい胸はよく転ぶらしい彼女を守るため、足元がしっかり見える様にあえて成長しなかったのだろう。
貴族社会の詳しい婚姻は知らないけど、お馬鹿で見た目が良い女の子はそれなりに人気があるのではないかと思う。
その女の子が幸せかどうかは別の問題だが、良い所に嫁げれば、それなりの生活は保証されている訳だし。
「すいませんお嬢様ー。お許しくださいー」
「気持ちが入ってませんね……ホムラ」
「そうよ! 気持ちをちゃんと入れなさいよっ!」
「そんなに元気で疲れませんか? 俺の名前はホムラです」
「あんたのせいで疲れるんでしょうがっ! ったく……私の名前はフラン。フラン=タルトレットよ。貴方達は歳上らしいし、特別にフランで良いわ」
遠回りをして、俺達はようやくお互いの名前を知った。
だが、今の会話の中で、フランがどういう女の子なのかを知れたという意味では、この遠回りも無駄ではなかったかもしれない。
元気があって、ちょっと馬鹿で、裏表があまり無い子。
第一印象では、そう悪い印象を持たなかった。
フランが俺をどう見ているかは分からないが……きっと良い印象ではないだろうとは予想がつく。
「では、私の事もビスコとお呼びください」
「ビスコね、分かったわ」
「では、私の事はホムラ様とお呼びください」
「ホムラ様ね、分かっ……だから何であんたは、私より偉そうにしてるの!?」
「ちっ……惜しい」
「また、馬鹿にしてぇ~……あんたなんて『従者』とかで十分よ! はい、決まり!」
……決められたらしい。
誰にどう呼ばれるかを気にしない方ではあるけど、従者でも無いのに従者と呼ばれるのは、流石にちょっと気になる。
「お嬢様~、お待たせしました~」
「遅いわよミリー!」
パタパタと駆け寄って来るメイドさん。
このメイドさんも、フランと同じでどこかヤバいタイプだと思っている。
ほんわかしている見た目と違って、内心はとても強か……みたいな。
こういう女の人が、イケメンや金持ちに上手く取り入って、既成事実を作って婚姻するイメージがある。
このメイドさんがそうとは限らないし、ただの憶測でしかないのだが、不思議と当たる気がしている。
師匠にもその男運を少しくらい分けてあげて欲しいものだな。
「さ、行くわよ! ビスコ、従し――――」
馬鹿は経験を次に活かす前に忘れてしまうから、馬鹿なのだ。
自分が急に走り出すとどうなるか、スカートで走るとどうなるかを、もうフランは忘れている。
念のためと思って動いたのが正解だった。
何も無ければそれでも良かったが、予想通り……フランはちょっとお馬鹿さんだった。
躓いて転びそうになった瞬間に、腕を掴んで引き上げた。
「――っと思ったより軽いな。急に走ると危ないって、学習しろよな」
「えっ……従者?」
「ビスコの方が良かったか?」
「う、ううん……どうして分かったの? 私が転ぶって」
「いや……お前を(馬鹿だからどうせまた転ぶだろうと思って)ちゃんと見てたからな」
「――ッ!! ふ、ふん! 従者としては中々ね! 感謝してあげるんだから、感謝しなさいよ!」
「そりゃ、どーも……って、何で俺が感謝するんだよ」
走りはしなかったが、俺の言葉を無視してフランは先頭を歩いて行った。
それに続いてメイドのミリーさん。俺とビスコは並んでついて行った。
目的地はフランの家。
お姉さんを助けて欲しいという概要しか知らないが、フランよりもフランの両親に媚びる方向でやっていこうと思っている。
イケメンのビスコの力で第一印象を良くし、何とか問題を解決して、王都に住むお貴族様とコネクションを持つ。
王都のアトリエが完成したその時には、上客にでもなってくれれば最高だ。
依頼は毎日少しだけ行い、後は自分の時間に使える。
王都が師匠で俺がもうひとつのアトリエの方でも、それはそれで構わない。
そんなお気楽生活の夢を実現させる為にも、錬金術師として最高の仕事を行わないとな。
金貨一枚に釣られて受けようと思った依頼だったけど、少しやる気が出てきた。
金貨一枚よりも人との繋がりから生まれる利益の方が、大きいからな。
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