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侍女ハンナと恋物語

 私とオルゴ様の結婚式は領地と煌国の両方で行われました。沢山の祝福を受けて嬉しくて有り難い日でした。


 結婚式の主役は私とオルゴ様、ではなくフィズ様とコーディアル様でした。なにせ、お似合いの美男美女。特に奇跡が起こって病が完治したコーディアル様は注目の的。招待客は絶世の美女となったコーディアル様に夢中。隣に並ぶフィズ様も美男子で、絵に描いたような似合いの夫婦です。


 私とオルゴ様の結婚式がきっかけで、大蛇の国中に美しくなったコーディアル様の噂がどんどん広がりました。蛇神が現れた話と共にです。


 大蛇の国、本国王族ドメキア一族は昔から蛇神に愛される血脈と呼ばれているそうです。


 王でも王太子でも、宝石姫ローズ様でもなく蛇神の寵愛を受けたのはコーディアル様。これに慄き、恐れるのは、醜い化物姫とコーディアル様を虐げてきた者全員です。大蛇の国の頂点、ドメキア王さえコーディアル様の足元となりました。


 本国の王、ドメキア王は掌返し。当然、大蛇の国に属する各国も掌返しです。フィズ様とコーディアル様は一躍時の人。しかし、当のフィズ様とコーディアル様はどこ吹く風。自らの領地を住みやすくすることに熱心。やり手のフィズ様が、他国からあれこれ支援を引き出して、領地はどんどん住みやすくなっています。フィズ様、自分は未熟者だからと領地拡大をする気は無いようです。元々暮らしていた者、そして受け入れる余裕分だけの貧困者を民にしているだけ。しかし、確実に人口は増えています。


 大蛇の国中からフィズ様やコーディアル様へ取り入ろうという者が訪れますが、お2人が興味を示すものがないとロクに話も出来ません。金銀財宝、そういうものに興味がないお2人。相変わらず、朝から晩まで忙しく働いています。変化といえば、民の方。どちらかというと怠け者で文句ばかりの者達が多かったのですが、追い出されることに怯えて働くようになりました。お2人が受け入れた難民達が良く働くのもあります。コーディアル様は鈍いので、豊かになってきて、英気を養えた結果だと思っているようです。


 フィズ様はコーディアル様隠しに必死です。媚びにくる王族や貴族は政治を担う者。よって基本的に男性なので、フィズ様は大抵追い返してしまいます。


 先日、大蛇の国中央に位置する貿易が盛んな太陽国王太子リチャード様がフィズ様を訪ねて来た時の事です。リチャード王子はフィズ様に勝るとも劣らない美男子。そして、性格も、良いと評判の方です。太陽国は歴史古く、そして大蛇の国で5指に入る大国。よってフィズ様はリチャード王子を追い返せませんでした。リチャード王子はコーディアル様が、ローズ様のお相手にとお手紙を認めていた王子様です。


 元々、病気のコーディアル様にも優しかったというリチャード様。2人の話が弾んでいる様子に、フィズ様はそれはもう不機嫌そうでした。手紙をやり取りしていた件をどこからか仕入れ、文通をしていて恋仲寸前だったと大誤解。


 勿論、公務中はキリリとして堂々たる姿。リチャード様と政治経済の話で大盛り上がり。しかし、問題は夜です。


「何だあの男は。1つも欠点がない。このままではコーディアルを奪われる。いや、先に奪ったのは私か……。なあオルゴ、あれだ。ローズ姉上とリチャード王子が夫婦になると、コーディアルとリチャード王子は義理の兄妹になる。距離が近くなるとコーディアルを横取りされる。いや、取り返されるのか。どうせローズ姉上など中身を知られたら捨てられる」


 フィズ様、中庭でオルゴ様にブツブツ文句を言っていました。私はオルゴ様と家に帰ろうと思っていたので、盗み見、そして盗み聞きしてしまいました。オルゴ様はうんざりという表情。


「ローズ様への陰口は外では出さないで下さいよ。フィズ様、そんなに不安ならコーディアル様に楽をさせたり、コーディアル様を褒め称え、愛おしんで下さい。まあ、あれだけの美人になったので気が休まらないのは理解出来ますが……コーディアル様はフィズ様の奥様ですし大変慕われているではないですか」


 面倒臭いというのを隠しもしないオルゴ様。側近なのに、こんな態度で良いのでしょうか? というほどフィズ様とオルゴ様は親しいです。アクイラ様も同様。


「あれだけの美人になった? 病が治ればあのような顔だと誰でも知っている。骨格が変わった訳でもあるまいに。それに今も前も人柄が顔に滲んでいる。はあ、オルゴ。私は恋人同士を引き裂いた極悪非道な悪魔だったらしい……」


 フィズ様の台詞にオルゴ様は大きく目を丸めました。私も驚きです。フィズ様の視界は私達とは違うようです。それに()()()()()()()()という思い込み。


「まあ、フィズ様! 共に散歩をしたいと探していたのですが、また勘違いされています? コーディアルはリチャード王子の恋人だったことなんてありませんよ」


 困り笑いというより、少し怒ったようなコーディアル様降臨。やっと見慣れてきましたが、天使のようです。喋らない、虐めをしないローズ様と並ぶとそれはもう神々しい姉妹。まあ、そのローズ様はめっきりこの領地に来なくなることもなく、相変わらずです。コーディアル様への態度もほぼ変化なし。


 掌返しをしないローズ様。ある意味感心しています。尊敬までしそうです。フィズ様がコーディアル様をしっかり守ってくれるので、私はローズ様への卑怯な仕返しはしてません。蛇神エリニース様や妻のシュナ様に怒られますしね。


 しかし、図太い女。憎まれっ子世に憚るとは腹立たし——ゴホンゴホン。危ない危ない。残念なことにローズ様も蛇神様達に愛される血脈。しかし悪事には悪事が返ってきます。ローズ様はフィズ様に袖にされました。そんな風に悪い事をしていると、見る人は見ていて損をする。リチャード王子もローズ様に関心が無いとかなんとか、そんな噂を聞いています。


「勘違い? 愛を語り合う手紙をやり取りしていたと耳にした」


「コーディアルはフィズ様以外にそんな手紙を送ったことはございません」


 途端に機嫌を直したフィズ様は、コーディアル様に近寄って、腰に手を回し「その話は是非聞きたい」と嬉しそうな声を出して中庭から去っていきました。


 侍女ハンナはその日も思いました。もっとくっつけ姫と皇子。


 私とオルゴ様はとても仲良しで、誤解も喧嘩もありません。コーディアル様とフィズ様を見習って、素直に歩み寄っているからです。


 結婚を機に城に2人の部屋を貰いました。週末はハフルパフ家に一緒に帰ります。お義父様はお酒とチェスが好きで、大酒飲みで煌国の盤ゲームを好んでいたオルゴ様と意気投合。私、こんなに幸せで良いのでしょうか? というくらい幸せ者です。その分、うんと働いていますよ。蛇神様への祈りも1日たりとも忘れていません。



☆★



 奇跡の日から3ヶ月程経った春より少し前の季節のとある日。コーディアル様、ご懐妊。城で働く医師カイン様とコーディアル様から報告を受けたフィズ様が、城中の働き手に報告して回りました。小躍り混じりのスキップでです。私は階段から転落しそうになり、アクイラ様に腕を掴まれたフィズ様を見かけました。


「アクイラ、ありがとう。聞いてくれ。コーディアルが私の子を産んでくれる」


 ニコニコ笑顔のフィズ様に対して、アクイラ様も満面の爽やか笑顔です。


「それは大変喜ばしいです。おめでとうございますフィズ様」


 素敵な笑顔なのにアクイラ様はフィズ様の胸倉を掴みました。


「今日はまた機嫌が悪いなアクイラ。お前はまたラスティニアンに振られたのだろう」


「せっかく上手くいきかけたのに、フィズ様が俺の皇居生活を暴露したからじゃないですか! 散々人に世話を焼かせておいて自分だけとは何たる恩知らず! そんな皇子に育てた覚えはありませんよ!」


 ぶんぶん体を揺すられるフィズ様。それは濡れ衣で、オルゴ様です。正確には酔っ払ったオルゴ様から騎士達、騎士達から侍女、そしてラスに伝わった話です。せっかく上手くいきかけたのに、が真逆なのを私は知っています。ラスはもう、アクイラ様の俺様な態度に疲れてきているみたい。でも、恋というのは複雑でそれでもラスはアクイラ様が気になる様子。


「私はコーディアルに誤解されたくないので、皇居や後宮の女官の話はしない。なのでオルゴだろう。お前達はもう面倒臭いので、私が両家に婚姻の圧力をかけておいた」


 なんとまあ、フィズ様。権力振りかざしてラスとアクイラ様を結婚させるつもりです。


「なんたる屈辱! 見損なっては困りますぞフィズ様! このアクイラは女1人くらい自力で手に入れられる男です!」


 ぷんぷん怒ってフィズ様から離れたアクイラ様。この日の夜、アクイラ様は私とオルゴ様の部屋に来て、延々とオルゴ様に文句を言いました。


 夫婦の時間を邪魔しないで下さい! 馬に蹴られますよアクイラ様!



 ☆★



 コーディアル様に遅れて半年、私にも赤ちゃんがやってきてくれました。益々幸せで、こんなに順風満帆で良いのか? と思っていたらかなり体調が悪いです。全然働けません。実家で寝ている生活になっています。


 時を同じくして、事件が起こりました。麗しのサファイア結婚事件です。お見舞いに来てくれたラス本人と、エミリーとコルネットから聞きました。


 城中、いえ大蛇の国社交界に落胆の嵐だそうです。コーディアル様の代理として社交界にて颯爽と立ち回り、大勢の貴族男性を虜にしつつも上手くあしらっていたラスティニアン令嬢の突然の結婚。


 お相手は何と太陽国王太子リチャード様の弟ジェフリー様の第3側近ルミエール様です。


 ラスとルミエール様との馴れ初めは「フィズ様権力を振りかざしてアクイラ様とラスを結婚させようとする事件」がキッカケ。ルミエール様はそれはもう焦って、我慢が出来なくて、ラスに突撃したらしいです。私はロマンチックな話を、コーディアル様や他の侍女達と共に大変楽しく聞きました。


 ラスはよくお見舞いに来てくれます。幸せオーラ全開です。ルミエール様はそばかすが多くて、少し小太りな方。2人の容姿を比べて不釣り合いだという陰口が巻き起こり、ラスは権力を手に入れる婚姻をする強か女だという噂になっているそうです。


 社交界には嘘や偽り、それに噂が多いです。真実はルミエール様が一途で優しい真心のある男性なのでラスこそデレデレ。大変、可愛いです。モテてこなかったルミエール様もデレデレ。大変おめでたい結婚です。


 これにより、失意のアクイラ様争奪戦が勃発しました。しかしこの戦争。呆気なく終了。かねてより、アクイラ様の相談を引き受けて虎視眈々とアクイラ様を狙っていたコルネットの大勝利。そんな話、私は聞いてないですよ!!!


 ラス程ではないですが、仲良しだと思っていたのに寂しい。それはコルネットも同じで、オルゴ様と私の結婚の時に寂しく感じてくれていたそうです。


 さてアクイラ様、女誑しは女誑しでも、別に複数人と同時進行な方では無いそうです。オルゴ様からいくつかの悲恋を聞きました。陽気で楽しく、そして俺様なアクイラ様の意外な一面。アクイラ様、結果として別れては次だっただけ。コルネットはきちんと大切にされています。むしろ愛でられているように感じます。


 しかしまあ、コルネットはアクイラ様の扱いが上手です。従順なようで、オルゴ様の自尊心を擽って自分の虜にさせています。コルネットは私とラスから学んだと言いますが、全くもって心当たりがないですよ。


 ラスはずっと勘違いし続けていました。聞く耳を持っていませんでしたし、アクイラ様も臆病さと強がりに自己中心さでそれに気がつかない。歩み寄れないと、せっかく両思いでも上手くいかないそんな例。恋人にもなれなかった2人。想い合っていたのに奇妙なことです。これが縁っていうものでしょうか?


 蛇神エリニース様はラスのナイトはアクイラ様だというような様子でしたけ。それだと、私とオルゴ様が運命の相手なのか怪しいです。でも、もう私達は夫婦で、それも仲睦まじいので関係ありません。私はオルゴ様の横に君臨し続けます。


 皆の弟マルクに最近恋人が出来たとか。ビアー様の3股が発覚してビアー様に片思いしていたエミリーが激怒したり、そのエミリーを見て騎士の何人かが嘆いたり、まさかのターニャ様が密かにデートをしていたという話も耳にします。城の従者は噂好きで、少々口が軽いのです。


 侍女ハンナは気持ち悪くて寝ながらもこんなことを思います。人は誰しも自分という人生においては主役。後世に残るおとぎ話のような恋物語ではなくても、色々な恋物語がありますね。



☆★



 領地は豊かになり人口も増えたので流星国という国に昇格しました。


 領地が新しい王国となった祝いの日。つまり流星国誕生の日に、コーディアル様は3つ子を産みました。蛇神を祀る神殿が完成した朝の事です。紅の雪が降り、王様とお妃様に奇跡が起こった日の丁度一年後でもあります。


 1番初めに生まれたのは男の子。次も男の子。そして、最後は女の子。


 3つ子は上からエリニス、レクス、ティアと名付けられました。蛇神エリニース様の名を進言したのは私です。


——息子が生まれたら私の名を使えと伝えよ


 そう言われましたからね。


 新王国誕生、そこに王子と姫の誕生が重なった記念すべき日には「流星祭り」という名がつけられました。この土地を守るという蛇神や数々の奇跡、それに家族や友に知人や隣人へ感謝し、労い、祈り、歌うべき日です。


 侍女ハンナは今日も思います。ずっとくっついていなさい姫と皇子。


 私、オルゴ様と離れ離れになりたくありません。大切で愛する主が別れると、別々の国で生きないとならなくなります。そんなの困ります!


 間もなく生まれる私とオルゴ様の子供も3つ子の王子様やお姫様と生きていく、そんな予感がしています。


 コーディアル様、フィズ様、私達家族に流星国のためにもずっとずっと、仲良く幸せでいて下さい。



☆★



 これは、北西の国の古い、古い時代からある恋物語の一幕。そのちょっと違う角度からの物語。言い伝えには残らない秘密が隠されていたり、物事は一面からでは分からないものです。


 かつて醜くかった優しいお妃様は、立派で慈悲深いのに珍妙な王様や2人を愛する従者と豊かな国で死ぬまでずっと幸せでした。



☆★ ★★☆ ♡ ☆★★☆

読んでいただきありがとうございました!

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