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九話「妖の世界と言うもの」

「いってきます」

「いってらっしゃーい」

「行って来い」


 あれから数日経って、ようやくご飯もまともに食べれるようになった。そして今日は何と……妖の世界に来てから初めての朝を迎えることができたのである! 久しぶりの朝日! 眩しい太陽! ビバ・朝!

 村にいたころは朝日と共に起きて活動していたと言うのに、ここ数日はご飯もとらず寝たきりだったせいで朝日を浴びる機会を何度逃したことか……。しかし、復活した私はようやくこの目で朝日を拝むことができたのだ。うーん、やっぱ朝はいいなぁ。スキッスカッて感じで起きれるからね。

 

 妖の世界の月は、丸くてとても大きい。手を伸ばせば届きそうなほど、近く感じるのだ。そして何より妖し気で美しい。そんな夜も好きなんだけど……やっぱ活動するなら朝でしょ! 


 そんなわけで、私は夜に起きて朝日が昇るのを待って朝を迎えることができたのだ。そして、朝起きているのなら活動すべし! と言うわけで適当に妖の世界をぶらつくことにした。そう危ないこともないだろうからと、さちも風さんも許可してくれた。


 そうそう、さちから行きつけの喫茶店の地図貰ったんだっけ。着物の帯に挟んであった紙を取り出す。そこには細かい地図が書かれていた。地図って性格現すよなー……。風さんの地図は直線に左矢印で「ここで曲がれ!」って書いてあるだけの実にシンプルな地図だったからな。


 さちに貰った地図通り歩いていくと、喫茶店にたどり着いた。店名は、「喫茶ちっち」と書かれている。ちっちって何だろう? 不思議に思いながらも扉を開けると、鈴のカランカランと言う音が響いた。同時に、店内から「いらっしゃいませー!」と元気のいい声が。

 

「あなたが幸与様に拾われた人の子だね? 私はちっち。この店の店主で、猫又だよ」

「よ、よろしくお願いします」


 ちっちって名前だったのかー。そう思いながらペコリと頭を下げた。ちっちさんに「堅苦しいことしないの」と言われてしまった。ちっちさんには耳としっぽが生えていた。しっぽは二つに裂けている。

 次に現れたのは、身長を百八十を優に超える実に背の高い男の人だった。筋肉もほどよくついていて、がっしりとした体型だ。しゃがんで、目線を合わせてくれたところに優しさを感じた。


「俺はドイ。幸与様から話は聞いてるよ、よろしくな。リセちゃん」

「は、はい」


 頭をペコリと下げると、「礼儀正しいな」と笑われてしまった。ここの人(?)達は挨拶をする際頭は下げないものなのかな? 


「まぁ席につきなよ。朝ごはんはメニュー表から選んで注文してくれ」

「わかりました」


 案内された席に座ろうとするが、どうにも椅子の高さが高すぎてよじ登る形になってしまった。ちっちさんも女性にしては百六十センチぐらいあるし、基本的に妖ってのは身長が高いものなのかなぁ……。

 

 手に取ったメニュー表も、大きかった。ページ数はそんなにないのに大きさ故か、重くて見辛い。諦めてテーブルに置いて見ることにした。メニュー表を適当にめくっていくと、モーニングと書かれたところにスープとパンの写真がのせてある。このスープはもしや……絵本で見たコーンスープと言うやつではないだろうか? ドキドキしながらドイさんを呼んで聞いてみると、ビンゴだった。私は迷わずコーンスープとクロワッサンと言うパンのセットを頼んだ。


 ちなみに、お金はさちに渡されたものだ。硬貨もお札も人間の世界と代わりなくて、そこは少し安心した。


 うずうずそわそわしながら待っていると、ついにスープとパンを乗せたお盆が運ばれてくる。目の前にしたコーンスープは湯気を立てていて、おしゃれなのか緑色の何かがちらしてあった。


「これがコーンスープ……!」


 絵本からそのまま飛び出てきたような朝ご飯に、感動を覚える。確か絵本では木のスプーンでスープを飲むんだよな。スプーンは……金属製だった。これには少しガッカリ。でも、味はどうだろうか。スプーンで少しだけスープをすくって、ふーふーして口に入れる。

 ――! 美味しい。想像以上のものだった。濃厚なスープにコーンの甘みが溶け込んで実に美味だ。冷ますのも忘れて一心不乱にスープを飲んだ。いやぁ……最高だった。おっと、危うくパンを忘れるところだった。確かこのパンはクロワッサンとか言うパンだったな……。


 手に取ってみると、まだ温かい。かじってみると、表面はパリッと中身はふわっふわだった。スープに夢中で存在を忘れていてごめんよ、クロワッサン。お前も実も美味だ。


 クロワッサンをちびちびとかじっていると、ドイさんが横に座る。よじ登ってなんとか座った私と違って普通に腰をかけたし、何より足が床についている。身長の差に愕然とした。そんな私をよそに、ドイさんが話しかけてくる。


「なぁ、こんな子供知らないか?」


 見せられたのは、一枚の写真。そこに写っていたのは、綺麗な青髪青目の不機嫌そうな顔をした十歳ぐらいの男の子だった。服は本で見た貴族が着るような上等な服を着ている。綺麗な顔だと思った。しかし、知らない顔だった。


 黙って首を振ると、ドイさんが残念そうに言った。


「どうやら人間の世界から来たらしいんだが、迷子のようでな。恐らく歪みに触れてしまったんだろう。知らないならいいんだ。俺達で何とかするよ」


 ドイさんはそう言って写真をしまった。

 

 さちに言えば、人間の世界と繋がっているあの歪みを使わせてくれるんじゃないの? いや、でもまた妖の世界に来て間もない私がそんな頼み事するのも図々しいだろうし、ドイさん達が何とかすると言っているのだから何とかなるんだろう、多分。


 お金を払って店を出ようと思ったのだが、何せお会計をするところが見上げるほどの高さで到底手が届くはずもなく、レジのお姉さんがレジから出てきてお会計をしてくれた。いや、ちっさくてホントすいません……。


 店を出て適当にぶらついていると、後ろからタックルをかまされた。勢い余って前のめりに転ぶ。咄嗟に手をついたので顔面スライディングは免れたけど、手をすりむいてしまった。血が滲んでヒリヒリする。一体私に何の恨みがあって……誰がタックルをかましてきたのか振り返って確認しようとして、かたまった。


 私を下敷き代わりに一緒に転んだ相手は、ドイさんに見せられた写真のあの男の子だった。

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