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癒しの雫  作者: 蒼井みつき
第1章 アルル・ベリファードと魔法学校

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第20話 ミシェル・ヴァレンタイン

 次の日、学校の講堂での朝の挨拶で、皆の前で名前を呼ばれた。


「セレス・クローネ」

 

「リディア・フェルミナ」


「ミリア・アルシェ」

  

「アルル・ベリファード」


「四人は前へ」


 アルルは少し緊張した面持ちで、前に行った。


「先の合同大会では、素晴らしい活躍をしましたね。立派でした。魔法学校からは、魔法書を進呈します」


 (わあ! これっていろんな魔法の説明が載ってるやつよね。嬉しい!)


 アルルは、顔を赤くして喜んだ。


「おめでとう」


 先生や生徒から拍手喝采を浴びた。先生に促され、元の位置へ帰った。


「他の諸君も研鑽を怠らぬようにな。以上だ」


 朝の挨拶が終わると、リオナが来た。


「いいなー! アルル。ちょっと見せてもらえない?」

 

「いいよ」


 二人は近くのテーブルに行くと、紫色の重厚な表紙の魔法書を開いた。


「同じような魔法でも細かく違いが載ってるね! 攻撃魔法だけじゃなくって、回復魔法も載ってる。……補助魔法もあるわ」


 ページを捲りながらリオナが驚いている。


「コツとか使用例とか面白い」


 二人で笑う。


 近くの一年生の生徒が覗き込んだ。


「いいなー! アルル、おめでとう」


「アクセサリーは、もうもらったの?」


「ううん、まだ。選べるみたいで、今日先生にお願いしようかと」


「そうなんだ。何にするの? 決まった?」


 リオナが興味津々な様子でアルルに聞いた。


「エクリプスっていう、魔力節約の首飾りにしようかと……」


「それ、みんな欲しいやつ!」


「いいなー! 俺も来年頑張ろう」


 いつのまにかジュリアンも隣にいた。


「一時間目の授業が始まるわよ!」


 サリヴァン先生に言われて、みんな慌てて教室に向かう。


「またね!」


 アルルは紫の魔法書を抱きしめて、教室に向かった。


 ◇


 昼休み。


 アルルは一人ぶつぶつ詠唱しながら、回復魔法を自分にかけていた。


「何してんだ? アルル」


 振り向くと、リオナとジュリアンがいた。


「あ、リオナ、ジュリアン。え……と、魔法の練習」


「それ意味あんの?」と、ジュリアン。


「どっかで聞いたんだ。詠唱すると上手くなるって」


「なんだそりゃ」


「興味あると、まっすぐだからね。アルルは」と、リオナ。


「二人揃ってどうしたの?」


 アルルが聞くと、リオナが笑う。 

 

「ジュリアンがね……アルルに教えて欲しいんだって」


 ジュリアンが少し恥ずかしそうにしている。


「魔法を教えて欲しいんだ」


「魔法?」


 アルルがキョトンとする。


「アレだよ。……跳ねよ、の魔法」


「あー、あれか」


 アルルは納得した顔をした。


「アレさえあれば、来年優勝できるかもしれないからさ!」


 ジュリアンは拳を作って力を込めた。


「……でも、遠距離攻撃できる人には意味ないからね?」


「……わかってる。アルルの見てたし」


 アルルは、照れて赤くなった。


 (試合してた時は気にしてなかったけど、みんなに見られてたんだね……)


「来年は決勝でアルルと当たりたい! だから教えてあげて!」


 リオナも力を込めて言った。


「……わかった。どこで練習する?」


「今週は予約詰まってたから、来週末、アリーナ予約してきたんだけど、どう?」


 ジュリアンがいたずらっぽく笑う。


 アルルは苦笑した。


 (予約するの、はや!)


「私が教えると決めてるし」


「アルルは断らないでしょ?」


 ジュリアンが言うと、みんなで笑った。


「……しばらくは試験しかイベントないし、つまんないから」


 リオナが髪をいじりながら言った。

 

「「そうだね」」


 二人でハモった。


 ◇


 授業が終わるとすぐ、アルルは剣術学校に行ってグレンとリュカに会いに行った。


 歩きながらもずっと回復魔法を唱えていた。


「癒やせよ 癒やせよ……」


 (こんなんで本当に意味あるんだろうか……)


 魔法学校は、ステンドグラスをあちこちで使われているゴシック様式の天井の高い教会のような建物。


 対して剣術学校は、魔法学校よりも新しく、重厚な城要塞のような厚い壁の建物。避難所にもなっている。


 剣術学校には広い中庭があり、天気のいい日にはそこで腕を磨く剣士が多いそうだ。


 魔法学校の生徒も自由に剣術学校を行き来できる。中にはデートするために相手の学校にお忍びで来る人もいる。


 (私には関係ないけど……)


 中庭を通り過ぎて、一年生の教室に向かう。教室を覗いたが見あたらない。


「グレンとリュカなら、アリーナに行ったよ」


 一年生の剣士が、教えてくれた。


「ありがとう」


 一階の初心者用アリーナに行くと、グレンとリュカともう一人が試合をしていた。


 アルルは、真剣に眺めていた。


 (あれは、格闘士? 珍しい……。と言うかあれだけ合同大会で戦った後、試合するなんて、試合好きなんだな……)


 格闘士は、リュカを狙っていた。リュカは距離を取ろうとするが、格闘士は距離を詰めようとしていた。


 そこにグレンが横槍を入れる。回転撃で範囲攻撃。


 (格闘士って怖いな。近寄られたらなんもできなくなりそう……)


 格闘士が地面を蹴って、リュカの目の前へと飛んだ。タックルされ、リュカは地面に倒れた。格闘士の拳の突きがリュカに何度も叩き込まれた。


 (痛そう……)


 そこにグレンの天槌が格闘士に入り、よろけた。リュカは倒れたままだ。


 そしてまたグレンの転撃で格闘士が倒れる。グレンが攻撃しようとした瞬間、格闘士の足払いでグレンが倒れた。


 首を絞め、顔を殴る。何度も。


 (いたた……。鎧着てても守れないのか……)


 グレンが顔を庇いながら体を無理やり捻った。

 剣の柄で格闘士の頭を殴った。怯んだ隙にグレンが立ち上がり、転撃からの天槌で格闘士を倒した。


 回復の光が天井から落ちる。アルルも三人に回復魔法をかけてあげる。


「癒しの光。癒やせよ……」

 

 (いつもより詠唱しやすい気がする。気のせい?)


「アルル、来てたんだ」と、リュカ。


「うん。見入ってた」


 アルルが笑うと、格闘士が挨拶してきた。


「俺、一年のゼノ・レクト。よろしく」


「珍しいだろ? 格闘士なんて。この学校で一人だけだよ」


 グレンがゼノを見ながら紹介する。

 ゼノの体は筋肉隆々で、鍛え上げられていた。グレンがゼノの肩をポンポン叩く。

 

「うん、すごかった。初めて見た」


「アルル、今日はどうしたの?」


「賞品のアクセってもう決めた?」


「うん、決めた。疾風の腕輪。攻撃速度アップのやつだ」 

 

「リュカは?」


「僕は、鷹眼(ようがん)の指輪ってやつ。命中上がるんだ」


「アルルは?」


「エクリプスっていう、魔力節約の首飾り」


「ほう、いいね」


 リュカが、「武器手入れしてくる」というと、みんなも一緒に歩いて行く。


「俺もやんなきゃな」


 グレンが言うと、アルルもついて行く。


 ゼノも後ろをついてくる。


「ゼノも手入れするの?」


「俺は籠手くらいしかないからいいかな」


 武具整備室に着いた。


 リュカは弦を外し、弓を磨いたり、矢を並べて傷んだ箇所のチェックをしていた。


 グレンは砥石で剣を研いでいる。砥石に水をかけて一定のリズムで剣を動かす。シャリ、シャリ、シャリ……。


 アルルは、興味深そうに二人の手元を覗き込んだ。

  

 (器用だなあ……)


「アルル」


 グレンが剣を光に当てながら言った。


「お前、まだやり足りないんじゃないのか? 対人戦」


 アルルは、心の中を見透かされている感じがした。


「うん……最初は人と戦うのって苦手だった」


 リュカも手を休めてアルルを見た。


「今は、違う。怖くないし……楽しい」


「ブッ」


 グレンが吹き出す。


「アルルの第一印象、思い出したわ」


「なによ」


「鈍臭くて、ビクビクしてたな」


「うるさい!」


 アルルは、グレンに杖を向ける。


「コラコラ」


 リュカがたしなめた。

 

「あれは、グレンも悪いんだからね。回復いらねーなんていうから」


 グレンは悪びれる様子もなく、剣を研いでは刃の状態を見ている。


「まーな。まあ、反省はしている」


「じゃあ、週末にでも練習する?」


 リュカが矢筒に矢をしまいながら言う。


「週末は、アリーナ空いてないらしいよ。あ、来週末ね、ジュリアンに魔法教えることになってるの」


 アルルは胸を逸らして偉そうに言った。


 そのやりとりを見て、ゼノが笑っている。


「へ、へえ。成長したな! ほんと」


 グレンが剣の刃を布で拭いた。


「いつアクセ、来るのかな……楽しみ!」


 とアルルが言うと、グレンとリュカは目を合わせて笑っていた。


 ◇


 アルルは家に帰ると、自分でスープを温めてすぐ夕飯を食べた。


「ジャックのところに行くのよね?」


「うん」


「じゃあ、これを持ってお行き」


 ドリフィーは、布で包まれた少し暖かいものを渡した。


「何これ?」


「今日の夕飯と同じよ」


 包みを開けると蓋付きの木の箱の上にパン、箱の中に皮袋が入っていた。多分スープだろう。


「アルルが世話になってるしね」 


「こぼさないように気をつける」


「行ってらっしゃい」


「行ってきまーす」


 アルルは、いつもより慎重に飛んで、海辺の洞窟を目指した。


 洞窟の一番下の広場に行くと、いつものようにジャックが焚き火の前にいた。


「ジャックさん、これ。おばあちゃんから」


 ジャックはすぐ包みを開けた。


「おお! ありがたい。……今、食べていいか? 冷めちゃうからな」


「どうぞ」


 (いつも魚しか食べてないのかな……?)


 パンをスープにつけて美味しそうに食べているジャックを見ながら、アルルは聞いた。


「ジャックさんは、なんで学校に入れたの?」


「ああ、うまい。……いたの、見られたのか」


 ジャックは食べる手を止めた。


「探しに行ったけど、わかんなかった」


「見終わったら、すぐ帰ったからな。俺は昔、先生をしてたんだよ」


 アルルは、目を丸くする。ジャックのほっぺにほうれん草のかけらがついていた。


「剣術学校で?」


「いや、魔術学校のほう……あー、うまかった! ご馳走様」


 そう言って、皮袋をしまい、箱をアルルに返した。

 アルルはほっぺを指さすと、ジャックはほっぺのほうれん草を口に持って行った。

 

「ジャックさんが先生……?」


「むかーしの話だ。みんながまだ生まれる前の話」


「え? おばあちゃんも?」


「そうだ」


 ジャックは頷く。


「……ジャックさんは何歳なの?」


「自分でも数えてないし、知らん。まあ、百年以上は前だな」


「ひゃく……」


 アルルはめまいを覚えた。と同時に、好奇心がむっくりと起き出す。


「え、その頃ってどんな世界だったの? 魔術学校もいまと変わらない?」


 アルルは身を乗り出して答えを待った。


「昔はもっと森も多くて、魔物もこんなに多くなかった。今よりもっと豊かな生活をしていたよ。今は戦争に負けて、みんな苦しんでるね」


「昔は魔術学校しかなかった。剣術学校なんてなくて、剣は自分で磨くものだった」 

 

「ほう……」


 アルルは感心したようにため息をつく。


「俺は校長と仲が良くて、色々やったな……悪いことも」


 ジャックは思い出したように、小枝を火に焚べながら笑った。


「その校長の名前なんていうんですか?」


「ミシェルだよ。ミシェル・ヴァレンタイン」


 アルルは、覚えようと何度も心の中でその名前を呼んだ。


「ドリフィーに美味しかったと伝えておいておくれ」


「わかりました……あ、来週末、学校の友達に魔法を教えることになりました」


「お、いいね。教えると自分も理解が深まる」


 アルルは、お弁当の包みを直しながら思った。


 (今日は何も教えてくれないのかな……?)


「魔法をずっと詠唱するのはやってるか?」


「やってます」


「よろしい」


「じゃあ、帰ります」


「おやすみ」


「おやすみなさい」


 アルルはペコリと頭を下げて、洞窟奥を登って行く。その間も魔法を唱える。


 (今日は何も教われなかったな……。でもジャックさん、先生だったんだな。というか、ほんとに永遠の命なんだ……)


 アルルは帰ってから、ササリーフ採取をして、寝床についた。

 今日はアレンに会わなかった。

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