第19話 合同大会(後編)
トーナメント表が壁に貼られている。4チームの名前が光っている。
ベスト4に残ったのは――アルルチーム、アレンチーム、三年生の2チームだった。
準決勝は、アルルチームとアレンチーム、三年生チーム同士で当たることとなった。
次の相手は、盾戦士アレン、弓使いフィル、回復魔法師ミリアのチーム。
「もうここまで来たら、やれるだけやるだけだな」
グレンが剣を高く掲げて、悟ったように言った。
アルルは薬指をさする。
合同大会では、毎回ボディチェックを受ける。アクセサリーは禁止。武器だけは自前での参加が認められていた。ただし、危険すぎる特殊武器は使用不可だ。
――そんなルールがあるのも、それだけ、この大会に皆本気なのだ。
(指輪が使えたらな……)
今日の試合は、三階の大アリーナで一試合ずつ行われる。観覧席には、多くの生徒が集まっていた。
「もし負けても三位決定戦があるんだね」
とアルルが言うと、グレンは「負ける話するな」と怒った。
「まあまあ……三位になれればアクセサリーもらえるから。それより、作戦立てよう」
リュカが提案する。
「そうだな。アレンをどう封じるか……。編成はうちらと似てる。……今までの作戦でいいんじゃないのか?」
「そうだね。アレンはアルルが足止め、フィルは僕が抑えて、その間にグレンと僕でミリアを攻撃する感じ」
「うん。わかった」
両チームは、決められた位置についた。相手までは、二十メートルほど離れている。
みんな息を沈めていた。
床が光る。――開始!
盾戦士アレンと弓使いフィルはアルルに一斉に向かう。
グレンは回復魔法師ミリアに向かう。リュカはフィルに制動矢を放つ。
「制動矢!」
フィルは動けない。アレンはアルルに近づいていく。
アルルが跳ねよを唱えようとした直前、ミリアが唱えた。
「護れ!」
アルルが唱える。
「跳ねよ!」
ミリアの障壁に守られ、アレンがアルルにスタンをかける。
アルルは動けない。
(あっ……そんな……!)
ミリアは、グレンから逃げ回る。追いつけないほど足が速い。
「チッ」
アレンの裂撃が何度もアルルに叩き込まれる。――痛い。
リュカとフィルは、それぞれ相手の回復魔法師を狙う。
やっと動けるようになったアルルは、走りながら何度も自身を回復した。
「癒やせよ! 癒やせよ!」
しかし、その途中で、フィルの制動矢でまた動けなくなる。
(やばい!!)
動けなくなったアルルをアレンとフィルが、容赦なく攻撃してきた。
「守護突!」「連射弓!」
ついにアルルは倒れてしまった。
「アルルーー!!」
グレンが、アレンとフィルに範囲攻撃する。
「回転撃!」
しかし、ミリアにあっさり回復されてしまう。
「癒しの光」
「くそっ!」
アレンとフィルは、リュカを狙う。リュカはミリアを制動矢で動けなくさせた。
グレンはフィルを狙う。しかしフィルは逃げながらリュカを攻撃した。
アレンのスタンがリュカに決まる。裂撃が何度もリュカに刺さり、ついにリュカも倒れた。
グレンも逃げていたが、アレンのスタンに捕まり、ついに倒れて試合終了。上から回復の光が降り注いだ。
アルルは立ち上がり、グレンの元に歩く。リュカも歩いてきた。
(負けちゃった……アレン強い)
「お疲れ様」
「あー。負けたわ」
「強かったね。相手」
アルルは知りたいことがあった。
「聞きたいことあるから聞いてくる!」
「お? おう」
アルルは、ミリアの元に行った。
「聞きたいことがあるんだけれど……、なんでアレンに防御魔法できたの? 私が魔法かける前に」
「あー、あれね。アルルは、剣士に跳ねよ魔法かけるの見てたから、タイミングと視線とか雰囲気でかけてくると思ってね」
「なるほど……。すごかった! たぶんそれが大きかったと思う」
「ありがとう」
ミリアは微笑んだ。
後ろから、グレンとリュカも歩いてきた。
「強かったよ、試合ありがとう」
「次も頑張って。応援してる」
お互いに握手を交わす。
「すぐ三位決定戦あるぞ!」
グレンが気持ちを切り替えているのがわかった。
◇
決勝戦の前に三位決定戦がある。
アルルは息つく暇もなく、準備を整えた。
相手は、盾剣士ガレス、剣士レオ、補助魔法師セシルの物理攻撃スタイルの三年生チームだ。
アルルは頭の中で攻略方法を考えていた。
(相手は補助魔法師だから、《跳ねよ》は弾かれないから……)
「いつも通りで」
リュカが言うと、「おう」とグレンが剣を天に掲げた。
呼吸を整え、息を沈める。観覧席の全校生徒も、静かに見つめていた。
床が光って、開始!
盾剣士ガレス、剣士レオも足が速い。あっという間にアルルの近くに寄った。アルルはそれでも逃げる。
「跳ねよ!」
ガレスは、ぴょんぴょん跳ねてしまった。
「げっ……」
リュカが制動矢をレオに撃つ。しかし、レオは剣で弾いた。
「なっ?!」
そのままアルルに転撃! アルルは転んだ。
「あっ」
レオは倒れたアルルに追撃する。
「天槌!」
高いところから剣を振り落とした攻撃で、アルルは息ができない。
(痛っ! やばい)
一方で、グレンは補助魔法師セシルを攻撃していた。
「転撃! 回転斬!」
セシルは必死に自身を回復する。
「癒やせよ!」
リュカもセシルに溜め撃ちと連射弓で加勢する。
セシルは倒れた。
アルルもレオとガレスの猛攻撃で倒れた。
薄れゆく意識の中で、二人を応援した。
――グレン、リュカ、頑張って!
残るは回復師のいない、四人だけだった。
リュカは、罠を設置した。
リュカは逃げながら攻撃する。
ガレスが罠にはまり、痺れて動けなくなった。
「くそっ!」
「制動矢!」
リュカがレオに制動矢を放った。今度は、決まった。
グレンがレオに攻撃!
「天槌! 雷斬! 旋風斬!」
リュカも加勢する。
「溜め撃ち!」
レオが倒れた。
ガレスがリュカにスタンをかける。リュカは動けなくなった。
しかし、グレンがガレスに攻撃!
「転撃!」
ガレスはよろめいた。リュカのスタンも解ける。
「今だ!」
グレンとリュカの連続攻撃を受け、ついにガレスが膝をついた。
試合終了を知らせる、回復の光が満ちる。それと同時に、観客席から歓声が沸いた。
グレンとリュカが、倒れているアルルを起こした。
三人とも笑顔で、言葉はなかった。けれど、ひどく疲れていた。
観客席から大歓声が上がる。
三人はしばらく座っていた。
「アルル、立てるか?」
「うん……大丈夫」
グレンに支えられてアルルも立ち上がった。
大歓声の観客席を眺めると、知った顔があった。
――ジャックさんだ。
ジャックは、すぐ奥に姿を消した。アルルは目で追って探したが、見えなかった。
アルルは走った。観客席へ。
「アルル?!」
観客席を端から端まで探したが、ジャックの姿はなかった。
グレンがアルルの元へやってきた。
「ここにいたのか……どうしたんだ?」
「知った人がいた気がして……ごめん。なんでもない」
「知った人……?」
グレンは、アルルが疲れているんだと思った。肩に手を置く。
「一緒に決勝、観よう」
「うん」
「あ、いた」
リュカもやってきた。
――決勝が始まる。三人並んで観覧席に座った。
決勝戦は、三年生チーム対アレンチームだった。
三年生チームは、剣士ヴァルト、魔導士セレス、回復魔法師リディア。
対するアレンチームは、盾剣士アレン、弓使いフィル、回復魔法師ミリアだ。
セレスは、あの『ドオオーーーン』とものすごい爆音を起こした主だった。
アレンチームも善戦したが、セレスの勢いは止められず、三年生チームの勝ちだった。
「やっぱ、三年は強いね」
リュカが感心したように言った。
すると、グレンが落ち着いた声で言う。
「届かない相手じゃねえよ」
アルルも同調して、「私たち、すごいんじゃない?」と言うと、みんなで笑った。
表彰台に上がって、目録とメダルをもらった。
剣術学校と魔術学校の校長先生のありがたいお話を聞いて、終わりだ。
参加したメンバーは、皆疲れ切っていた。
閉幕後、リオナから、「おめでとう」と言われた。
一年生みんなから、称賛の声をもらった。
「一年生であそこまで行ったの、初めてらしいよ」
「すごい!」
「メダル見せて」
三人は少し恥ずかしいような、でも誇らしげな気持ちだった。
◇
アルルは家に帰ると、ドリフィーにお土産話をいっぱいした。
「それでね、おばあちゃん……」
「話もいいけど、ちゃんと食べなさいな」
アルルは冷め切ったスープを一気に飲み干した。
「……それで、賞品はもらったの?」
「目録だけ。選べるからね」
そう言って、アルルはアクセサリーの絵付きのリストを見せた。
「ほうほう。……これいいわね」
ドリフィーは、《エクリプス(魔力節約の首飾り)》を指差した。
「それいいよね……それにしようかな」
ドリフィーは、笑って、「自分で欲しいものを選びなさい」と言った。
アルルは、ジャックのところへ行くか悩んだが、疲れ切っているので行かないことにした。
観客席にいたジャックを思い出す。
(見ててくれたんだな……)
少し胸が温かくなった。
食器を片付けて、汗と砂でべたついた体を、アルルは熱い湯で流した。
「あー、さっぱりした! おばあちゃん散歩がてら摘みに行ってくる」
「行ってらっしゃい」
いつもの池の周りのササリーフ摘み。今日も暗闇に光る葉を優しく摘む。
頭の中で、何度も試合場面が蘇る。
(あれは良かったな……あそこはああすべきだったのかな……)
「アルル」
「きゃっ」
後ろから急に声をかけられ、びっくりする。
見ると、防具を着て剣を携えたアレンだった。
「アレンか、びっくりした」
「今日はお疲れ様。……おめでとう」
アレンもしゃがむ。
「あ……アレンもおめでとう。でも、優勝残念だったね」
アレンが笑う。
「三年生は、やっぱり強いな」
アレンがササリーフの葉をぶちぶち抜いている。
「もっと優しく抜いてよ」
「ああ、ごめん」
「試合、痛かったよね? ……ごめん」
「……いいよ、試合だし」
しばらく沈黙して、ササリーフ摘みに集中する。
「アレン、強かったよ」
「ありがとう。アルルも強かった」
お互い見つめあって笑った。
(やっぱり、この人といると落ち着くな……。なんでだろう)
「アレンは巡回中じゃないの?」
「ああ、そうだよ」
アレンが立ち上がる。
「アルルの手伝いがしたくなった。疲れてそうだからね」
「君もね」
アルルがそう言うと、二人で笑った。
「カゴいっぱいになったし、帰ろうかな」
アルルは立ち上がる。
「俺も、もう少し見回りしたら帰るよ」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
アレンは、アルルが家に入るのを静かに見届けていた。




