第16回 師匠は優しくない
最後の合同大会の練習日。
また、剣術学校の訓練場三階が借りられることになった。
相手はまたしても、リオナチーム。
アルルのチームは、剣士・グレン、弓使い・リュカ、回復魔法師・アルル。
リオナのチームは、盾剣士・ロイド、魔導士・リオナ、回復魔法師・ジュリアン。
六人は、会場に集まっていた。
グレンがアルルに、言いづらそうに声をかけた。
「なあ、アルル」
「なあに?」
「お前に謝らないといけないことがある」
「何を?」
アルルは杖を持ちながら、キョトンとしている。
「俺の父親は、回復が間に合わなくて死んだんじゃなくて、回復魔法師を守って死んだらしいと聞いたんだ」
「アルルに、当たってしまって、……ごめん」
グレンは、深々と頭を下げた。
リュカは、その光景を眺めていた。
アルルは、笑顔を見せる。
「そっか。立派なお父さんだったんだね」
「ありがとう」
「いっぱい回復もらわないとね」
リュカがそう言うと、グレンは頭を掻いて笑った。
リオナが近づいてくる。
「準備はいい?」
「オッケー」「いいよ」「やろう」
合同大会が近いので、体力温存のため、これが最後の練習試合となる。
お互い回復魔法師を真っ先に狙う。
リュカが、ジュリアンが通りそうなところに見えない罠を仕掛けた。
グレンがリオナを狙う。
しかし――足元が凍りついた。
「ちっ……!」
次の瞬間、雷が落ちる。
だが、
「護れ!」
アルルの防御が間に合う。
雷が弾けた。
グレンは迷わずアルルの前に入る。
剣で受ける。鈍い衝撃。
「回復!」
「癒やせよ!」
アルルの魔法がすぐに届く。
その間に――
ジュリアンが罠にかかった。
体が止まる。
「もらった」
リュカの溜め撃ちが突き刺さる。
ロイドがアルルに迫る。
「アルル!」
グレンが割って入る。
剣がぶつかる。
鈍い衝撃。
「癒やせよ!」
アルルは迷わず回復する。
三人の動きが、噛み合う。
ロイドが膝をついた。
そのまま押し切る。
アルルたちの勝利だった。
「やったあ!」
アルルが飛び上がる。
(これなら本番もいける!)
「悔しい……」
リオナが唇を噛んだ。
「今回は、完敗だな」
ロイドも悔しさを滲ませた。
「でも、いい試合だったよ」
リュカが微笑んだ。
しばらく回復が終わるのを待つ間、六人はおしゃべりした。
「明日はとうとう本番ね」
リオナがため息をつきながら言った。
「今年は誰が優勝するんだろうな」とグレン。
「やっぱり三年生の誰かじゃない?」とリュカ。
「アレンのチームも強いよ。去年二位だったし」とロイド。
アルルが、食いついた。
「アレンのチームってそんなに強いの?」
「うん。アルルって、アレン知ってるの?」
「うち、最近引っ越ししたんだけど、引っ越し先のお隣さんだったの」
「へー。じゃあ、守りの木の方か」
「そう」
「大会で、当たったりして」
そう言ってグレンが笑った。
(……当たったら、どうなるんだろう)
◇
午後の授業も終わり、アルルは一度家に戻った。
軽く支度を整えると、外はすでに夕暮れに差しかかっていた。
《舵チョウ》を呼び出し、薄暗くなり始めた空へ飛び立つ。
目指すのは――あの洞窟。
ジャックから教わる古代魔法。ワクワクが止まらない。
潮の香りがする洞窟の前。《舵チョウ》をしまい、降りていく。
最下層の広場に行くと、焚き火の火もなく、真っ暗だった。
『光よ』
杖の光に照らされたのは、ネブリスの腹だった。
上を見上げると、大蛇が大きな口を開けていた。次の瞬間、大きな口がアルル目掛けて突進してきた。
「護れ!」
間一髪、大蛇の口は弾かれ、アルルは横に転がった。
――ジャックさん? どうして?
体制を整える前に、また口が来る。
「護れ!」
まだ、次の魔法の準備が整わず、守りの壁が作られない。
「跳ねよ!」
ネブリスの守りの壁に跳ね返される。
ピシュン!
ネブリスの口がアルルに覆い被さる。
(あっ……)
前にかけた古代魔法を思い出す。
『見えない障壁よ、崩れよ!』
一瞬にして、ネブリスの守りの壁が崩れた。
パリンッ!
ネブリスが一瞬、躊躇した。
「跳ねよ!」
(――効かない)
「燃えよ!」
「氷よ、足止めせよ!」
唱えながら、海水のある方へ走った。
ハァハァ……。
振り返る。またネブリスが来たら、海に潜る覚悟をした。
すると、奥から人に戻ったジャックが歩いてきた。
いつのまにか、焚き火が燃えている。
「アルルよ……こっちに来なさい」
アルルが警戒して、そのまま動かずにいた。
「アルル、もう終わった。お前の対応力を確かめたかったのだ」
「……騙してない?」
「少し手荒だった。すまない」
アルルは杖を構えながら、ジャックに近づいた。
ジャックは焚き火に串刺しの魚を焚べている。
「どんなやり方でもいい……大事なのは、生き残ることだ」
「強い魔法を知っていても、死んだら終わりだ」
「はい……」
アルルは何か言いたげだった。
「あと、お前は状況判断が遅い」
(えっ……これでも最初より早くなったんだけどな)
「俺が真面目に攻撃してたら、お前は死んでいた」
しばらく沈黙が流れた。
「じゃ、どうしたら……」
「教えるのは簡単だが、身につかない」
「どこが悪かったのか、明日の宿題だな」
ジャックはそう言って笑った。
「魚、焼けたようだ。食うか?」
串刺しの焼き魚を目の前に差し出す。
「ご飯食べてきたから、大丈夫です。ササリーフの採取があるので、今日はもう帰ります。ありがとうございました」
アルルはお辞儀すると、洞窟の階段を駆け上がり、走って家に向かった。
(ジャックさん、優しくない!)
「やれやれ……」
ジャックは、串の魚を頬張った。




