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「――っ!? 危ないっ!」
「――え?」
彼のために戸を開けたら、急に叫ばれた。それを機に、私は玄関のその先を見た。そして漸く、その訳が理解できた。
「バゥッ、バゥッ!!」
一瞬しか見えなかったが、それはイヌのような体躯をした、全身が黒い生物だった。その生物が、こちらを認識すると、急に駆け出し突進してきたのだ。
その牙が鋭い口から出される威嚇の声は、私を怯ませるのに十分だった。
一瞬しか見えなかったのは、振り返ったと同時に思わず目を閉じてしまったためだ。
…………。
だが、暫く経っても何も自身の体に変化は訪れなかった。生物が衝突したような衝撃もない。
恐る恐る目を開けると、先程の生物が空中で静止していた。良く見れば、私達の回りを包む黄色透明な膜のようなものが、その生物の侵入を拒んでいた。
私は慌てて背後を確認した。彼は大丈夫なのかと。だが、それは杞憂に終わった。
この、私達を守る膜のようなものは、彼が展開しているものだった。
「大丈夫か?」
「……は、はい……」
彼は私の安否を確認するや否や、瞬発的に力を込めて膜に電気を帯びさせた。
その瞬間、生物は遠くに弾き飛ばされ、地面の上を少しだけ滑り転げた。もうぴくりとも動かない。
一段落したところで彼は魔法を解き、直ぐ様歩き出した。
「危険だから、暫く家から出るな。……じゃあ、お達者で」
「あっ……」
声を掛ける間もなく、彼は去ってしまった。まるでそれは、何かから逃げているような、そんな気がした。
私は少しの間棒立ちになっていたが、彼の忠告を思い出して急いで屋内に閉じ籠った。
壁に背中を預けて、いきなり静かになった空間を見つめる。
「………………」
何か呟こうと思っても、喉から先に出ていかない。ただ、そこを見つめるだけ。
どうしてだろう。胸が痛く感じられた。これに近い感覚は過去に二度経験している、筈なのに、全く慣れていない。
それどころか、今回のそれは、今までのものと比べて同等かそれ以上だった。
いつから私は、こんなに弱い女になったのだろう。
いつも誰かから守られて、だからこそせめて明るく振る舞おうとする態度が自ずと身に付いていて。
でも、その守ってくれる存在がいなくなると、それは急に崩壊した。
それは所詮、作り物なのだと、尚更落ち込んだ。
でも今日、変化があった。その変化のお陰で、少しだけ昔の感覚が思い起こされたが、今再び失ってしまった。まるで手にしたのが一つの泡だっかのようだった。
……もう、失いたくない。
ザッザッザッザッ……
その時、背後で地面が蹴られる音がした。私は肩を跳ね上がらせて壁に密着するが、そこが既に壁際だったことを思い出す。
窓から外を覗き見ると、先程の生物の死骸の回りを同型の個体が数体取り囲んでいた。死骸やその回りの地面のにおいを嗅ぎ、確認し合うと、それらは彼の去った方角へと駆け出していった。
「……」
だが気が付けば、私は壁から背中を離していた。