10
「ぷっ!っハハハ…!」
フィリッドは思わず笑い出した。
「何がそんなに可笑しいかよ」
それを見て、すぐにマキナが心外そうな表情でそう言った。
「ごめんごめん、マキナがあまりにも胡散臭くて」
フィリッドは口元を押さえながら素直にそう述べた。マキナは瞬間眉間に皺をよせたが、直ぐ様いつものニヒルな笑みを浮かべながら「エセ坊で悪かったな」と悪態を返した。
「でもマキナはやっぱ話しやすいよ。僕も誓って特別な任務を与えられてここに来た訳じゃないけど、この際だから個人的にすごく気になっていることを聞いていい?」
拗ねたような素振りで、顎を手に乗せながら海を眺めていたマキナが答えた。
「なんだよ?」
フィリッドは笑って崩れた姿勢を整えてマキナへと向き直すと、視線を目の位置に合わせて尋ねた。
「"勇者"が出現したって本当?そもそも、勇者って?」
明らかに勇者という言葉に反応し、視線だけをフィリッドに向けてマキナは止まった。海からの風が吹いて彼の前髪を目の前になびかせた。聞こえなかったかのように、髪をかき上げて暫くまた海をぼんやりと眺めた後、そのまま軽く手を上げながら口を開いた。
「嘘に決まってるよ」
ようやく向き直ると、お茶を一口含んだ。
「稀人が現れたのは本当らしい。嘘かまことか、シモーヌ山の頂きにある修道院に、空から降ってきたんだと」
フィリッドは信じられなかったが、仮に勇者だとしたら、勇者という特異な存在にはそのくらいの逸話はつきものかと黙っていた。
「修道士が洗濯干してたら空が輝いてゆっくり降ってきたんだってよ。バカバカしいよな?おとぎ話の勇者さながらじゃんか。教会のお偉方もよほど宣伝材料が欲しいんだろ。自分の名前以外の記憶もないらしい。まぁ、それに関しちゃ稀人にはよくあることだけどな」
フィリッドはマキナが嘘だと判断する理由を把握した。
「教会の権威はここのところ落ちてきてるからね。異世界からの訪問者、漂流者、色々な呼び方はあるけど、教会は何を根拠にその稀人を勇者なんて言ってるのかな?」
マキナが笑みを浮かべる。
「感応、だ。曰く、かつて魔王を倒したという勇者は、奇跡への感応が異常だったらしい。高度な奇跡をさもなく習得し、さらには、勇者への蘇生もほぼ確実に成功したらしいぜ。俺に言わせりゃアンデッドだけどな。んで、此度の稀人様はその兆候が見れるんだと。どうしてそれが分かったのかは知らん。だから嘘、でっち上げ、看板娘が欲しいんだろ」
「娘?」
「らしいぜ。シズクとかいう変な名前の女らしい」




