最終話 空気が軽い
あれから半年が経った。サフィールは暗躍部に戻れたが、引き継ぎを済ませすぐに仕事を辞めて日の当たる場所へ返り咲く。
壮絶な戦いのあと、合流したグランツから聞いた話。エリュシオンで咲き乱れていた謎の花、〝天空花〟がすべて散ってしまったことを聞いた。
何かを知っているように感じたニルは「アレは魂の形」と話す。きっと白い花弁になって消えていった白の魔女と関わりがあったのだろう。それを知る術はもうない……。
袖に魔法糸で紡がれた刺繍のある青色が混ざった黒いローブをはためかせ、青空を見上げる。今日は快晴だ。
日のある場所にいるからか、以前よりも明るい顔をしているサフィールは大きく息を吸い込んで目を閉じる。
「――今日は絶好の旅日和だな……」
仕事とはいえ多くの命を奪ったことは精算できない。それでも、怒りやしがらみから解放されたサフィールを呼ぶ明るい声が聞こえてくる。
「サフィールー! 早くー!」
項が見える白銀のゆるふわ短髪を風に揺らし、大きく手を振る少女ネフリティスは太陽の下でキラキラ輝いていた。
――魔法暦から魔導暦となって約千年。それから少しして、訪れた厄災の魔女たち……。
魔力生命樹の生み出した魔女による選別と、間引きで人類の命は数多く失われた。
その長き戦いが、一人の天才魔導士によって、千年の時を経て終結した――。
「もう時間に縛られてないんだから、急ぐことはないだろう?」
「まぁねェ……それで、最初に目指す場所は決まってるのかよ」
ネフリティスの横で腕を組む金髪男は楽しそうな笑みを浮かべて聞いてくる。不老不死は当然、肉体の衰えもない。
元暗躍部であり最強の魔導士と、天才美少女の幽霊に、大罪人で不老不死の男という奇妙な組み合わせの三人。
この半年で、サフィールが魔導隊を辞めた以外にも色々なことがあった。白の魔女に関わり、複数の魔導隊員を殺した罪人のラルカは法の下で処刑され、魔女関連の立役者であるエルピスは昇格して魔導院のトップになった。
ラルカが死ぬ前。一つだけ疑問だった白の魔女の器にネフリティスの魂が融合しかけたことを問いただしたとき、憶測の話をされた。
『……可能性の一つは、僕たちが子供の頃に教えられる魂の生まれ変わり説。白の魔女様の素であるペルル・プリエールが亡くなって五百年以上経つんだ……あの魂が生まれ変わりだとしてもおかしい話じゃない』
ネフリティス本人に聞いてみても分かるはずもなく、恐れ多いと怒っていた。しかし、一つだけ……ネフリティスが器から自力で抜け出したとき。彼女は涙を流していた。本人は無自覚で、閉じ込められていたときに夢を見ていた気がするけど忘れたと話していた。
そして、当事者で英雄と称賛されてもおかしくないサフィールは、あることを目的とした世界を旅して回ることを決めた。
「それは当然……魔女の被害に遭った町や村だ」
「魔女はいなくなったけど、傷は癒えないし……人手不足で復興の進んでない場所も多いからね!」
「本当に、どこかの英雄と同じお人好しだねェ」
意気込むネフリティスと違って呆れ顔のニルだが、危なっかしい二人を見守るため保護者を買って出る。
ネフリティスは未成年だが、成人済みのサフィールに保護者は必要ない。
お人好しの自覚がないサフィールは首を傾げた。
「なんだよそれ。別にお人好しなんかじゃない。お前みたいに、世界を旅するための言い訳だ」
「ふーん……まぁ、そういうことにしといてやるか」
口角を上げるニルはサフィールの数歩……それ以上先を歩いている。軽く伸ばされる手に、小さく息を吐くサフィールが一歩踏み出した。その腰には二丁の魔導銃が太陽の光で煌めいて見える。もう必要のない相棒たちをサフィールは手放すことなく所持していた。
そして、軽く手を重ねると反対の腕で肩を抱かれて頭をくしゃくしゃにされる。
「なっ……おい、俺は子供じゃないぞ」
「ぷくくっ……。最初に会ったサフィールは捻くれた子供みたいな大人だったからねー!」
「だよなァ? それに、不老不死のオレからしたら、二人ともガキなんだよ」
無礼な男を振りほどき、乱れた髪を直しながらサフィールたちは第二の故郷、インフィニートから一歩踏み出した。
これにて完結となります。
最終話までお読みいただき、応援してくださりありがとうございました。
リアタイで追いかけてくれた方や、フォロワーさん、見えない読者様のおかげで完結させられました。
少しでも楽しいなど、何かを感じていただけましたら嬉しいです。これにてサフィールたちの物語は終結しますが、彼らの旅はまだ終わりません。
私も彼らのおかげで成長出来ました。この糧を活かして、これからも素敵な物語を届けられるよう頑張っていきますので、引き続き応援よろしくお願いします。




