第74話 格好がつかない
宣言した直後、目の前で思いがけないことが起きる。
魔石のある心臓部から青白い何かが抜け出した。
最初は分からなかったが、次第に形づく姿を見て目を見張る。
すべての塊が抜け出ると青白い人の姿を形成した。
「――ネフリティス⁉」
なぜか涙を流して見えた虚ろな表情に、気づいたら駆け寄って両手を伸ばしていた。しかし、当然のように前のめりとなる体は透き通り、サフィールをすり抜けていった。
分かっていたことなのに、手を伸ばしたのは二度目。ネフリティスは気づいていない様子で、振り向くと地面にへたり込んでいた。
「えっ……? あっ! サフィール⁉ えっ……わたし、体から抜け出たみたい!」
振り返るネフリティスの叫び声で我に返る。同時に自分の言った言葉や、行動に気恥ずかしさを感じて目線を逸らした。
当然、見聞きしていなかったネフリティスは首を傾げてくるくる周りを回ってくる。
「……俺の覚悟を返してくれ」
「え? なんか言った? 小さすぎて聞こえないんだけど」
いつものやり取りで思わず口元が緩むサフィールに、ネフリティスも満面の笑みを浮かべた。涙のことを指摘するとネフリティスは驚いて目元を拭い、夢を見ていたような感覚がすると話す。しかし、話を膨らませている余裕もいまはない。
そして、二人して前へ向き直る。未だに動かない白の魔女と呼んで良いのか分からない姿……。
ただ、その姿はまるで魔導隊員の制服にも感じられる。
「あれは、ペルルの姿を模しているのか……?」
「分かんない……だけど、魔導隊員の制服に似てるよね。それに動かないのが不気味すぎるよ……」
今のサフィールは魔女の魔力を持ったまま自分の魔法が使える。
それは戦いにおいて最高の形だ。しかし、今のサフィールだからこそ、白の魔女も魔力量が桁違いだと肌で感じている。
「……まるで500年間、眠っていたみたいな感覚だ」
「えっ……?」
白の魔女と戦っていた数年間を思い出すサフィールは身体強化をして駆け出した。
「ネフリティスは安全なところに隠れていろ!」
「え! ちょっ――サフィール!」
動かない今が好機なのは分かっている。ネフリティスを取り返した今、攻撃しない理由はない。
なぜなら、第二形態が〝終わり〟ではないから――。
サフィールは両手に魔力を込めて躊躇なく放つ。
稲妻のような青白い閃光が宙を走り、その余波で地面をえぐった。
「防護結界魔法はない……心臓部の魔石を打ち砕け!」
第三形態になる前でも魔石を破壊出来るかは分からない。一定の攻撃を与えることで強さが増して、第三形態へ変化していた。
最後の足掻きに近いかもしれない。
身動き一つしない白の魔女の上半身を閃光が貫いた。しかし、光によって見えなかった魔女は無傷で左手を突き出している。
「なっ……あの一瞬で、俺の魔法を相殺したのか」
そして、どこを見ているのか分からなかった白い瞳がサフィールの視線を射抜いた。ネフリティスの魂が抜けて再び空っぽの器に戻ったはずの魔女は、まるで自我を持っているかのような視線を送ってくる。
「……肉体に残る魂の記憶が継続されているのか」
予備動作のない魔女はサフィールと同じ閃光を放ってきた。守るべき者がなくなったサフィールは得意の空間魔法で一瞬のうちに魔女の頭上へ転移する。
白の魔女によって前方の家屋は見る影もなく破壊されていった。
既に住人は避難済みで、周囲の魔力反応もない。サフィールにとっても悪くない舞台だ。
「まだ魔力は九割以上ある……お前が与えた魔女の力を思い知るんだな――無数の星彩沛雨!」
無数の光を生み出して上空から雨のように降らせる。激しい音と煙が上がる中、同じく地上から白い閃光が飛んできた。
空中に浮いたまま避けると、一瞬だけ夜の街が明るく色づいてみせる。
「さすが、白の魔女か……」
他の魔女が死んだことで魔力の質も上がっている。しかし、それは魔女の呪いを受けたサフィールも同じこと。
だが、サフィールは肝心なことを忘れていた。
今までの魔女が第二形態から広範囲の魔法を繰り出していたことを――。
「……追撃をしてこないのか?」
追撃してこないで大人しくなる白の魔女を不気味に感じながら、サフィールは反撃する。
「――無為の風斬!」
魔法を放った直後だった。嫌な形で不気味な正体が判明する。
徐に両手を伸ばす白の魔女はサフィールの放った空を切る魔法を相殺することなく直撃した。腹部に大きな穴が開いている。それでも反応のない白の魔女の不気味さで、上空を見上げて漸く気付いた。
「はは……それはないだろう」
夜空に咲く無数の白い花のような絶景が一面を覆い尽くしている。これだけ輝いているのに全く気付かなかったサフィールは、戦意喪失しそうな心を笑って誤魔化した。
「サフィール! もっと上!」
家屋に隠れていたネフリティスの声で僅かな隙間から更に上空を見上げる。
そこには見覚えのある七色に光る無数の羽根が輝いていた。




