近付きたい-2-
坂本と一緒に夕飯というといつも学校近くのファミレスとなる。
友人の中には既に飲酒している者もいるが、ルカにとってそれはあり得ない。
父親の職業柄、バレたらシャレにならないというのも勿論あるのだが。
合コンとかサークルの打ち上げなど、居酒屋に行くことはるけれど、当然ながらそこでもルカは真面目にノンアルコールである。
「で」
とにかく空腹を満たす為に食事だけ済ませると、坂本が本題へ入るよう促した。
「で、って」
「告白、したわけ?」
「しない、しない」
「されたわけ?」
「いや、あり得ないし」
「じゃあ一体何があったんだよ?」
山盛りポテトフライをつまみにコーラを飲みながら、ルカは先日のゆかりとのデートを軽くかいつまんで話した。
勿論、ゆかりがバツイチ子持ちだったり、自分の二倍の年齢であることは伏せて。
「え、じゃあ何、好きな人とふっつーにデートしてるけど、付き合ってないって主張するわけ?」
「うん、付き合ってはいない」
「それって暗黙の了解ってヤツじゃねーの? だって相手、大人なんだろ?」
「ないない、全然ない」
「意味わかんねー」
「とにかく向こうには、俺に対して恋愛感情ってのはないんだよ」
「それってアリ?」
「アリじゃなきゃ、何だっつーんだよ」
「だって。おまえの気持ち知ってて、そんだけ一緒にいて、ってなったら当然おまえがある程度期待してるってわかるじゃん」
「だからそこ、違うから。あの人、俺が好きってこと全然気付いてないから」
「ええ? 何で? 気付くんじゃね?」
「気付かないねえ」
坂本が頭を抱えた。
そりゃそうだろう。大前提が「親子」的関係であるってことを、伏せてるわけだから。
ルカに対するゆかりの感情は「息子」に対する愛情でしかない。
それが大前提で、でもそれはあえて坂本には話していないから。
その大前提を踏まえた上で、ゆかりは無邪気にルカに腕を絡める。
無邪気にハグを要求する。
無邪気にハートマークを大量に散らしたメッセージを送って来る。
この。悪魔的な「無邪気さ」の前に、ルカは理性という名の鎧を纏い、ただの「愛息子」的な笑顔という刀を振りかざして戦う以外に方法はないのである。
「その人、でもルカのこと好きでしょ?」
「好きっていつも言ってくれるよ。ただ、まあ、恐らくぜーんぜん軽い好き、だけどね。例えば坂本が俺に好きって言うのと同じ感覚で」
「たとえがキモい」
「うるせ」
「でも、それ、そのまま一緒にいたら恋愛感情になるんじゃない?」
「なる、かな?」
「少なくとも、空いた時間を一緒に過ごしてくれるくらいはルカのこと好きなわけだから、一緒にいるうちにいつの間にか、的な」
坂本の希望的観測が、ルカにはあまり期待できなくて。
だって、もうかれこれ六年以上同じ状況なわけだし。
ハグルールができた頃。つまりはルカが中学に入った頃から、ゆかりはいつも「るーちゃん好き」と軽く言う。
バレンタインだって勿論彼女のお手製チョコが手渡される。
でもその「好き」は、ルカの欲しい「好き」では、ない。
彼女の中の自分は、あくまでも「息子」だから。
親友美紅の息子であり、自分も一緒に育てた息子。
その立ち位置が、ルカの欲しい「好き」を絶対的に否定する。
「まあ、そうならないのはわかってても、それでも一緒にいられるのはやっぱり嬉しいからね。どんな関係でも、彼女が一緒にいてくれるから、それはそれでいい、と思ってるよ」
ルカが達観したように言うと、
「オトナだねえ」
「どこがだよ?」
「だってそうじゃん。俺だったら一緒にいたらやっぱり触りたくなるし、冷静ではいられなくなると思うし」
「冷静でいられなくなったら困るからね」
「そこがオトナなんじゃない?」
坂本の言葉が、すとん、と腑に落ちる。




