28話 エリーヴ島での激闘
「うわっ、こっち来た!」
突然カチュアに狙われ、動揺するソラ。しかし、カチュアは前方から何らかの衝撃を受け、斬りかかるのを防がれる。
「大丈夫ソラ君?」
それはプルームの竜殲術〈念導〉で操作された思念操作式飛翔刃であった。
「あ、ありがとプルームちゃん」
「駄目、やっぱり刃が通らない」
しかしプルームが操作する十枚の思念操作式飛翔刃の内二つが、カチュアの胸部に阻まれ動きを止めていた。その瞬間をカチュアは見逃さず、その二枚を斬り払った。切断され、空へと消えていく思念操作式飛翔刃。
その隙を見逃さず、シーベットが一瞬で斬り抜けを行い、カチュアの頸部を一閃した。しかし――
「首でも駄目か、シーベットの剣が通じないなんて」
相手の意識を掻い潜り、本来であれば急所である頸部ですらダメージを与えられず、シーベットは悔しそうに舌打ちをした。
「ちょろちょろって蝿みたいで少し鬱陶しいですね」
するとカチュアはジャマダハルの切先を前方へと向けた。直後、切先に光が激しく収束していき、その前方に光陣が展開される。
高位聖霊術。それは聖霊剣の核となる聖霊石に、大幅な聖霊力を直接送り込みながら発動するため消耗が激しく、ここぞという時の切り札として使われる。しかしその一撃は絶大であり、時に戦局を一変する。
散開波光砲。放射の特性を持つ光の聖霊と、分裂の特性を持つ土の聖霊の意思を組み合わせた高位聖霊術であり、複数の目標に光の矢を一斉に放つことができる。
そしてジャマダハルの切先に収束された光の玉は、無数の光矢となってソラ達に向かい放たれた。
「これ、やばそうだぞ」
視界に映る眩い十五本の光の線が、ソラを含む味方部隊へと襲い掛かって来る。次の瞬間、ソラ達の目の前に、放たれた光矢と同じ数の光の盾が出現し、カチュアからの砲撃を遮って防いだ。
「で、デゼル」
「あら、任意の場所に強固な盾を出現させる能力、私の能力と同じ防御型の竜殲術、とても使い勝手がよさそうですね……でも」
カチュアはデゼルの額に剣の紋章が浮かんでいるのを見て、すぐさまその光の盾の能力がデゼルのものであるということを察知、飛翔術による推進を全開にしてデゼルとの間合いを詰める。それを見てベリサルダを盾として構えるデゼル。
するとカチュアはデゼルが構える盾に、ジャマダハルの切先を密着させた。
「あなたの能力、これだけ密着した状態で発動できますか?」
「――しまっ」
そして、炸裂音と共にカチュアの右肘から炎が噴出すると同時、ベリサルダの盾に凄まじい衝撃が巻き起こる。
「わああああっ!」
直後、ベリサルダに放射状の亀裂が走り、後方へと吹き飛ばされるデゼル。
ジャマダハルからは排熱の煙が排出され、血振りの所作のようにカチュアは刃を振るう。
それは、爆裂の特性を持つ炎の聖霊の意思を利用した反動による一撃を、雷の聖霊の意思による貫通の特性を上乗せして放つ至近距離専用の聖霊術、炸裂反動式穿撃である。
「デゼル大丈夫か?」
「うん何とか、でも思ったより損傷が大きい」
「退がってろデゼル、でも何かあったら盾の竜殲術で援護してくれるか?」
「わかったごめん、後は任せるね皆」
そう悔しそうに言い残し、デゼルは半壊したベリサルダと共に後退を開始した。
「柄じゃないけど、借りは返さないとな」
自分を守ってくれたデゼルが攻撃を受けたことにより、ソラは怒りで恐怖を掻き消し、一気にカチュアとの間合いを殺す。
そして渾身の袈裟斬り一閃、凄まじい威力の一撃が左肩部に炸裂し、カチュアは高速で回転しながら下降する。
しかしカチュアは飛翔術による推進にて勢いを殺し、中空に静止した。
「くそっ、やっぱり駄目か」
歯噛みするソラ。ソラの渾身の一撃でも、カチュアに傷を付けることは叶わなかった。
「今の一撃、本当に素晴らしかったですよ蒼衣騎士さん。今回の戦利品はあなたにしましょうかね」
「せ、戦利品?」
突如意味深な言動をするカチュアに対し、ソラが思わず聞き返すと、カチュアは嬉々として説明を始める。
「はい、私はいつも戦場で、一番私の心を魅了してくれた方を一人生け捕りにして本拠地に持ち帰っているんです」
「へ、へえ、そ、それでどうするおつもりで?」
「たくさんたくさんたくさん痛みを与えて、私が痛みを知るための糧にするんですよ」
カチュアの満面の笑みを浮かべながらのその言葉に、ソラは全身の鳥肌を立たせ、身の毛をよだたせた。
「いやすぎるっ、いや無理無理、俺なんか連れ帰ったって面白くもなんともないですよ本当、あ、そうだ俺なんかよりもっとダンディで筋肉質で職人気質の狙撃騎士なんかもいますし」
『おいレイウィング、まさかとは思うがそれは俺のことを言っているのではないだろうな?』
伝声術越しにそのやり取りを聞いていたカナフが指摘するが、ソラは構わず懇願する。
「カナフさん何とかしてくださいよ、このお姉さんマジでやばすぎますって」
『落ち着けレイウィング』
「そんなこと言っても、こっちの攻撃全く効かないし、このままじゃ負け確ですよ」
『だから落ち着けと言っている、こちらには奴を仕留められる可能性のある切り札がある、こちらの射線に入らないように注意していろ』
「切り札?」
※
エリーヴ島の森の中、タルワールの切先に光陣が出現し、稲妻を纏った光が収束していく。
それは雷穿波光砲という名の高位聖霊術。雷穿波光矢に比べ威力と射程は遥かに勝るものの、速射性に乏しく、ブレが大きく命中率も下がる。そのため、ここぞという場面でしか使用しない文字通りの切り札であった。
「いきますカナフさん」
更に、カナフと共にエリーヴ島に潜んでいたエイラリィも、聖霊術により青白い光の輪を出現させ、空中で思念操作してカナフの前に浮遊させた。
その術は補助系聖霊術の一つ、聖霊力増幅式浮遊門。聖霊力増幅の特性を持つ水と思念操作の特性を持つ雲の聖霊の意思を利用し、空中に浮遊する輪を通過した攻撃を増幅強化させる効果がある。
溜めが必要な雷穿波光砲と聖霊力増幅式浮遊門。その双方の複合技とあれば威力は絶大となるが、その分命中させるのは至難の業である。それも師団長級となれば更に。
しかし、カチュアは己の能力を過信し、攻撃を避ける、結界を張るなどの防御行動を取らない。それを当初から観察していたカナフは、この連携攻撃を当てられる確信があった。
「油断は即ち死、覚えておけ」
そしてタルワールの切先に収束された光は、巨大な矢となり、稲妻を纏って射出されると、聖霊力増幅式浮遊門の光輪を通り、更に巨大で鋭い矢となり――カチュアの腹部に直撃した。
カチュアはその衝撃で後方に激しく吹き飛ぶ。
「おわっ!」
その一撃の衝撃波により、カチュアに最も接近していたソラも僅かに吹き飛んだ。
「何だ今の? す、すげえ」
しかし――それでも。
カチュアは狂気に満ちた笑みを絶やさず、その場に浮遊していた。討ち取ることは叶わなかった。
「惜しかったです。もう少しで私に痛みを与えられましたね、けれど――」
そしてカチュアからの反撃、懐から取り出した弾丸を放り、追尾式炸裂弾を発動させると、先ほどの一撃が射出されたエリーヴ島の森へと次々と打ち込まれた。
「ぐうっ!」
「きゃあっ!」
追尾式炸裂弾による一斉発射を受け、何とか直撃を避けたものの、爆裂による負傷を受けるカナフとエイラリィ。
「カナフさん、エイラ!」
それを見て、二人の身を案じながらプルームは叫んだ。
『致命傷とまではいかない、こちらはとりあえず大丈夫だ』
『このくらいならすぐに治癒できるから、心配しないで姉さん』
「よかった」
――でもどうすれば。
カナフとエイラリィの安全を確認し、プルームはほっと胸を撫で下ろす。しかし同時にカナフの切り札、現状最大の一撃をもってしてもカチュアの竜殲術を突破できなかった事実に、八方塞がりとなってしまった。
「ん? あれ?」
すると、ソラが何かに気付いたように呟いた。
「プルームちゃん、あれほら、さっきのカナフさんの一撃が当たった場所」
ソラに言われ、カチュアの腹部に視線を送る。
「……小さな亀裂?」
ソラの指摘で目を凝らしてみると、カチュアの腹部には僅かな亀裂が入っていたのだ。
「効いてたんだ、さっきの一撃はむだじゃなかった、これもしかしたらもう一息なんじゃ?」
決して壊れることのない殻に入った初めての傷、その矛盾は正に希望の証だった。




