24話 戦闘開始
「よし、全騎戦闘態勢!」
そしてソラ達に指示を出すと、ヨクハ達はエリーヴ島から飛び立ち、島を背にして空中で敵襲を待つ。
『ヨクハ団長、敵騎士多数接近中。数はおよそ五十よ』
本拠地のパルナからの伝声術による報告を受け、ヨクハは前方に視線を向けると既に親指程の大きさになった騎士達の軍勢が押し寄せてきているのが見て取れた。しかし――
「五十騎。一個師団にしては物足りぬのう、パルナこの軍勢の中に騎士師団長と思わしき者はおるか?」
『ううん、こっちの探知術の情報では五十騎全騎が銀色の外套、つまり銀衣騎士よ』
――本隊ではないということか……様子見? それともこの程度の戦力で攻略できると踏んだ? ……いずれにせよ――
「どいつもこいつも舐めてくれるのう」
言いながら、ヨクハは不敵に笑みを浮かべた。
「ニコラ殿」
「はい?」
「今回の敵の軍勢は〈不壊の殻〉の本隊ではない」
「確かに師団長と思わしき騎士が見当たりませんね」
「この程度の戦力であればわしらだけで問題はない、〈因果の鮮血〉の戦力は本隊に備えて温存する」
「なっ、しかし!」
突然のヨクハの提案に、驚きの声を上げるニコラ。それも当然、ヨクハ達騎士団は七人、対し敵部隊は銀衣騎士が五十人。単純な数の差は約七倍であるからだ。
「え、ちょっと団長、何勝手なこと言ってくれてるの? 俺達だけって七人で五十人の騎士を相手にする気か? しかも俺と団長なんて蒼衣騎士で大して役に立たないんだから実質戦力差十倍だぞ」
ニコラが反応すると同時、ソラもまた反応し、抗議を始める。
「一々お主とわしを一緒くたにするな。大体わしは陣頭指揮に当たるからちゃんと役に立つ」
「ほら、戦う気ないだろあんた」
「相も変わらずやかましい男じゃのう。とにかくニコラ殿、今回はわしらが引き受けた、お主達はエリーヴ島の本拠地の守護にあたれ」
「そこまで言うのなら……分かりました、ご武運を」
ニコラはヨクハの提言を受け入れると、部隊を引き連れエリーヴ島へと引き返して行った。
「えーニコラさん、素直にわかっちゃ駄目だって。多分うちの団長が見栄張って格好付けてるだけなんだって」
ソラがニコラにそうぼやいた頃、敵の軍勢は既に目前まで迫って来ていた。
敵の騎士が持つ聖霊剣は全てタルワール。カナフが持つものと同型で、ディナイン群島における主力量産剣である。
すると、ヨクハは伝声術により敵部隊に声を送る。
「エリギウス帝国直属第九騎士師団〈不壊の殻〉じゃな。この進軍はレファノス王国並びにメルグレイン王国への宣戦布告とみなすがよいな?」
ヨクハの問いに、〈不壊の殻〉の副師団長、アールシュ=デュラルから返答が返る。
『紋章を持たぬ騎士団か……どこぞの傭兵騎士か反乱軍かは知らんが、先に手を出してきたのはそちら側、批難される謂れはない』
すると、アールシュの後方に浮遊する騎士が、波光矢を発動させ、人差し指の先に光を灯らせて構える。
「デゼル!」
ヨクハが叫んだ瞬間、デゼルの額に剣の紋章が浮かび上がり、ソラの前に半透明の光り輝く盾が出現。直後、敵騎士の指先から、ソラに向かって光矢が放たれるや否や、出現した光の盾に遮られ、虚空に散って消滅した。
『ちっ、竜殲術……あの聖衣騎士の仕業か』
それは任意の場所に、聖霊力及び実体、あらゆる攻撃を防ぐ光の盾を出現させるデゼルの竜殲術〈守盾〉である。
アールシュは、不意を狙った一撃が防がれたことに歯噛みした。
対し突如狙われたソラは、冷汗をかきながら、口を大きく開けていた。
「いきなりびっくりした……今のデゼルが守ってくれたのか?」
「うん、大丈夫だったソラ?」
「ああ、この恩は忘れるまで忘れないからな」
「はは、いいよいいよ、すぐ忘れても」
謝意を示すソラへデゼルが配慮したように返すと、ヨクハから対照的な怒声が響く。
「しっかりせいソラ、何を呆けておった。ここは戦場じゃぞ、一瞬たりとも気を抜くな」
ヨクハがソラを叱咤した次の瞬間、〈不壊の殻〉の騎士達が、剣を構え戦闘体勢を取る。
『全騎突撃!』
アールシュの声に、敵騎士が一斉に向かって来た。
それを見たヨクハは、不敵な笑みを浮かべ、ムラクモを構えると敵の軍勢に切っ先を向けて叫ぶ。
「全騎、迎え撃つぞ」
その勇ましい号令と同時、ヨクハ達が背にするエリーヴ島から二つの光矢が放たれ、雷を纏った高速のそれは、一瞬にして二人の敵騎士の腹部を貫いた。
直後、急所を貫かれた二人は絶命し、空へと落ちていく。
そして雷を纏ったその光矢は、エリーヴ島の森の中に単独で身を隠していたカナフからの狙撃だ。彼は合図を待ちながら指先に光を灯して、敵騎士に照準を合わせていたのだ。
雷穿波光矢は、放射の特性を持つ光と貫通の特性を持つ雷の聖霊の意思を利用し、遠距離からの狙撃を可能にする聖霊術で、主に狙撃騎士が愛用する。
「エリーヴ島に狙撃騎士が潜んでいる! 全騎に告ぐ、抗聖霊結界を装備している者は展開しろ」
カナフの精確な狙撃に脅威を感じたアールシュが、歯噛みしながらそう指示した直後、〈不壊の殻〉の騎士達の約半数が白く輝く半透明の球体に包まれた。
攻撃を防ぐことができる結界は二種類。波光矢から放たれた光矢等、聖霊力による攻撃を防ぐ抗聖霊結界と、実体のある攻撃を防ぐ耐実体結界であり、騎士はこの二種類の結界の内どちらか一つを選択して術式を組むのが通常である。また、聖霊力を刃として具現化している光刃剣は耐実体結界で防御できるという特徴がある。
すると、〈不壊の殻〉の騎士が抗聖霊結界を展開したのを見て、ヨクハが指示を出す。
「抗聖霊結界を展開している騎士はプルームの思念操作式飛翔刃を中心に落とせ、抗聖霊結界を持たない騎士はカナフを中心に叩く。エイラリィはカナフを補助、シーベットは抗聖霊結界の破壊と隙を見て敵騎士の撃破」
「了解!」
ヨクハの指示を受け各々が散開し、持ち場に就く。すると、指示を受けていないソラが立ち尽くす。
「あの、団長、俺はどうすれば……」
「ソラ、お主はとりあえず死なないように頑張れ」
「何か俺だけ適当じゃない!?」




